Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
Live Out
ACCデンゼル視点です。
『クラウド、電話してくるなんて珍しいのね。
何かあった?』
『...ちがうんです』
『...誰?それ、クラウドの携帯でしょ?』
『わかりません』
『誰なの?』
『わかりません。
ぼく、どうしたらいいのか、わからないんです』
『...君、泣いてるの?』
涙を拭おうと目を閉じた時、額に激痛が走った。
「あぁっ!!!」
頭を押さえてうずくまる。
やっぱり死にたくないと叫びたくなった。
しかし痛みがそれを許さず、心の中で祈るのが精一杯だった。
黒くありませんように...
黒くありませんように...
脈打つ痛みに耐えながら目を開く。
手のひらは真っ黒だった。
Live Out
俺は、自分が運が良いのか悪いのか、わからない。
神様は、俺にも死ねって言ってるのかな。
それとも生きろって言ってるんだろうか。
“うん、俺、ネズミを食ってやる。
本物のスラムの子になってやる”
“一人でやれよ。
俺は生まれた時からスラムの子だ。
お前はツンとすましたプレートのガキだもんな”
“覚えとけ。
ここらのネズミはお前らが垂れ流した汚水のせいで、おっそろしいバイキンを持ってるんだ。
そんなもん、食う奴なんかどこにもいない”
“元” 親友の言葉にじわりと涙が浮かぶ。
もう...笑えない気がしていた。
なのに俺は今日も笑顔を絶やさない。
四六時中、側にいてくれる明るい妹のお陰で。
「なぁ、マリン...どうなってる?」
マリンはそれには答えず、なんとか笑顔を作りガーゼを取り替える。
「クラウド、何処にいるんだよ...」
少し前まで部屋に毎日来てくれたクラウドが、突然消えた。
誰にも何も言わずに。
それを知った瞬間、背筋が凍る。
(もしかして、俺が......移した?)
しかしすぐに首を振った。
そんな訳ない。
ティファが嘘なんかつくはずない。
“ティファ、ごめんね。
......お店のお客さんのこと”
マリンがいない時を見計らい、ずっと気にしてた事を謝った。
ティファは “知ってたの?” という風に一瞬目を見開いたが、すぐに真剣な顔で諭す。
“デンゼル?その病気は移らないの”
“だからあなたは何も悪くない。
私達も、間違った事なんかしていない。
間違ってるのは...周りの人達なのよ”
“だからデンゼルが謝る必要はないの”
ティファは手が汚れるのも構わず俺の頭を撫で、「ね?」と、とびきり優しい声で念を押した。
そして毎日、隣で絵本を読んでくれた。
まるで身をもって、俺の不安を打ち消そうとするかのように。
この家には俺より小さな女の子がいた。
ティファはその子と俺の好物を交互に作る。
どんなに気分が悪くても、美味しく感じた。
顔も年も全然違うけど、母さんと同じ黒い髪。
優しい声色、柔らかい雰囲気...
久しぶりに朝までぐっすり眠った。
神様が俺に生きて欲しいのかどうかはわからない。
でもきっと、俺は運がいい。
「ティファ!!」
化物の攻撃の余波にティファがやられた。
慌てて駆け寄るが、行く手を3匹のモンスターに阻まれる。
逃げられない!やられる!!
だけど奴らは何処からか飛んで来た刃物に切り殺される。
この剣は知ってる...!
俺が最も憧れる剣だ!!
「クラウド!!!」
クラウドは崩れ落ちる瓦礫の中にうずくまるティファ目掛け、バイクで突っ込んでいった。
やっぱり...!やっぱり来てくれた!!
俺のヒーロー!!!
夢中で二人に駆け寄った。
「軽くなった気がする」
「ん?」
「引き摺り過ぎて、磨り減った...かな」
何の話だかわからない。
だけどティファは嬉しそう。
きっと、良い事だ!
二人は今からあの化物をやっつけなきゃならない。
俺がここにいちゃ、邪魔なんだ。
「俺、一人で店に帰るよ。マリンと待ってる」
見ていたかったけど、潔く駆け出した。
少し不安になり念を押す。
「クラウドも、帰って来るよな」
返事を聞き笑顔になり、今度こそ店に向かって走り出した。
絶対に大丈夫だ。
クラウドはあんな力強く「うん」って言った。
俺を真っ直ぐに見つめて。
それにティファが...明るい顔をしてた。
しばらく行くとまたあの黒いモンスターが現れる。
タイミング悪く、額の痣まで疼きだした。
思わず倒れ込むが、負けじと握り拳を作る。
(俺だって、やってやる!)
狙いは壊れかけた水道管。
近くに転がっていた鉄パイプを掴みそこ目掛けて一直線に走り、叩き壊しにかかる。
奴はすぐ側まで迫って来た。
(次で、決めてやる!!)
一段と力を込め振り下ろす。
勢い良く飛び出た水が直撃し、悲鳴を上げるモンスター。
それを背に、清々しく店まで走り抜いた。
その後、不思議な雨が降った。
いつもの煤(すす)を含んだ濁った水滴じゃなく、透明でキラキラした雨。
きっとクラウドは、今この雨の下にいる。
「クラウド、帰ってくるよな」
マリンと手を繋ぎ祈り続けていると、店の電話が鳴り響く。
その電話は一言だけ用件を伝えるとすぐに切れた。
“クラウドは、教会に戻ってくるよ”
雨上がりの澄んだ空気に佇む、クラウドと出会った運命の教会。
「お水が湧いてる!!」
マリンが驚いた声を出す。
クラウドは泉の真ん中にいた。
さっきの “仲間” と一緒のティファに駆け寄る。
「治った!」
「私も!!」
水の中ではじゃぐ子達の肌を見てビックリする。
消えていく、黒い痣。
呆然とする俺を置き、マリンがクラウドに話し掛けた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
皆が微笑んだ。
「まだ星痕が消えない子もいるんだ...」
“仲間” の一人が不安そうな声を出しギクっとする。
...俺の事だ。
ティファに背中を押され、つい生唾を飲む。
(俺だけ治らなかったら、どうしよう...)
「さぁ、治してもらうのよ」
「大丈夫だ」
二人に後押され心を決め、クラウドの腕の中へ進んだ。
クラウドはすくった泉の水を、キラキラと俺の額に落とす。
みるみる染みて広がる、心地よい感覚。
痛みが、消えた。
俺は満面の笑みで皆を振り返る。
「いくぞ!」
青空の下、クラウドが大きく振りかぶる。
合わせて身構えた。
“明日は皆でどこかに遊びに行こう。
デンゼルは何がしたい?”
4人で手を繋ぎ家に帰ったあの日から数日、クラウドは俺に聞いた。
迷わず答える。
父さんと最後にした遊び。
2年間、ずっとしたかった遊び。
翌朝リビングに置かれた真新しいグローブに顔がほころぶ。
まだ加減の掴めてない強い肩に投げられたボールは、俺の頭を越えグングン伸びる。
それを拾いに勢い良く走った。
手首を押さえながら。
そこには2つのシロツメクサの花飾り。
一つはしっかりしてるけど、もう一つはゆるゆるで押さえないと外れちゃう。
チラリと横を見ると、二人はまだ白と緑の絨毯の上で手を動かしている。
その時久しぶりの全速力に体がよろめいた。
「デンゼル、ゆっくりでいいんだぞ!」
慌てた声を無視して飛ぶように走り続ける。
胸の高鳴りが止まらない。
また気持ち良く走れる日が来るなんて...!
こんな日が来るなんて...!!
やっとボールに追い付き、それをギュッと握り締める。
そして白い雲を仰ぎ見た。
(俺、皆の分も生きるよ)
遠い空の、だけど俺の体に詰まってる...
父さん
母さん
ルビィさん
ガスキンさん
死んでしまった探検隊の仲間達...
皆の魂に呼びかける。
(だって神様が、俺に生きろって言ってるから)
「クラウド、行くぞ!!!」
振り返り、思い切りボールを投げた。
半分の所で落ちて転がるそれに向かいまた走り出す。
後ろで声がした気がした。
“ああ、デンゼル。その通りだよ”
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カダージュ涙目の全カット。
『On the way to a smile デンゼル編』 (著:野島一成)
より一部引用・改変して使用。
Live out=生き抜け、夢を叶えろ
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