Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
prithee... 5
prithee... 4、の続きです。
もしも一つだけ願いが叶うなら、迷わず選ぶ。
どうか...
どうか......
......私の時を、止めて下さい。
prithee... 5
「ねぇ、聞いてる?」
「え?あ、ごめん...」
「最近、ボーっとしてるね...」
原因はわかってた。
あの日から俺は少しおかしい。
ずっと心の隅に抱えてた疑問を口にする。
「あのさ...エアリスは、俺のどこが好き?」
「え!?何、突然...」
「いや、ちょっと気になって...」
告白された時から腑に落ちなかった。
ザックスと比べてマシなのは女癖ぐらい。
俺なんかの何処が良いんだろう。
「どこって言われても...よくわかんないよ。
雰囲気?それと、一緒にいて楽しい?
それじゃ、ダメ?」
それに引く手あまたで何もかも完璧なエアリス。
俺が側にいる意義はあまり感じなかった。
それならもっと必要としてくれる人の元に...
いや、そんなの言い訳だ。
きっと俺は...先生の事が好きなんだ。
必要とされるどころか、あれ以来避けられていた。
授業中も不自然なほど俺の方を見ない。
挨拶しても目を逸らし、適当に返されるだけ。
だって俺は彼女の生徒だから。
(でも、それがなんだっていうんだ?)
肩書きの違いより、胸に確かな高揚感の方が重要だった。
それにどことなく頼りない先生は...なんだかほっとけない。
俺は心を決める。
「ごめん...」
付き合って一ヶ月。
告白されたのと同じ、部活後のグラウンド。
ここ数日様子のおかしかった俺に、彼女はさほど驚きはしなかった。
「他に好きな子が、出来ちゃった?」
「いや...」
反射的に否定する。
だってこの恋は他人に漏らす事はないだろう。
「じゃあ、なんで...」
「上手く説明出来ないんだ...エアリスは悪くない。
本当に、ごめん...」
食い下がられる事もなく、そこで話は終わった。
彼女もそこまで俺に執心してはいなかったに違いない。
そう結論付ける。
「名前と誕生日だけかよ。つまらないメールアドレス」
嫌な予感がして振り向いた。
そこには私の携帯電話をいじくる彼。
「ちょっと!何してるの!?返しなさい!!!」
職員室の何人かがこちらを伺い見る。
「じゃあな。後でメールするわ」
相変わらずふてぶてしい態度で部屋を去る。
額に手を付き、机にうな垂れた。
(教師失格だわ...)
いくら酔ってたとはいえ、教え子に抱きつかれるなんて...
(何考えてるんだろう...)
家の前に置かれたケーキの箱。
同情だけだと思ってた。
しかし先程の件を見る限りそれだけで終わる気配はない。
(しっかりしなくっちゃ!)
7つ年下の、しかも自分の生徒である彼は恋愛対象からはかけ離れていた。
「なぁ、なんでメール返してくんないの?」
「返す訳ないでしょ。
...あまり気安く話し掛けないで!」
あれ以来、彼からは何通もメールが来た。
“B組のアイツがとうとう例の子に撃沈したらしい”
“初めて国語の成績が下から50番を脱出したよ。
先生のお陰だな”
“『snatch』借りてたろ?
あの監督の新作映画、出たよ”
“今日の試合は弱小校なのに最悪の内容だった...
相手の自殺点でなんとか勝ったけど”
思わず笑ってしまう時はあったが、返信はしない。
あの後、私は昨年彼と別れた時以上に落ち込んだ。
三年分の楽しい思い出が一気に陰鬱なものに変わる。
今日も湯船でひとしきり泣いた後、キッチンで水を飲み光る携帯に気付く。
“泣いてないか?”
えぐられた心の傷口の痛みが久しぶりに引いていく。
初めて返信した。
“泣いてないよ”
「今日の先生の服、いいねぇ」
いやらしい視線に隣の席を睨み付ける。
清々しい青空に、全校生徒の気持ちはすっかり窓の外だが俺の心は暗い。
明日から夏休み。
一度だけメールに返信はあったが、何の進展もないまま一ヶ月以上会えないと思うと気が重かった。
部活の度に職員室を覗くが、担任も部活も持たない先生が登校する日はあまりなかった。
夏休みが始まって数週間。
扉をゆっくりと開けながら祈る。
せめて今日くらいは...
(いた...!!)
3年生の補講でもあったのだろうか。
そこには生徒から質問を受ける先生の姿。
会話が終わるのを待ち、話し掛ける。
「久しぶり」
「...久しぶり」
相変わらず顔を引き攣らせる。
しかし俺はめげない。
「なぁ、今からちょっと来てくれないか?
10分で終わるから」
今が一番いいタイミングなんだ...
「ごめん、今忙しいの」
「そんなに嫌わないでくれよ...
一生のお願い!なっ?」
手を合わせ頭を下げると、渋々承諾する。
「本当に10分だけだからね?」
連れて来たのは屋上。
部活が終わった夕暮れ時、ここの景色は豹変する。
予想通り先生も息を飲んだ。
「な、すごいだろ?」
校庭の向こうには一面に開けた土手。
幅の広い川は夕陽を全面に受け、ゆったりと光を反射させ流れていた。
「うん...」
「最初は非常階段から見つけたんだ。
屋上への階段って、わかり辛いもんな」
わざわざ探した2人くらいしか来ないのは、そのせいだ。
「なんで父さんは死んだんだろうとか。
なんで俺ん家だけ貧乏なんだろうとか、むしゃくしゃした時にここに来る。
...盗難の犯人にされた時も」
「これ見てると、色んな事がどうでもよくならないか?」
「そうだね...」
そこでようやく彼女は少し微笑んだ。
「どうせまだ引きずってるんだろ?
だから辛くなった時は、この場所貸してやるよ」
今日は俺の誕生日だった。
約束の10分が過ぎ陽は沈むが、心は満たされた。
(お礼くらいはいいかな...)
ベッドに横たわり、携帯を開く。
(ううん、ダメよ。ダメ!)
生徒と個人的にやり取りなんて、許される訳がない。
(お風呂入ってこよ...)
湯船に浸かりつつも考えは止まらない。
(私のこと、好きなのかしら?)
周囲からは鈍いと言われがちだが流石に思い当たる。
それに、今日は本当に救われた。
卒業し友人とは疎遠になり、しかも元彼とは共通の知り合いが多く無難な相談相手も少ない。
(邪険にしてるけど...本当は優しい子なのよね?)
“そんなに嫌わないでくれよ...”
何か嫌な事をされた訳でもない。
むしろ、店長に叱られる覚悟で彼を殴ってくれた。
(でも教え子は教え子だし...)
堂々巡りをし、再び首を振る。
(あれ?)
そう言えば私、最近...泣いてない...
お風呂から上がり携帯を見るが連絡はなかった。
少し物足りないまま、それを閉じる。
長い夏休みは終わりを遂げた。
初めてここに足を踏み入れたのは一年前のこの日。
増え続ける学生の数に教師は足りず、今年も壇上で紹介される教育実習生を懐かしく見上げる。
体育館から戻る途中、肩を並べる男女が目についた。
(なんだ、結局仲良しなんじゃない)
以前、彼女からは相談を受けていた。
もちろん何も返せなかったけれど。
(立場が近い同士で結ばれた方が良いに決まってるのよ?)
金色の後ろ姿に語りかけると胸がチクリとする。
(どうしちゃったのよ、私...)
“昼休み、屋上に来てくれないか?”
気持ちを伝える気でいた。
このまま避けられ続けるなら、振られたって同じだ。
「来てくれたんだ」
扉を開けると、フェンスの前の姿にホっと顔が緩んだ。
こちらを振り返る表情は暗いけど、与えられた告白の機会に勇気付く。
大きく息を吸い、吐いた。
「先生...」
「俺、先生のことが好きだ」
ものすごく、好きだ...
言った瞬間、逃げ出したくなった。
返事なんて決まってる。
しかし返って来たのは拒絶の台詞と少し違った。
「私たち、教師と生徒だよ?
それに...7つも年が違うのよ?」
「だから? 俺はそんなの気にしない。
大切なのは本人同士の気持ちだろ?」
「家族や友達に何て言うの?
そもそも周りに言える日なんて来ないかもしれない...」
「誰かに言うために人と付き合うのか?先生は」
予想外の展開に声が震えた。
彼女は下を向き消え入りそうな声で、だけど確かに言った。
「私も......好きだと思う......」
気付いたら、前みたく抱き締めていた。
奇跡的に実った恋。
今の俺に怖いものはなく、ここぞとばかりに耳元で囁く。
「なぁ、名前で呼んでいい?」
「え!? は、はい...」
“はい”って...
「ティファ」
「...随分と簡単に呼ぶのね」
睨むように見上げる顔は真っ赤だ。
「心の中ではずっとそう呼んでたから」
「そ、そう...」
一度離したらどこかへ消えてしまいそうな彼女。
確かなものが欲しかった。
「なぁ、キスしよう?」
「えぇえ!?」
腕を思い切り伸ばし、胸を突き飛ばされた。
「何そんなに動揺してんの?
ないの?キスしたこと」
「なっ...
ないわね...生徒とは...」
「その “生徒”っていうの、今後禁止」
「んっ...」
強引に肩を掴み、口を塞いだ。
一年前、初めて言葉を交わした時と同じ青い空。
俺の特別な場所だった屋上は、彼女に邪魔されいつしか2人の特別な場所となった。
きっとこの恋は簡単じゃない。
けれど生まれて初めて本気で好きになった人。
どんな困難だって、乗り越えてみせる。
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