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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

prithee... 2


prithee... 1、の続きです。







「すみません!ボール取って貰えますか?」

足元のそれを拾い、投げ返す。知らない顔だ。

「ありがとうございます!!」

駆け出す背中に目を見張る。同じ背番号だった。


俺があの時、夢を掴めたのは...


prithee... 2


“L”

“L.A. Confidential”
“Last Song”
“LEON”
...

指で背を追っては、気になるものを抜き出した。

(これ、前に雑誌で評価が高かったやつだっけ)

そのDVDを採用し籠に落とす。

教育実習が始まったといっても、さほど仕事はなく時間は山程あった。
何もしないと彼の事ばかり考えてしまう私は、最近夜はひたすら映画を観ている。

(これくらいでいいかな)

重みを増した籠を手にレジへ進んだ。

「一週間でよろしいですか?」

「はい」

ふと目の前の店員に目をやると、顔を引き攣らせたじろがれた。

(...何?)

「あ!!」

眼鏡をかけてたから気付かなかった。
この金髪と青い眼は...
呆れ果て、溜息をつく。

「君ねぇ、うちの学校はバイト禁...「ごめん!」

予想外の反応に声が詰まる。
先日の反抗的な態度と異なり、彼はすぐさま頭を下げた。

「見逃してくれないか?
煙草は言ってくれてもいい。
でもバイトは辞める訳にはいかないんだ...」

「そんなこと言われても...」

打って変わった態度に戸惑うも、譲る訳にはいかない。

「俺の家、母子家庭なんだ。
少しでも足しにしたいんだよ...」

目を伏せられ、ぼんやりと思い出す。
屋上で見かけた彼にそぐわぬお弁当箱。
彼は他の生徒の様に食堂で気軽に飲み食いは出来ないのだろう。

「あんただってうちの高校の学費、知ってるだろ?
母さん、パート掛け持ちして払ってくれてるんだ」

うちの学校は私立の進学校だ。
女手一つで息子を送り込むのは一苦労だろう。
しかし同時に思い当たる。

「...それなのに煙草を買うの?」

言ってたじゃない、“高い”って。

「あれは...」

今度は彼が言葉を失う。

「せっかく稼いだお金も煙草代に消えるなら、意味ないじゃない」

冷たく言い放つと、彼は観念して言葉を紡いだ。

「情けない話だけど、仲の良い先輩がついでに買ってくれてるんだ。
...俺の金じゃない」

「.........」

一見してプライドの高そうな彼が漏らした、しおらしい弱音は疑えなかった。

「...見なかった事にしてあげる」

会計を済ませ店を後にし、帰り道で肩を落とす。

(甘いよなぁ...)

まだ信用のならなかった私は返却日までの間、帰り際に店を覗いた。

(今日もいる)

バイト代が何に消えてるかは知らないが、少なくとも下校後に遊ぶためでないのはわかった。





「先生、さっきのところなんですけど...」

「うん、あれはね。昨日やった構文と全く同じで...」

あの教育実習生はクラスに溶け込みつつある。
教科は苦手な国語だが、理系の俺から見ても教え方は上手かった。
きっと良く予習してるのだろう。
相変わらず男子の茶々は入るが、いまやそいつは女子から睨まれる。

何よりバイトを辞めずに済んだのは大きい。
それに...

(あんなにアッサリ信じて貰えると思わなかったな)

愛想の悪い俺に教師が味方してくれたのは、今までの人生で皆無に等しかった。





「あんた、一週間でこれ全部観たのか?」

「.........」

身の程をわきまえない言葉遣いにイラっとくる。

「彼氏、いないんだね」

的確な嫌味を言われ、今度は目の奥に何かがこみ上げて来た。

「...どうしたんだ?」

様子のおかしい私に真面目な顔に戻り、流れを変えようと一枚のDVDを手に取る。

「オススメの教えてやるよ。これ、もう観たか?」

しかしその映画がまた悪かった。
それは元彼と初めて一緒に観た...
目頭が熱くなるのを堪え、なんとか言葉を絞り出す。
こんな生意気な生徒に涙なんか見せたら、バカにされ続けるわ。

「...もう、ここには来ないから......借りれない...」

だが意外にも申し訳なさそうに取り繕われる。

「俺、何かいけないこと言ったかな?だったら悪かったよ...」

温かい台詞に涙は引っ込んだ。
ここぞとばかりに気になっていた忠告に話を移す。

「ねぇ、この駅...教頭先生も住んでるよ。危ないんじゃない?」

「知ってるよ。
でもあのオッサンがレンタルビデオ屋に用があると思う?
大丈夫だよ、半年やってるけど一度も会ってないし」

そうかもしれないけど...

「すみません」

近くの客から声が掛かる。

「息子の代わりにこれを返却しに来たんだが...
どこに返せばいいんでしょうか?」

私達はその姿に身を固まらせた。





「いくら実習生と言えども、もっと教育者としての自覚を持ってですね...」

「はい...」

“問題がなければ” 四月から本採用な私は、次の日教頭室で頭を下げるしか出来なかった。
だが説教は予想外に早く終わる。

「しかしまぁ、相手があの生徒なら頷けますよ。
どうせ先生も上手い事言いくるめられたんでしょう?」

「...言いくるめられた?」

「彼は指折りの問題児です。遅刻に煙草、素行も悪い。
煙草の金欲しさに以前、他の生徒の財布も盗んでます。
頭が良くてズル賢いからあなたみたいな新人、目じゃないですよ」

結果的に私は処分なし、彼は3日間の自宅謹慎となった。



「クラスメイトの財布を盗んだんだって?」

放課後の教室、一人のところを見計らい声を掛ける。
彼はピクリと眉を上げるが、こちらを睨んだまま何も返さない。

「お母さんのためっていうのも嘘だったの?
全部、煙草のため?」

彼は溜息を付き、擦れ違い様に外へ出て行く。

「なんとか言いなさいよ!」

「うるっせーなぁ!!」

突如あがった罵声にたじろいだ。
語気荒く詰め寄られる。

「あんた、見たのかよ!?俺が人の財布盗むところ!!」

しかしすぐに寂しそうに声を落とした。

「見たのかよ、俺が煙草買うところ...」

「煙草もバイトも校則破りなのは知ってるよ。
悪い事してたのは認める。
だけど俺は友達の財布盗んだり、嘘を付いたりはしない。
どいつもこいつも上辺だけで決めつけやがって」

「.........」

「結局あんたも他のセンコウと同じだな。
.........ガッカリだよ」

そう言い捨て廊下を進む彼に、私は何も言えなかった。





「先生~、今日はうちらとお昼食べようよ!」

「うん! あ、ちょっと待っててね」

教室を去ろうとする一人の生徒を追う。

「ねぇ、いま少しだけいいかな?」

勉強熱心で社交的な彼女とは、何度かランチを共にした仲だ。
確か前にサッカー部のマネージャーをしていると聞いた。

「うん、もちろん。なぁに?」

予想通り、彼女からは望んだ情報を得られた。



「おっ、全校生徒の憧れの的が俺に何の用?」

...彼と仲が良い割に、随分雰囲気が違うのね。

気を取り直し、本題に入った。

「クラウドの事?ああ、エアリスから聞いて来たのか。
あいつ馬鹿だよなぁ、三回停学したらアウトなのに早くも二回って...」

声を潜め、質問をする。

「煙草は君から貰ってるって聞いたんだけど...」

「ああ、そうだよ。俺が買ってやってる。
あいつん家、貧乏だからさ」

「じゃあ、お友達の財布を盗んだっていうのは...」

「濡れ衣だよ」

そしてケロッと重大な事実を付け足した。

「だって俺、盗みの現場見たもん」

(...へ?)

「ちょっと!!
そういう大事な事はちゃんと言いなさいよ!」

私の剣幕に押されつつも、彼は冷静に諭した。

「あのさ、あいつと仲の良い俺が何か言って誰かが信じると思う?
しかも俺、先生から嫌われてるし」

「あいつの教室に遊びに行ったら2人組が鞄から財布を引っこ抜いた。
会話も聞いたから確かだよ。
でも盗難なんて騒ぐ事じゃないし、まさかクラウドのせいにされると思わなかったからさ...
問い詰めなかったし、顔も覚えてないんだ。
だから俺は何の証明にもならない」

「そんな...」

「あいつも運がねぇよな。
せっかくの目撃者が唯一あいつを庇う可能性のある俺だったなんて」

きっとこれが真実なんだ。
だって盗みにあった生徒は言っていた。

“別にクラウドがやったって証拠はないけど...
普段の態度が悪いし、あいつに煙草なんか買う金あるはずないって先生が決めつけた”

そこでハッと思い付く。

「でも、“見た” のよね?」

「ああ、“見た” だけならね。この目でハッキリと」

「お願い、今から一緒に職員室に来て貰える?」



「例の盗難は、別の犯人を見た人がいます。
彼の身は潔白です。
代わりに今回の謹慎を解いてあげて下さい」

「今更何を言い出すかと思えば...」

教頭先生は溜息をつき、その場の三人を見比べた。
視線が一人の前で止まる。

「目撃者とは、加害者の親友で煙草常習犯の彼?」

白い目を向けられ、彼はチラッと舌を出す。

「え?先輩!見たんなら何とかして下さいよ!!」

「わりぃ。面倒でなんもしなかった」

抗議したのは盗難の被害者。
生徒会の一員で、彼らとは接点がなさそうなのが今は好都合だ。

「で? この生徒の発言が本当だと、どう信じろと?」

「ねぇ、その財布はどんなだった?」

君はまだ言わないでね、ともう一人の生徒に釘を刺す。
彼は “なるほど” という顔をし、ニヤリと歯を出した。

「結構特徴的なやつだったぜ?
表が地図の柄で、中のストライプも少し見えた」

「それ、僕のですね」

教頭先生は本日二度目の深い溜息をついた。





帰途につく私の心は快晴ではない。
電車の暗い窓に寄りかかり、一連の出来事を思い起こす。

“生徒の前で教師の顔に泥を塗るのは、厳禁です”

あの後、昨日の3倍の長さの説教を受けた。

確かに今回の事が広まれば、教育側は立場をなくし風紀は乱れるかもしれない。
でもあの二人が口を割るとも思えず、一人の生徒が無実の罪を背負い続ける方が酷い話に感じた。

“君は生徒からの評価も高いし、是非採りたいんだ”

最後には有難い言葉も貰えた。

(だけど...)


実習期間は、もうすぐ終わりを告げる。





職員室近くの壁にもたれかかり、小さな箱を宙に投げ弄ぶ。

「あ...」

扉から出て来た人物は俺が持つそれに気付き、物言いたげに手を伸ばすが徐々に降ろした。

「私、教師向いてないのかもな...」

「煙草はやめないよ」

平然と言い放つと、うつむいてしまう。

「春に “先生” が戻って来ないなら、やめない」

彼女は一瞬目を見開き、やがて瞳を潤ませ微笑んだ。
さよならは言わず箱を握り潰し、夕日で赤く染まった廊下を軽快に歩く。



俺達を苦しめ続ける恋は...

この時まだ、始まる一歩手前。





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