Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
Blue Eyes 4 (fin.)
Blue Eyes 3、の続きです。
これにて完結です。
7年来、体を蝕(むしば)む魔の晄(ひかり)。
それは俺に悪夢を見せるだけでは物足りず...
きっと今後、俺の大切な物も蝕むだろう。
その晄は輪廻を繰り返す。
悪夢は永遠に、終わらない...
Blue Eyes 4 (fin.)
遠くにサイレンの音が聞こえる。
血の酸えた臭いと、プラスチックか何かが無理やり燃やされた異臭が混ざった空気に、リーブは顔をしかめた。
犯人の遺体に横目をやり、私達に声を掛ける。
「今回は...取り調べは必要なさそうですね」
「2人とも、もう出ましょう。
後は死体処理班にやらせます」
それに従い、そこを後にした。
背後にいたたまれない絶叫を受け止めながら。
前を行くリーブを追い掛け、耳打ちをする。
最初に少女に駆け寄ったのは、父親だった。
「生き...て、たのか...?」
“信じられない”
そんな声を出し走り出す。
しかし手が触れる寸前、拒絶の叫びが上がった。
「嫌だぁぁぁぁあああ!!!」
父親は動揺し、彼女をなだめ始める。
「どうした?...お父さんだぞ?お前は助かったんだ!
......さっきは...悪かった...」
だが益々半狂乱になり、今度は「来るなぁぁああ!!!」と必死に身をよじらせた。
その様子をぼんやり眺め、気付けば握り潰していた彼女の宝物をゆっくり開く。
ジタバタと暴れる体を無理やり抱きすくめる背中に語りかけた。
もう無駄よ。
あの子は全て、悟ってしまった...
その背中は今、目の前で疲れ果て曲がっている。
両手をわきにだらりと垂らし。
半日前にも訪れた、薄汚れた灰色の部屋で。
まず口を開いたのはリーブだった。
「“金がない” というのは、嘘だったんでしょう?」
リーブは知っている。
男が毎年WROに幾ら献金してるかを。
「随分、大胆な作戦でしたね...」
父親は虚ろな瞳で訴えた。
「会話を引き伸ばせと言ったのは君じゃないか。
咄嗟には、あれくらいしか思いつかなかったんだ...」
リーブは肩をすくめ、今度は私達に視線をよこす。
クラウドが腕を組みながら喋り出した。
「俺からも聞きたい」
「一人目の男に家の鍵を渡したのは、あんたか?」
「......何故?」
「あいつはあの日、玄関から侵入した。
俺はあの後、家中の窓という窓を調べたが、こじ開けられた形跡はどこにも見当たらなかった」
父親は焦点の合わない瞳のまま非難する。
「鍵なんて...そこら辺の泥棒だって、簡単に開けられるじゃないか...」
「鍵、だけならな。
だけど目当ての扉の前にどんな見張りがいるかも知らないのに、正面から乗り込む奴がいるか?
少なくとも、俺は “あの日” 以外は常に部屋の前に座り込んでたんだ」
「...俺があの日、あんたの娘の部屋に俺が引っ込んだ事を男に伝えたのは、あんただな?」
そして近くの部屋に身を潜め、ドアに耳を当て伺ったに違いない。
クラウドが物音を立て、部屋を離れる一瞬の隙を。
父親が黙り込むとリーブは呆れた声を出す。
「いったい、何故そんな事を...」
私は机に一枚の写真を置いた。
そこには一人の女性。
病室のベッドの上、産後まもなくだろう。
傍らには透明なケースに入った赤子が横たわっていた。
その女の人の瞳は......碧くなかった。
「ライフストリームに落ちたというのは、嘘でしょう?」
あの子はこの男の子供ではない。
彼の妻と、“碧い瞳” の誰かとの間に出来た子だ。
男は観念し、写真に手を添えゆっくりと話し出す。
「憎かった...彼女も、あの男も。
...そして、あの子も」
“一度だけ”
“愛してるのはあなただけよ”
“寂しかっただけなの...”
「そう泣き叫び、俺にすがりつく妻。
俺は彼女を愛してたが...許せなかった。
来る日も来る日も、責め続けた...」
「俺は産まれてくる子供のために、益々必死に働いた。
俺達の間にやっと出来た念願の子供。
...激務なんて、ちっとも苦じゃなかった」
「浮気相手は家の警護に雇っていた元ソルジャーの男だった。
産まれた子の瞳の色を知ると、すぐに逃げたよ。
奴は妻を一欠片も愛してなんかいなかった」
「そして彼女はあっさりと自殺した。
俺を置いて。
あの青い悪魔を俺の元に残したまま」
だから殺そうとしたのね?
しかし自らの手を汚したくはなかったのだろう。
彼は慎重に事を進める。
まずは娘の瞳に好奇の視線を送る、周囲の目を欺(あざむ)く事からだ。
あの膨大な数の部屋に住んでいたであろう家政婦達を解雇し、数年に渡りあたかも娘を愛しているかのよう振舞った。
人々の彼への信用が確立した頃、彼は金に困る人間に言い寄り殺害を依頼する。
しかし誤算だったのは、あの子は秘めた力を持っていた。
...魔晄によって与えられた。
作戦はことごとく失敗し、そしてある日言われてしまう。
“お父さん、私が誰かに襲われたのに...どうして何もしてくれないの?”
あの子はもう誰に何を喋ってもおかしくない年齢だ。
彼は渋々WROに電話をかけた。
それは目的の達成は困難にするが、身の保身には強力な防具となる。
もっともらしくWROを巻き込み身の潔白を証明しながら、計画を続行させる。
そしてある日幸運が舞い込んだ。
自らが仕組んだ事件とは別に、彼女の命を狙う人間が現れたのだ。
手配した誘拐犯はしくじったが、男を送検する際、父親は心からエールを送る。
“本物の” 誘拐犯に。
“電話の声は、何回目から違いましたか?”
その質問に答えはない。
電話が本当に鳴った回数は、4回でなく2回だ。
彼が擬制した1本目の電話は、怪しまれる事なく協力者に報酬を払うため。
そして迷わず金を払う事により、娘への愛情を周囲に知らしめる役割があった。
2本目の電話は、事件を終焉に向かわせないためだ。
“お姉ちゃんで、もう4人目だもん”
“...青い目をした、化け物だから...”
あの子は私を気遣い真実を教えたのではない。
狙われてる事を知りながら、毎晩安らかに眠る彼女。
知っていたんだ、自らの持つ凄まじい力を。
コントロールは出来なかったかもしれないが、力を最大限に解き放てば身は守れる自信があった。
“会話を引き延ばせ”
父親は悪知恵を思いつく。
長い戦いに疲れていたせいもあっただろう。
“もうない...ないんだよ”
たまらず言ってしまったに違いない。
しかしそれで、あの子の疑惑は確信に変わる。
銃を突きつけられた愛する娘にそう言える親はいない。
自分の命を狙い続ける一連の事件の黒幕は...父親だ。
長い廊下。
それは彼と、妻との心の距離。
おそらく妻の発言に嘘はない。
産まれてくるのは夫の子に違いない。
信じて疑わなかったから、あの子を産むと決めたんだ。
男は嗚咽を上げ、写真を握り潰す。
きっと、今頃彼の “娘” も何処かで泣いてるのだろう。
店の掛け時計に正午を伝えられた。
俺は一人カウンターに座っている。
男は牢に入り、少女は実質的に孤児となったが孤児院には入ってない。
余りある金を利用し乳母を雇い、変わらずあの屋敷で暮らしてるという。
事件は解決したが、俺の心は晴れないままだ。
今日、ティファは子供達を連れあそこへ行っている。
俺も誘われたが、断った。
「「ただいま!!」」
店のドアが勢い良く開くと同時に軽快な声が響いた。
「ごめんね!遅くなって。すぐにご飯の用意するから」
遅れてティファも現れる。
「クラウドも来ればよかったのにさ~」
デンゼルが不平を言う。
マリンが抱えている物にギクリとした。
「次に会う時まで、こうかんこしたの!」
それはあの子の唯一の友達の、ウサギの人形だった...
...クラウド?
「どうかした?」
カウンター越しにこちらを伺われる。
何時の間にか、子供達の姿はなかった。
「最近、元気ないね...」
フライパンから香ばしい匂いが立ち昇る。
彼女は俺の反応が薄いのを気にしつつも、忙しく手を動かしていた。
なぁ、なんで君は...
そんなに平気な顔なんだ?
「ティファ...?」
「んー?」
一瞬こちらに向けられた顔に、意を決して言った。
「俺の子供も...あんな風になるのかな?」
碧い目をした、化け物になるのかな?
そしてそれは、君も...苦しめるのかな?
俺はきっと、死にそうな顔をしてたと思う。
ティファはコンロの火を止め、カウンターを回り歩み寄る。
そして隣に、俺に体を向け横向きに腰掛けた。
表情は明るいままだ。
「今日ね、やっと笑ってくれたの」
本当に嬉しそうな顔をする。
「クラウド。
あの子を孤独にしたのは...その瞳じゃないよ?」
「それにあなたの瞳の持つ力がどんなに強くても...」
ティファはキッパリと言い切る。
俺とは違う、温かみを帯びた瞳をきらめかせながら。
さも当然の事かのように...
「それ以上のものを与えてあげれば、きっと一緒に生きていく事は出来るから」
それは...2年前に君が、あの晄にやられた俺を、君の光で包んでくれたように?
暗く、長い廊下。
そこに光はない。
あるのは邪悪な魔の晄だ。
俺は不安なんだ。
だって俺の光は弱いから。
いつかその日が来た時、また君の光を借りてもいいか?
今度は俺のためじゃない。
きっといつか君の元に産まれてくるだろう、小さく碧い、晄のために...
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細かい話ですが...
◆Tifa 『長い廊下』→既に光を見い出している
◆Cloud 『暗く、長い廊下』→まだあやふや
と、言い回しを使い分けました。
◆光→光
◆晄→読みはヒカリですが、意味するところは闇です
KH2の設定を踏襲しました。
ティファはクラウドとは違い、子育てには自信がありそうだ。
と、もっともらしく述べてますが、途中の展開はクラティでやる必要があったのかい?
完全に、昔赤川次郎をむさぼる様に読んだ私の趣味ですが、探偵のごときクラティも新鮮でまた一興。
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