Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
Fly High
時系列的には、かなり遅い時期になります。
Familyです。
デンゼル14歳。
二つの将来の間で揺れる心。
俺は沢山の人達の手で生かされて来た。
そして今年14歳になる。
クラウドが夢を追い始めた年。
迷わず信じた道を...行こう。
俺を救ってくれた、大切な人達のために。
Fly High
―― ティファは泣くだろうな
最初に思ったのはそれだ。
俺は机にぼんやりと座り、つい先ほど端的に自らの願望を主張してきた少年の残像を蘇らせる。彼はまっすぐな瞳で力強く言った。
“クラウド。俺、春になったらWROの戦闘部隊の入隊試験を受けるよ”
―― ティファは泣くだろうな
心に影を差すものが2つある。
“まだ急いで決めなくてもいいんじゃない?”
夢を語る時、ティファは決まって顔を曇らせる。ティファは大好きだけど、あの瞬間だけは嫌いだった。
「デンゼル君、本当にいいの?」
「はい」
学校の担任教師にキッパリと言い切る。
「少し勿体無い気もするけど...」
先生が言ってるのは艇(コウ)空学校の事だ。数学と物理が学年トップの俺は、その推薦枠を勝ち得ている。物凄い競争率を誇る道だけど未練はない。
それにそこはWROと違い、給料が出るどころか高い学費を払う必要があった。しばしの後、先生からの後押しに笑顔になり俺は教室を後にする。
“でもWROだって、立派な仕事だもんね”
なのに廊下で唇を噛み締めたのは、昨晩クラウドが良い顔をしなかったから。それはきっと...俺に、才能がないからだ。
デンゼルは間違いなく入隊試験に受かるだろう。戦闘の勘が良い上、9歳から俺に鍛えられている。彼は毎回、地に転がり土まみれで嘆くけれど。
「5年間...一回も、ちょっとだってかすりやしない...」
俺はまだお前より頭一つ背が高いんだぞ?それに何年剣を振り回してると思ってる。極めつけは魔晄で得た、化物並の身体能力だ。しかも手を抜いた事は一日だってない。声変わりもしきってないお前にやられる訳がないじゃないか。
「クラウド、もう一度だ」
キッと睨み立ち上がる姿に応え、身構え直した。この子はあまり力はないが、頭が良く巧みに戦法を組み立てる。同級生と比べ背が低めなのが今は不利だが、親の身長を聞く限りすぐ伸びるだろう。
上手い具合に上下の攻撃を混ぜられ足元の太刀筋を避けた折、首筋に隙が空き俺は顔をしかめた。だけど...
(まだ、甘い!)
次の瞬間現れた光景に目を見張る。目前には鋭い刃に心臓を貫かれたデンゼルと、吹き出す鮮血。
(馬鹿な、俺は木刀を使って...!!)
焦り右手を見るが、それは...モンスターを斬り殺す際に使う物だった。血を吐き目を見開いたまま崩れ落ちる肩を揺さぶり、必死に叫んだ。
............死ぬな!
死ぬんじゃない!!
デンゼル!!!
「はっ!!!」
闇の中、体は寝汗で濡れそびっている。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ...」
肩で荒い息をつき慌てて隣の寝顔に目をやるが、幸い彼女は安らかな寝息を立てていた。こんな夢を見たのには思い当たる節がある。今朝なんとなく目を走らせた新聞記事。
“WRO隊員3名、坑道での任務中に不慮の事故で死亡”
亡くなった隊員の一人は、まだ15歳だった。
今日だけじゃない。モンスターによる被害が一番多い。彼らが命を落とすのは...日常茶飯事だった。
(ティファが泣くからなんて、言い訳だ...)
頭を抱え込み、嘆く。
「俺は、お前を失うのが怖い...」
あれから数日後、クラウドが部屋に来てベッドに座り込んだ。
「ティファにはいつ話す気だ」
ギクッとした。
「まさか俺から伝えて貰おう、なんて思ってはないよな」
そしてクラウドは厳しい口調で言い放つ。
「いつ命を落とすかわからない、危険な仕事だ。少しでも躊躇いがあるならやめておけ」
躊躇ってなんかない。気持ちは一瞬たりとも揺らいだ事はないんだ。
「迷いはないよ。ティファは喜ばないの知ってるから、言い出しにくいだけ。......今から言ってくる」
勢いをつけ立ち上がると、すれ違い様に腕を掴まれた。腕にすがる、見た事もない顔は弱々しく言う。
「デンゼルは飛空艇も好きだろ?せっかく成績もいいし、そっちじゃ駄目なのか?」
瞬間、頭にカッと血が昇った。
「知ってるよ!俺は弱い!!才能がないから、そんなこと言うんだろ!?」
向き不向きなんて関係ないんだ。どんなに弱くたって、長年の憧れなんだよ!
だけどクラウドは予想外の言葉をくれた。
「デンゼルは強いよ。少なくとも俺が14の時よりずっと。WRO隊員になったら、きっと活躍する」
「だったらなんで...」
俺の腕をグッと痛いぐらい掴み直し、クラウドは目を伏せる。
「俺は怖いんだ。お前を失うのが怖い」
「危険な仕事に就かれるのが...怖いんだ」
再び頭に血が行き、俺はまた叫んだ。
「自分の気持ちだけで、俺の小さい頃からの夢を潰すのかよ!!」
「クラウドは俺と同じ年で軍隊に入ったんだろ!? 自分の事は棚に上げて、俺にはダメって言うのかよ!!」
興奮して口が止まらない。悔しさがこみ上げ涙も溢れてきた。
「なんで今になって反対するんだよ...なんで...5年も稽古をし続けたんだよ!!」
「俺はこの5年間、入隊試験のためにずっと頑張ってきた。それを一番知ってるのは、クラウドじゃないか!!!」
俺は涙が伝うのも構わず、肩を落としうな垂れるクラウドを赤い目で睨みつける。
「何も言い返せない。けど...」
そこで勢いよく部屋を出た。
“ティファには...まだ黙ってて貰えないか?”
「いいか。狙いたい角度は45度だが、重力と空気の抵抗を考慮してもっと傾けるんだ。数式を使えば正確な値は出るが...まぁだいたい60度ってとこだな。今からやるから、体に叩き込めよ」
週末シドおじさんの家に転がり込んだ。家には...いたくなかった。俺は去年から時々ここに来て艇の勉強をしている。バレットの所のが近かったけど、そこだとマリンがついて来てしまう。
『ティファに泊まるって伝えといて。それと、シドおじさんの所にいるからって変な期待しないでよ。...俺の気持ちは変わらないからな』
クラウドは忙しいのか電話に出ず、留守電なのを良い事に強気なメッセージを残す。
「拾われた家がまずかったとしか言えねえなぁ」
おじさんは俺を応援してくれた。“親の言う事なんか気にするな、自分で決めろ”って。それに “好きじゃなきゃ続かない”って。
...別に艇の操縦も好きなんだけどな。ただWROが特別なだけだ。じゃなきゃこんな遠くまでしょっちゅう来ない。それにクラウドとの手合わせ中、思うように動かない体より、指示通り素直に言う事を聞いてくれる飛空艇の方が気持ち良かった。
「あいつらはな、人一倍臆病なんだよ。家族は全部なくした。友達もなくした。ガキの頃の知り合いなんざ、お互いしか生き残っちゃいねぇ」
「残ってるのは、仲間とお前らだけだ」
失う恐怖は俺も知ってる。父さんと母さんの背中。周りの命を次々と奪い去った黒い病気。でも...だからこそ、繰り返さないため自分の手で守りたいんだ。
「こっからはよ。参考程度に聞いてくれて構わねぇが...」
おじさんは巧みに舵をとりながら喋る。
「お前がパイロットになったら、十中八九どこへ行っても引く手あまただ」
「...計算が得意だから?」
「手が足りてねぇんだよ」
「ウソだ...」
艇空学校は一学年100人はいるし、定員割れなんかしてないはずだ。
「操縦だけ出来る奴なら腐る程いるが...整備のために艇を降りる必要があるだろ? いつモンスターに襲われるかわかんねぇから、弱っちい奴は役立たずなんだよ」
「なのに新米操縦士ときたら、勉強しかした事のないモヤシみたいな “ひ弱” ばっかりだ」とおじさんは苦々しく煙を吐いた。
少しだけ心が揺らいだ。どう考えても空の道は負けず嫌いの俺にピッタリだ。剣と得意分野を強みに、きっと一番になれる。クラウドはああ言ってくれたけど、やっぱり俺の戦いのセンスはそこそこだ。学校で一番運動神経の良い友達に敵わないから。俺はWROに入っても、そこそこの戦績で職を終えるだろう。でも...
俺、やっぱり...諦められないんだ。
次の日遅く、家の廊下を不自然に行ったり来たりする。扉の先にはティファが一人。クラウドはまだ帰ってない。
(今から、ティファに言おう)
意を決し店に入りかけた瞬間、ドキっとして足が止まった。ティファが強く握るのは、携帯電話。何度も画面を確認し、閉じた後には尾を引く溜息。
ティファ。クラウドは世界一強いよ?事故だって起こしたことない。今まで無事に帰って来なかった日なんか、一度もなかったじゃないか。家出した事はあったけど、その時もかすり傷一つでピンピンしてたじゃないか。なのにどうして...そんな辛そうな顔してるんだよ...
“あいつらはな。人一倍臆病なんだよ”
“家族は全部なくした”
“残ってるのは、仲間とお前らだけだ”
「デンゼル?」
入口で立ちすくんでいると声が飛んできた。
「まだ起きてたんだ。お勉強?お疲れ様」
ティファは「お水、飲みに来たんでしょ?」と立ち上がる。俺は言葉に詰まり佇むだけだ。やがて冷蔵庫の前の背中に、やっとの事で聞いた。
「クラウドは?」
「うん...1時には着くって言ってたんだけどね」
時計を見上げると、まだ十分しか過ぎてない。無意識に言葉が口を突いた。
「ティファ、クラウドは元気に帰ってくるよ」
何より大切なティファが待ってるから。俺達が待ってるから。
「明日も明後日も、明々後日も...絶対に......必ず...毎日帰ってくるよ」
そして...
俺も...帰って来るよ。
三人とも全員、ちゃんと帰って来るよ。
ティファが家族を失う事は...もうないよ。
「うん...そうだね。 そうだよね」
ティファはグラスに水をつぐ手を休め、笑顔を取り戻す。
「ティファ、水は大丈夫。話があって来たんだ」
「俺、二人に一生のお願いがあるんだ。春になったら艇乗りの学校に通いたい。学費が高いんだけど...」
「どうしても、行きたいんだ」
ティファは笑顔を弾けさせた。
5年前よりずっと大きくなった俺の背中。それは今、ティファと並んだ。だけどティファにとって...俺の背中は小さいままなんだね。きっとクラウドの頼もしい背中でさえ、時に小さいんだ。
クラウドの足元にも及ばない俺が戦場に出たら、ティファは携帯を片時も手離せない。さっきよりずっと不安な顔のまま。そんなの...全然幸せじゃない。
「デンゼル、どうして泣いてるの?」
柔らかい手が頬に当たった。体に触れられるのはいつぶりだろう。気恥ずかしさから何年か前に卒業した温もり。ビックリするくらい暖かくて、懐かしくて...俺は更にボタボタと涙を落とした。
慌てて歯を食い縛り、目を瞑る。黒い床にもっと濃い黒の染みがみるみる広がった。
「悪いなんて思わなくて良いんだよ。心から応援する。私も、クラウドも」
「とっても...素敵な夢だね」
ティファ、安心して?俺は夢を捨て家族をとる。大切な人を泣かせないため、不安にさせないため...自分の命を必死に守るから。毎日ここに生きて帰って来るから。
俺、誰よりも高く飛ぶよ。そして俺の一番得意なやり方で...きっと皆の未来を守って見せる。俺はティファの手に包まれ泣き続けた。
「ねぇ、お願い。もう泣かないで?」
自分まで泣きそうな顔をされ、なんとか笑顔を取り繕う。目をこすり鼻をすすりながら。
「ティファ、心配しないで。嬉しくて泣いてるだけなんだ。応援してくれて...ありがとう。...お金の事も」
フェンリルのエンジン音が聞こえてきた。こんなとこ、クラウドには死んでも見られたくない。ティファに撫でられて泣きべそなんて、かっこ悪すぎる。
「クラウドには、ティファから伝えて貰える?」
ティファに背を向けると俺は二階へ向かった。声に力を込めて宣言して。
“俺、精一杯頑張るから、見ててくれよな”
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デンゼル、君がもらわれた家のお父さんとお母さんは、最強であり最弱なんだ。
WRO入隊の話も書きたかったけれど、シドの道を行かせてみました。
“艇空”の“艇”の読みは“テイ”ですが、ここでは“コウ”とお読み下さい。
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