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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

missing heart 4


missing heart 3、の続きです。







大通りから左に折れて、20歩。
そしてまた左に30歩。
最後は右だ。それでもう目に入る。

目を瞑ったって、辿り着ける。

私の瞳に輝きを取り戻させ、毎晩優しく包んでくれた小さな家。


missing heart 4
     ~bloody five years~


「ぜんっぜん駄目だね。
ティファ、護衛以外にも手ぇ広げたら?」

彼女は私の作ったミートパイを豪快に頬張る。

「もう広げてる...」

一ヶ月経っても私の仕事は決まらなかった。
今はもう、飲食店などにもなりふり構わず飛び込む私。
しかしこの街は慢性的な就職難だった。
加えて、体力のない女性の働き手はどこでも歓迎されてない。

「ま、気長にやりな! 洗い物よろしく~」

いつものごとくベッドに横になり、爪の手入れを始める彼女。
この一ヶ月、彼女に出ていけと言われた事は一度もなかった。
自分の仕事を勧めて来たりもしない。
そしてお昼ご飯や最低限の物しか買わない、私の貯蓄の減りも緩やかだ。

いつの頃か、私達は互いを名前で呼ぶようになっていた。
そして私も、もう彼女に敬語を使わない。
故郷の家の1/3の大きさしかないキッチンで食器を洗う。
一枚洗っては拭いて棚に片付け、また洗っては片付け...その手順も、だいぶ身に染み付いた。





翌日、私は参番街のとある店で雇って欲しいと頼み込む。
もうスラムを一周してしまった。
ここが駄目なら残された道は、一つだ...
しかしその10分後、私は肩を落としてその店を出る。

「ティファちゃん」

ふと背後からかかった、馴染みの声に顔を上げた。
彼は私が一番最初に交渉に当たった護衛会社の社長。
日々職を探し近辺をうろつく私に何度か声を掛けてくれ、私達は会えば挨拶を交わす仲となっていた。

「仕事、決まった?」

「いえ...」

先程の店の店長の返答を思い出す。
もう私には手駒はなかった。

「素直に新羅で働けば楽なのに...」

呆れられるが、下を向き黙り込む、私のいつもの反応を見ると諦めた様に言った。

「うちで雇ってあげるよ」

俯いたまま目を見開き、ゆっくりと顔を上げた。

「...本当に?」

「ああ。明日の朝からおいで。
一回でも遅刻したら終わりだよ。
それと、動き易くて地味な色の服を着て来る事。
今着てるのみたいなのはダメだ。わかったね?」





記憶を辿り、以前彼女と訪れたマーケットまで走る。
私には買いたい物があった。
彼女が最も時間を費やしている可愛らしい趣味。
部屋にある物や、前に手に取っていた物からだいたいの好みはわかる。
入り組んだ道を行きながら、先程の社長の言葉を噛み締める。

(実は昨日ね、君の同居人にしつこく頭を下げられたんだよ。
ティファを雇ってやってくれないかって。
君を雇うのはそのよしみだ。彼女とは付き合いが長いからね)

(だけど、この事は彼女には絶対に言わないであげてくれ)

(...僕は彼女の、お客さんなんだよ)



目当ての物を手に入れ、帰途に付く足はふと止まる。

“仕事が見つかるまでだよ”

...すっかり忘れてた。
明日からは彼女と離れ離れじゃない。
急に重しを付けたようになる足。
土地勘がなく道に迷ったせいもあるが、そのせいもあっただろう。
私がその日家に辿り着いたのは、7時を30分回った時だった。



ノックをする私に悪びれた様子はない。
たかだか30分だ。
開いた扉に勢い良く飛び込み、まくしたてた。

「ただいま!遅くなってごめんね。ねぇ、聞いて?」

しかし彼女は無表情でクルリと背を向け、私を無視してリビングへ行ってしまう。
...機嫌が悪いのかな?
負けじとその背中に話しかける。

「ねぇ...「約束は?」

そこでようやく気がついた。
彼女は私に腹を立ててるんだ。
改めて自分の立場を思い知らされる。
彼女にとって私は厄介な居候。
その上言われた事も守らないなんて、身の程知らずも良いとこだ。

「本当にごめんなさい。
どうしても買いたい物があって...」

すると彼女は振り向き、私を睨み付けた。

「私がなんで怒ってるか、わかってる?」

「...迷惑を...かけたから?」

怖る怖る言う私に溜息をつき、キツい口調で続ける。

「ティファはスラムの怖さを甘く見過ぎだよ。
この街は7時以降は別の街に化けるんだ」

「でも私、強いし...」

「初めて会った日、私が手助けしなければやられそうになってたよね?」

返す言葉を失い、下を向いてしまう。

「本当に怖いのはモンスターじゃなくて人間だよ。
しかもあんたは外見が良い。
人目がなくなるのを見計らって、どんな姑息な手を使ってくるかわかりゃしない」

「...この30分、生きた心地がしなかったよ」

目に涙が溢れる。
彼女は...私を心配してくれたんだ。
それは幼い日に、門限を破ると容赦なく私のお尻を叩く父と同じ厳しさだった。
何時まで経っても泣きやまない私に彼女は冷たく言い放つ。

「好きなだけベソかいてりゃいいよ。
私にあんな思いをさせた罰だね」

相変わらずな態度に、泣きじゃくりながらもつい吹き出してしまう。
それを見て、膨れ面を向けてくる彼女。

「いったい何が買いたかったの?」

そっと右手を差し出した。
手の中の包みには、上品な紅色のマニキュア。

(ラメが入ったのは高いから、今日は我慢だね)

(ティファの瞳の色、私好きだよ)

零された幾つかのヒントを頼りに慎重に選んだ、私からの小さなプレゼント。

「...仕事が...っ、決まったの...」

しゃくりあげながらも、なんとか伝える。

「自分のお祝いに、なんで私に物を買ってくるのよ」

目の前の呆れ顔を見つめ、今度は笑顔を向けた。

「今まで沢山応援してくれたお礼!」

抱きつき、その頬にキスをした。
彼女は頬を手で押さえ目を見開き、徐々に顔を染めていく。
そして予想通りの反応を見せた。

「私はまだ許してないよ!ティファ!!」



数日後、私はバッグの中に見慣れぬ物を発見する。
携帯電話と鍵、そして小さなメッセージカード。

“就職祝いとお返しね。しっかり働きな”

(仕事が見つかるまでだよ)

以前、二人の間で交わされた台詞。
私達は二人共、すっかりそれを忘れていた。





護衛会社でモンスター退治をし、私は彼女と暮らし続けた。
そしてそれはもうすぐ一年になろうとしている。
私はもう、すっかり笑顔を取り戻していた。
彼女と一緒に笑いながらパパの話をする事さえある。

しかし私には、職が決まると同時に彼女に内緒で開始した行動があった。

“反新羅活動”

街のあちこちで耳に入るそれに対し聞き込みを続けていた。
だが、ある日彼女から言われてしまう。

「ティファ、まだ諦めてなかったんだね」

どきりとした。

「何を?」

とぼけるが、冷静に言い放たれる。

「私はもう二度と嫌だからね、あんな思い」


「反新羅の奴らと関わるなら、本当にここからは出て行ってもらう」






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