Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
missing heart 3
missing heart 2、の続きです。
手の中で咲き誇る、忘れな草。
半分はここへ。
もう半分は...
missing heart 3
~bloody five years~
「昨晩はお世話になりました。
それから仕事の事も。
今から参番街に行ってみます」
再び薄汚れた服に身を包み、頭を下げる。
「こっちこそ助けてくれてありがと。
いろいろと上手くいくといいね」
「はい」と頷き、「さようなら」と体を回す。
足取りは重い。
ところがしばらく行くと、背後に「はぁーーー」っと、長い溜息が聞こえた。
「何なのこの、一晩だけ面倒みた野良猫をほっぽり出すみたいな気分は」
怖る怖る振り返ると、腕を組みしかめっ面の彼女。
「今夜も泊まりたいなら、帰って来てもいいよ。ただし!」
「...仕事が見つかるまでだからね」
「はい!!!」
満面の笑みを返し、ちょっとずるかったかな...と内心舌を出す。
その時には既にわかっていた。
彼女は見た目より、ずっと良い人だ。
彼女は私の丁度10上の25歳だった。
私達は二つの約束を交わす。
お金は入れなくていいから、料理を始めとする家事を全部する事。
彼女の仕事が終わるまで外で時間を潰し、必ず7時には家の前で待つ事。
「鍵は渡さないからね」
私は快諾し、それを破ったことはなかった。
あの一回を除いては...
その後一転、軽い足取りで参番街まで行くが職探しは難航をきわめた。
まず必ず言われる台詞は「ID見せて」だった。
それを裏返し、何も書かれてないのを知ると突き返される。
「職歴のない人は雇わないよ。
給料日の翌日に消えるのがオチだ」
加えて運悪くここのモンスターは弱く、護衛の成り手は山程いた。
「確かに君は強いけどね。
君だってボディガードを雇って、それが若くて細っこい女の子だったらどう思う?」
何も言い返せない。
単純に、腕だけの問題ではなかった。
断られ同業の紹介を願い、また断られ...もう両手のひらに余る数を回った。
そもそも話を聞いてくれない人も多い。
中には「もっと向いてる仕事があるんじゃないの?」といやらしい視線を送ってくる人や、「君は見た目が良いから、きっと新羅が受付嬢か何かで雇ってくれるよ」と真摯な助言をくれる人もいた。
「プレートの上での生活は快適だよ」と羨望の眼差しを向けながら。
新羅で働く? この私が?
それは無理だった。
いくらプレートの上に会いたい人が居たとしても。
近くなったはずなのに、益々遠のいた彼との距離。
私は彼のいる場所へは行けない。
彼が私の居場所を知る術もない。
二人の関係は、絶望的だった。
次の目的地である四番街へ、トボトボと歩く。
改めて気付かされる。
私はこの15年間、誰かにきつい事を言われた経験がほとんどなかった。
父を始め、周りにちやほやされ続けた毎日。
そして私の足は何時の間にかパタリと止まってしまう。
もう、これ以上自分を否定される発言を耳に入れたくなかった。
暗いプレートの裏側を見上げ、ポツリと呟く。
「クラウド。私いま、ピンチだよ...?」
「そんな汚い格好してるからいけないんじゃないの!?
なんでちゃんと服を買わないのよ!」
その日の成果を報告した瞬間、罵声を浴びさせられる。
情けなかったけど、小声で正直に言った。
「売り子のぶっきらぼうな態度が怖い」と。
すると呆れ果てた顔を向けられた。
「これだから、箱入り娘は...」
そして彼女は、「手が掛かるなぁ」と文句を言いつつも、次の休日に私をマーケットに連れて行ってくれる。
「1,000ギルだよ」
適当な服を手に取り、提示された金額を払おうとした手をガシッと掴まれた。
(ちょっと!言われた通りに払うバカがどこにいんのよ!!)
彼女は小声で耳打ちし、店員に食ってかかる。
「おばさん、こんなペラペラの生地で1,000も取るなんて笑わせるね!
300が良いとこなんじゃないの?」
唖然とする私を置いて、値切り交渉をし出す彼女。
店員はぶつぶつ言いつつも、最終的に私に400を要求した。
「そのままの値段で買っちゃダメなの?」
ニブルヘイムではあり得ない話だった。
村の人達はみんな家族の様なもの。
ギスギスした値段交渉など、した事がない。
「今までずっと言われた通りに払ってたわけ?」
怖々、首を縦に振る。
「しっかりしてよ。
仕事が見つかる前に金がなくなったって、1円もやらないからね」
そして「次はここだよ」と寝具の店に入っていく。
彼女は折り畳み式のマットレスを掴むとレジへ進んだ。
「ほら、お金出して」
「私、別にソファーでも良いんですけど...」
「あんたが良くても私が良くないの!
あのソファー、気に入ってるんだ。
髪も洗えない子に寝っ転がって欲しくはないね!」
そしてそのマットレスは彼女の手により、1,500ギルから500ギルまで値下がりした。
帰宅しご飯を済ませ、髪を一つにまとめた。
傷口を濡らしても良いと医者に言われた日まで、あと一週間もある。
元々髪の手入れをするのが好きな私はうんざりしていた。
ソファーで爪を磨いていた彼女はその様子をしばし見つめ、「髪を洗ってあげるから服を脱ぎな」と言ってくる。
気が引けて黙り込むが、彼女は私からの返答を待つことなく、お風呂へ行ってしまった。
おずおずとその後を追う。
「ほら、早く。女同士なのに恥ずかしいわけ?」
ここは素直に好意に甘えた方が良さそうだ。
「どろっどろだね~」
二回シャンプーしても、まだもつれる髪。
だけどポツリと言われる。
「でも、綺麗だ」
「私はあなたの金髪が羨ましいわ」
前かがみのまま、くぐこもった声を出す。
女の子なら誰もが憧れる華やかなブロンド。
そして懐かしい彼とお揃いの色。
「これはね、染めてるだけなんだよ。
元々は私も黒髪なんだ」
「なんで染めたの?」
「その方が指名がとれるから」
「...指名?」
「あんたはわからなくていいんだよ。
さ、終わり。どう?スッキリしたでしょ」
「うん、とっても。ありがとう!」と、渡されたタオルで髪を拭いた。
生き返った心地がした。
彼女はそんな私をじっと見つめる。
「綺麗な体」
思わずタオルで胸元を隠した。
「綺麗じゃないよ...」
綺麗じゃない。
どす黒く斜めに走った深い傷跡。
これが薄くなる日なんて来るんだろうか。
服を着れば隠れるが、流石にこの位置は女として嫌だった。
「綺麗だよ」
寂しそうに、しかしはっきりと言われ、次の言葉に詰まる。
「軽蔑する? 私の仕事」
軽蔑? ううん、そんなこと思わない。
けれど口は動かない。
ああ、そうか。
軽蔑はしないけど、私はきっと同情してる。
聞けないけど、あなたは10歳からその仕事をしているの?
護衛の仕事場の人達は、少なくとも私の格闘の腕は認めてくれた。
残された就職の希望に、私は遠い空の向こうのお師匠様に感謝する。
気付けば彼女は先にお風呂場を出て行こうとする。
「...私も昔、この街の売り子が怖かったんだ」
それから一週間、街を歩き回り汗まみれで帰ってくる私の髪を、彼女は文句を言いながらも毎日洗ってくれた。
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