Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
missing heart 2
missing heart 1、の続きです。
更地と化した、かつての街。
多くのものが奪われた、ここでの営みが...
...人々の心から消え去ることは...ない。
missing heart 2
~bloody five years~
配管が剥き出しの小さな部屋。
壁も打ちっぱなしだ。
ところどころ雨漏りをしてるのか、隅には洗面器が重ねてあった。
しかし白とアイボリー、そして木目調の家具で統一された空間は清潔感に溢れている。
シンプルにまとまった雰囲気に温かい色を差すのは、窓辺に並んだ幾つものマニキュア。
それは私にひと時だけスラムにいる事を忘れさせてくれた。
明日が来るのが、少し怖い...
「ありがとう。あんた、かっこいいね」
土で汚れた膝を両手ではたき、その女の人は礼を言う。
赤い顔と喋り方で、酔っているのがわかった。
明るい金髪に派手な格好。化粧と爪も凄い。
「しっかし、きったない格好してんね~
いくつ?家は? まさか道端で暮らしてんの?」
赤ら顔で、ぶしつけに私の顔を覗き込む。
(お酒臭い... )
私はその乱暴な言い回しに怖じ気付く。
彼女は私が今まで接した事のない類の人間だった。
正直、あまり関わり合いたくはない。
「いえ、あの...気を付けて帰って下さい。
私、失礼します!」
しかし慌てて立ち去ろうとした時、お腹が大きな音を立て、ついそこに手を当て立ち止まる。
そういえば、今日は朝から何も口にしていない。
「ぷっ...」
彼女は吹き出し、大口を開け豪快に笑い出した。
(...恥ずかしい)
「ご飯、食べさせてあげようか?
そのくらいのお礼はするよ」
ついておいで、とさっさと千鳥足で歩き出す。
なおも固まっている私を振り返り、ニヤリと歯を見せる。
「取って食いやしないって」
「酔っぱらってついうっかりしちゃってさ。
いつもはあんな危険な道、通らないんだけどねー」
彼女はさっきから三分くらい自宅の鍵を開けるのに苦戦している。
「...やりましょうか?」
「う~ん?」と半分しか開いてない目を向け、鍵を差し出す。
「やって」
(変な人だな...)
しかし危険ではなさそうだ。
ここは弐番街と言うらしい。
辺りには、彼女の家と同じ程の大きさのバラック小屋がちらほらと立っていた。
大通りから細い路地に入り、左右に数回曲がった突き当たりにある家。
無事に鍵が開くと、彼女は中へずんずん入っていく。
未だ躊躇っている私に「早く~!お腹空いてんでしょ!?」と中から声が轟く。
慌てて中へと入り、玄関をあがろうと...「待った!」
彼女は手にしていた新聞紙を敷き始めた。
「あんたは先ずは、お風呂だね」
確かに今の私は人様の家に上がり込めるようななりじゃない。けど...
「あの...濡れたタオルを貸して貰えませんか?
実は私、今お風呂に入れなくって...」
彼女は怪訝な顔をし、手を止めた。
「怪我でもしてんの?」
そして私の体を上から下まで舐め回す様にし、胸元から少しだけ覗いていた包帯に気付くと突如服の襟ぐりをグイっと下に引っ張った。
反射的に手で覆うが、露わになる、薄っすらと赤いライン。
先程の無理がたたり、傷口が少し開いてしまったようだ。
「あんた...」
彼女の目は、もう素面(しらふ)に戻っていた。
「へぇ、結構上手いじゃん。いけるいける。
なんか母親の味ってかんじ」
結局、食事は私が作った。
体を拭き包帯をかえ、用意された部屋着を着る。
そして彼女がお風呂に入っている間に台所に立った。
お酒しか飲んで来なかったのだろうか?
彼女は私がこしらえた料理を次から次へと平らげる。
「あのセフィロスに切られて、気付いたらここに運ばれてたねぇ...」
これまでの経緯を端的に説明するが、私は果たして信じて貰えただろうか。
「じゃああんた、これからどうすんの?」
こっちが聞きたいくらいだった。
まさかモンスターに襲われるのを待ってただなんて言えない。
「何か仕事を探して...」
「何かって?」
即座に切り返され、言葉に詰まる。
街の雰囲気に溶け込めず、服を買うのさえ躊躇してる私。
それにここにどんな選択肢があるかなんて、想像もつかなかった。
「こだわんなきゃあるけどね。
明日からお金を持って帰れる仕事」
「本当に!?お願いします、教えて下さい!何でもやりますから!!」
私の勢いに彼女は一瞬たじろぐが、すぐに真剣な顔をする。
「あんた、男の子と付き合った事、ある?」
(?)
顔が赤くなる。
そんなの当然なかった。
しかしそれと仕事と何の関係があるのだろう?
黙り込んでいると、厳しい顔で続けられた。
「“何でも” なんて、ここじゃ簡単に言うもんじゃないよ」
私はまだ意図がつかめない。
しかし彼女の次の発言に絶句する。
「その仕事ってのは、男の人の前で服を脱いでお金を稼ぐんだ」
「ここじゃ大半の女はそうやって生きている。
...私も含めてね」
私はその時、どんな顔をしてたのだろう。
今ならわかる。
そしてやり直したい。
その反応は、彼女を深く傷つけたに違いないから。
「泊まってくでしょ?」
嬉しかった。
久々の清潔な部屋。
その後はさして会話もなく、二人床に就いた。
彼女は私にソファーを貸してくれる。
少し生成りがかったオフホワイトのそれ。
体を横たえたのは一週間ぶりだ。
悲鳴を上げていた体から、ゆっくりと力が抜けていく。
服から漂う洗剤の香りが懐かしい。
彼女はベッドで頭の後ろに腕を組み、暗い天井を見つめている。
「悪いけど、明日の朝には出てってもらうよ」
「そして参番街に行きな。
そこに護衛の仕事を募集してる所があるから。
あんたは強いから、雇ってくれるかもしれない」
当然の発言だったが、少しだけ唇を噛んだ。
「新羅とトラブルがあった人とは関わりたくないからね。
それにあんた、新羅を恨んでるって言ったね。
その気持ちは、ここでは危険だよ」
ソファーに横になり、ぼんやりと彼女を見つめる。
「私は新聞よりあんたを信じるよ。
新羅ってそういう会社だ。
...私の父さんも新羅に殺されたんだ」
予想外の発言に、つい身を乗り出してしまう。
彼女は説明を続けた。
彼女の父は、人の命を何とも思わない会社のやり方に反発し、上に歯向かったらしい。
そしてアッサリと抹殺された。
幹部だった父親。
プレートの上の快適な生活に慣れきっていた母親は、薄汚れたスラムを前に生きる希望を失い、当時10歳だった娘を抱きかかえプレートの上から投身自殺した。
その腕にきつく抱き締められ、奇跡的に助かったのが彼女だ。
「でも勘違いしないで」と彼女は更に続ける。
「私は “新羅” という組織は嫌いだけど、だからって反新羅活動をしたり、そこで働いてる一人一人を憎んだりはしない」
「奴らは上手いように利用されてるだけだよ。
会社の歯車にされてさ。
人の心だってあるし、家族もいる。
それに...昨日は我が身だ」
「私も元新羅社員の娘だよ。
あんた、私が憎い?」
そこでチラリと目だけをやられ、フルフルと首を横に振った。
「私はむしろ父さんを恨んでる」
「えっ...?」
思わず目を見開く。
彼女は私には目もくれず、天井を睨みつけ淡々と続ける。
「新羅に逆らったらどうなるかぐらいわかってたはずだよ。
私と母さんのためにも、自分が生き抜く事を優先して欲しかった。
...例え悪い事をし続けたとしても」
「守るべき者も守れない、力のない者は...権威には逆らっちゃいけないんだよ」
正論の様にも、そうじゃない様にも聞こえた。
確かに自分を必要とする家族のために生き抜く事は大切だ。
じゃあ全てを見て見ぬふりするの?
そうしている内にも、次々と新たな犠牲が生まれてるのに。
パパは逃げずに戦った。
私と村人達のために。
私は彼を誇りに思う。それに...
「私は...あなたのお父さんを、尊敬するわ」
きっとその死は、無駄なんかじゃない。
けれど彼女はもう、何も答えてはくれなかった。
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