Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
missing heart 1
ティファの語られなかった五年間。
彼女が心に鍵を掛けるまで。
◆100%妄想の産物で、オリキャラも出て来ます
◆クラウドは最後にしか出て来ません
◆シリアスです
◆二部構成となり、まずは一部のみ公開です
本編開始時にマリン4歳、となると必然的に出来るアバランチ前の一年。
一部はそのお話です。
私は年に一度、必ずここを訪れる。
日付は忘れない。
何千リットルもの血と涙が流れたあの日。
その中心にいたのは......私だ。
missing heart 1
~bloody five years~
目に入る物、全てが白かった。
天井
壁
ベッド
床
カーテン
そして、私の身体
「痛む?気分はどう?」
ああ、この人の服もか...
「診察中に、入口のガラス扉を割れんばかりに叩く音がした。
見に行ってみたら、君が倒れていたんだよ。
だから誰が君をここまで運んだかは私達もわからない。
上手い応急処置だった...おそらく素人じゃないね」
意識を取り戻したその日、医者はそう私に説明した。
目を開くなり、「ここはどこ?」と問う私に彼らは互いに目を見合わせる。
それもそうだろう。
ある日突然血だらけで運ばれた少女はその傷を、名前も知らない遠い村で負ったと言うのだから。
しかし、ここはスラム街。
物騒な事件には慣れていたのだろうか。
医者はすぐに、私はあと二週間もすれば動けるようになる事。
それと街の簡単な説明を淡々と述べた。
「傷の治りは良いよ。
助けてくれた人に感謝だね」
一人思い浮かぶ人がいる。
...ザックス。
それと私が最後に彼に投げた言葉も。
彼はそれを気にしてここを立ち去ったのかもしれない。
それは私にとっても有難かった。
今彼の顔を見ても、私は嫌な事を思い出して苦しむだけだろう。
全て夢だったのだろうか。
ふとそう思う瞬間もあった。
村に帰ると、家の扉から飛び出してくるパパ。
「馬鹿!どんなに心配したか...!!」
泣きながら抱き締めてくれるはず。
しかしそこで病衣の前をスルリとほどく。
夢じゃ、ない...
一週間が経ち、院内でリハビリを始めた。
そうは言っても、ただ上半身をあまり動かさないよう歩くだけ。
さして広くはない病院。
30mあるかないかの廊下を毎日、黙々と往復し続けた。
夕方になり、傷口が悲鳴を上げるまで。
ある日、病院の玄関に置かれた物が目に止まる。
そこには読み終わった新聞が積んであった。
何気なく一番上の物を手に取る。
新聞を読むのは毎日の習慣だった。
それは一面記事に載っていた。
写真はない。
しかし目に飛び込んできたヘッドラインには見慣れた故郷の名前。
食い入るようにして記事を読む。
“ニブルヘイムで魔晄炉爆発事故 村人全滅か”
“異常動作を起こしている上に、周囲に凶暴な動物が発生し続けていたニブルヘイム魔晄炉。新羅カンパニーは全力で原因究明にあたっていたが、◯月◯日未明、突如爆発。新羅社員三名と住人が犠牲となった。今もなお救命活動を続けているが、未だ生存者は見つかっていない”
「ウソよ...」
思わず声が漏れ、すぐ下の人物写真をぐしゃりと握り潰す。
“人々、英雄の死を惜しむ”
という題名の特集記事。
“なお、犠牲となった新羅社員三名の内の一人は、その飛びぬけた魔力と身体能力で名高い、ソルジャークラス1st セフィロスであった”
部屋へ戻り、呆然とベッドに腰掛ける。
新羅はあの事件を綺麗サッパリ揉み消した。
あたかも自分達は悪くないかの様に装って。
ねぇ、あの村は私にとって全てだったのよ?
パパだって唯一の家族だった。
(信用はならないが、下手な事はしないだろう。
なぁに、いざとなったら俺がちゃんと守る。お前も村の人も。
だからティファ。お前は何も心配しないで、ゆっくりお休み...)
パパの最後の言葉。
何日も寝ずに屋敷を見張り続け、彼は憔悴しきっていた。
それでも私や村人達に向けるのは、いつもの頼りになる顔。
そして彼は虫ケラの様に殺され、彼を刺した男は英雄と崇(あが)められる。
...許さない。
許さない。
許さない。
許さない。
許さない。
ゼッタイニ、ユルサナイ...!
次の日からも、私は廊下を歩き続けた。
以前よりも力強い足取りで。
ふと僅かに開いた診療室の扉の隙間から、男女の会話が漏れる。
「...可哀想に。
ここで面倒を見てあげられれば良いんだが...」
突如首を絞められた様な感覚に襲われた。
わかってる。
日々淡々と街の説明をする先生。
でも、ほんの少しだけ期待していた。
ここに残れるんじゃないかと。
きっと近々私は言われてしまう。
“出ていけ”
「遠い親戚がスラムに住んでいるのを思い出しました」
目に見えて安堵の顔を見せる医者と看護婦。
先手を打ったのは、彼らに言い辛い台詞を言わせまいとする、私からのせめてもの配慮だ。
予測はしていたが、私は彼らの表情に怯える。
これからは、本当に一人ぼっちだ。
医者はお金を一銭も受け取らなかった。
倒れていた私の手に握られるよう置かれていたそれは、かなりの金額だった。
今後の不安で押し潰されそうだった私は、有難くて涙が溢れる。
「またいつでも顔を見せてね」
手を振る看護婦。
「いつか必ず恩返しに来ます」
丁重に頭を下げるが、私が再びそこを訪れる日は二度と来ない。
最初に向かったのは駅だった。
そこからプレートの上に行けるという。
意識を取り戻してから心に浮かぶのは、2年前に約束をした金髪の少年。
彼の正確な居所はわからない。
それでも、少しでも会える確率の高い所へ行きたかった。
「プレートの上に行きたいんです」
駅の窓口で、切符を求める。
「ID見せて」
駅員は無愛想にこちらに手を伸ばす。
(...ID?)
黙り込むと、呆れ顔で続けられた。
「ないの?ID」
コクンと頷く。
「ここには来たばかりで...」
駅員は溜息をつき椅子をクルリと回転させ、引き出しからカードを一枚取り、私に手渡す。
「仕事を探す時や列車に乗る時はそれを見せるんだ。
ちなみに、青いIDでないと上には行けないよ」
私のIDは、赤かった。
それから一週間、私はスラムを当てもなく彷徨い続けた。
一つ、また一つと希望を奪われ日に日に生きる力を失っていく体。
夜は宿屋に泊まった。
高くはなかったが、とにかく不潔だったその部屋達。
水道の水も冷たく、赤茶けた色をしていた。
異臭を放つベッドに入るのが嫌で、床に膝を抱え眠る。
服も同じ物を着続けた。
服屋らしいバラック小屋はいくつか見かけたが、食べ物を買う以外、お金はなるべく消費したくなかった。
それに店員達は言葉遣いも愛想も悪く、話しかけるのが怖かった。
ニブルヘイムの皆と全然違う。
今日も冷たい床の上で膝を抱える。
目を閉じると浮かぶのは、温かい故郷。
皆、笑ってる。
天気も朗らかで、季節の花が満開の春のニブルヘイム。
けれど透明な壁に遮られ、私はそこへは足を踏み込めない。
気付いて、みんな!
私はここに居る!!
昔みたいに仲間に入れてよ...!!
ふと一人の男性がこちらに気がついた。
しかしその目はすぐに逸らされ、私に背を向け去って行く。
その人のそんな態度を見るのは...初めてだった。
絶望し、手を伸ばしながら叫ぶ。
そんな...
そんな......
.........パパ!!!
神様、私は運が良いのですか?
それとも悪いのですか?
ドサッ...
足元の出っ張りに気付かず、前につまづき倒れこむ。
しかし立ち上がれない。
なけなしの手荷物である消毒液とかえの包帯、そしてお金の入った鞄が地に転がった。
今日も私はスラムを歩く。
場所は全くわからなかったが、一方向に円を描く様に回ってるのだろう。
先程まであちこちに “参” と書いてあったが、何時の間にかそれは “弐” に変わっていた。
私はこの街を好きになることはないだろう。
数ヶ月もすればお金も底を突く。
幸いここにはモンスターがいた。
さして強くはないそれ。
今までは反射的に撃退していたが、弱って無抵抗になった命を奪うには十分だ。
黄土色の乾いた土に、ポタリと水滴が落ちる。
(パパ...もうすぐ会いに行くからね...)
だがその時、ふと顔を持ち上げ辺りに目を凝らす。
何かが聞こえた気がした。
(...悲鳴?)
見ると何十メートルか先で、女性が男性三人に囲まれ、細い路地に連れ込まれている。
(三人...)
微妙な人数だ。
相手の技量もわからない。
しかしそこまで考え、躊躇いを振り払うよう首を振る。
(明日死ぬかもしれない私に、怖い物なんてある訳ないじゃない!)
立ち上がり、地を蹴り駆け出した。
最初の一人は一瞬だった。
「これはこれは...」
口笛を吹きニヤついてる隙に横っ面を殴りつける。
そいつはあっさりと気を失った。
「このガキっ...!」
「おい、そこそこやるぞ。気をつけろ」
警戒心を増す残りの二人。
二人がかりで飛びかかられ、一度大通りの方へ身を引き逃れた。
肩透かしをくらいフラついた一人を水面蹴りで転ばせる。
そしてそのまま立て続けに蹴りを入れた。
バンッ
しかし次の瞬間、もう一人の男に路地の壁へと吹き飛ばされる。
「くっ...」
意識はあるが、頭がふらついて持ち直せない。
「わずらわせやがってよぉ」
勝利を確信し、笑顔で近寄ってくる男。
今まで見たこともない、下品でいやらしい笑みだった。
ガンッ
体を転がし、その拳をなんとか避ける。
手を壁にぶつけ顔をしかめる男。
再びこちらに向かって...「うわっ!何す...!!」
男が後ろに振り向いた瞬間、立ち上がりすかさず回し蹴りを入れた。
男が起き上がらない事を確認する、しばしの静寂。
やがて、男の足にしがみつき動きを止めた彼女は私にウインクする。
私も少しだけ微笑んだ。
そういえば、顔の筋肉を動かしたのは一週間ぶりだった。
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