Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
Believe ll
終盤、クラウドが壊れ中のお話です。
Believe ll
カチャリ...と乾いた音を立てクラウドは大剣の束を握り直す。切先を目線の高さまで上げる独特な構えに、ティファは無意識に呼吸を止めた。モンスターは最初の一突きで絶命したにも関わらず、不必要に残忍に剣を突き立て続けるクラウドの狂行に目眩を起こしかける。
「もうやめて、クラウド。もう十分...」
なんとか絞り出された声にクラウドは我に返る。モンスターの体液にまみれた己の身体に気付くと弁明をするようにティファを振り返った。
「違う...俺は...」
ティファは表情を取り繕い損ねたことに気が付いたが、手遅れだった。そこから自らに対する感情を読み取ったクラウドは苛立ちをあらわにティファの肩を掴むと、半ば無理やり唇を寄せた。
「やっ...」
咄嗟に顔を背けティファはクラウドを拒む。瞳を固く閉じ、みるからに歪んだティファの表情をクラウドは茫然と見つめた。濡れた手から剣が滑り落ち、クラウドもその場に崩れ落ちる。
本能のまま込み上げてきた恐怖心をティファは一度受け止める。そして大きく肩で息をつき胸を覆うもやを追い払うと、かつて心に誓った決心を呼び起こそうと試みた。へたり込んだまま動けないクラウドの前に跪き、汚れた頬を手のひらで拭ってやるとそっと唇を重ね合わせる。
「無理しなくていいんだぞ」
項垂れ脱力したままのクラウドと違い、ティファは「無理なんかしてないよ」と瞳に光を取り戻す。クラウドとの大切な絆を思い出した、あの時と同じ力強い声だった。
「決めたんだ。疑って傷つくより、信じて傷ついた方がいいって」
正直、状況は八方塞がりだった。幼い頃にティファと時を共にしたクラウドは確かに目の前の彼だ。だが確実にその彼は失われつつあるだろう。五年前の互いの記憶が一致していない問題も全くもって解決していない。あれに関してはクラウドが嘘を語っているようにも思えず、解決の糸口を探しあぐねていた。それでも...
すぐさま気持ちを立て直したティファを見て、クラウドは幾ばくか平静を取り戻す。
「それは...どうして?」
「う〜〜ん...」
クラウドに見つめられティファは考え込む。クラウドがかけがえのない存在である以上に、ティファの個人的な拘りかもしれない。結局これも自己満足な気がする。己の力で自らを満たすことの不得手な性分は、青年期に自覚を持った時から抱え続ける根強いコンプレックスだった。
「他人を嫌いになっても生きていけるけど、自分を嫌いになったらお終いだから」
自らに言い聞かせるような口調だった。ティファの視界に自分が写っていないことに気付き、クラウドは再び肩を落とした。「俺は他人、か...」と自嘲気味に言い捨てる。
「人と人はどこまでいっても他人!」
ティファは勢い良く立ち上がりクラウドに手を差し伸べた。「でも...」ティファの手に引き上げられながら、クラウドは毅然としていた声が揺らいだことに気付く。
「クラウドはもう私の一部だから、どっちだって辛いよ」
笑顔は保ったまま、ティファの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
「泣かせてばかりだな、俺は」
「そうだね」
表情が崩れかけ、ティファはクラウドの首筋に顔を埋める。支えるって決めたけど、やっぱり私には何も出来ないのかな。側にいるだけじゃ駄目なのかな。彼が私を必要としているのが、わかるのに...
クラウドが噛み締めた唇から小さな声が漏れる。頭の後ろに回された手は震えていた。あの日、確かに存在を感じた幼い彼に届きたい。だけど彼のか細い叫びは伸ばした手をすり抜け、みるみる遠ざかっていってしまう。
私の声はいつまで彼に届くんだろう。
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