Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
Home Sweet Slum
中断された現実とは。REMAKE開始直後です。
Home Sweet Slum
最低限の家具しかない殺風景な部屋ではこれ以上気は紛れそうになかった。何度目になるかわからない溜息と寝返りを繰り返した後、クラウドは上半身を持ち上げベッドの縁に腰をかける。頭は低く下げたままだ。
もう日付の変わる時刻だというのに、隣の部屋に人の戻る気配がない。ティファは帰宅後すぐにシャワーを浴びるのが習慣のようで、その音を聞き終えて床につくのがいつしか彼にとっても日課となっていた。
まさか...外泊?
隣家の物音に聞き耳を立てている事実に気付かれる懸念以上に、店に確認に行くのを妨げていたのはこの疑念であった。だが首を振り邪念を頭から追い払う。時はまさしくティファの属する反神羅組織がテロ行為を実行した直後だ。何か起こってからでは遅い。
どのみちこのままでは安眠を確保する事は困難である。意を決したクラウドは壁に立てかけた剣の手持ちに手をかけた。
0007/11/22 368,420-
11/23 278,050-
電卓片手に開いた帳簿にペンを走らせるティファは手慣れた調子で日付と対応する売上を書き込んでいく。残すは一週間分の帳簿付けと、現金を数え上げるのみだ。最終的に両者が一致しないことも多々あるが、大抵は現金の上振れであって、そんな時はバレットかマーレが客から貰ったチップの計上漏れにしてしまえば良い。
電卓叩きに没頭していたティファは突如として響いたドアベルの音に驚き振り返る。入口に立ち尽くすクラウドの険しい眉根は、そこにティファの姿を認めると見るからに安堵で緩んだ。呆気に取られたままのティファにクラウドは歯切れ悪く弁明する。
「あ、いや...なかなか帰って来ないから、探しに来た」
「...へ? あ、そうなの?」
思いもよらない発想にティファは狐につままれたようになる。クラウドはカウンターに近づきティファの手元を覗き込んだ。
「...残業か?」
「帳簿付け。11月も締まったでしょ。すぐやるって決めてるんだ」
詳しい内容はわからないが、店の経営に必要な作業であることは理解する。「心配かけてごめん。私は平気だから、クラウドは先に帰ってて」そうティファは促すが、クラウドはそれを無視して同じくカウンターのスツールに腰をかけた。
「いや、終わるまで待つ。もう夜中だ」
「へっ!?」
またしてもティファは素っ頓狂な声を上げてしまう。店から天望荘までの道のりは所謂目抜き通りで、夜通し人通りが絶えない。加えて男性顔負けの腕っ節を誇る自分である。なんならこの界隈では一番強いかもしれない。事実、この二年間、店と自宅との往復で危険な目に遭った事など皆無であった。
怪訝そうにティファを見つめ返してくるクラウドに、心の内に笑いが込み上げてくる。だがすぐにティファは腹を決めると潔くペンを置きノートもパタンと閉じた。
「じゃあ、もう終わりにする。帳簿付けだけなら家でも出来るしね」
「...え?」今度はクラウドが慌てる番だった。ティファはそれには構わずレジを開け中から大量の紙幣とコインを取り出すと、紙幣の方をざっくり半分クラウドに取り分けた。
「数えてもらえる?」
扱い慣れない紙幣の山にクラウドは面食らうが、言われた通り金を集計する。ティファも手早くコインを積み上げていった。クラウドは集計を終えるとティファに現金を戻す。
「ありがと。お礼は明日の朝食で良ろしいでしょうか?何でも屋さん」
「安眠で十分だ」
「...まぁ、食べるけど」ぽつりと付け加えられた一言にティファは吹き出した。そして現金を金庫に収め鍵を閉めると帰り支度を始める。
「悪い。なんだか邪魔したみたいだ」
「んーん、そんなことないよ」
実際、二年間守り続けたルーティンを破ったにも関わらず、ティファの心はいつになく軽やかだった。たかだか帰宅が数時間遅れただけである。そんなことを他人から気にかけて貰えるなんて、いつぶりだろう。
清潔な寝床といつでもシャワーを浴びられる環境には感謝してもしきれないが、あの部屋に帰るのが特段楽しみなわけではない。人の出入りの絶えないこの店にいる方が落ち着くし、帰宅後は悪夢を見ないよう願いながら眠りにつくだけの日々だった。
「ええと、遅くなる日は伝えた方がいい?」
「ああ。そうしてくれ」
クラウドの迷いのない返事に不意に言い表せない感情の波が押し寄せてくる。目の奥が熱い。クラウドの顔がぼやけ始め、ティファは慌てて目を逸らした。
自分が求めていた幸せとは、こういった幸せではなかっただろうか。日々変哲のない生活を繰り返し、特段楽しいこともないけれど悲しいこともない。周りにいる大切な人を気遣って、自分自身のことも気遣ってくれる人がいて...
「どうして今だったの?」
「...ん?」
アバランチの活動が過激になるにつれて疑問や不安が大きくなっていった。これは本当に自分が望んでいる道なのだろうか。それでも仲間は裏切れない。再び一人きりの生活に戻るのだけは耐えられなかった。このまま神羅に追従し続けるのも...それに、もう走り出してしまった。
「ティファ、どうかしたか?」
クラウドの声って、どうしてこんなに落ち着くんだろう。いつだって丁寧に名前を呼んでくれる。気のせいではない筈だ。だってそれはこの五年間、何よりも望んだけれどずっと手に入らなかったものだったから...
「まだ、間に合う...よね?」
怪訝な顔のままティファを待つクラウドを追いかけ店の階段を駆け降りる。通い慣れた家までの道のりは、その日は殊更に短く感じられた。
******************
REMAKEの「Ch 3 セブンスヘブン」は英語版だとHome Sweet Slum。素敵。
PR