Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
Only an actress 〜前編〜
クラウドにとってはティファは唯一無二の女優です。
ティファ攻め、後編のみ微エロでございます。
裏度数【★☆☆☆☆】
ティファ攻め、後編のみ微エロでございます。
裏度数【★☆☆☆☆】
Only an actress ~前編~
「ああっ!!」
最年少にして我が家の一番のしっかり者である少女がこんなにも声を張り上げるのは、かつての旅の仲間である赤マントが携帯電話を所持していないと知った時以来であろうか。書斎の椅子を優秀なアシスタントに空け渡し自らは簡易ベッドに踏ん反り返っていた俺は何事かと頭を持ち上げる。
「クラウド、これ...」机に無造作にばら撒かれていた配送伝票を揃えていた手はそのうちの一枚を握り締め、いまだ俺に向けたままの小さな背中はフルフルと小刻みに震えていた。
「マリンの今、一番好きな人!!」
目前に突きつけられる紙切れに走り書かれている名前に目を通すが、それがどうやら女のものらしいと思い当たる外、つい最近顔を合わせたであろうその人物の特徴は何一つ浮かんで来なかった。
「ほら、この人だよ」
廊下に重ねられていた新聞の項をめくり、化粧品の広告を差し出すティファ。贅沢にカラーで刷られた写真は幾分か修正が加えられているのであろう。記憶している印象とは若干異なるが、やや特殊な仕事の依頼をしてくることも手伝って、ようやく該当の人物に思い当たる。
「最近、とっても人気の女優さん」
「ああ、どおりで」
高飛車だと思った。確か大量の機材を僻地に運ぶ運搬車を警護する仕事を受けた。今思えばあれはステージ機材であり、あの旅は芸能活動の一環である地方行脚なのだろう。
風変わりな仕事内容以上に、俺や仕事仲間であろう現場スタッフに対するその女の態度がことごとく上から目線で始終不快な思いをした事を生々しく思い出し、苦虫を噛み潰した様な顔になる。
「どおりで、何?」
「いや...」
話のタネである伝票を目ざとく掘り起こしたマリンはピンク色に染まった頬に手をあて、目の前の俺ではなく斜め上の虚空に見入っている。彼女のその女に対する憧れは一目瞭然であり、その幼く繊細であろう夢を悪口でもってぞんざいに打ち砕いてしまうのは思い留まった。
聞き分けの良いマリンであるが、ティファから「テレビに近い」と注意を受けることが時折ある。釘付けになった先に映る映像は大抵煌びやかな女性アイドルで、この依頼人はその内の一人に違いない。
「ふぅん」
心なしか白い目をしたティファは、用の済んだ新聞を片付けに席を離れる。「いいなぁ、クラウド。会ったんだ...」宙を見上げていたガラス玉の様な瞳はようやくこちらに向けられた。
「ね、綺麗だった?」
う...
ああいう派手な女が好みである人間もいるであろうことは否定しないが、自分とほぼ同じトーンである巻かれたブロンド、どぎついアイシャドウと鉛筆でも乗っかりそうな頑丈な付けまつ毛に縁取られたつり目、ぽってりと厚い唇、濃い顔に見合わない貧相な身体はどれをとっても俺の好みからはかけ離れていた。しかし、まさかこのいたいけな幼子に対して「化粧のし過ぎで肌がボロボロだったぞ」なんて報告できるわけがない。
「まぁ...」嘘をつくという世を渡り歩くのに大層便利な芸当を幸か不幸か持ち合わせていない俺は、愛娘のために精一杯の演技をする。
「ねぇクラウド、一生のお願い!!」
固く組まれて差し出された小ぶりな手と切実そうな瞳からは、嫌な予感しかしなかった...
赤みがかったブロックが敷き詰められた広場には風情のある時計台が佇んでいて、観光客がしきりにカメラを構えるそれは一見の価値ある歴史的な建造物なのかもしれないが、大の男の身の丈はあるであろう分針がカチリとまた一目盛進む景色には苛立ちしか覚えない。
南中高度よりやや傾いた太陽は、徐々に全貌を露わにするステージの骨組を立体的に形取る。昼休憩を失った俺はフェンリルにもたれ変哲も無いサンドイッチを胃に詰め込んでいた。
“もしもまた依頼を受けたなら、サインをもらってきて欲しい”
そんなとこだろうと思った。かぶりを振り、大きく溜息を吐く。
“マリン、お客さんだぞ。無理言うんじゃない”
“絶対に...ダメ?”
涙まで浮かべた瞳に最後は俺が折れる。それはマリンが俺にする初めての我儘だった。
「おい、次の仕事に行きたい。代金を支払え」
ステージ裏のテントをくぐる。積荷にモンスターが激突したのを理由に、任務の完了を機材のチェックが終わるまで引き伸ばされていた。わざとらしく周囲を見渡した女は、差し出された伝票に渋々サインをする。用が済んだにも関わらず立ち去ろうとしない俺に彼女は眉根を寄せた。観念した俺はプライドを捨てマリンから預かった色紙を差し出す。
「アンタ、有名な女優なんだろ。すまないが、コレにサインをくれないか?」
意表を突かれ目を見開いた女はすぐに顔色を変え、肩に馴れ馴れしく手を添えてきた。
「何よ、気のないフリして...そうだったんだ?」
「いや、俺はアンタには興味ない。娘が欲しがってるんだ」
荒々しく手を振り払われ、また容姿は男優にも劣らないが無愛想極まりないこの男がまさかの所帯持ちと知り、彼女は経験したことのない侮辱に頭に血を昇らせる。
「コレ、あなたのオフィスに直接届けに行くわ。次の打ち合わせも兼ねて」
「はぁ?」
「私、今手が空いてないの」
どう見ても暇そうなそいつは色紙をヒラヒラとかざし奥へと消えて行く。その背中にクラウドはグッタリと肩を落とした。
後編に続きます。
PR