Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
Overflow 〜Side Cloud〜 3 (fin.)
Overflow Cloud 2、の続きです。
肝心のティファを元気付ける問題だが、調子付いて豪語しただけでクラウドに具体的な策などありはしない。しかし特段の画策をしなくとも予期せぬ形で彼は活躍する事になる。
「お前それ本気でやってるのか?だとしたら相当だぞ」
食卓に誰もが知っている野菜を並べ “名前当てっこクイズ” を出題するマリンの口が開きっぱなしになる程、クラウドの生活における知識レベルは最低だった。「まさか。マリンが面白がるから、わざとだ」強がってはみるが誰もそんな見え見えの嘘には耳を貸さない。
「どうだろうねぇ、マリン?」
「絶~っ対、ウソだよ。ねぇ?」
ニヤニヤと肩を寄せ合う二人にバツが悪そうに首筋を掻くが、気を悪くしたりはしない。家事能力の高いティファは殊更クラウドの一般常識の無さがツボに嵌ったらしい。何がそんなに可笑しいのかサッパリなクラウドの反応がまた笑えるようだ。
“クラウド、今日の晩ご飯は...よ。夕方には帰っておいで”
“クラウドは本当に...が好きねぇ”
今や三度の食事を甲斐甲斐しく用意してくれるようになった女性と母の面影が重なった。当時は有り難みに気付かず、再三発された筈の食卓での会話がどうしてもはっきりと思い出せない。もっとちゃんと覚えておくべきだったな...感傷と共に後悔が湧き起こるが、元々さほど興味も無い分野に対してクラウドはその後もたいした成長を見せなかった。
社交的な表情を取り繕うのが上手な彼女である。誰とのどんな会話でもなく、深い意図のない自分とのやり取りで最も自然な笑顔を見せてくれるのが嬉しかった。
このように、特に陽の高い内はティファは気丈に振る舞うようになった。バレットなどすっかり安心しきっているかもしれない。だがマリンと鼻先をくっ付けあう微笑ましい一コマに反し、今夜も彼女は泣くだろう。このところ平穏続きだったなか今朝方起こった出来事はかなりショッキングであり、それはクラウドにとってもだった。
明け方シャッターを開けた際、朝霧の中外壁に寄りかかる幼子を見つけたティファは息を飲む。大方店で無料で食事を提供して貰えるとの噂を聞きつけた孤児であろうが、時刻を気にしたのか声を上げる気力もなかったのか、朝を待たずして絶命したようだ。
「おい。とっとと安置所に運ぶぞ。マリンが起きてくる前にな」
硬直した少年の手を取ったまま動かないティファにぞんざいな言葉を浴びせるバレットだったが、やりきれなさはクラウドも理解する。「だってよ、わかんねぇぜ。メテオなのか、七番街なのか...どれも全然関係ねぇのかも知れねぇし。ティファ、全部しょいこむな」口に出さずとも良い言い逃れを捲し立てられ、聞きたくないとばかりにティファは「わかってるよ」と苛立った声を出す。
この子供に死をもたらした原因が不明であることに安堵をしてはならない。だけど廃墟にごまんと転がっている骸全てが我が身にのし掛かると思うと気が狂いそうで、保身に走りたくもなった。似たような光景に見慣れてしまい今更死体が一つ増えようとも驚きもしない事にも辟易する。自分達がしでかした事の影響の範囲さえ把握出来ない。そもそも範囲の広さの問題でもない。気持ちのやり場を失った者達は呆然とティファが握り締めたまま離さない小さな手を見つめ続ける。
クラウドも揺らぎ始めていた。罪を償うには己を不幸に貶めるべきだろうか。笑顔を放棄するべきだろうか。それはいつまで?...もしかして、一生?誤った考えに陥りそうになる時、拠り所となる光がティファだった。ティファには生きる価値がある。彼女がもがき苦しみ見出そうとしている道は絶対に間違っていない。
ティファを連れ出して星を見に行った深夜、まだ腫れぼったいが涙の止まった瞳を見つめ強い気持ちを取り戻す。家へと帰り着いた二人は互いの部屋を目の前にして緩く手を繋ぎ合ったまま暫し無言の時を過ごした。指先に少しだけ込められた力にティファはハッとし、「ごめん...」と目を伏せる。
「もう謝るな」
口癖のように繰り返される謝罪の言葉。ティファが何に対して謝っているのか、そしてそんな彼女の苦痛を和らげる方法にクラウドも気付き始めていた。クラウドを遠ざけるとティファの心は少しだけ軽くなる。相手を想うのであればその考えを尊重すべきだろうか。支え合う道を探ろうとするのは身勝手だろうか。答えが出ないまま、力を失ったクラウドの手をティファの手がすり抜ける。
「おやすみなさい」
一方で二人を取り巻く空気はあの旅から何の変化もなかった。しっかり者のわりにティファが涙脆いのはクラウドだけが知っている事実で、今だって自分の前では思い切り泣いてくれる。抱き締めたくて、抱き締められたくて。確かに互いを求め合っていて、数多くの奇跡に助けられ共に生きていく命がある。それなのに...
まだ温もりの残る手のひらを握り締め、クラウドは闇の中立ち尽くした。
Overflow 〜Cloud〜 3 (fin.)
必要な物品が揃い生活が整い出すと一人考えを巡らせる時間は増えていった。両腕を枕にして自室のベッドに寝そべっていたクラウドは、突如として部屋の照明が落とされたことに驚き身を起こす。
「停電か?」
「ごめん、私のドライヤーのせい。ブレーカーってどこだっけ?」
まだ濡れた髪を肩にかけたタオルで受け止め、真っ暗闇の中ティファは懐中電灯を手に上階から現れたクラウドに助けを求める。勝手口までの道のりを照らそうと手元のライトをかざしたクラウドはピタリと動きを止めた。
「ティファ、コレ持って部屋に戻ってろ」
「なんで?真っ暗じゃクラウド危ないよ」
「平気だから。良いから行ってくれ」
顔を背け非常用ライトをティファに突き付けるクラウドは「頼む...」とひたすら嘆願する。有無も言わさぬ勢いに気圧され、「う、うん...」とティファは今度は素直に従った。階段を登っていく姿を後目にクラウドは行く先々の壁や棚にあちこちをぶつけながら目当ての場所へと辿り着く。乱暴にスイッチを押し上げると明るさを取り戻した廊下で頭を抱え込み力無く腰をついた。
た...
「耐えろ...」
頼むから、少しは自重してくれよ...
風呂上がりのティファは上半身に下着をつけておらず、しかも慌てて寝巻きを纏ったのか濡れた身体に生地が張り付いていた。他の住人達は寝静まっている時間帯だ。闇に紛れ、ところどころ肌色の透ける柔らかな肢体を力任せに抱き締める衝動に貫かれる。
今から部屋に踏み入って問答無用で押し倒してやろうか。
悪態をつきつつも結局彼女を重んじ自分が折れる形に落ち着くであろう結末にクラウドは再び深い嘆息を吐いた。
半ば諦めを覚え始めた頃、前触れなくその時は訪れた。サラダに使う方がレタスだとマリンから教えられたばかりのクラウドは、日を経たずしてどちらも真丸で黄緑色をした野菜の区別がつかなくなる。迷ったならば両方手に入れれば万事解決するとの妙案を閃いた彼だったが、その機転の利かせ方はティファにとってはかなり斬新だったらしい。
「もう、お腹痛いよ...クラウド」
笑い転げるティファの姿に視界が滲み、クラウドは驚き目頭を押さえる。ティファを救うなどと使命感に燃えているつもりで、要はただ自分がこの笑顔を見たいだけだった。子供さながら破顔するティファに改めて見入り、今まで封じ込めてきたあらゆるものが決壊し何かが溢れ出す感覚を覚える。唯一心に残った感情がクラウドを支配した。
やっぱりこの人がどうしようもなく好きだ。警戒心が欠け過ぎだとか、無防備な姿を晒してくるなんてどうでもいい。けれどこんな顔を見せられたらもう我慢出来ない。大人しく見守るだけなんて絶対に無理だし、他の男になんか渡さない。そしてそれを正当化する事実を噛み締める。
「反則だ」
「...え?」
ティファを心の底から笑わせることが出来るのは、俺だけだ。
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