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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

湯けむり夢気分 ll 2

湯けむり夢気分 ll 1、の続きです。



湯けむり夢気分 ll 2


甘くて、すっごく良い香り...
南国のトロピカルフルーツを思わせるアロマの香りに瞼がトロンと落ちてくる。簡易ベッドにうつ伏せ、背中への施術を受けるうちに意識はまどろんでいった。  
 
「...こちらには彼と二人で?」
「あ、いえ...子供達も...」
「あら、お若いのにお母さんでいらしたのね!」

いえ、血の繋がらない孤児達とその父親二人とです...
初対面、かつその場限りの仲であるエステティシャンにするには不適切であろう説明を苦笑いと共に喉の奥に押し戻し再び肩の力を抜く。

「素晴らしいボディラインだわ...若いと出産後もここまで元に戻るのね!」

うっとりと見つめてくる彼女を騙しているような後ろめたさから、気になっていた島のグルメ事情にさりげなく話題を逸らした。

ティファから持たされた謝礼をチケットを譲ってくれた客に渡し旅の計画を報告をしたクラウドは、人生の先輩である彼女から猛烈なダメ出しを受ける。

“あれだけ働き者の奥さんに、ちょっとしたご褒美の一つや二つ考えなさいよ!”

玄関先で正座でもさせられかねん勢いに、「一人だけ別行動ってのも...」と渋るが敵は聞く耳を持たない。「絶~っ対に喜んで貰えるから!」と太鼓判を押され、女性からの押しに弱いクラウドは適当に返事をし、深く考えないまま行動に出た。

「とっても気前の良い旦那様でいらっしゃるのね」
「はは...」

ホテル併設のエステサロンに電話をかけた彼は、意味不明な用語の羅列にものの数分で試合を投げた。「よくわからないので、一番良いやつで」なんて店側の思う壺としか思えない大味な予約の取り方をしたクラウドの世間知らずさに呆れつつも、心配りはやはり嬉しい。

子供達と一緒に体を動かすのも魅力的ではあったが、忙しさにかまけて日頃美容が疎かになっているのは気がかりだったし、専門家の力を借りて美しくなれるという提案に心が弾まない女性はいない。 ひとしきりのお喋りが止み穏やかな静寂を取り戻していく空間に、頭に不意にあの懐かしい声が響く。

“なんだぁ...二人旅じゃないの?”

動揺を気取られまいとはしたが、潜在意識を掘り起こされるには十分だった。街をぶらついていると目に止まるのは行き交うカップルの多さ。皆旅先での開放感に任せ思い思いに腕や指を絡め睦まじく道を歩いている。

なんとなく熱に当てられてしまったティファは今だけでも...と隣を行く相方を見やるが彼の両手は無情にもポケットに突っ込まれていた。子供達と一緒にいた直後の彼らはどうしても恋人モードに移行するまで時間を要する。そもそも日中から互いに触れ合うことなど滅多にない。当然、二人きりで旅行をするなんてことも...

そこまでを考え我に返ったティファは年に一度の家族旅行でこんな事を考えてしまったことを恥じ、一抹の願望を遠くに追いやるよう自分に言い聞かせ眠気に誘われるがままに瞼を落とした。



疲れを知らない幼子達のはしゃぎ声を耳に、テラスに腰掛けクラウドはぼんやりと地平線を眺めた。群青色だった海は沈みゆく太陽に照らされ一面オレンジに染まっている。その光景にふと沸いた既視感は半日前に覚えたものと同じだったが、正体を突き止める前に視界の片隅にとある姿が映り込んだ。その人物の普段との違いを目敏く捉え、クラウドは慌てて首の向きを変える。

「わぁ...ティファ、綺麗~!」

食事の席に一人遅れて現れたティファに一早く気付いたマリンは椅子から身を乗り出し感嘆の声を上げる。一家のメンバーは今、気分転換をさせて貰ったお礼にとティファが購入したリゾート風の服に身を包んでいる。男性陣は風通しの良い麻のシャツ、マリンはティファと色違いのワンピースだった。

「おっ、いいじゃねぇか。似合ってるぜ!!」
「へ~、いつもと全然違うね!」

スカートをふわりとそよがせ空いている席についたティファは全員の着こなしを見渡し満足そうにする。生成りの生地にこの地に群生する濃緑の木々を思わせる柄の入ったワンピースは、マリンの着るハイビスカスが散りばめられたものより落ち着いたデザインであったが、ホルダーネックの下は背中が露わになっており黒髪が風にそよぐたびに真っ白な肌が見え隠れする。

「も~、クラウドぉ!」  
「な、なんだよ...」

口を開けたまま固まる男にマリンは唇を尖らせる。バレットばかりかデンゼルまでもがさらりと褒め文句を言ってのけた事実に焦り、何かを言うタイミングを見計らった。

「デンゼル、思った通り赤似合う!」
「へへーん。ねぇ、ティファ。俺もうお腹ペコペコ~」
「マリンも!」
「皆、おまたせ。さっ、食べよっか!」  
「おう、食おうぜー!!」

だが途切れる事なく紡がれるマシンガントークにクラウドが割り入る隙は無い。マリンはもちろん、いつもはクラウドに纏わりついて離れないデンゼルもこの時間だけは別だった。二人はピッタリと母代わりに張り付き大皿から料理が取り分けられるのを目を輝かせて待っている。両脇をがっちりとガードされたティファにクラウドは諦めを覚えるが、一方で口元にフッと笑みが浮かんだ。

「クラウドと父ちゃん、本気で競争してて見張りの人に怒られてたよね」  
「二人がふざけてロープを揺らすんだ。めちゃくちゃ怖かった!」  
「あ、ほら見て二人とも。ちょうど陽が沈むよ」

食事にお喋りにと忙しい子供達の肩を抱き水平線に関心を促すティファの横顔にクラウドは密かに見入る。彼女には様々な顔があるが、その内の一つである母性溢れるこの顔が好きだった。男性には到底醸し出せない、全てを受容してくれるかのような慈しみ深い表情は、夕陽に照らされ殊更輝いて見える。ただでさえ今日のティファは肌の透明感がいつにも増して...

「綺麗だね...」

耳に届いた呟きが心の声とシンクロし、慌てて視点を手元の料理に戻した。殻付きの大海老にむしゃぶりついていると騒々しかったテーブルがいつの間にか静まり返っている。訝しげに顔を上げるとしきりにニヤニヤする四人と目が合った。


「「「ハッピーバースデー、クラウド!!!」」」


息を合わせて発せられた掛け声にクラウドは海老を手にしたまま固まる。

「あ。 あー...」
「“あー”ってなんだよ、クラウド。本気で忘れてたのか!?」
「やっぱりだったね。父ちゃん、ティファ!」

ロウソクの火が灯されたケーキが運ばれ、サプライズが成功した事に大はしゃぎのデンゼルとマリンにクラウドは面食らうばかりだ。じわじわと状況を飲み込み始めた彼は、だがとある事実に気付くと見るからに落胆した。

「そうか。じゃあ今年はティファの料理じゃないのか...」

予想外の反応に四人は呆気にとられる。ティファは家族の誕生祝いには普段メインディッシュを飾るようなご馳走を何皿も作ってくれる。それらは主役の好物だらけであり、メニューは毎年決まっていたのでクラウドでさえ料理名を覚えていた。お馴染みのシチューやローストビーフを思いクラウドは益々落ち込む。

「こっ、ここのお料理だって凄く美味しいじゃない!」
「全然違う。ティファのが良かった...」
「お前な~~」

見かねたバレットが「ノロケかよっ!!」と叫ぶがクラウドはピンときていないようだ。その様子に子供達は腹を抱えて笑い出した。子供さながら拗ねるクラウドを、ティファは「もう一度パーティーしようか?お家でも」と慰める。

「もう一回?じゃ、ケーキももう一回!?」
「どうかなぁ。お野菜、ちゃんと食べたらかな?」

プレートに残されたサラダをゴクリと見下ろしたデンゼルは、甘い物欲しさにえいやで大口を開け勢いよく料理を掻っ込む。次の瞬間、喉を詰まらせ激しくむせた彼にティファは慌てて水を手渡した。クラウドは珍しく声を立て息子のひょうきんな姿を笑い、皆もつられて笑う。普段から賑やかな家族揃っての食事は、その日はいつになく笑顔の絶えない時間となった。



「...運ぼうか?」

愛娘の寝顔を眺めていたティファは、父親の腕にすっぽりと包まれ寝息を立てるマリンに毛布をかけてやる。部屋は男女で分けてはいたが、寝ている間に勝手に移動させてしまうのも無粋な気がした。

「ちょっと寂しいけど、今夜はここで寝かせてあげようかな」

口にしてティファは後悔する。賑やかな三人が寝てしまい、部屋は火が消えたように静まり返っていた。特別に夜更かしを許可され張り切っていた子供達だったが、日中の疲れからたちまち眠りに落ちてしまう。旅は明日以降もまだまだ続くというのに、時が過ぎ去るスピードのあまりの早さに、想像以上の楽しさに一日が終わってしまった事が無性に寂しかった。

「少し歩かないか?」

そんなティファの気を知ってか知らずか散歩にいざなうクラウドに、ティファはホッとするように頷いた。着の身着のままで出てみると外気は思いのほか冷たく、ティファはノースリーブの二の腕を思わずさする。クラウドは着ていたシャツを脱ぎティファの肩に羽織らせた。ティファは微笑でもって礼を言う。

「クラウド、これ良く似合ってた」
「ティファもな」

ここに来てようやく互いの着こなしを褒め合えた二人は照れ臭そうに微笑み合う。赤や黄の原色ベースのデンゼル達のシャツと違い、クラウドのために選んだ服は彼好みのくすんだグレイで柄も目立たないものだった。気付けば整備された道を外れ随分と足場の悪い場所を歩いている。クラウドは、地面からせり出した木の根をサンダルで乗り越えるティファの手を取った。

「クラウド、ここ...」

様子がおかしいと察したティファは、柵で厳重に囲われた先でほのかな蛍光色を放つ巨大な池の存在に気が付く。そしてこれが気ままな散策ではなく、明確な目的地があったことを悟った。風もないのにさざめく魔晄溜まりを睨み付け、クラウドは神妙な面持ちで口を開いた。

「ティファ、あの時はありがとう」

再びこの地を訪れて、改めて伝えなければと思った。診療所に漂う独特の医薬品の臭いや医者の声、絶え間無い細波と潮の香り。そして住人に慕われるティファの姿を見て、自分達がここで生活をしていた時間の長さを実感する。何より思い知ったのは...

「怖かっただろ...」

一歩間違えば彼女も命を落としかねなかったという事実だ。滔々(とうとう)とたたえられた底なしの魔晄を見つめ続けていると、知らずと吸い込まれそうな錯覚に襲われ身の毛がよだつ。だが重々しい空気を醸し出すクラウドに対し、返された相槌は「んー...」と今ひとつ緊張に欠ける。

「それより貴方の手を離してしまう方が怖かったかな。また離れ離れになる方が...」

数年ぶりに目にした景色にティファは当時の心境を振り返る。地震のせいで裂けた地表に落ちた事は気付いてはいたが、意識を払っていたのはクラウドだけだったと思う。なんとか彼の手を掴もうと、ただそれだけを考えて...

なす術もないまま彼が自我を手放した時や、探し当てたものの回復の見込みがないと知った時の方が遥かに絶望を感じた。

「決めてたんだ。もう一度会えたなら、今度こそ貴方の側にいて...一緒に何が本当なのか見つけようって」

多数の人に死をもたらす存在であっても、内なるクラウドと向き合うチャンスをくれたあの空間を有り難く思う。そして一つの結論が胸にストンと落ち着いた。

「だから、全然怖くなんかなかったよ」

導き出した答えに納得しティファは晴れやかな顔をする。あっけらかんとした返答にクラウドは言葉が出ない。

「...なんてね!それに私はただ側にいただけで、何も...」

喋り過ぎた事に気恥ずかしさを覚えたティファは話題を逸らしにかかる。忙殺されてしまい当時は伝え忘れていた事を思い出したのもあった。

「それよりね、あの時みんな言ってたんだよ?北の大陸からここまで流されて生きてたのは奇跡だって。クラウドには守り神がついてるって。ねぇ、クラウド。私達がライフストリームに呑まれても無事だったのって、きっと...」

ティファはそこで話を切る。誰について話しているのかクラウドは即座に理解した。

「感謝だね」

自らの事などそっちのけでいつの間にか別の人物に謝意を示している様は実に彼女らしい。清々しい笑顔から見るに、それはただただ本心に違いない。

「...クラウド?」

目の奥が熱い。咄嗟に細身の身体を引き寄せた。ティファに気持ちを伝えるのは本当に難しい。それでも肩に控えめに添えられていた腕が二人の間をゆるりと抜け出し背中に回されただけで、今は十分だった。





湯けむり夢気分 ll 3、へ続きます。



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