Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
Annual Special ~前編~
17' クラ誕です。二人きりのコスタデルソル。
性描写は後編のみです。
裏度数【★★★★★】
Annual Special ~前編~
朝明けの日差しがガラス張りの窓越しに広がるアスファルトをいちめんに輝かせている。透明な板一枚を隔てた先のうだるような暑さが室内まで伝わってくるが、小一時間前、元気一杯の子供達が残した盛夏の陽光にも負けない笑顔がそこに浮かび、目に映る光景は幾分か柔らいでいく。
見上げた壁にかかるカレンダーには普段は目にすることのない、マジックで書かれた×マークが並んでいた。それは目的地である赤マルを付された日付に向け、順調に駒を進めている。 週末は、我が家の若い方の父親の誕生日であった。
彼の出生を祝うとともに、その日は暗黙のうちにかつての仲間達が集う日となっていて、子供達の気持ちの高まりは主役を差し置いてうなぎ登りである。そして、幼い二人ほどあからさまに顔に出してはいなかったが、当日の献立や恋人へのプレゼントに思いを巡らせるティファの店支度も軽やかだった。
(お財布、だいぶ年季が入ってきてたな...)
しかし彼はそんな状態を逆に好いている風もある。滅多に言語化されることのないその男の趣味趣向を読み解くのは、数多ある彼女の特技の内の一つだった。
(そうだ、キーホルダーにしようか)
先日フェンリルの鍵を盗まれるという悪戯の被害にあったクラウドが、キーを付けっ放しにして愛車を停車していると知りティファは呆れ果てる。あれを動かせる人間はそういないとは理解しているが、なんとも共感し難い不精な習性である。
その先にティファからの贈り物が付いていれば、彼もたった数秒足らずの作業を怠るのを改めるかもしれない。 邪魔にならないサイズで、装甲に当たっても音が煩くない...色はやっぱり黒かな?
ぼんやりとまとまってきたイメージの出来上がりに満足し、開店前に雑貨屋の並ぶ通りに足を向けることが可能かどうか時計を仰ぎ見た際、昨晩遅くに交わされたやり取りがふと心に蘇った。
流れた汗が大気中に消え去る際に奪われる熱のためか、しっとりとした肌は夏の宵にしては心地よい。今しがた投げかけた質問の答えは大方予測通りで、心はさして大袈裟な反応を示しはしない。
“欲しいものは特にない”
自分は寂しそうな顔をしてしまったのだろうか。気遣うように長い指が髪越しにティファの頭を撫でる。
“ただ...”
ただ?続く台詞に紅みを帯びた瞳は期待を含んで少しだけ見開かれる。クラウドの口角は相変わらず形の良いままだ。
“一度でいいから、一日中したい”
(一日中って...)
手元の布巾を握り締め、店主の表情は窓越しにも見てとれるほど困惑しだす。脳裏に反芻された台詞に思わず瞳は固く閉じられた。しかも、情事を終えた直後の発言である。 心を通わせ合った男女であれば当然のごとく行われるその営みの頻度は、一般的な恋人同士の傾向と違わず、ティファが望む理想よりクラウドの男としての欲望の方が大分勝っていた。日を跨ぐ遠征の後、彼は決まって一晩に何回も彼女を抱いたし、朝起きぬけに前日の晩うっかり眠りに落ちてしまったティファに拗ねた顔を向け寝巻きの裾から強引に手を差し入れてくることもあった。
(でも、少しだけわかるかも...)
朝早くに家を発つクラウドに、遅くまで店を開けるティファ。それ以外は子供達との触れ合いを最優先する二人が恋人同士として過ごせる時間はほんの僅かだ。用事のない休日の朝であっても、実質的には休みなどないティファは階下に上がった高らかな声を目覚ましに、自らに絡みつく腕を振り解く。
例え相反する感情ではなかったとしても、一見子供達を蔑ろにするかのような考えを悟られまいと決して口にすることはないが、仕事に対する義務、親としての責任、時の流れさえ投げ打って、心ゆくまで自堕落にあの逞しい身体に身を委ねたい。そう思ったことが一度もないと言えば嘘になる。
幾度となく抱き合っても、ティファの肌に少し触れるだけで反応を示してしまうクラウドの男の部分にも彼女は密かに歓びを感じていたが、どうしても恥ずかしさの方が勝ってしまう自分に彼は不満を抱いているのでは、という懸念もあった。
自らの想像の域を超えた要望に狼狽する昨夜のティファに “わかってるよ、そんなの無理だって” そんな諦めの顔をしてクラウドは眠りに落ちていく。
長いと思った夏は、慌ただしく過ぎ去りあっという間に終わりを遂げるのであろう。先程より高度を増した日差し。眺めているだけで肌を針で刺されているかのような感覚は、彼女を少しだけ大胆にさせる。
「待ち合わせ場所は覚えてるよね?バレットが先に待っててくれてるから」
「わかってるよティファ、それに初めてじゃないんだし!」
「マリンの手離さないでね。迷子にならないように...」
せいぜい小一時間の旅だ。問題の起こる可能性は限りなく低いが、携帯電話という今や当たり前の連絡手段を二人が持っていないがために、若い母親は多少神経質になる。小旅行を前に気分の高まった子供達はそんなやり取りさえ楽しくて仕方ないのか、家で話すよりも一回り大きな声で応戦していた。
「「行ってきま~~す!!」」
船までかかった桟橋を、二人は何度も振り返りながらかけていく。八月中店の手伝いを頑張った子供達の最後の夏のご褒美イベントは、離れた場所で暮らすもう一人の父親とのゴールドソーサー巡りだ。一連の流れを一歩下がった位置で見守っていたクラウドは、休日の早起きに大欠伸をする。
「どっかで飯買ってもいいか?」
慌ただしい毎日の中、ティファが今日店を開くつもりかどうかは把握していない。時間ギリギリまでベッドで粘っていたクラウドは一人だけ腹ペコで、ティファの背中に見知った街ジュノンでのしばしの自由時間を請う。
「ねっ、クラウド」
帰ったら昼寝でもしよう。呑気に今一度伸び上がったクラウドは、クルリと振り返る満面の笑みに添えられた提案に、一瞬にして目を覚ます。
「私達も船に乗らない?」
出発を知らせる汽笛の音が、澄んで天井の高くなった夏空に響き渡った。 青い海、白い雲、眩しい... と、そこまでを考え、クラウドは自らの稚拙な表現力を披露するのはやめにする。
ジュノンの小洒落たスタンドで購入した品の良いサイズのパニーニでは腹は膨れず、浜に軒並み連なる屋台で追加したフランクフルトを頬張った。さざめく海を眺めながら。海パンで。
夏の香り漂う大味なそれにまた一口乱暴に噛み付くが、事態は一向に飲み込めてはいなかった。今、二人はコスタ・デル・ソルにいる。ティファの唐突な誘いに乗って。
泊まって行く気だろうか...ふと沸き起こる願望を打ち消そうと必死に頭を振った。彼女はついさっきこう言ったではないか。
“泳ごっか?”
そう、ティファはただ泳ぎたくなっただけだ。何故なら暑いから。コスタから日帰り出来なかったのは二年前までの話で、今日俺達はここで泳いで、飯は食うかもしれないけど、家に帰る。それだけだ。
眩しいくらいの笑顔を弾けさせ浅瀬で水の掛け合いっこをしている男女を眺めていると、ついついまた邪な考えに襲われる。帰る、真っ直ぐ帰るんだ...とブツブツ唱えるクラウドの背中に声がかかった。
「クラウド、お待たせ」
不用意に振り向いたクラウドは、最後の肉の一欠片を見事に喉に詰まらせる。 シンプルなデザインのビキニに身を包んだティファ。形の良い胸とお尻、それらを繋ぐしなやかなくびれが彫刻のように体躯にメリハリをつけていた。
それ以上に、周囲の女性より腰一つ高いところから真っ直ぐに伸びた脚は特に際立っているかもしれない。相変わらず圧巻のスタイルではあるが、ブラトップは純白、ショーツに入った爽やかな水色の差し色が織りなすバイカラーからはいやらしさの欠けらもない健康美が弾けていた。
(綺麗だ...)
それに...
(こんなの、持ってたっけ!?)
高まっていく一方の心拍数に、そろそろ不自然な長さになってきた沈黙に、心の乱れを落ち着かせようと視線を下向けた瞬間、ティファが小脇に抱えているものに間の抜けた声が出る。
「...って、何だそれ?」
「何って?浮輪だよ、私泳げないもん。クラウド、泳げるの?」
「あ、ああ。神羅で習った」
「わぁ、じゃあ教えて!」
胸の前で手を合わせはしゃぐ彼女を、サーファーらしき男がすれ違いざまに食い入るように見つめ、鼻の下を伸ばす。それを見て、クラウドは慌ててティファの手を取ると一直線に波の間を進んで行った。
「いきなりそんな深いところに行くの?」
「ティファは運動神経が良いから、ちょっと無理矢理ぐらいな方がいいんだ」
適当な事を言い、うまいこと彼女を沖合いまで誘いだす。足下に感じる水の冷たさにティファはえらく不安そうだ。一度潜り頭を水につけたクラウドは、軽くクロールをして手本を見せる。
「そいつから手を離して、足でこぐ。こんな風に」
「えっ!いきなり無理だよ、無理!」
怖くて浮輪から手を離せないティファの足は、海中で何とかクラウドの真似をするが、当然推進力は生まれない。
「クラウド、全っ然進まないんだけど」
あたかもクラウドの教え方が悪いと言わんばかりの信用のない目で睨まれる。
「いや、だからその浮輪が邪魔なんだ。もっと身体を倒さないと...」
「えー...じゃ、せめてもう少し浅いところに行かせて?」
平行線を辿りだす押し問答に、クラウドは強行突破を思いつく。ティファの隙をつき、その手から浮輪を取り上げ遠くに放り投げた。
「きゃあ!何するの!?」
「平気だって。ほら、捕まれよ」
差し伸べた手を通り越してティファはクラウドの首にしがみつく。拍子にムニュっと押し付けられた感触に、クラウドは目に涙を浮かべ清々しい空を仰ぎ神に感謝の言葉を贈る。 文字通り失われた青春が...今やっと、ここにある!
ジーンと感慨に耽るのも束の間、首に添えられた手は徐々に異様なほど力を増していき、遂には息が出来なくなったクラウドは、パニックに陥り自分を浮輪代わりにしだしたティファにブクブクと深く沈められていった...
後編に続きます。
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