Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
クラウド・ストライフの憂鬱 ll
ティファさん、子供達に護身術を伝授です。
クラウド・ストライフの憂鬱 ll
「はい、後は反復練習あるのみです」
「「はぁ〜〜〜い!」」
「それと練習中は決して本気でやったりはしないこと!わかったわね?」
「「はぁ〜〜〜〜〜〜い!!」」
何やら騒々しい掛け合いと、普段とは異なる様相に書斎から階下へと向かうクラウドは首を捻るばかりである。フロアに降り立つと椅子の上げられたテーブルは全て壁側に寄せられ、中央にちょっとした空間が出来上がっていた。
「あっ、クラウドだ!」
「クラウド、かかってこい!」
「皆して何やってんだ?」そんな疑問を口にする前にデンゼルとマリンにファイティングポーズを取られ、クラウドは益々訳がわからないといった風にする。そうは言われてもまさか彼らに手を上げられる訳もなく、困り果てている様子を見兼ねティファは「今ね、二人に護身術を教えてたの」とかいつまんで事の経緯を伝えた。
「...護身術?」
そう説明を受けても自ら攻撃を仕掛ける術しか知識のないクラウドにはイメージがピンとこない。目を瞬き続けるクラウドに、百聞は一見にしかずと言わんばかりにマリンは大きな手を取り「例えば、こうやって悪い人に襲われたりするでしょ?」とクラウドの腕を自分の首に巻きつけた。
「おっ」
するとマリンはクラウドの指の内の一本を掴み手の甲側に曲げるフリをする。振り返り得意げに微笑んだマリンにクラウドもようやく合点がいった。なるほど。力のない子供でも出来る関節技を教えこんで逃げる隙を作らせる狙いか。確かに無抵抗でいるより遥かに有効かもしれない。
「クラウド。次、俺も俺も!俺の頭掴んで!!」
待ちきれずに飛び跳ねるデンゼルの要望通り、クラウドは癖っ毛のツムジに手のひらをそっと被せた。その手を小さな両手で上からしっかりと押さえ込んだまま、デンゼルは勢いよくしゃがんだ。そして手首への衝撃を防ぐため前かがみになったクラウドの腹にヒザ蹴りを入れようとする。
「デンゼル!!」
練習にしては行き過ぎた行動にティファは声を荒げた。「わかってるよ。今のは相手がクラウドだったから、ちょっと本気出してみただけだって」そう唇を尖らせる十もいかない少年の蹴りを受けても当然クラウドはビクともしない。クラウドは一瞬よろしくない方向に曲げられかけた手首をプラプラと振り和らげ、一通り技をかけ満足をした子供達の関心はまた別のものへと向かっていった。
「ねぇ、ティファ。さっき言ってた相手が武器を持ってる場合って、ティファだったらどうやっつけるの?」
実際問題として凶器を持った暴漢に付け焼き刃の護身術で挑んでもまず勝ち目はなく、逃げるだけに専念せよと教えてあった。だがティファ程の力量の持ち主となれば話は別である。「えっとねぇ、まずナイフだったら...」思案するティファと目のあったクラウドは機転を利かせ右手に短剣を握る仕草をしてみせる。
その片手が自らに向かい伸ばされるに合わせ、ティファは握った拳でクラウドの腕を素早く内側からはたくとあっという間にもう片方の手を捉え両腕を後ろに捻り上げる。「うわぁ、かっけーー!!」見ていたデンゼルが歓声を上げた。「もし銃だったら、こう...流れ弾が人に当たらないように...」ティファはクラウドの右腕をキュッと締め上げ銃口を床に向け固定する。
「いいなぁ、俺もそっちがいい...」
「もう少し大きくなったらね」
「それにデンゼルは格闘より剣が良いんじゃなかったっけ?」からかい交じりの誘導にまんまと流され興味を逸らしたデンゼルは再び今いま教わったばかりの技の復習へと戻っていく。「今度ね、ご近所さん達にも教えてあげる事になったの」そう機嫌良く語るティファと異なり、「ティファはあんなまどろっこしい真似はしないよな?」とクラウドは嫌に神妙だ。
「うん、手っ取り早く回し蹴りで転ばせちゃうかな」
物騒な手合いはさっさと実力の差を見せつけて戦意喪失させてしまうに限る。「そうだよな。これからもそうしてくれ」ティファの返答にクラウドは満足そうに頷いた。
「うん?」
(“そうしてくれ”...?)
首を傾げるティファが聞き返す間も無くクラウドは「それと、今度教えるっていう奴らは全員女か?」と詰め寄る。「う、うん」ただならぬ気迫にティファは気圧された。「ならいい」クラウドはようやく笑顔を見せる。
(“ならいい”...?)
気分転換を終えやり残した仕事のために再び階段を上がっていく背中を見送りながら、ティファは先の発言に引っかかりを感じたままその場に取り残される。ひとまずの安心をしたクラウドであったが、今更ながら知った新事実に深い溜息を吐いた。
(胸が当たるな...)
女性が自らの身を守るのは難しい。それは例えティファのような猛者であっても揺るぎない法則である。真昼間からあの柔らかな感触を感じられたラッキーに頬許を緩ませながらも、危機感の欠片もない恋人の素振りを思い返し、彼は鬱々とせざるを得ないのであった。
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