Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
fiction, non-fiction
恋愛小説のお話。
fiction, non-fiction
寝支度を整え寝巻き姿でベッドに体育座りをしているティファは、両手で支えたハードブックをパタンと閉じると天を仰ぎ「そんなぁ...」と嘆いた。今しがた読み終えたのは巷でヒットしている恋愛小説で、流行に乗った常連客からしきりに薦められ好意に甘えて借りる運びとなった。
華やかで何もせずとも異性が寄ってくる天真爛漫なヒロインと惹かれ合うのは、物静かでお堅い性格の主人公。出会って間もなく互いを意識し合った二人は、だが真反対な価値観が理由で反発し合いとことん素直になれず、運命のイタズラも加わって始終辛酸をなめ続けることとなる。
それでも両想いである限りラストは結ばれてくれると信じて読み進めていたが、最後の最後でまたどんでん返しが起こり、互いに別の道を歩んだ結末を仄めかす描写で物語は終わってしまった。
「良かった。けど、切ない...」
すっかり感情移入しきったティファは名残惜しそうにまた一つ長い吐息を吐いた。特に寡黙な男主人公は少しクラウドに重なる部分もあって、口数が少ない男性も色々と考えているものだと感心したり、言葉がスムーズに出てこず思い余って本音とは真逆な事を口走ってしまう不器用な彼を陰ながら応援していた。
「どうせ作り話なんだろ」
シャワーを浴び終え、まだ湿り気を帯びた金糸を輝かせるクラウドはそれとは対照的に冷めた声を出す。「それはそうだけど...」余韻に浸るティファに彼は視線を合わせることなく、寝床に潜り込み「寝る」とだけ呟く。素っ気ない口ぶりと向けられた背中をティファは不可解に見つめた。
「クラウド、怒ってるの?」
「別に怒ってなんかない」
口では言い張りつつも態度からクラウドの感情は明らかだ。頑なに臍を曲げ続けるクラウドの言い分をかいつまむとこうだ。この一週間、読書に熱中してしまったティファは自分が就寝時刻にかけた声に顔すら上げず “先に寝てて” とだけでつれなかった。数日ならともかく、こうも続くとぞんざいな扱われ方に辟易してくる。
「そんなこと言ったって、自分だって休日はフェンリルにかかりきりじゃない」
「あれは仕事の一貫だ」
「それにしては度を超えてるよ。あんな何時間も...」
素直に趣味だと認めれば良いものを、こねられた屁理屈にはティファもムッとくる。こちらは生返事を返されるどころか声をかけても無視される事さえあるのだ。
「だからこないだは買い出し付き合ってやったろ」
「付き合ってやるって...そんな言い方...!!」
そんな風に言うくらいなら、来なくていい!だって借り物だったから急いで読まなきゃならなかったんだもん!
様々な反撃が思いついたがティファはグッと堪える。思い返せば相方を蔑ろにしていたのは事実であったし、帰宅の遅い彼に対して可能な限り足並みを揃えて床に就きたいと主張したのは確か自分の方で、知らぬ間に平和ボケをしてしまったようだ。血の昇った頭を一度枕にポスっと押し付け落ち着かせ、声のトーンを下げる。
「...今回のことは私が悪かったよ。反省してる」
それ以前に、好き合う男女がくだらない意地の張り合いでいとも簡単にすれ違う事を学んだばかりではないか。言い回しこそ気にくわないが、クラウドは自分と添い寝出来ない事に不満を抱いてくれたのだ。まずはそれを喜ぼう。
「お買い物もありがとう。ただ、無理してついて来てくれなくていいんだよ?」
嫌味っぽくではなく、あくまで善意で固辞してみた。言った途端寂しさに襲われるが、自らが撒いた種である以上仕方がない。急速に態度を改めたティファに今度はクラウドが焦る。罪悪感がチクリと彼の胸を刺し、いまだそっぽを向きつつも「無理なんかしてない」と言い繕った。
「...でも、楽しくはないでしょう?」
間違いなく趣向とはそぐわないであろう日用品の買い付けに荷物持ちとして黙々とついてくる彼の真意を図りかね、ティファは恐る恐る窺う。ゴロリと寝返り視線を仰向け、クラウドは「うーん...」と考え込む。
「楽しいとか楽しくないじゃなくて、生きてくのに必要な事だろ。地に足つけて生活してるんだなって感じられて...幸せだ」
最後にポツリと付け加えられた一言がじんとティファの心に染み入る。「それにティファの買い物じゃない。“皆の”、だ」そこでようやく目線を合わせてくれる。
「だから、“付き合う”っていうのは...ごめん、間違ってた」
肩にそっとかかった柔らかな手の重みに、クラウドはクイと顎を差し出す。それにあわせティファも口元を寄せた。二つの唇がそっと重なり合い、互いに照れ臭そうに微笑み合う。安心して気の抜けたティファは「ほら、作り話だって意味があるよ」と誇らしげにクラウドの胸に頬を擦り付ける。事情の掴めないクラウドは、「どんな話だったんだ?」と尋ねた。
ラブストーリーのあらすじを語るのは少々気恥ずかしい。それに特段話の筋があるわけでもなかった。変哲のない男女が出会い、共に過ごし、恋をするだけ。元気を取り戻したティファは先の失言を自ら蒸し返し、ふざけて笑い飛ばす。
「バカな女がバイクに焼きもちやく話!」
「...それも悪かった」クラウドは決まり悪そうに手で目元を覆う。「もっとちゃんと言えって。わからないだろ」先程までの険悪なムードは嘘のように消え去り、クスクスと声を上げながら今度はもう少し長いキスを交わした。サイドテーブルに置かれた本はティファの心に大切な何かを残しつつも、もう開かれる事はなさそうだ。
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作り話だって、意味があるよ。
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