Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
Oh, Captain! Vl
本編、ライフストリーム後。シドシエラも混ざります。
Oh, Captain! Vl
ハイウィンドの個室にはサイドデスクに置かれた読書灯だけが灯る。脇に置かれた椅子に腰掛けたティファは、ベッドに横たわっている男の額に浮かぶ汗を濡れタオルで拭ってやった。
「ごめんね...」
僅かに開けておいた背後の扉が開き、室内に廊下の白熱灯の光が差し込んだ。ティファは眩しさに目を細める。
「どんな按配だ?クラウドは」
「シド...」
時刻は日付が変わった頃。戦闘後、食事も満足に取らなかったティファの顔には疲労が滲む。
「酷い熱で...苦しそう」
裂傷はケアルで塞いだが、体内で一度起きた激しい炎症がクラウドを苦しめ未だ意識は戻らないままだった。
「お前はもう寝ろ。代わりに診ててやるから」
「でも私のせいだから...」
「んなこたねーよ」
「...いや、お前のせいか」形だけの慰め文句を躊躇いなく撤回され、ティファは口元に笑みを浮かべる。だがすぐに元の沈痛な面持ちへと戻ってしまう。クラウドが負った傷は、戦闘中にティファを庇って出来たものであった。
「男の人生ってのはな。惚れた女守って、振り向かせて、モノにして...そんなもんだぜ」
「なっ、何言って...」
「ほれ見ろ、いかにも幸せそうな顔して寝てんじゃねーか」
生真面目にクラウドの寝顔を覗き込んでしまったティファは「そんなんじゃないよ、私とクラウドは」と長い息を吐く。当然、深い眠りに落ちているクラウドの顔からは特定の感情は読み取れない。
「小さな頃、私に怪我させちゃったのがクラウドにとってはトラウマだったんだ。なのに私はそんなこと全部忘れて...クラウドはずっと私から責められてるって苦しんでたのに...」
「責められてる、ねぇ」シドは鼻の頭をポリポリかく。「ライフストリームの中で何があったかは知らないが...」ティファの懺悔を受け止めつつも、大怪我までして体を張った男をシドはつい擁護してやりたくなる。
「誤解は解けたんだろ?」
大雑把ではあるが核心を突いた質問に、ふとティファの思考は別の次元へと浮上する。
「うん。そのつもり...」
「だったらコイツが好きでやってるだけのことだろーが。お前は素直に礼でも言ってニコニコしてりゃいいんだよ」
ティファは咄嗟に口から出た自分の言葉を噛み締める。上手く丸めこまれた気もするが、気が楽になったのは確かだ。ティファの頬に血の気が戻ったのを確認するとシドは半ば強引に彼女の座っていた椅子を奪い取る。いつになくシドに親近感を感じたティファは、部屋を出る際、振りむき様に悪戯っぽい笑顔を見せた。
「ねぇ、シドの人生もそうなんでしょ?じゃあ、ちゃんと伝えないとね」
「とっとと寝やがれ!!」
罵声に追い立てられるよう去ったティファを見とどけると、シドはベッドのフレームに容赦ない蹴りを入れる。
「おい狸寝入り野郎、起きてんだろ?」
「...あんな大声でわめかれたら誰だって起きる」
高熱に喘ぎつつもクラウドは閉じていた瞼を薄らと開けた。
「おめーの下心はトラウマ扱いされてるぞ。守ってばっかで満足してねぇで、さっさとモノにしろ」
「...うるさい」
「一人で平気だからもう出てってくれ」機嫌を崩しふて寝を決め込むクラウドに、シドは遠慮なく部屋を後にした。一服やるために飛空挺を降りた彼を赤黒い光が照らす。柄にもないお節介をしてしまったのはこんな状況下だからだろうか。
クラウドとティファが互いの想いを知るのは時間の問題だろう。小さな満足感が胸を満たす一方で、何かに気付かされた心は急速に虚無感に襲われる。
「俺はこんな所で何やってんだ...」
他人に説教垂れてる場合じゃねぇぞ...
この世の終わりを宣告されてから繰り返し浮かぶ顔。
「ああ、その通りだよ」
ティファからの問いかけに答え、白い煙を吐き出すと空の船乗りは微かに伺える星空を睨みつけ、向かうべき方角を見定めた。
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