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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

素顔の君は

クラウドが猫になっちゃった!



草木に覆われた見通しの悪い地形も加わって、臨時のリーダーは先刻からニャーニャーやかましい鳴き声にイライラと集中力を削がれていた。

「おい、うっせぇぞ!どっかに捨ててこい!!」
「だって付いて来ちゃうんだもん...」
「くっそ、この非常事態に...」

「八つ当たりしたってしょうがないのにね」ティファは足元でウロチョロしては鳴き喚いている猫を庇うよう、声をかけた。そんな彼女も冷静を装いつつも、やや慌て始めてきていた。休息の間、一人行く手を下調べしていたクラウドの姿が見当たらない。探し始めてからもう一時間が経過しようとしていた。

「ねぇ、お前。何か知らない?」

猫の手でも借りたいではないが、何かを訴えようとしているかのような猫を抱き上げる。だがそれぞれの足にしがみつくだけで何処かへと導いてくれる訳でもない小さなそれは、ティファの腕の中でニャア...と力無く声を上げるのみだった。


素顔の君は


チチチ...と耳に心地よい小鳥のさえずりが頭上を横切る。そんな些細なものであっても、道なきここでは心強い道しるべだった。魔物の多い場所に小動物は現れない。正確な現在地は掴めないが、予定通り森はすぐに抜けられるだろう。その時点で太陽の向きから軌道を修正し最短距離で次の拠点へ...

広げた地図を睨んでいたクラウドは「ニャーン」という何とも平和な音に顎を上げた。こちらに向かって突き出た木の枝の上には明るい茶トラの猫。ペット事情に詳しくないクラウドであったが、それが凶暴な山猫ではなく家で飼われる類の害の無いタイプだと判断する。ここは里の猫の散歩コースなのであろうと益々安心し、深く考えずに戯れ混じりで猫をあやそうと手を伸ばした。

「いっ...!」

すると牙だか爪だか、想像以上に俊敏な動きで手の甲をガリっとやられる。ツーと一筋走った赤い傷はかすり傷に過ぎないが、見つめた先の腕にみるみる生えてくる茶色の毛。そうこうしている内に視界もグググと縮み低くなり、地を走ってスタコラ逃げ去る縞の尻尾が同じ目線に見えた。

(嘘だろ...)

攻撃を受けるとソイツと同じ姿に変わってしまうモンスターがいるのは知っていたが、一見変哲のない猫である奴がまさかのそれだったなんて。よりによって一人きりの時に...不用意な行動を嘆くが後の祭りだ。全速力で仲間の元へ戻り、各々に向け一心不乱に存在を主張してみるが、あまりにも突飛な変身に誰もが腹を空かせた迷い猫としか思ってくれない。遂には打ち捨てられそうになり、何とか一人のリュックに忍び込み置き去りは免れる。



「外のテーブルなら大丈夫だって。ナナキも猫も」
「そう、良かった」

結局、クラウドを見つけられないまま日は沈み、今夜はこれ以上の探索は諦める。幸運にもあの付近は強い外敵はおらず街からの距離も近かったため、明朝に捜索を再開する事とする。本日の成果としては、やや離れた茂みに残された彼の服に荷物一式......と、猫一匹。

「あ、こいつオスだ」
「ミャーー!!(や、やめろ!)」
「こら、嫌がってるじゃない」

興味本位で体中を隈なく検査しにかかるユフィを制し、ティファは慣れた手付きで額や喉元をくすぐってやる。クラウドは心地良さに目を細めグルグルと喉を鳴らした。

(それにしても...)

薄目で横を窺い見るクラウドは、レストランのテーブルに続々と並べられる食事が気になってしょうがない。

「ほれ、お疲れさん。出血大サービスでお前にもやるよ」

(喉が...カラカラだ...)

なみなみと注がれたビールジョッキが目の前にドンと置かれると、半日水分も取らずに走り回っていたクラウドはフラフラと吸い寄せられていく。その動きを「だっ、ダメ!猫はアルコール飲んだら死んじゃうよ!」とティファが慌てて遮った。(死ぬ!?) 事の重大さにクラウドも勢いよく後ずさる。「じゃあ、ミルクとか?」ドリンクメニューに目を通しながらエアリスが問う。

「う〜ん、それも人間用のはお腹壊しちゃうし...ただのお水が一番かな」
「食べ物は?猫まんま?」

白米に残飯をぶっかけ仕上げに魚の骨を乗っけた著名な料理を頭に浮かべクラウドはげんなりした。自分が食べるとなると遠慮したい一品である。「食べない事はないと思うけど...」身近な動物への典型的な誤解に困った笑みを浮かべると、ティファは大皿に盛られていたチキンウィングを一つ手に取り味の付いた衣を剥がしにかかる。そして丁寧に骨も取り除いた真っ白な手羽肉を「ほら、お食べ」と腹ペコの猫の口元へ差し出した。

(...肉!!)

鼻先に漂う香ばしい匂いに目の色を変えたクラウドは、躊躇いもなく鳥肉にむしゃぶりついた。小皿についだお冷の水もペロリと飲み干す。

「へぇ、食べてる食べてる」
「ちいちゃくたって肉食動物だもんねぇ」
「ティファ、詳しい!」
「私昔、猫飼ってたの」

「アタシん家の近所にもワンサカいたけど、変なモノばっかしあげちゃってたナ〜」そう言いユフィはティファの真似をしてもっともっとと前脚を立てせがむクラウドのために肉を裂いてやる。

「ほら、ユフィ。小骨まで取ってあげないと喉に刺さっちゃうよ」
「ええっ、めんどくさっ!」

堪え性無く放られた餌をやれやれと拾い、ティファは続く作業を請け負ってやった。

(これは...)

一連の流れを総括し、クラウドは一つの結論へとたどり着いた。

(ティファの側にいた方が良さそうだ...)

何気なくツツツとティファにひっつき、面倒見の良い彼女にねだり続け山盛りの手羽先をほとんど一匹で平らげる。



宿屋に着きティファの部屋へと招き入れられた際、このままではまずいと焦ったクラウドは今一度彼女に熱心に語りかけ、時には片隅に置かれたマテリアやアイテムの袋を無理矢理開けにかかる。

「もう、悪戯しないの!どうした?お家に帰りたい?」

ベランダに出され、「ニャー!!(違う、エスナをかけてくれ!万能薬でもいい!!)」と激しく抵抗する。

「何なのよ、もう...」

だが上手いこと伝わらない。やっぱり駄目か...クラウドは締め出されるのは勘弁と、今度は全力で黒いスカートに爪を立てへばりついた。

「ねぇ、ずっとは連れて行けないのよ?」

一行に居座りたがるひょんな旅の道連れに話しかける。先程までしきりに荷物を引っ掻き回していたトラ猫は落ち着きを取り戻したようだ。だがクラウドが忽然と消えてしまうという異常事態にも、多少気が紛れたのはこの子のお陰かもしれない。

「ところで...」

一時前から気になっていたことのあるティファは、猫を抱き上げフサフサの毛に鼻を埋めスンと嗅ぐ。

「お前...ちょっと臭うわね」

クラウドが想像力を働かせる間も無く、ニッコリと微笑んだ顔とは裏腹に胴体を抱えるティファの両手にはガッシリと力が込もっている。



「君がお風呂嫌いなのは知ってるんだけど...」

洗い場の隅で背を向け縮こまる猫の挙動は予想通りだ。シャワーの栓を捻ると丸まった背中はビクっと跳ね、ティファは小心な反応をクスリと笑う。

(どどどどどどうしよう!?)

クラウドが恐れているのは水ではなく、猫が暴れ飛沫が跳ね返るのを見越したティファまで一糸纏わぬ姿である事である。

(あああああ...見ちゃ駄目だ、見ちゃ...)

クラウドは後ろを向き両手で目を覆うが、目元の覆い方が甘い気がするのは気のせいだろうか。「ほら、もう諦めなさい。すぐ終わるから」と腹を掴まれ奥から猫はズルズルと引きずり出される。膝に乗せられるともっちりとした素肌に驚いたクラウドは弾かれたように飛び上がり、再びティファの手元から全速力で逃げ出した。

「こら!大人しくするの〜」

ラチがあかないと判断したティファは今度は力尽くでクラウドを抱え上げた。背中にぎゅっと押し付けられたムニュッとした感触にクラウドは「ヒっ!!」と全身の毛を逆立てる。

(こ、この柔らかさ...は...?)

「きゃあ!どうしたの?大丈夫!?」

頭に血が集まり過ぎたクラウドの視界は白くなり、次第に真っ黒に反転していった...



「そんなに嫌だった?」

お湯をかけるまでもなくパニックから失神し鼻血まで出した猫は、ドライヤーの風に吹かれバスタオルにくるまれてグッタリしている。

「でもフカフカになったよ、これで一緒に寝られるね」

またしても襲いかからんとする受難にクラウドはウッと息を詰まらせる。ティファは旅の疲れを癒すべく、手早く寝支度を整えると部屋を照らしていたライトのスイッチに手を伸ばした。「おいでよ、そっちがいいの?」電灯の落ちた真っ暗闇の中、ティファが毛布を持ち上げ手招きをする。これ以上は...正体がバレた際のことを思い自粛するクラウドだったが、冷たいフローリングに身を横たえるとブルっと肩を震わせた。

(寒い...)

毛むくじゃらなくせして暖かくないんだな、この体は...
せめて布団の上で寝ようかとそろりとベッドに飛び乗った。「やっぱり寂しくなっちゃった?」そっと背を撫でてくれるティファの穏やかな顔と声に誘われるがままに、結局彼女の腕の中で丸まり夜を明かした。



次の日になり、仲間達は見るからに憔悴し気落ちしだした。終日森林を彷徨い続けるも無駄足に終わったティファは、食事もそこそこに部屋に戻ると寝床に倒れ込む。

「こんなに探しても、どこにもいないなんて...」
「ニャア...(ティファ、俺はここにいる...)」

だが訴えも虚しく、ティファは力無くクラウドの鼻筋を撫でるのみだ。ベッドにうつ伏せたままティファはポツリと呟く。

「ねぇ...私、クラウドに冷たかったかな」

(...え?)

七番街ステーションで再会を果たしてからというものの、ティファはどこか臆してクラウドに気さくに話しかけられない部分があった。今回も、クラウドが休息を切り上げ一人場を離れた事に気付いていたが、制止でもしたら煙たがられるのではないかと気にして声をかけそびれた。

(ティファのせいじゃない。俺が勝手だったんだ)

単独行動は控えるようにと常日頃から人には口を酸っぱく繰り返していたのに。腕前如何に関わらず、複数でないと立ち向かえない今回のような敵は必ず存在する。旅を率いる者らしからぬ手落ちだった。

「こんなことになっちゃうなら、もっとちゃんとお話しておけば良かった」

身ぐるみ剥がされて、一体彼に何が起こったんだろう。もしかしたらあの時のように精神に支障をきたしたのかもしれない。その危険性を知っていたのは自分だけだったのに...

「色々聞きたいことあったの。でも...聞いたら、クラウドどこかに行っちゃいそうで...」

(聞きたい...こと?)

確かに故郷での事件について話題に上げる時、ティファは動揺して不自然に話を外らす事があった。それについて言っているのだろうか。でもそれは決して冷たいとかでは無くて...

「クラウドがいなくなっちゃったら...私、一人だから。また一人ぼっちになっちゃうから...」

震えだす声にハッとなる。ティファはいつだって明るく、常に気丈に振る舞う彼女のこんな弱々しい姿は見た事がなかった。思えば人の過去を聞くばかりでティファは自分の話をしない。ミッドガルで新たに築き上げてきた生活も失ったばかりのティファ。あの五年の間も...今だって、こんな風に人知れず泣く日があったのかもしれない。

丸一日を共に過ごしたティファを改めて思い返す。底抜けに思いやり深い彼女。それに加え世話焼きで、心配性で...
目を背けていた、ティファと再会直後の自分を非力な今の姿に重ね合わせる。報酬を貰えばまたお別れだな、なんて強がって...本当は行く宛てなんて何処にも無かった。

――寂しくなっちゃった?

昨夜あの言葉に逆らえぬまま暖かい腕に包まれた理由は...

(ティファは優しいよ。それに一人ぼっちになんか...させない。俺は何があってもティファの幼馴染だ)

「ふふ。痛いよ、痛いったら」

ザラザラの舌で懸命に濡れた頬を舐め上げると、ティファはくすぐったそうに身をよじり笑顔を取り戻す。

「元気付けようとしてくれてるの?ありがとう」

ひたむきに舌を動かす健気な猫をキュッと抱きしめ、額にチュッとキスを落とす。途端に抱えた体はムクムクと膨れ上がり終いには全身を覆う毛が消え、頭部には尖った金髪が蘇った。

「も、戻れた...」

感動に身を震わせるクラウドだったが、ティファは寝転がり腕に抱きしめた大の男の突然の出没に唖然とするのみであった。当然行方不明であったチームのリーダーは全裸である。

「いっ......」

現在の自分の状況を把握すると、冷めやらぬ興奮を無理矢理収めクラウドは事態を収拾しようと頭を巡らせる。だが魔晄色の瞳を食い入るように見つめ茫然としていたティファは、視線を下向けると自らにピタリと密着している男の体を全身全霊の力を込め突き飛ばした。

「いやーーーー!!!!」





「猫に化けて女の部屋に潜り込むとは、ふてぇ奴だ」
「い、いやそれは...」
「ホントよ、スケベなんだから」
「うう...」
「ねぇ、結局どうやったら元に戻ったの?」

エアリスからの質問に「カエルと同じだった」と言いかけ、その瞬間を思い出したクラウドはたまらず目元を手で覆った。男部屋にでも行こうものなら窓から放り出されるのではという懸念もあったが、確かに下心が全く無かったかと問われれば怪しいものだ。ティファとはアレから一度しか言葉を交わしていない。

“その...ありがとな”
“...何が?”
“いや、色々と...”

「色々って...」顔はもちろん、耳まで真っ赤に染まられこちらも頭の外に追いやろうとしていた出来事がありありと思い出される。まさに “色々と”。ティファは消え入りそうな様子で足早にその場から逃げ去る。その背中に心中問い掛けた。

“なぁ...俺に聞きたいことって、何だ?”

ひょんな事から一晩寝食を共にした俺達の仲は、そんな簡単な一言さえかけられないほど、全く進展して...いない。


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