Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
華麗なる食卓 ll
食に関するティファさんの華麗なる空回り。
ほんっと〜にたいしたことないんですけど、ちょっと話題がアレですので微エロ認定しておきます。
ほんっと〜にたいしたことないんですけど、ちょっと話題がアレですので微エロ認定しておきます。
華麗なる食卓 ll
きっかけが何だったのかは、もはや覚えていない。仕事途中に出先の街で小腹を空かせ生鮮売場をフラついていたのだろうか。相棒の知識レベルに反比例するかのように、クラウドは食にてんで弱い。だがそんな彼でも “最高級” や “希少部位” 等のセールストークは問題なく理解出来た。その豪勢な肉塊の購入を即決したのは、何より大の肉好きである自分が食したかっただけかもしれない。
「お待たせ致しました、お客様。次はいよいよメインの “アイシクル産 A5サーロイン 赤ワインソース、旬の野菜のグリル添え” でございます」
うやうやしくお辞儀をし、自称 “高級レストランごっこ” を興じるティファを「大袈裟だ」と笑い飛ばすクラウドは、だがそれを一口食んだ瞬間半ば正気を失った。フォークとナイフを持つ手を固め、声にならない感動に身悶える。
「う......美味い......」
「んん!口の中でトロけるぅ!」
「うわぁ、頬っぺたが落ちちゃいそう...」
両頬を抑え細めた瞳の目尻を下げるマリンに満足そうなティファは、自らも一切れを頬張り「んー!」と感嘆の鼻声を上げた。
「二人とも、クラウドに感謝よ〜。こんな上等なお肉、エッジじゃそうそうお目にかかれないんだから!」
紛い物を掴まされてないかとか、無駄遣いや有難迷惑ではと探り探り生肉を差し出してきたクラウドに返された反応は良い意味で期待外れだった。
“こんなのティファにとっては珍しくないんだろ?”
“まさか!一度だって口にした事ないわ”
我が家も兼ねるレストランバーは所謂中級ランク店であり、高価過ぎる食材の仕入は想定していない。必然的に家庭で消費する具材も共通の流通で手に入れているし、ついつい倹約心を働かせてしまい贅沢な品など縁がないとの事だった。麗しい霜降りに見惚れ、「献立も悩まないで済むから大助かりよ」と歓喜するティファに味をしめた。
「腕の良いコックが居てこそだ」
「こんな良いお肉、塩胡椒だけでも十分美味しいって...」
ティファは謙遜するが、手間暇かけて温められた皿やミディアムレアの絶妙な焼き加減、焼き目のついた芸術的な付け合わせは味は勿論気分も最高に盛り上げてくれる。互いに褒め合う両親を美食にご機嫌な子供達が冷やかし、気恥ずかしくも頬を染めるティファにまんざらでもない、中々思い入れのある晩餐となった。
それ以降、クラウドは気まぐれに名産品を手土産に持ち帰るようになった。その度に職業人魂を発揮し目を輝かせるティファ。時にはハズレも引いたがそんな際も皆で笑い転げ、それはそれで良い思い出となった。だからその緑色の尻尾がデロンとはみ出たレジ袋を差し出された時、前置きがなくともティファはそれが久方ぶりのお土産なのだと直ちに理解する。
「...モンスター?」
「いや、ただの亀らしい」
広げた袋の中身を、額を突き合わせまじまじと覗き込む。押し黙る反応に、グロテスクな外見と臭気に流石のティファも引いているのではと「一応高級食材らしいんだが...無理しなくていいぞ」とクラウドは気遣う。一方のプロ調理師は多種多様な生物をさばいてきた経験からそんな事には動じない。
「ううん、何で知らないんだろうと思っただけ。私もまだまだね」
「任せて。ちょっと食べ方調べてみる」そう研究心を燃やしティファは自室へ上がると本棚にあった重々しい『食の大辞典』をドンと机に開いた。慣れた手付きで差し込まれた写真と実物を見比べる。
「爬虫類...亀.........あ、あった!これだわ」
【ヌッポン】古くから精力増強剤として知られている。他にも滋養強壮や...
のっけから目に飛び込んで来たショッキングな効用に、突き指せんばかりの勢いで分厚い本をバタンと閉じた。深呼吸をして心を鎮め、衝撃を少しでも和らげるためそろそろと該当のページを開き直す。続きには調理法のみならず古代から伝わる逸話までご丁寧に綴られている。
こっ...子供が食べても平気なのよね!?
可愛い幼子達の口に入る物であるからと慎重に詳細に至るまで調べ尽くしたティファは、気にしまいと念じても印象深い効能と、書き手までもが信憑性がないと言い切る睦事における生々しいエピソードにどうしても顔が赤らんでしまう。
任せてと言うとホッとしていたクラウド。彼はこの事を知っているのだろうか?怪しいといえば今日は常より押しが弱かったような...でも隠し事の下手な彼にしては終始受け答えがナチュラルだった気も...でもでも前にも変な栄養ドリンクをケロっと隠し持っていて、問い詰めたらシドに無理矢理押し付けられただとかなんとか...だったら捨てればいいのに...
困惑して思考が迷子になりだすティファは薄々気づいていた。問題はこれが意図的か否かではなく、どのみちタイミングが絶妙にぶつかりそうな事実である。「今度の休みに食うか。硬そうだし俺がさばいてやるよ」そう提案してきた彼は平日は出張の間に溜まった近場での配達でてんてこ舞いだろう。となると次の二人きりの時間は恐らく週末...
ところで...
まだ息がありビニールをガサゴソ鳴らしている甲羅にエホンと喉を通して問いかける。
...一体全体、何が起こるというのかしら?
一般的な書物である辞書には遠回しな記述しかなく、この領域において教養の乏しいティファにはとんと具体的な想像がつかない。そしてそれは無闇に恐怖心を煽ってくる。彼...だけなのよね?私は平気なのよね?いやむしろ彼に何か起こる方が...そもそも増強って...何を!?
混乱を極めたティファがいくらテレパシーを送っても、下等生物は命乞いにジタバタするのみで当然何も答えてはくれなかった...
「ん。ダシが効いてるな...」
「あ、チョコボ肉に似てる。クラウド、美味いよコレ!」
「美味しい!コリコリしてて、スープにはトロみがあるね」
冬場にピッタリの鍋をつつく面々は、見た目とは裏腹のサッパリした味に安堵し箸を進める。空腹に任せいつにも増す勢いで亀肉を口に含むクラウドにティファはハラハラと目が離せず、何か異常が生じないかジッと観察する。かと思うと彼から不思議そうな眼差しで見返され、今度はあたふたと目を白黒させた。
「...ティファ?」
「そう!お塩とお酒と醤油しか使ってないのよ?片栗粉なんか全然入れてないんだから!」
「ティファ、それもう三回も聞いたよ...大丈夫?」
何故かネジの外れている恋人をからかうよう、クラウドは悪ふざけでティファのおでこに手を当てる。
「ないってば...」
「でもさ、なんだかポカポカしてこないか?」
いつになく可愛らしい言い回しにもサッとティファの血の気が引く。そう、気付かぬフリをしていたがティファも感じていた。気のせいとは言い難いほど先程から身体が熱い。
食事を終えると内に籠もった熱を追いやるべく、ティファは湯船に浸かるのも控え泣く泣く温度の低めのシャワーを浴びる。入念に精神統一をし寝支度を整え店舗に戻った時だった。ティファの姿を認め風呂場へ向かおうとするクラウドに呼び止められる。
「なぁ、ちょっと早いけど...今夜は風呂上がったらマリンともう寝ようと思う」
「...へ?」
「俺に聞いて貰いたい事があるらしい」
照れ臭そうに鼻を搔くクラウドは、実は女の子である彼女から添い寝のおねだりをされる事はあまりない。喜びが滲み出る正面の顔に、ティファの全身の力が抜けていく。そして徐々に頬にも血色が戻っていった。
「ああ、きっと学芸会の件ね。マリンったら凄いの、主役よ主役!クラウドに覚えた台詞聞いて貰うんだって、張り切ってた!」
「へぇ、そいつはやるな」
突如として明るく戻ったティファにクラウドは別の意味でも微笑みを見せる。「じゃ、私はデンゼルと寝よっかな?」とベンチシートでくつろぐ彼に目配せすると、「むっ...無理!!」とデンゼルは耳まで真っ赤になる。予想通りの反応を大人達はクスクスと笑った。
「ごめんな、遠征明けなのに」
「しょうがないなぁ、許してあげる」
抱き寄せられ頬に口付けを受けると、尖っていた神経が緩んでいくのを感じる。ベッドに潜り込むとティファは一人きりの孤独も忘れ安らかに瞼を閉じた。ほんの...ほんのちょび〜〜っとだけ寂しいけど、でもやっぱりホッとしちゃった。そして笑んだまま瞬く間に眠りに落ちていったのだった。
「ね〜え、クラウド?」
“おはよう” にも先立つ声かけに振り返ると、頬に人差し指がムニッと刺さった。
「わっ、やっぱりクラウドもプニプニ!ねぇ、触ってみて」
骨張った両手を取り自らの頬を包ませる仕草にクラウドはドキっとする。興奮のあまり意に介さず「ほら、お肌プルプル!」と喜ぶティファが愛らしくて、笑みが溢れた。まさかあの亀に腹を満たす以外の機能があるとはクラウドは思いもしない。
「疲労回復にも良いらしいわよ」
「ふぅん。確かに今朝はいやにスッキリ起きられたな」
言われてみれば疲れが取れた気がすると首を回すクラウドの鼻をつつき「そりゃ八時に寝てればね」とティファは上機嫌だ。クラウドから見ればティファはいつでもすべすべのモチ肌だが、それでもコンディションが良いのは喜ばしい事らしい。大喜びの様が気に入ったクラウドは「見つけたらまた買ってくるよ」と申し出る。だがティファははたと動きを止め一転言葉に窮した。
「ん?うん...でも...」
「なんだ?何か気になることでもあったか?」
「あ、ううん。いや、えっと...高いんでしょ?アレ...」
金のかかる趣味と比べ小銭に過ぎない出費をクラウドはさらさら気にしない。気い使いを安心させるため、「まぁ、大仕事の後のご褒美だな」と茶化すがティファに笑顔は戻らない。昨日からの浮き沈みの激しさにクラウドはいよいよ怪訝そうに眉を寄せた。
「なんだよ、あの亀他に何かあるのか?そう言えば買った時 “奥さんが喜ぶ”って言われたんだけど...」
顔色の悪かったティファは、今度はみるみる真っ赤に染め上がっていった。
まだ陽の昇り切らない早朝、市場が開くと同時にクラウドは屋台で大欠伸をする親父の胸ぐらを取っ捕まえる。
「おい。こないだ売りつけてきたカメ、一体どんな食材なんだ」
そのためだけに夜明け前から大陸を横断してきた血走った眼に店主は縮み上がる。そして良く知られたものから順に説明をしていった。
一仕事を終え無事に腹落ちした彼はフェンリルに跨りゴーグルを装着する。表情を隠すためにこの装備が役立ったのは初めてだった。
“しっ...”
顔に出やすいティファはあの後、逆効果な制止に必死だった。
“...調べちゃダメ!!!”
(あんなの、調べてくれって言ってるようなもんだ)
一連の挙動不審を今になって振り返れば滑稽さに笑いが込み上げてきて、堪えきれず片手で口許を押さえた。慣れた手付きでフェンリルのエンジンをふかすと同時に妄想も走り出す。そうだな、次も最初は何でもない風に装って...
“肌の調子はどうだ?”
“あ!...ん、まだに決まってるでしょ...”
“そんな事ない、ちゃんと効いてる。ほら、こことか...”
“ふ...あ...!”
見応えのある反応を堪能し尽くし、いよいよその時に種明かしをするか。
“はっ...あ...ティファ、どうだ?...いつもと違うか?”
“...!クラウド、なんで...。やだもう、意地悪...”
“あんなに動揺して...期待してたんだろ?いやらしいな、ティファは”
“きっ...期待なんかしてないもん!”
抵抗しようにも既に身体が繋ぎ止められている彼女が出来る事は、目を逸らすか手で赤面した顔を覆うくらいだ。そしてクライマックスに向け耳元で決め台詞を吐く。
“お望み通り...今夜は沢山イカせてやるからな”
(そして、“バカ...” みたいな、な...)
風に吹かれ一人芝居にふけるクラウドの横顔に煌めく朝日までが当たり、一見スカした風の絵が見事に出来上がった。
“やだなぁ、旦那。迷信ですよ、迷信”
効き目がなかったクレームと勘違いをした先の親父の発言。クラウドとしてもティファを虐めるのが目的で実際には大した事など起こるまいとタカをくくっていたが...
(でも、何かあったりして...)
その時は...ティファ、覚悟しておけよ。バイクの加速と共に海の向こうに送られた熱烈なメッセージに、勘の良い彼女は悪寒に身を震わせた。
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ヌッポンはスッポンの百倍効くらしいです!
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