Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
Oh, Captain! IV
シドの余計であったようななかったようなお節介。
クラティ結婚後です。
クラティ結婚後です。
Oh, Captain! lV
クラウドの帰宅時間は概して遅く、出張も多い。それは彼が正式な家庭を持った後でも変わる事はなかった。営業上手ではないとはいえ、確実な任務の遂行と実直な人となりは客を引きつけ、事業は着実に安定さを増している。彼としても妻との時間をもっと設けたいとは思いつつも、一家の大黒柱としての責務も重要とこの生活スタイルを改めるつもりは無かった。
『くれぐれもシエラにお礼忘れないでね。シドにもよろしく』
『ああ。わかった』
したがってロケット村への遠征の折、少々強引なところのある友人に取っ捕まって外泊が一泊伸びると報告を受けても彼の愛妻は特に動じない。通話を終え旧友宅のリビングに戻ると、仲間内きっての酒好きはクラウドの訪問を言い訳に陽も沈み切らぬ時刻にも関わらず瓶ビールを早くも開けようとしている。
「あん?お前、ピッチピチの若妻がそう何日も男なしで耐えられると思うなよ」
夜も更け酒も回りだした頃、クラウドの働きぶりを知ったシドは人生の先輩として警報を鳴らす。
「女ってのは大人しそうな顔してケロっととんでもない事しでかす化け物なんだよ。ましてやお前んとこのなんて日々誘惑まみれだから...」
キッチンに立つ、まさしく “大人しそうな顔” の持ち主であるシエラの横顔をクラウドは盗み見るが、まさか彼女が何をしでかしたかなど聞けやしない。この艇乗りが酔うと更に口が悪くなるのは常であったし、ティファの純潔を信じきっているクラウドは悠々と酒を煽っていた。
「...子供達がいる」
「ガキなんざ8時か9時にはお寝んねじゃねぇか。今頃 “今夜は夫は帰って来ないの。ゆっくりしていって?” な〜んて盛り上がって...」
品のない口真似でティファを侮辱されムッとなる。シドがチラリと目配せした壁掛け時計の針がまさに我が子達の就寝時刻を刺していた事にも胸がザラリと撫でられた。そういえば、もう何日家に帰ってないんだっけ。
大口の配達に夢中になり家庭が疎かになっていた事に気付き内心ヒヤリとする。でもティファもこの受注をかなり喜んで...そう、寂しがる事はなく喜んでいた。心にモヤっとかかる雲を振り払うようクラウドは手元の酒を飲み干した。馬鹿馬鹿しい...
「絶対に、あり得ない」
少しもしおらしい態度を見せない若造に高慢な親父はカチンとなる。だが断固たる口調の裏にほんの少しの動揺も読み取った。フットワークの軽い彼は、しこたま酔っ払った自分に代わる運転手を手配するため、使いパシリのクルーの一人を呼び出すため携帯電話を取り出した。
「いいぜ、今から超特急で送ってってやる。そしたら数時間後には帰れるだろ。抜き打ちチェックしてこいよ」
「うぐ...これは...」
酒と乗り物酔いが混ざり合った胃袋を押さえ、クラウドはフェンリルを駐車するとヨロヨロと裏口に手を掛けた。勝手口を開け廊下を進むと薄く開いた洗面所の扉から明かりが漏れている。中には人の気配があり、やや籠もった聞き慣れた声が聞こえてきた。
「大丈夫、今夜夫は帰って来ないの。だから...泊まっていって?」
瞬間、全身を硬直させたクラウドは高鳴る心臓もそのままにゆっくりと目の前の戸に手をかける。そっと開いた先には洗面ボウルにグッタリともたれた若い女と、彼女の背をさすり介抱をするティファの姿があった。
亭主の一日早い帰宅にも関わらず、明くる朝のティファはご機嫌斜めだ。
「疑ってたんでしょ」
「まさか」
1分で済む連絡を怠りバイクを無音で止め、必要以上に気配を殺し忍び寄ってきた顔面蒼白の男の心中などお見通しである。
「ティファに限ってそんなことある訳ないだろ」
クラウドはそう言い華奢な腰に手を回し唇を掠めとろうとする。寄せられた唇と唇の間にティファの人差し指が差し込まれ、仲直りの口付けは「でも...」とすんでのところで阻まれる。
「あんまりほったらかしだと、どうなっても知らないんだから」
鼻先の妖艶で挑戦的な表情にクラウドの体はスッと温度を下げる。
「...なんてね。冗談だよ」
茫然とする男の鼻の頭にチュッとして、ティファはスッとクラウドの両腕から抜け出した。籍を入れた後にも関わらず、一晩であっても彼女を手に入れたいと夢見る不届者は後を絶たない。そして平和な生活に安心しきっているクラウドへの不満を仄めかす一言。いつだって油断している時に悲劇は起きるんだ。腕に虚しく残された冷たい空気にクラウドは心を入れ替える。
(もう少し、ちゃんと帰って来ようかな...)
そう決意させるほど、深夜自宅にて暗闇の中響いた衝撃的な台詞は彼の中でそこそこ印象に残ることになった。
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