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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Baby, once more 4

Baby, once more 3、の続きです。

※引き続き、水害発生後のシーンが含まれます。



Baby, once more 4


“...ティファ?”

一切の雑音のない、静寂の支配する空間。朦朧となり下へ下へと沈んでいく意識と、痺れて力の入らない手足。だが鉛のように重たい全身に鞭を打ち、感覚を取り戻そうと一心にもがく。指先がピクリと動いた。艶のある澄んだ声。この声は知っている。だって、私ずっと。ずっと......!

「ティーファ」

別れた時と何ら変わらない茶目っ気たっぷりの翡翠色に覗き込まれる。せっかく視界が捕らえた姿形はすぐさまジワリと滲んでいった。

「エアリス...。エアリス、エアリス...」

夢中で伸ばした手は白魚のような指にしっかりと絡め取られる。一回り小柄な肢体にしがみつき、堰を切ったように泣きじゃくった。

「どうしてもっと早く会いに来てくれなかったの。どうして、どうして...」

どうして、私達を置いて行ってしまったの...

「ティファ、会いたかった...」

エアリスに頬を擦り寄せられ、それに応えるようティファも鼻先を首筋に埋める。だが豊かな栗毛から漂う懐かしい香りを胸一杯にしたため感傷に浸るのも束の間、「それはそうと...」と肩に手を置かれ無情にも引き剥がされた身体。目前でニッコリと微笑む目は見るからに据わっている。ティファも思わず溢れ出る涙を枯らした。う...これは...。怒ってる...

「私が生きてたら、私とクラウドが結ばれてたって!?」

手加減なしに放たれた直球に胸を射抜かれたティファは堪らず項垂れ目元を覆う。エアリスは腰に手を当て、ちっとも怯む気配がない。

「そんなの...誰にもわからないじゃない!!」

眉を吊り上げながら言い切られた宣言にティファは今度はポカンと呆気にとられた。

「私、諦めなかったと思う...もし生きてたら。ちょっとしたもしもで未来なんて簡単に変わっちゃうんだよ?この世にザックスとティファしか存在しなかったら、二人だって恋に落ちてたかもしれないし。うん、きっとそうに違いない!」

そんな極論と比べられても...
曲がりなりにも現恋人という立場の人物に気兼ねすることなく飛び出た説教は、怒りを孕みつつも底抜けに明るい。ティファは内から込み上げてくる感情を堪え切れず、それは喉元で決壊した。

「あはははは!」

お腹を抱え、「うん、確かにエアリスの言う通りだね」と緩みっぱなしの涙腺を押さえる。無責任なおべっかや慰めなどでは誤魔化さない、一緒に旅した聡明な彼女そのままだった。

「好きな人の前で自分らしく振る舞えないなんて、ちっとも変じゃないと思うよ」
「説得力ないなぁ」
「あれ、こう見えても私だってドキドキしてたんだよ?」

「ライバルには弱みなんて見せられないから、何でもない振りしてたけど」とティファの鼻の頭を人差し指でチョンとやる。「やっぱり...説得力ないよ」ティファはそう呟いてガラス玉のような翠色を見つめ眩しそうに瞳を細めた。「見ての通り、すっかりドロドロ...」全てをお見通しのエアリスに、ティファは肩を落とし正直な弱音を吐く。エアリスは顎に拳を当て暫しの間考え込んだ。

「そうだね。ティファはクラウドとたくさん喧嘩して、嫌なところも全部見せ合って、歳だってとるし、最後にはよぼよぼのお爺ちゃんとお婆ちゃんになって...」

ティファは「あ、ヒドい」と頬を膨らませる。そんなティファを横目で笑いエアリスは続けた。

「でも、辛い時は励まし合って、色んな楽しいこと沢山して、笑って笑って...笑い過ぎて皺くちゃになるくらい...」

良く通る声が掠れていき、ティファはハッと息を飲む。

「私も...好きな人と一生を添い遂げてみたかった...!!」

彼女が涙を流すのを見るのは初めてだった。「私、親友失格だね...」伸ばした手は寸前で思い止まり行き場を失う。目の縁を赤らめティファを睨みながらもエアリスは調子を取り戻す。

「そうだよ。クラウドがティファをずっと好きだったってわかって、結構ショックだったんだから。こっちが慰めて貰いたいくらい」

プイと横を向くコミカルな仕草に自ずと口角が持ち上がる。敵わないな、本当に。一瞬で場の雰囲気を塗り替えてしまう力強さ。会えなくなってからもクラウドと私を支え続けてくれた力。「悪いと思うんなら...」凛とした声は続ける。

「私の分まで、生きて」

突きつけられた厳しい要求から目を逸らしたくなるが、グッと堪えた。過酷な宿命に振り回されてなお、生きる者を鼓する勇敢な彼女。先程から目は諦め悪くエアリスの容姿の変化を探し続けていた。自らと違い二年前と寸分も違わないにも姿に関わらず、あの時から時間が止まったままなのは自分だった気がする。彼女の方がずっと現実を見つめられていた。

「私、何も言わないよ。二人の間に何があったかなんて、私は知らないし。それに恋愛って二人でするものでしょう?ティファが自分で見つけなくちゃ。クラウドの気持ち。自分の気持ち」

クラウドの...気持ち。...自分の気持ち?
彼とよりを戻すよう主張されなかったことにほっとする。しかし同時にもしかしたらより具体的な助言が貰えるものとも期待していたようだ。しっかりしなきゃ。自らの両頬を力強く叩きたい衝動に駆られる。彼女の言う通りだと思った。この期に及んでまだエアリスに頼る気だったなんて。

エアリスは大きな瞳を涙でそぼ濡らせたティファの頬を撫でる。同い年になっても妹のように愛おしい友人がきちんと道を見つけられるよう祈りを込めて。一緒に生きたかった。それが叶わなくても、幸せを願う気持ちは変わらない。敢えて突き放すような態度を取った理由は限られた時間で伝えきらなきゃならないから。その時ふと感じ取った予感に、エアリスは動きを止め密かに唇を噛み締める。ごめんね、ティファ。嘘を許して...

「また...会いに来るね。その時には仲直りしてなきゃ、許さないから!」
「エアリス!?」

輪郭がぼやけ背景に溶け込んでいく身体にティファは必死に腕を伸ばし縋り付いた。

「私、“思いっきり気にしちゃえ”って言ったんだ。お別れの時、クラウドに。ティファも...思いっきり気にしちゃえば?」
「嫌だ、行かないで!...エアリス!!」
「ティファ、これだけは忘れないで。二人がどうなったとしても、何が起こっても...」

ティファ、あなたのことが...

「エアリス...」


――大好きだよ...





...ティファ......ティファ!...

「ティファ!」
「......ん、ん...」
「ティファ、気が付いたか!?」
「う......ん、クラ...ウド...?」

真っ暗闇に聞き慣れた声だけが響く。遠のいていた意識が戻ったことに安堵するクラウドは、引き続き予断を許さない状況に声調を引き締めた。

「ティファ、怪我は?痛むところはないか?」
「平、気...」
「そうか。よかった...」

グラつく頭でなんとか経緯を辿る。「私、プレートの倒壊に巻き込まれて...」と手繰り寄せた記憶に「ああ」と相槌が重ねられた。重しを乗せられた手足に力を込めてみるが無駄に終わる。覆い被さるようにティファを庇っている体がのしかかる瓦礫を払い退けようと再三試みた後であるのは明白だ。

「クソっ、武器かマテリアさえあれば...」

そう舌打ちする彼がどれくらいの時間この状態を耐え忍んでいるかはわからない。「は、あ...」苦しそうな喘ぎ声と共にポタリと頬に落ちた生臭い液体にティファはギクリとする。

「クラウド、血が...!」
「このままずっとってなると、ちょっとヤバいかもな」

漆黒の中クラウドが不敵に笑った気がした。余裕ぶった口ぶりは強がりを存分に含んでいるに違いない。両脇に突き立てられた腕が力を込め直す度、ポタポタと降り注ぐ血潮。ヌルリと濡れた前髪を掻き分けベタつく額を拭ってやると、暗さに慣れてきた目に心地良さそうに細められた双眸(そうぼう)が映る。

懐かしい肌触りに指の腹はジンとなる。こんな状況にも関わらず心は穏やかだった。このまま二人息絶えるのもいいかもしれない、なんて考えまで浮かぶ。進んで距離を置いていた彼は、今こうしているとやはりどうしようもなく愛おしかった。どうしてこの温もりだけで満足出来なかったんだろう。いつしか足りないものばかりに目を向けるようになって。危機にはこうして無条件で飛んで来てくれる、なのにどうしてそれだけじゃ...

「なぁ、マリンの質問覚えてるか?」
「え...?」

出し抜けに振られた話題には意図するところが掴めない。「相当ショックだったぞ、アレは」と恨み深いクラウドに「ごめんってば」と謝るも、あの回答がどう彼に不利益をもたらすのかは今一つわからなかった。

「生まれ変わったら、か。笑えない状況だな」
「...クラウドは何になりたいの?」

「そうだな、このままくたばるくらいなら教えてやるか」冗談めいた口調に彼も同じ思いなのかもなんて考え、フッと笑う。

「俺は十六になるまで自分のことが大嫌いだった」
「...え?」

もっと言ったら、ティファと再会する直前の記憶のあやふやな時期だって...生まれてから大人になるまでずっと。

「臆病で意気地なしで、なのに人のこと見下して...毎日が虚しかった。全く別の誰かに生まれ変わりたいって、いつも願ってた」

あの朗らかで強い、憧れのソルジャーの様な人に。
何かを言いかけたティファをやんわりと制し、クラウドは続ける。

「でも今は違うんだ。ティファ、昔 “約束守ってくれた” って喜んでくれただろ。俺、あの時ほんの少しだけ自分のことを好きになれたんだ。だから生まれ変われるなら俺はまた俺になりたい。なんとか根性なしを直して、今度こそザックスとエアリスを救いたいんだ。そんなの叶わないってわかってるけど、そう願ってないと、俺...」

耳慣れない掠れ声は胸をキツく締め上げる。血液とは違う、生暖かい雫がティファの頬で弾けた。

「クラウド...もういいよ、わかったから。もうわかったから...」
「だからティファも、もう一度生まれ変わる時はティファでいてくれないか?そして俺のこと、一番近くで支えて欲しい」

他人の想いを正確に計り知ることはそもそも不可能なのだろう。そうであってもこの切実な訴えから顔を背けるのはやめよう。二人の並んだ背中に...彼女に向けられた横顔の中にばかり追い求めていたクラウドの真意。でもきっと私は別の姿も知っている。それは認めてあげなくちゃ。だって私は誰よりも彼と長い時を過ごしてきたんだから...

「ごめんな、俺は何一つ肝心な事を伝えてこなかった。酷い事を沢山した。ティファが不安だったのも知っていた。それなのにいつも甘えてた。ティファが笑ってくれるから...毎日一緒にいてくれるから...」

「頼むから、何も出来なかったなんて言わないでくれ。ティファは俺にとってただ一人...」クラウドの体力が尽きるのと、救助隊の呼び声が遠くで微かに上がったのは同時だった。上方の大岩が押しのけられ一筋の光が差し込んだ。「おい、ここだ!ここに人がいるぞ!!」そう明瞭に届いた叫びに力が抜け崩れ落ちた体を受け止める。



体中に巻かれた包帯と、そこかしこから這い出るチューブ。ベッドに横たえられた痛々しい姿から目を背けるようにマリンが膝に頭を押し付けてくる。

「ティファはクラウドのこと、嫌いなの?」

弱々しい涙声が薄暗い病室に響く。「大好きだよ」髪を撫でるが、そこに笑顔は戻らない。

「クラウドだって、ティファのこと大好きだ」

ベッドの柵に手をかけ背を向ける少年の肩は震えている。

「二人とも好きなのに、なんで一緒にいられないの?」

スカートが濡れるのも構わず押し当てられる潤んだ瞳に返すべき言葉は、まず一番に彼に告げよう。電灯を点さない部屋は窓の外の方が大分明るい。長雨の季節はもう終わりを遂げる。





Baby, once more 5、へ続きます。


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