忍者ブログ

Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Baby, once more 3

Baby, once more 2、の続きです。

※水害発生シーンが含まれます。本来なら表現を変えるべきですが、力不足で至らず申し訳ございません。お亡くなりになられた沢山の方々のご冥福をお祈り致します(2018.7.19)



Baby, once more 3


「可愛い...」

ダイニングに備え付けられた戸棚の上に重ねられていたアルバムの一冊を開き、目に飛び込んできた人懐こい笑顔に呟く。

「ああ、それね。待っててね、今お茶を淹れるから」

休憩を促してきたエルミナはキッチンへ向かうと慣れた手付きでティーセットを棚から出し始めた。テーブルの上を片付け、手伝いをするため後を追う。

エルミナと共に佇むその場所は、旧伍番街に位置するエアリスの家。死病の蔓延に終止符がうたれた今、WROは手付かずだったミッドガルの廃墟の整備に着手しだした。路上を埋め尽くす建築物の残骸は撤去され、エッジから程近い参、四番街を中心に住み慣れた土地へと回帰する動きも広がっている。プレートの隙間から不思議と陽が差し込む、スラムらしからぬこの地域にもその波は及んでいた。

夫と娘との思い出の場所を維持したい、そう相談を持ちかけられたのはそんな時であった。初めて訪れた際は半分土に埋まった玄関は諦め、窓からの侵入を余儀なくされる。幸い室内に目立った損傷はなく、奥へと進んだ先の窓一面に広がる裏庭の花畑には二人息を飲み、見合わせた互いの目には涙が浮かんだ。

「お友達と写ってる写真が少ないでしょう」

紅茶を口に含み遠い目をするエアリスの義母。神羅の監視が常につきまとう、いわくつきの少女。例の稀有な能力ゆえ厭われることもあったらしい。

「あなたともっと早くに会えてたら良かったわね」

環境の特殊さに内に籠る性格も加わり自分も友達は多くなかった。旅を終えても永遠に共にあると信じて疑わなかった、初めての心からの友人。彼女を失うという制裁を受け、憎しみに囚われていた心は痛恨の学びを得た。

空になったティーカップを弄び、言い出し辛いお願いを口にする。数度に渡る片付けで家屋は昔の面影を取り戻していたし、ここには電気もガスも通っていた。

「それは別に構わないけど...」

眉尻を下げるエルミナは案ずるも、思い詰めた表情に深入りはしないでいてくれる。深く寄せられた眉間を肩身の狭い思いで見つめる。私、彼女と同じ人を好きになったんです。

「すぐに戻るんだよ、エアリスが心配するからね」

親友で、いたいんです...



数十メートル先から屋内を窺うも、準備中の札がかけられたそこは無人のようだった。エッジでの配達の度、時間を見つけては自宅へと赴く。ティファは昼の営業は通常通り行っていたが、夜は店を閉め子供達と夕食を食べ終えた後は再びそこを出て行く。そんな日がもう何日も続いていた。

電話をかければ繋がるし、お互い正常な判断力を欠いている訳でもないが、ティファは説き伏せには全く聞く耳を持たない。頑なな態度には自らの行いを見つめ直さざるを得なかった。古い友への恋慕を疑われ一時は憤慨したが、果たして正しかっただろうか。“一緒に行きたい” という正論を性懲りもなく受け入れない理由は何だ。友情と愛情を履き違えてるのはむしろ俺の方じゃないのか?

――ティファが自分以外のオトコのところで死んだら...

はぐらかした答えは、“絶対に許せない” だった。相手が誰であろうと、どんな事情があろうと。それ以上に、どれほど思い描いても想像の産物は非現実の域を出ない。ティファはそんな不誠実をするくらいなら別れを選ぶだろう。それくらい彼女は廉潔で、真っ直ぐだった。...じゃあ、俺は?そこまでを結論付け、我が身を振り返る。あの時の俺にそこまでの決意はあったのか?

あからさまではないにしろ、所々で発されてきたSOSを見当違いなものとして蔑ろにあしらってきた。今回の事がなければ俺は教会へ通い続けていただろう。死に別れた旧友には寛大にならざるを得ない弱みにつけ込んで。それは一途に愛を注いでくれる相棒に対し、あまりにも不実だった。二人の友好を利用し、誰よりも踏みにじっているのは俺に他ならない。

明日俺達は久しぶりに顔を合わせる。彼女からの誘いは一つの結論に辿り着いたという意思表示だろう。決して明るくないであろう決断には俺も誠意でもって対応しなければならない。

とその時、遠く離れた先でドォン!と地を揺るがす爆音が鳴り響き、噴煙が舞い上がった。

「なんだ!?」
「ミッドガルの方で...」

騒然となり沸き立つ道端の群衆。...“ミッドガル”?
ティファの正確な居所は知らない。だが確かエッジではなくミッドガルと言っていた筈だ。手汗の滲む拳でハンドルを握り直した。



「ん、気持ちいい...!」

梅雨明けへと向かう、まだ若干くすんだ空に腕を突き刺し豪快に伸びをする。元々体を動かすのは好きだ。久々の重労働に汗を流し、鬱屈した思考は健全さを取り戻していく。寝泊まりをしているここでは力仕事は山のようにあった。エッジ建設の当時と似通った風景。だがあの頃と比べものにならない程人々の顔は希望に満ち溢れている。最低限のものではなく、より人らしい生活を求めて。

この街は黎明期を迎えようとしている。衣食住に困る人間は近い内にほぼ姿を消すだろう。そしてここミッドガルは、今度こそ緑をたたえた人々の真の故郷へと生まれ変わる。それに伴い何か別のやるべき事を探したっていい。この数年来こだわり続けてきた呪縛とも呼べる感情を見つめ直すと、思いもよらなかった視点が沸々と湧いてくる。

絶対に離れない。そう堅く信じ、願っていた。そんな執着がもたらしたものは必ずしも良いものばかりではない。自尊心が低く、恋愛経験の乏しい自分はまんまと落とし穴にはまっていく。

“生きてるモン同士がくっついて何が悪ぃんだ”

自らを鼓舞するためにかけられた戦友からの励まし。“彼女がいたのなら、そこにお前の居場所はなかったのに” それをそう解釈する私はどこまで捻くれているのだろう。囁かれる意地悪が周囲から発された事はない。いつも内なる自分の声だった。一年前、彼の気持ちがこちらに向いていない事を悟ると私はある予防線を張り始める。

――多くを求めるのはやめよう

常に顔色を窺い、家に帰ってくるだけで満足だと言い聞かせる。何が家族だろう。過去を振り返り、最も家族らしくない振る舞いをしていたのは他でもない自分だった。衝撃を受けたのは、今回の事が生活が落ち着きを取り戻した大分後になって起こったこと。私達の関係は目に見えて改善していた。時が解決してくれると甘くみていたが...そうではなかった。

「欲が出たんだろうな...」

笑顔を向けられて、全てが欲しくなったに違いない。でもきっとそれは間違っていない。対等でない関係など、長続きしっこなかったのだ。だがいくら胸を張り堂々とぶつかるよう諭しても臆病で盲目な自分には届かない。その方法も...知らない。それでも...理想とはかけ離れていても、生まれて初めて本気になった...必死に守りたい、大切な恋だった。

恋...“だった”。

無意識に選びとった時制にその考えは徐々に現実味を帯びていく。連日ひた向きに説得を重ねてくれるクラウド。

――ティファが大切だ。何よりも...誰よりも

明確な言葉があれば、もしかしたら...期待に反して心は動かず落胆している。反射的に沸き起こる抗弁は決まって同じ。“だったら、どうして...”

かつて彼に伝えた台詞を改めて痛感する。言葉なんて、本当に無力。彼があの時自分ではない別人を求めたという現実以上に揺るぎないものなどない。後を絶たない逢瀬を駄目押しの一手に気付かされる、根強い遺恨。そもそも許してなんかいなかったのだろうか。クラウドが家族の一員として復帰した高揚感の陰でただ鳴りを潜めていたに過ぎない黒い嫉妬。

まだ家には帰れない。あそこへ戻るには、彼を完全に信頼しなければ。数年を費やしても成し遂げられなかった責務が重くのしかかる。疑いを残したままでは毎日を騙し騙しやり過ごす事は出来ても、限界に気付いた今は長くはもたない。

――急にじゃない。ずっと思ってた。貴方と暮らしてる間、ずっと...

積み上げてきたもの全てを破壊しかねない暴言。彼だって、もう私のこと信じられないよね。最初の内こそ奮闘してくれるかもしれないが、日々平身低頭し続け、やがて本心を隠す私に不信感を抱き、彼は遂には疲弊していくだろう。解決には相互に歩み寄らなければいけない。なのに最悪と言えるまでに悪化した状況を挽回する気力が湧いてこない。これ以上謝られるのも気が重たかった。そしてもしこのまま気持ちが上向かないなら...

網膜に焼き付いている、悲壮な色をたたえる瞳がチクリと胸を刺す。

「一度は...手放せたものじゃない」

なくなったって、生きていける。笑顔で受け入れておきながら、こんなにも根に持ってる。私なら愛する人の側を黙って去ったりはしない。その点、彼の気持ちは自分のものより結局は弱いのだと思っていた。それを口実に別れを切り出すのは、置き去りにされた者の権利であるとも。

――エアリスさんの星とクラウドさんの星、素敵な未来が約束されて...

過ごした時間の短さを物ともせず、どこか運命的なものを感じさせる二人だった。彼女だけが彼の窮地を救えたという事実は新たな悪循環を生み出し、以前にも増しやはり二人は一緒にいるべきだったと確信している。自分ではなく、彼女が居てくれれば全てが上手くいったのではないかと。今後もそう盲信しながら生きていくのだろうか。そんな劣等感に苛まれるだけの人生は御免だ。

「ずっと、一人で生きて来たじゃない」

相手がいるからこそ弱くなる、自らの女の部分を嫌悪する。店のことも、子供達のことも...完璧には遠いが楽しみながらこなせていると思う。ただ一点、クラウドだけが克服出来ない弱点であり、途端に自分らしい振る舞いは破綻してしまう。彼の記憶の中に住まう故郷の少女はどんなにか明るく自信に満ち溢れていただろう。真実の姿を知り、失望しただろうか。この二年の間、クラウドがどんどん冷たくなっていったのもそんな私に愛想が尽きて...

「違うよ...」

行き過ぎた被害妄想を消し去ろうと頭を振る。当時の彼は心に問題を抱えていただけ。無闇に私を傷つけたかった訳じゃない。ともすれは過剰なまでに坂を転がり落ちる思考回路にほとほと嫌気が差す。この心はすぐにクラウドとの温かな思い出をなかった事にしてしまう。

――だって証明出来っこないじゃないか。エアリスはもう...!

身の毛のよだつ発想が胸を押し潰す。私は彼の気持ちを確かめる為に彼女に生きていて欲しいの?そんなはずない。私達の関係は、決してそんな悲しいもののはずじゃ...

またしてもぬかるみにはまりだす脳内を追い払うよう、勢いよく立ち上がり休息を切り上げた。雪崩れた砂に埋もれ曖昧になった隣家との境を垣根でもって隔てていく。上空に錆びついたプレートの名残りが突き出た下で空気を裂くように上がった機械音に、遠方に目を凝らした。

「あの人達...」
「ああ。急く気持ちはわかるけどねぇ、見てて冷や冷やするね」

共に作業に勤しむ隣人も渋い顔をする。バリケードで囲われたその地帯は昨日から雨の影響で立ち入り禁止区域となっていた。住人が持ち込んだチェーンソーや爆薬は容赦なく古びた鉄筋を振動させる。手元を動かしつつもティファは危うい状況をハラハラと横目で追った。小一時間ほど経過した時、斜めに傾いたプレートの上にそびえ立つプレハブの位置にギクリとする。気のせいじゃない...

背負った鉄筋造の構築物の重みに耐えかね、その脆い建物はジワリジワリと地上へ向かって滑り落ちていた。最後の支えとなっていたフェンスがメキメキとちぎれ、大量のコンクリートが人々の頭上へ注ぎこまんとしている。

「逃げて!!」

声を張り上げるのと、崩れ落ちた土砂の先駆けが降り注ぐのは同時だった。

「ダメ!そっちに逃げちゃ...!!」

一瞬にしてパニックに陥った現場は第一陣が誤った方向に逃げ出した事により最悪の事態へと陥る。誘導のため駆けつけたティファ一人に混乱を極めた場を収拾する力はない。途方に暮れ揺らめく瞳に、取り残され泣き叫ぶ幼子の姿が飛び込んで来た。迷わず駆け出したティファは背に当たっていた陽の光が巨大な影により遮られたのを感じ取る。

「はっ...!!」

一連の衝撃に堪え兼ね一帯を覆うプレート全体が崩落を起こし始めていた。背後へと迫り来る鉄の塊に、進む方向を考えあぐねた足は迂闊にも止まってしまう。

――ティファ!!

切羽詰まったなか誰のものともわからないそれは、酷く懐かしい声だった。





Baby, once more 4、へ続きます。
PR
  

最新記事

(12/31)
(12/31)
(08/11)
(05/03)
(05/03)
(05/03)
(05/03)

WEB拍手

Copyright ©  -- Minority Hour --  All Rights Reserved

Design by CriCri / material by DragonArtz Desighns / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]