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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Kiddy Love 5 (fin.)

Kiddy Love 4、の続きです。
片想い編、完結です。ご閲覧をありがとうございました。



「いたいた、お手柄高校生!」

ポンと肩を叩かれ少年はまたかとげんなりする。ここ数日、同様の冷やかしの嵐で耳にタコだった。

「ちっす...」

挨拶もそこそこにそそくさと下駄箱へと逃走しようとすると、何か用件があったらしい年上のマネージャーは含み笑いをする。

「クラウド、あの子ちゃんと来たから」

意味を理解出来ずにクラウドが首を傾げると、「謝りに来たの。私に、直接」と与えられた追加の情報に驚愕の事実に思い当たる。

「何やってんだアイツ...」
「ほぉんと、仰天したわ」

クスクスと肩を震わせ思い出し笑いをするエアリス。口元に当てられた右手の薬指に光る、高校生にしては大人びたアクセサリーが何時になく目に付いた。彼女が肩を震わせるたびにキラキラと輝く銀色に向かって指を伸ばす。

「それっていくら?」
「はぁ?不躾ねぇ。貰い物だもん、知らないわよ」
「数百円って感じじゃないよなぁ」
「何が言いたいのよ?」
「いやさ...」

一連の不可思議を掻い摘んで説明すると、恋愛経験に長けた一つ上の彼女はさも当然といった風に呆れ果てる。

「そんなの、決まってるじゃない」

続いて紡がれた言葉に、足はたまらず前へと歩みだした。


Kiddy Love 5 (fin.)


「護身用だったのにね...」

あれからスルスルと紐解かれていった過去。思えばある日突然連れて行かれた空手教室。

“不安だと思うけど、決まり事なんでね”

パパは警察に詰め寄っていたけど、五年前と違い実害のほぼない今回の被害は変質者を長らく拘束するには至らなかった。日々鍛錬を積んできたのに土壇場で動かなかった身体。何年も続いた執着。加え異常者がエアガンを携えていた事実に身が底冷えし震えが沸き起こる。

“心配いりません”

それを見越し、隣に佇む彼が手を握ってくれる。胸を覆いだす負の感情を、力強い声が溶かしていき震えは徐々に止んでいった。

“俺が毎日送り迎えしますから”



“そういうこと、普通本人に言う!?”

制服を返しにきたでもなく現れた少女にエアリスは目を丸くする。言わずにおけばバレもしない悪口を吐露し、平身低頭する下級生にエアリスはお腹を抱えて苦しそうだ。

“本当にごめんなさい!”
“...何か理由があったんでしょ?”

瞳に浮かべた涙を優しく拭い、おでこをツンとやり見透かしてくる。この人は本当に素敵で、それに大人だ。

“私の好きな人が...先輩のことを好きなのかなって...”

口に出すと情け無さと胸の痛みに襲われ声が掠れた。対するエアリスは身に覚えがない誤解に呆気に取られる。

“...クラウド?”

核心を突かれティファは目を白黒させる。彼が幼馴染と頻繁に下校している事実は部内で筒抜けだそうだ。一手も二手も先を行く冷静さにますます敵わない気にさせられるが、少なくとも彼女はクラウドの想い人ではない事はわかった。彼が誰が好きなのかははっきりとは知らないと言うエアリスは、朗らかな表情でちょっとしたエールを贈ってくれたから...

“勘違いだと思うわ”

今年に入ってから一年生のマネージャーがクラウドに思いの丈を伝えたそうだ。返ってきた返事は...

“『何年も』好きな子って言ってたらしいから”



頭の芯にジンと籠もった熱がおさまらない。それでも彼の素っ気ない態度を前にすると怖じ気付き、心は日々シーソーの様に揺れ動く。分かり辛過ぎるよ、クラウド。でも彼は昔から...

「ねぇ」

またしても掃除を怠り、窓辺で物思いに耽る。

「男の子が “守りたい”って思う子って...どんな子?」

ポツリと呟かれた質問に対する答えは「本人に聞いてみればぁ?」と少々意地悪だ。藁をもすがる思いのティファが泣きそうな顔になると、彼女の反応を十分に楽しんだ親友は堪えられず噴き出した。

「...なんて。そんなの、決まってるじゃない!」

続いた言葉に、気持ちはもう抑えられない。





高等部の校門前で息を切らせたティファと鉢合わせたクラウドは、彼女がそこに出向いた訳を推し量り、腹を括ったように溜息を吐くと腕まくりをした。

「どこら辺が怪しいんだ?一緒に探してやるから」
「中庭、剣道部のシャワールーム、二年生の教室...縦横無尽よ。つまり絶望的」
「シャっ...って何してんだよ!?」

元はと言えばクラウドのせいじゃない!とティファは頬を膨らませる。あの日自分に水をかけてきた面子として思い当たるのは、昨年秋の予選会場で食ってかかって来た剣道部の女子部員達。確かに言ったわ、“ただの幼馴染”って。でもただの幼馴染だって、好きになる権利はあるわよね?

「もういいの」

俯き、「その代わり、また頂戴。今年の夏祭りで」と震える声を絞り出す。これが意気地なしの精一杯。

「駄目だ」

耳に届いた拒絶の言葉に、足元を見つめたまま頭が真っ白になる。「俺、バイト始めるからさ。次はもうちょっと良いやつな」と遅れて耳に届く、照れ臭そうな早口。

「ね、ねぇ...私達って...!」
「待て」

目一杯開いた手のひらが顔の前に広げられる。

「悪かった。俺から言う」



「何してんのアイツら。ゴミ拾い?」
「落し物探し、だって」

いつも通り教室の前まで迎えに来てくれたザックスは、廊下の窓枠にもたれ高みの見物だ。

「で、どう?  ひよっこどもは?」
「上手くいったんじゃないかなぁ」

「手、繋いでるから」と微笑むエアリスは自らの両手を掲げ握手するみたく重ね合わせる。

「ふふ、可愛い。まだこっちの繋ぎ方」
「ああ、もうそれ一生忘れられない瞬間じゃない。甘酸っぱくて堪らないやつ」
「...ちゃんと覚えてる?」

悪戯っぽい瞳に応えるよう、その手を取った。懐かしさに駆られ、華奢な指先をそっと包み込む。

「当たり前だろ」



「本当は指輪より欲しいものがあったの」
「なんだ?」
「内緒」

ピシャリと言い渡されクラウドは閉口する。チラリと隣を行く彼のブレザーのボタンを盗み見た。どんなにねだったって、それを貰えるにはあと三年かかる。

「あーあ、何であんなに簡単にあげちゃうかなぁ...」
「いや...場の雰囲気で何となく...」

指輪と第二ボタンを勘違いをしている彼に内心不平を零す。“何となく” ねぇ。そんなものを後生大事にしていた自分が馬鹿みたいだった。

「男の子って、物に思い入れがなさすぎるわ」
「女こそ言葉が軽過ぎる」

幼馴染、幼馴染、連呼しやがって。クラウドも密かに独り言ちた。「言霊って言うからな、重々気をつけろよ」と唐突な警告をしてくるクラウドにティファは「何の話よ?」と訝しむ。

「禁止用語がある」
「何?」
「内緒」

悔しそうにグッと言葉を失う負けず嫌いに「ヒント。俺は一度も使ったことがない」と到底わかりっこない手掛かりを与えると、ティファは「ええ!?」と声を上げた。不服そうな彼女の態度をやりくるめようと手を握る力を強めると「絶対、当ててみせるから」とティファははにかんでみせる。隣を真っすぐに見つめてくれる眼差しに確信を得た。

長きに渡り互いを縛り付け、すれ違わせていた言葉。クラウドの要望がなくとも彼女がそれを口にする日は...おそらくもう永遠に来ない。


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