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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Kiddy Love 4

Kiddy Love 3、の続きです。



頭上から降りしきる飛沫に涙は紛れるも、心は土砂降りだった。助けを求めるように胸元に手を伸ばす。すると指先が感じ取った違和感にギクリとした。

......ない!?

シャワーを流しっぱなしにしたまま放心する。落ち着いて、最後に見たのはいつだっけ?昨日の五限の体育の着替えの時にはまだつけていた。その後高校に行って、水をかけられて...

明日の放課後の予定を変更すると共にもう一つやるべき事を見据え、深呼吸をして心を決める。


Kiddy Love 4


「ティファ、今日は部活休んでましたよ。なんか用事があるって...」

避けられてる、か...
部活を終えいつも通り彼女を迎えに行ったクラウドは一旦はそう思ったが、一人帰途に着き八時を回っても隣家の電気は灯る気配がない。いつまで経っても真っ暗な窓に焦燥に駆られる。なんで今時携帯さえ持ってないんだよ。思えば昨日はらしくなかった。どうしてあんなこと...

「もう後悔、したくないんだろ...」

どうせ一度は終わりを遂げた恋だ。嫌われてもいい。背に腹はかえられないと、携帯電話の連絡先を闇雲に押していった。





懐中電灯を片手に高等部の校庭の砂利を照らし続けるティファに背後からかけられた声は、彼女が今一番聞きたくないものだった。

「...何でここにいるってわかったの?」
「仲良い女いるだろ。そいつに聞いた」

どうしてここまでしてくれるんだろう。私のこと、恋愛対象なんかじゃない癖して。暗闇の中息を切らしたクラウドは「帰るぞ」とティファの腕を強引に引っ張る。

「ほっといて。一人で平気」
「何探してるんだよ」

抵抗を見せるティファの瞳に再びジワっと涙が込み上げてきた。

「...指輪」
「去年のお祭で貰ったやつ。クラウドから...」

玩具のようなそれでもティファにとっては心の支えだった。それなのに、クラウドから無神経に放たれた台詞に愕然とする。

「指輪って...何だそれ?」

「もう帰って!!」思わず大声を上げるティファの横にしゃがみ込み、ようやく何の事だか思い出した彼は呆れ声を出す。

「おい。数百円だぞ、あれ」
「わかってるわよ!」
「そんなに気に入ってたのか?」

そういうんじゃないよ。私があれを大切にしていた理由は一つじゃない...

「どこかでまた似たようなの買えばいいだろ。全く同じのは無理かもしれないけど...」

引き続き的外れなことを畳み掛けるクラウドに苛々を募らせる。痺れを切らした彼の手が腕にかかり、ティファを立ち上がらせようとする。

「ほら、もう諦めるぞ」
「...らないで」

「触らないで!付きまとわないでよ!!」その手をぞんざいに振り解いた。高ぶった感情に勢いは止まらない。

「クラウドなんて大っ嫌い!!!」

言い過ぎたと気付いた時にはもう遅かった。彼は「...わかったよ」と捨て置きとうとう踵を返す。そこにあったのは憤りではなく、幼い頃の面影を残した傷ついた顔だった。





「クラウド...?」

カサリと背後の物陰で上がった音に顔を上げるが、当然誰も見当たらない。流石に愛想が尽きちゃったよね。明日、ちゃんと謝ろう。フッと自嘲めいた笑みが溢れる。最近謝ってばっかり。ダメだな私、こんなじゃ...
時間を確認しようと校舎の時計を仰ぎ見た時だった。何者かに背後から口を手で塞がれる。

「...!!」
「アイツなら帰ったよ」

その声にゾワリと肌が粟立つ。

「覚えてる?」

心臓がバクバクと鼓動を打つ。続いてガッシリと回された腕にビクっとした。振り払おうとするも、足が竦み力が入らない。脳裏を埋め尽くす真っ赤な鮮血。子供が泣き叫ぶ声。

――誰か......誰か助けて!クラウドが!!

「ぐわっ!!」

男の悲鳴が上がるのと、地にドサっと体が転がる音が響いたのはほぼ同時だった。

「は、ぁ...」

そこには花壇に刺さっていたポールを振り下ろし男を吹き飛ばしたクラウド。クラウドは逃げる男を追いかけようとするが、へたり込んだティファの様子がおかしい事を察すると、思い留まりその肩を揺らした。

「誰か...誰か来て...」
「ティファ?」
「血が...!クラウドが死んじゃう!!」

ガタガタと震え頭を抱え込むティファにクラウドは息を飲む。ティファが何に囚われているのかを悟り、怯えて縮こまった身体をそっと腕で包み込んだ。

「ティファ、俺は死んでない。大丈夫だ」

その声を引き金に全ての記憶が蘇った。今しがた襲われたのはティファが幼い頃、近所に住んでいた一人の青年であった。今から何年も時を遡るその日、彼は明らかに目付きがおかしかった。男は人気のない場所にティファを連れ込み剥き出しの腕に触れてくる。嫌悪感と恐怖に身を固まらせた瞬間、後を追って来たクラウドが青年に飛びかかるも、彼は激昂した男に殴られ返り討ちに合ってしまう。倒れ込んだ金髪をドクドクと浸していく血。それが地面にもジワリと広がった時、ティファは無我夢中で叫び声を上げた。

――誰か...助けて!!クラウドが...!!

「クラウドはピクリとも動かなくて、集中治療室に入ったきり何時間も出て来なかった。おばさんがずっと泣いてた」

死んでしまうかと思った...
恐ろしい台詞を飲み込みティファはギュっと目を瞑る。どうして忘れてしまっていたのだろう。自分のせいで彼は生死の境を彷徨ったというのに。

「ごめんね、クラウド。ごめんなさい...」

思えばそれが彼と過ごした最後の時だった。涙で溢れる瞳でクラウドに問う。

「私が汚いから、嫌いになっちゃったの?」

彼は嫌悪したに違いない。あの汚らわしい手が這った肌や、自分がそういう対象で男性から見られた事を。

「何...言ってるんだ?」
「嫌だったよね?あんな目にあって...それに覚えてないの。私、あの人に何されたの?だから私とは一緒にいたくなくなっちゃったの!?」
「ティファは何もされてない。すぐに止めに入った。それに俺が勝手にやった事だ。そんなこと言うな」

クラウドは彼女を落ち着かせるため今一度その身体を強く抱き締め直す。

「じゃあ、何で私のこと避けるようになったの?あの日から私...」

「辛かったよ...」頬を伝う涙に居た堪れなくなる。ティファは何も悪くない。二人の関係を悪化させた原因は貧弱な自分の心にあった。

「守ってやりたかったのに、チビで弱くて...簡単に吹っ飛ばされて...」

悔しかった。無力な自分に腹が立った。役立たずを責められている気にも陥った。そんな思いに追い立てられるよう距離を置き、いつか強くなれる日を夢見た。身体的な強さだけに目を向け躍起になっていた自分。過ちに気付くのに大分遠回りをしてしまった。

「ごめんな、ティファ。傷つけて...守ってやれなくて...」

未だ立ち上がれないまま縋りついてくる細い身体から、ようやく少しだけ力が抜けるのが伝わった。

「ちゃんと守ってくれたじゃない...」





Kiddy Love 5、へ続きます。


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