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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Kiddy Love 3

Kiddy Love 2、の続きです。



ふわりと初夏の風に舞い上がり、リボンと踊る豊かな栗毛。

翡翠色の宝石が際立たせる透き通った肌。

それを間近で映しているだろう眼差しが放つ、湖の底を思わせる深い青。そんな穏やかな瞳を向けられたことは...何度思い返したって、一度もない...


Kiddy Love 3


「あっ!ねぇ、君...もう帰っちゃうの!?」

後ろで誰かに呼び止められた気がするけど、気にかけている余裕はない。全速力で校庭を駆け抜け馴染みのない校舎を後にする。動揺しきった顔を隠すため、脇目も振らず練習で人の出払った更衣室へと逃げ込んだ。ロッカーの内側にかけられた半身のミラーが映し出す容貌に打ちのめされる。子供っぽいセーラー服。せめてお揃いの制服に身を包んで、同じ空間に身を置けたなら...

女子主将就任の挨拶も兼ねて、放課後に高等部のコーチに書類を手渡すお使いに出される。体育館を二分させ剣道部と場所を共有している事を知った目は、久しぶりに想い人の姿を一目拝もうと無邪気なものだった。彼と女子マネージャーとの睦じい様子が目に飛び込んで来るまでは。

学園の人間模様に疎い私でも知っている、有名な先輩。今までどんな可愛い子に告白されてもなびくことのなかった彼にどこかで油断をしていた。なんで思いつかなかったのだろう、新しい世界で彼が誰かと恋に落ちる可能性を。飛び抜けた美人である彼女を悪く言う人間は少なくなかった。やっかみめいた聞き苦しい悪口を耳にするたび不快感を煽られていた癖に、結局は自分も同じ。

「彼氏がいる癖に、ズルいよ...」

恋をすると女の子は綺麗になるだなんて、誰が言ったんだろう。鏡が反射するのは相変わらず幼い、だけど嫉妬だけは一人前の醜い顔だった。



「死ぬ...」

体中が悲鳴をあげていた。連日身に襲いかかる、想像を絶する負荷の高い練習メニューの数々...この体にまだ筋肉痛になる余地があったとは。

だがそれくらいの方が有り難い。暇があるとついつい頭を占めだす堂々巡り。誰でも良いから彼女が欲しいなんて願望はない。望みがなくても頑なに想い続けるのみだ。なのに俺は思う以上に期待をしていたらしい。遥か昔に手渡されたチョコレートや、戸惑いながらも変わらない可憐な笑顔を向けてくれた浴衣姿に。

――た・だ・の!幼馴染...

耳奥に生々しく蘇る、間接的なフラれ文句。でもやっぱり本人の口からきちんと聞きたい。だけど一筋の光明さえ消え去るかもしれない...

(...ん?)

カーテンの隙間に揺らめいた影に反射的に目元をしかめ焦点を絞る。しかし間髪入れずに二枚の布を掴みシャッと勢いよく閉じ顔を伏せた。ふ、普通窓際で着替えるか?なんて警戒心のなさだよ...
勘弁してくれって...この窓、表からは見えなかったよな?通りに面したもう一方の窓から外を窺うと、暗闇に紛れ電柱裏でサッと何かが揺らめいた気がした。ドクンと心臓が派手に波打つ。

まさか...な。改めて目を凝らすが、瞳は漆黒以外の何も捕らえる事はなかった。



失意のどん底にいた頭が目の前の状況を理解する前に、短い呼びかけがかかる。

「よお」

校門付近のフェンスに寄りかかった姿は、どう曲がった解釈をしても私を待ち構えているようだ。

「...久しぶり」

寸分も違わぬ儀礼を交わしてから、もうすぐ一年が経とうとしている。



あそこの角まで来たら、言おう。公園、公園、公園...ねぇ、公園寄ってかない?そう、あくまで軽い感じで...

「ティファ」
「はい!」

こちらの希望通りに歩みを止めた彼は、望む方角とは真逆の方向を指さす。

「スーパー寄ってくだろ」



賑やかなBGMとさよならし、自動ドアを潜ると盛大に息が漏れた。はぁ...豚バラブロック安かった。ここ数ヶ月内の堂々の底値、幸せ。それにしても近頃の圧力鍋って凄いのよね、たった20分でトロットロの角煮が...「ふーん」

「え。わ、私...何か喋ってた?」
「うん。角煮がどうとか」

興奮のあまりうっかり脳内の声が漏れ出ていた事に項垂れる。うう...こんな歳してどうして思考パターンが主婦なんだろう。高校生を公園に誘うのもどうかと思うけど、ここよりは所帯染みてない所が良かった...

「いいな...」

ひもじそうに隣で吐かれた溜息。彼の母親は働いているため夕食作りに割ける時間が中々ない。見るからに落とされた肩に、なるべく明るい調子で聞いてみた。

「クラウドは何にするの?晩御飯」
「パスタ。チンするやつ。今週はずっとそれ」

もしかしたらと思ったが、料理の腕は上がっていないようだ。なんだか気の毒な事を言わせてしまった気がして慌てて取り繕う。

「最近のはとっても美味しいよね!」
「たまになら、な」

私のご飯でいいならいつでも食べさせてあげるのに...その時はまだ、近い将来そんなことも起こり得るのではと淡い希望も感じられていた。



「聞いて!!!」

連日の寝不足で充血した瞳を血走らせると、唯一の相談相手である親友は凄まじい剣幕に後ずさる。あの待ち伏せをされた夕刻以来、部活で帰りの遅くなる日はクラウドと連れ立って下校するようになった。

「何その急展開...」
「でしょ?そう思うでしょ!?でもなんか違うの。もんの凄い事務的なの!会話が一切ないの!!しかもね...」

鈍いティファでさえその行動には期待を抱かずを得なくなり、何日か経過した後とうとう気持ちを奮い立たせる。ギュッと目を瞑り、顔を真っ赤にのぼせて人差し指を立てた腕を自宅を通り過ぎる方角にピンと突き刺した。

“クラウド、ああああの!あっちの公園寄ってかない!?ちょっとお話したいなぁ、なんて...”

だがティファを見つめる彼の瞳は徐々に険しくなっていく。

“駄目だ。遅くなる”

取り付く島もなく却下され、挙げ句の果てにはてこでも動かないといった風に腕組みされ仁王立ちされた。

“話があるならこの場で話せ”

そして呆然とするティファに用件がないと解釈し、「じゃ」と短く言い渡し普段と同じくこちらを一瞥することもなく彼は隣家の門へと吸い込まれていった。

「あらら...つれないねぇ」
「だよね?普通話したいよね?少しでも一緒にいたいよね?どんな口下手な人でも、好きな相手だったら...つまり好きじゃないってことだよね!?」

「もうわけわかんない!!」ワァっと机に突っ伏し、勢いに任せ悩みを洗いざらいを打ち明ける。彼と上級生との良い感じなツーショットを目撃したのはこれとはまた別の大問題だ。

「クラウド先輩はともかくさ、そっちには聞けるじゃない」

混乱する頭はそれが何の提案だか飲み込めない。

「確かめに行こうよ。本人に」
「......はい?」



「ねぇ、やっぱりやめようよ。非常識だって」
「そう?迷惑かかるわけじゃないし...彼女の方にその気がないならとりあえずは万々歳じゃない」
「...さすが彼氏持ちは度胸が違うわねぇ」

真っ向から告白をして意中の人を仕留めた勇敢な彼女を異星人かのように眺める。それに気づくとその口元はニヤっと持ち上がった。

「早くコッチ側に来なさい」
「...っと。言ったわね!」

肘で小突こうとした矢先、ビシャっと頭から大量の水を浴びせられる。続いて上空でせせら笑う声が響いた。

「なんなのよ...もう...」

既に人影の消えている上階の窓をキッと睨みつけ、先程までの弱気から打って変わって躍起になり昇降口を探す。

「ええ!?行く気?冗談やめてよ、絶対良い事ないって」
「離して!こんな卑劣な真似...取っ捕まえてやるんだから!!」

恋愛には奥手でしきりに人の大胆さを崇めてくるティファこそ頭に血を昇らせると手がつけられない。空手の技でも繰り出しかねない形相を必死に羽交い締める。

「それよりその服なんとかしなきゃ...」
「平気よ、道衣があるもん!!」
「乙女はそんな格好で道端を歩いちゃダメなの!」

ぎゃあぎゃあとせめぎ合いをしていると、そっと手を取られた。涼やかな声が続き、ハッと我に返らされる。

「こっちおいで」



「う〜ん、ちょっと小さい...かな?」
「いえ、平気です。ありがとうございます。その...」

少しだけお臍の覗いた裾を引っ張り、素朴な疑問を投げかける。目を合わせてくる友人も同意見のようだ。ブレザーが指定服である女子高生が差し出してきた中学時代の制服。

「ああ」

校内一の美少女は独特のトーンを保ったまま人差し指を立てにこやかに言い放つ。

「私も前に同じ目にあったことあるから。常に置いておくようにしてるの」

その満面の笑みが恐ろしい発言内容に拍車をかけ、互いに抱き合い身を震わせる。

「ひええ...」
「高等部って怖い...」
「あはは。だいじょぶ、だいじょぶ。さっきの威勢があれば!」

先刻の稚拙なバカ騒ぎを見られていたかと思うとティファは無性に気恥ずかしくなる。

「これ、しばらくお借りしてもいいでしょうか?あの、私...」

「ティファって言います」自己紹介はすぐさま「知ってる」と遮られ、ドキッとする。

「すっごく、強い子」
「ああ...」

ほんの少しだけ期待した。クラウドが喋ったのかな、なんて...
エアリスは「じゃ。私、部活あるから」と颯爽と、だが物腰柔らかに去って行く。置いて行かれた下級生達は夢心地だ。

「はぁ...麗しい...」
「なんか良い匂いした...」

あんな素敵な人、誰だって好きになっちゃうよね...
残念なことに彼女を取り巻く悪評は出まかせに違いない。女性らしい仕草の裏に垣間見れる、凛とした媚びない強さ。周囲からの嫌がらせを物ともしない態度をつまらなく思った女性陣が羨望に身を焦がし歯を軋ませる図が目に浮かぶようだ。二年生の教室を後にした両名はふと顔を見合わせる。

「...あ」
「聞き忘れた...ね?」



いつものように部活終わりに校門で待機をしていた彼は今朝のパパと同じ表情で、全く同一の指摘をする。

「スカート、短くないか?」
「...週明けには元に戻るわ」

息つく間もなく向けられる背中。たっぷり人三人分は開けられた間隔。昨日の件も相乗効果を起こし気持ちはどんよりと沈んでいく。すると前を行くクラウドの肩がギクっと跳ね上がった。

「おい、あっちの道通るぞ」

クラウドは迷わず回れ右する。数十メートル先のコンビニには、剣道の防具を背負った学生の群れ。馴染みのない顔達の間に唯一見知ったものを見つけた。

「...エアリス先輩?」
「ん?ああ」

知ってるのか?そう言いたげに片眉を持ち上げるクラウド。

「やめなよ」

言葉足らずな主張に彼は不思議そうに眉間に皺を寄せた。きっと今私は物凄く意地の悪い顔をしている。

「だって、あの先輩良い噂聞かないわ。彼氏いるのに他の男子と仲良くするって...」

前を行く足が止まったのに気がついた。怖々と視線を上げると、そこには幻滅したように容赦なく突き刺さる眼差し。

「やめろよ、根も葉もないこと言うの。何も知らない癖に」

言い返す言葉は出て来ない。だって私が100%悪いから。でも、クラウドだって酷いよ。何か事情があるんだろうけど、こんな煮え切らない態度。彼女のことが好きなら、一緒に居るのを見られたくないなら、私とは喋りたくもないんだったら...

「もう、送ってくれなくていい!」

彼を置いて駆け出した。取り残されたクラウドの腕は一度はティファを引き止めようと伸びるが、やがて戸惑いを含んで力無く下ろされる。

「なんで泣くんだよ...」





Kiddy Love 4、へ続きます。


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