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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Kiddy Love 2

Kiddy Love 1、の続きです。



あの夏のひと時は忘れない。

段数のある石階段をつたない足元と、着慣れない浴衣で上がる。

段々と遠ざかっていく祭ばやしの喧騒と、屋台から立ち昇る香ばしい匂い。赤く連なる提灯の灯りもここまでは届かない。


Kiddy Love 2


「ごめん!抜け出して来るのに時間かかっちゃって...」

乱れた息を整えていると、街を一望出来る高台の手摺に寄りかかっていた背中が振り返る。闇夜に浮かび上がった横顔にドキっとした。クラウドって、こんなに大人っぽかったっけ?

「...久しぶり」

ポツリと発された台詞は本当にその通りで、物寂しく感じると同時に隣家の者同士のやりとりとしてはおかしくて笑いが込み上げた。結局、自分もそっくり同じ挨拶を返す。

「久しぶり」

隣に立つと更に際立つ外見の変化。自分にはない喉仏を通る声はすっかり低音に成り代わり、年中竹刀を振り下ろしている腕は父親のものより太い。少し前まで女の子みたいだったのに...それを毛嫌いしていただろう彼の発育は喜ぶべきなのだろうが、なんだか以前とは全くの別人の様な気がして落ち着かない。

一抹の期待を抱いていた心はすぐさま拍子抜けする事となる。端的に用件を告げた彼は名残惜しむ間もなく元来た坂を降り始めた。あっという間に終わりを遂げた二人きりの時間に表情は暗く沈む。階段を降りた所で友人達を待つと言い立ち止まる私に、彼は怪訝そうに眉をしかめた。

「だって携帯持ってないんだもん」
「昭和かよ...」

呼び出した手前ほっぽり出すのが決まり悪いのか、立ち去らずに隣に居てくれる。しばしの猶予を与えられ心が弾むが、場を支配する無言に居た堪れない。時間を持て余し、目の前の屋台に横たわるお祭りでは馴染みの赤い魚が泳ぐ水槽の前にしゃがみ、中を覗き込んだ。クラウドも後ろから見下ろしてくる。

「暇つぶしにすくうか?」
「あ〜...でもこれ、トラウマなのよね」
「猫...だったっけ」

即座に言い当てられ、ハッとなる。

「蓋してなかったもんな。今思えば食って下さいって言ってるようなもんだ」

当時を如実に描写する彼を一気に近くに感じた。遠い昔、真新しい金魚鉢でスイスイ泳ぐ稚魚達は無残にも一日にして野良猫に食べられてしまう。なんともあっけない幕切れであったが考えの及ばない子供時代のことなので仕方がない。

「何よ、クラウドだって半泣きだった癖に」
「だってさ、結構グロかったぜ?アレ」

くだけた調子に取り巻く空気はみるみる時を遡りだし、胸が締め付けられる。やっぱり、あのクラウドだ。不器用で誤解され易いけど、本当はとても優しい男の子。初めてバレンタインの贈り物をした初恋の人。そして今でも大好きな人。あんなに一緒にいたのに、いつからか彼は私を避けるようになった。一体私は彼に何をしたんだろう。どうして嫌われちゃったんだろう...

「だから金魚は嫌なの!」

込み上げてきた涙を引っ込めようと勢いよく立ち上がり、別の夜店に移動した。このまま友達が迎えに来なければいいのに。このままあの頃の二人に戻れたらいいのに。

「あ」

何気なく視線を向けた先には、散りばめられた硝子細工が電灯に照らされ光り輝いている。中でも一際目に付いたのは青紫に煌めくリング。

「綺麗...」

吸い寄せられるように手が伸びた。彼の瞳と同じ色。

「いたいた。ティファ、こっち!!」

遠くで上がった声に慌てて指輪を置きなおした。辺りに視線を巡らせていると、「じゃあな」と淡白に別れを告げられ胸がズキンとする。行き交う人をかき分ける見知った友人の顔がごった返す石畳みにチラリと覗いた。手を振り返そうとすると少し離れた場所から「ティファ」と声がかかる。

「投げるぞ」

返事も待たずに何かが宙に放り出され弧を描く。身をすくめ、広げた両手でなんとか受け止めた。手のひらで転がるそれに驚き顔を上げるが、既に背を向け歩きだした彼は人混みにかき消されていく。ギュッとガラスの指輪を握りしめ、石がまだ宿しているだろう体温を探した。ちっぽけなそれがなければ夢だったんじゃないかと思うほど、幻みたいな時間だった。





「髪が邪魔ね〜。ちょっと、ズルしない!差っ引くわよ!」

力任せにつむじを圧迫してくる測定器を負けじと押し返す。直立不動の状態で、机に座る記入係に向け発された数値に耳をそばだてた。

「171. ...7センチメートル」



所狭しと並べられた丼達を指さし、女子生徒がクスクスと脇を通り過ぎて行く。うどん、ラーメン、親子丼を一気に胃に流し入れ一息ついた。

「吐きそう...」
「俺も。ああ、せめて175は欲しいよなぁ」

食堂の椅子にもたれグッタリと天を仰ぐ部活の同期に無言で頷き同意する。
6センチ差、か...男女の身長差でそれはあってないようなものだ。追い抜いたと狂喜したのも束の間、失速を見せ始めた身長の伸びには嘆息しか出ない。

好きな娘よりも背丈が低いという長年苦しみ抜いた悩みの解消された中三の夏、俺はありったけの勇気を振り絞る。毎年開催される地元の夏祭りでティファを呼びつけ、ある事を伝えた。彼女にはピンとこない顔をされたけど、俺にとってはとても重要なことだった。



何が起こったのか理解出来ず、混濁する頭のまま礼を済ませもつれる足で場外へ出る。肩で息をしながら面を外すとそこには同じく状況に付いていけない部員達。文字通り目を丸くする顧問が小声で、だが明瞭に呟いた。

「...勝ったぞ」

一拍遅れて感情が込み上げて来た。

「うぉぉおおおお!!!」
「おい!超絶番狂わせだぞ、クラウド!!」
「すげぇよ、お前!やりやがった!!」

既に敗退を喫したチームメイト達に容赦なく叩かれ揉みくちゃにされる。やっと解放された時、無意識に視線はスタンド席へと向いた。そこには約束通り試合会場へと足を運んでくれたティファ。あんな笑顔を向けられるのはいつぶりだろう。俺は少しは強くなれたのだろうか。



「次の相手の試合、もう始まるぞ」
「ああ、すぐ戻る」

隙間時間を利用して控え室に置き忘れた私物を取りに行く。途中、長い黒髪の後ろ姿を見つけ足を止めた。ティファは数人の剣道部の女子部員達に囲まれていて、その雰囲気は明らかに穏やかでない。

...なに揉めてんだ?
眉を潜め聞き耳を立てた時、しばらく言われたい放題でいた彼女の良く通る声が痺れを切らしたように力強く放たれた。

「ご心配なく。クラウドとは、た・だ・の!幼馴染ですから!!」



「テーピング、なかったのか?」
「ん?...あ、ああ」
「俺の貸してやるよ」
「...サンキュ」

正直、この後の事は良く覚えていない。実質的な決勝戦を勝ち抜き優勝には誰よりも近かった筈なのに、気持ちを切らした俺は次の試合でアッサリ負けた。



「きゃぁああ!!凄い凄い凄いクラウド!!」
「準々決勝進出!前回優勝者を撃破よ、やったねティファ!!」

抱き合って黄色い歓声を上げる私達。隣のブロックで男子部員を見守る女子メンバー達にギロっと睨まれ冷や汗をかく。あれ、試合が終わった後は声出してもいいんだよね?
念のため拍手だけに戻すと、栄光を手にした遠いアリーナにいる彼はこちらを見上げている。それに気付いた親友に隣からニヤニヤと肘で突つかれた。...私?

――夏休み明けにさ、最後の大会...観に来てくれないか?

元々皆とワイワイはしゃぐようなキャラではなかったけれど、いつからか益々無口に、がむしゃらに稽古にばかり打ち込むようになった彼。何が彼をそこまでさせているのか、疎遠になった私は当然知り得ない。あんなに大喜びをしている姿を見るのは初めてだった。だがその日、個人ではもちろん、部内でも最高成績を残した彼の顔にはそれを最後に笑顔は戻らない。

クラウド、苦しそう...

全ての試合を終え周囲から健闘を讃えられるもクラウドはどこかうわの空だ。彼はこの試合を通じて私に何を伝えたかったのだろう。ようやく一歩近づける。そう思ったのに、その後半年以上も特に会話をする事もなくクラウドは卒業を迎えた。シルバーのチェーンに通しこっそり首からかけているガラスの指輪は唯一残された希望の欠片で、それに触れると微かに彼を感じられた。あの時、あの光景を見るまでは...





Kiddy Love 3、に続きます。


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