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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Kiddy Love 1

またまた学パラです。今回は全員同年代の、クラティ&ザクエア展開。今度こそハッピーエンド目指します。ティファの友人のオリキャラが出てきます。
ティファ中三、クラウド高一、エアリス高二、ザックス高三から始まります。

Kiddy Love=幼い恋



開け放たれた体育館の大きな扉の先には、春光を浴びハラハラと舞い散る桜の花びら。

周囲を取り囲むのは詰め襟の学生服と紺のセーラー服。斜め前で起立する男子生徒が涙目で欠伸を噛み殺した。

昨年も歌ったはずの、別れの曲。なのにこんなにも胸が痛むのは...

名を呼ばれ壇上へと向かう金色の姿が学ランを纏うのは、今日で最後。滅多な事でもない限り登ることの無いそこと、自分が佇む場所がとてつもなく遠く感じられ、見上げた先の後ろ姿は滲んだ視界にぼやけていった。


Kiddy Love 1


式を終えた三年生達が思い思いにカメラを構え、記念撮影で賑わう中庭。やや離れた場所で固唾を飲んでいた下級生の輪から一人が抜け出し、彼の正面まで来て上ずった声をだす。

「あのっ...ボタン、貰えませんか?」

面食らった彼は周囲にはやし立てられ、戸惑いつつもブチリと胸のボタンを引きちぎる。その手がズイと前に差し出され、咄嗟に目を背けた。

「あ、ずるい!」
「私も下さい!他のでいいから...」

先陣を切った勇者の成功を目の当たりにし、我もと駆け出す女子生徒達。彼はあっという間に何人かに取り囲まれる。

「コラ、そこ!サボってないで掃除しなさい!!」

叱り飛ばすも教室の窓に張り付いたまま振り返らない相手に怪訝に思い、ホウキを掲げた掃除当番は窓下の中庭に向けられた顔を覗き込む。そして花粉症かと見紛うほど見るに耐えない状態となった目許にあんぐりし、キュッと頭ごと抱き締めてくれた。“ただの幼馴染” 周囲にそう主張し続ける私の秘めた想いを知っているのは親友の彼女だけだ。

「通り挟んですぐそこじゃない」
「全然すぐそこじゃないもん...」
「はいはい。よしよし」

クラウド=ストライフ。一つ年上の幼馴染。と言っても家が隣同士な割に私達はそれほど親しくない。幼い頃読んだ恋愛漫画に登場する幼馴染同士って、互いにちょっかいを出し合ったり一緒に登下校したり...でも現実はそんな甘いものではなかった。その癖幼馴染という肩書きだけは立派に健在で、もはやあんな風に初々しく第二ボタンをねだれる間柄でもない。恋愛に発展するには絶望的、かつ実に損な立ち位置だった。

――なぁ、頼みがあるんだ。夏休み明けにさ...

それでも一歩だけでも前に進めるかと思っていた。あれからもう半年。すっかり癖となった、セーラー服のリボンの下をまさぐる仕草の効力も次第に薄れていく。

三年生になりグッと背が伸び部活動において輝かしい成績を残した彼は、この一年で女生徒から一躍注目を集めた。そしてこの春中等部を卒業し来月には高校生になる。附属の高校ゆえ物理的な距離はそれほど遠くはないにしても、開いていく一方の距離に涙は止まらない。



「恐れ入ったわ。剣道馬鹿のあんたにも今年はとうとう彼女が出来るかもしれないわね」
「...興味ないって」

ありとあらゆるボタンをむしり取られ、だらしなく開きっぱなしの上着からはインナーが覗いている。

「あ、でも勝ちだした途端手の平返してくるような子はよしなさい。ちゃんと普段のあんたを見てくれて、しっかりしてる...あ、でもそんなこと言ったら誰もいなくなるか」
「はいはい」

ああでもないこうでもないと指南をしだす母さんをいなしつつも心中毒づく。こっちだってそんな女、願い下げだ。その昔、チビだの女顔だの散々俺を貶してきた女がまさかの取り巻きに混ざっていたのを思い出し鳥肌が立つ。そうこうしている内に家の前まで帰り着いた。

「それにしてもベスト8の効果は凄いわねぇ。あんた、今までバレンタインチョコさえ貰ったことないじゃない」

「...あるよ」負け惜しみが唇から出かかった時、隣家の門がカシャンと開きドキリとした。私服に装いを変えたティファは隣人達に気付き軽く会釈をする。物言いたげに、一瞬だけ絡まってくる視線。口を開きかけた瞬間、絶え間なく脳内を支配する痛烈な台詞が全身を貫いた。思わず目を逸らすのと、彼女が背中を向けるのは同時だった。

「しばらく見ない内にすっかり大人っぽくになって...」

ティファを見送り、ほぅ...と息を吐く母親。「せっかくお隣だってのに、あんたってばちっともお近づきになれないわね」そう落胆の眼差しを向けられ気色ばむ。

「それでも、小さな頃は仲良くしてたのよ?」

「知ってるよ」悔し紛れに喉まで込み上げた台詞も結局飲み込んだ。遠ざかる後ろ姿を目で追っても、ピンと真っ直ぐな背中は当然振り返りもしない。



ティファを狙う輩が多く潜む学年がごっそり卒業したのは小気味良い。向こう一年は恐れる事態が起こらなそうな気配に人心地がつく。元来のキャラクターも追い風だ。見た目が華やかなので勘違いされがちだが性格は実直そのもの。容姿に惹かれ寄ってくる軽薄なチャラ男を忌み嫌い、最も親しくしている異性は生徒会のいかにも人畜無害なメガネ男である。中学に入ってからの親友も漏れなく地味。

花形のテニス部やラクロス部に見向きもせず、身一つで勝負する空手に魂を捧げて早五年。友人からのジェラート屋への誘い以上にスーパーのタイムセールにテンションを上げる。片親である父は尋常でなく厳しく、校内で未だに携帯を持っていない貴重な五名の内の一人であり、たまの放課後にカラオケに行ったはいいが門限が六時と小学生並みのため三曲と歌うことはない。

「全国五位、ね...」

先に挙げたものと異なり、この情報はウェブサイト上にも公開されている周知の事実だ。そして俺にとっては好ましくない現実。はっきし言って、地区予選準々決勝敗退などとは比べ物にならない。そして例年インターハイ出場常連校である高等部の剣道部は、今までとは格が違う。

――高校の部活でも団体戦メンバーになれたら...

頭を過ぎった願掛けに舌打ちをする。一見真っ当に見える目標設定は巧妙に作り上げられた隠れ蓑だ。叶えるのが難しいゴールを掲げてその遠さに安心する卑怯な自分。それにいくら戦績をあげようとも、そんな形ばかりのもので動かせるのは軽薄な人間の心のみと思い知ったじゃないか。日々腕磨きに没頭して見ないフリをしているだけだ。俺が本当に鍛えるべきものは...

――ご心配なく。クラウドとは...

今日も辛辣な台詞は頭を忙しく駆け巡る。負けたからじゃない。俺はあの結果に満足していた筈だ。悪い事だけではなかったはずの昨年の夏。健闘はしたが、肝心の勝負を挑む前に引導を渡された。

――小さな頃は仲良くしてたのよ?

そんなの自分が一番知っている。そしてそれがいつ終わりを遂げたのかも。ちょっと強くなったくらいでは根幹に根付いた性格など改善しやしない。誰よりも理解してる。そんな事言ったって、ただ見てるだけじゃ意味がないのに...

遠ざかっていく背中。ゴミ箱に突っ込まれた制服。いつもと同じ部屋の匂い。中学の三年間で何も変われなかった、そう突き付けられただけの卒業式だった。





Kiddy Love 2、へ続きます。


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