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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

曖昧 me mine

ザ・トライアングルラブ。
90%クラティですが、最後クラエア落ちしますので抵抗ある方は回れ右!です。




曖昧 me mine


「あんなで1,000ギルはぼったくりだぜ」
「味はともかく量ぐらいはよ、詐欺じゃねぇか...」

何時間も前に過ぎ去った事にグチグチ恨み辛みをぶつけ合う男性陣にティファは苦笑いをする。だが飲食店を営んだ経験のある彼女は、食べ物の怨みは何よりも恐ろしいと知っていた。その点、先程昼食を取った定食屋は、僻地という点を考慮しても対価に見合わないサービスを提供してきたのは事実である。

更に不運なことに本日の旅路における魔物は手強いとは言い難く、戦闘でも気は紛れない。皆各々の武器を振り回すがそこに緊張感はなく、片手間に雑談交じりである。

「ティファの...」

不意に名指しされ、回し蹴りで敵を一掃したティファは首を回し声の主を探した。

「...アレが食べたいな」
「なに?」

大剣で雑魚を一刀両断したクラウドは、首を傾げ料理の名を指すにはあまりにも原始的な名詞を発する。

「茶色いやつ」
「はぁ」

ピンポイントで名前がわからなかったらしい彼はなんとか手掛かりを増やそうとするも、「カレーみたいだけどカレーじゃない」「肉が沢山入ってて...」等々ナゾナゾみたいな事を言ってくる。だが、全てのコメントを統合させると一つの憶測に行き当たった。

「...ビーフストロガノフ?」

複雑怪奇な名称に今度はクラウドがたじろいだ。

「好きなの?」
「うん」

常用する “ああ” とは異なる相槌をうっかり打ってしまう彼。男性とは食事の事となると途端に幼稚で、かつ無力になる事も過去の経験から学び済みだ。柄にもなく子供っぽい彼が微笑ましく、「いいよ。次にキッチンが借りられるところに泊まれたらね」と快諾する。それに対し満足そうな顔を見せるクラウドに後押され、冷や汗をかきつつも少し勇気を出してみた。

「ただし、クラウドも手伝ってよね!」

話の終わりに付け加えられた思いもよらない条件にクラウドは仰天する。

「俺!?い、いや...邪魔なだけだと思うぞ?」
「いいじゃない!大人数分作るのって結構大変なんだから」

照れ隠しにそれっぽく言い繕い、胸の内を見透かされないよう誤魔化した。幸い、彼は不安気にしつつも「そこまで言うなら...わかった」と折れてくれる。「料理の出来る女はポイント高いねぇ」耳打ちして冷やかしてくるユフィをかわしながらも、頭の中で先程の掛け合いを再生させる。

“好きなの?”
“うん”

瞬間、顔がボッと火を噴いた。べっ...別に私が好きなんじゃなくて、私の料理が好きって言っただけじゃない。平静を装うも、胸に灯るほの温かさは消えない。クラウドはおかわりもするし皿を舐めるように食べるけど、直々に料理を褒められたのはこれが初めてだった。

前線で剣を振るい続ける想い人をチラリと盗み見る。二人きりなんていつぶりだろう。近く訪れる貴重な時間に胸をときめかせ、そうでもしないと中々恵まれないであろう機会に、確かに料理が得意で良かったとこの日は珍しく噛み締めた。



日が高い内に中継地に辿り着き、宿屋の厨房から鮮度の高い野菜を譲って貰えたりと順調に事が進み足取りは軽い。必要な材料を調達し終え街角を回った時だった。肩を並べて歩く仲間の男女と鉢合わせ、ティファの足はパタリと止まる。その両腕が抱える食材に目をやりクラウドは「...あ!」と小さく声を上げた。

「ティファ、俺も今行く」

隣のエアリスに申し訳なさそうに目配せされ、今の今まで思ってもいなかった事を口走ってしまう。「いいよ、買い出し手伝ってる最中なんでしょ?私は一人で平気だから!」 満面の笑みまで添えて。そのまま振り返ることなく宿に向け足早に引き返した。台所に入ると食材を広げ、黙々と菜っ葉を洗う。今しがた見た光景に動転し、派手な音を立て早鐘を打つ心臓を必死に宥めた。

腕、組んでた...

自分がこんな他愛ない事で浮き足立っている合間に二人の関係はどんどん密になっていく。すっかり忘れてた、そんなクラウドの反応。少しの間でも一緒に過ごせるなんてドキドキしてるのは私だけ。あっという間に気持ちは沈み、惨めな思いで澱んでいく。程なくして背後の戸が開き、あんなに望んでいた顔が覗くも口を突いたのは可愛くない台詞だった。

「別に良かったのに。来なくたって」
「いや、約束だったし...」

慣れない場で所在無さ気にする彼は、なんとなしにティファの機嫌が思わしくないと察し腫れ物に触るようだ。

「...俺、何すればいい?」
「じゃ、そこのジャガイモの皮剥いで」

お芋の下ごしらえくらい経験があるだろう、そう踏んでいたが作業台を前に彼は立ち竦む。仕方なく一つを手に取り包丁の刃を当て「こうやってやるの」と簡単に手本を見せた。

「芽も取ってね」
「......目?」
「このへこんでるとこ!そこは毒があるから」

苛々を抑えられず、意図せずもつっけんどんに当たってしまう。頼りなく目を泳がせるクラウドは無慈悲なティファの背中から漂う自らを拒絶するオーラに、これ以上の手ほどきは諦め仕方なくナイフを手に取った。皮を剥くシャリ...という音に「はぁ...」と重苦しい溜息が被せられ、ティファは泣きそうになる。

いいじゃない、ちゃんと来てくれたんだから。なのに意地張って喜べなくて、結局気まずいまま背中合わせ。クラウドだって意味がわからないよね。こんな私が振り向いて貰えるわけ...エアリスに敵うわけ、ない...

すっかり自己嫌悪に陥ったティファは後ろで上がる音が変化した事を訝しみ、クラウドの様子をそろりと窺う。そして彼がせっせと生成している、賽(さい)の目状をした想定よりかなり小さな物体に目を剥いた。芽だけを上手く取り除く術が見出せなかったクラウドは、皮を剥くというより根菜のデコボコをザクザク切り落としている。

「クラウド...それ、全然違う...」

斬新な手法に笑いの込み上げてきたティファは、身を震わせ変わり果てた食材をやっとの事で指で差す。それは今宵はポテトサラダに調理される訳で形は支障ないのだが、これでは勿体無さ過ぎだ。

「あ...え?」
「それじゃ食べるところなくなっちゃうじゃない...」
「だって毒があるって言うから...」
「手元の方を使って、こうやって取るの!」

何かの料理で丸ごとのジャガイモくらい見た事ないの!?呆れ顔のティファがクルリと器用に手を回し、手早く作り上げたお手本は確かにクラウドのものと比べ二倍もの体積がある。なおもクックと腹を抱えるティファにクラウドは決まり悪く言い訳をした。

「だ、だから言っただろ。役に立たないって...」
「あはは、ごめんごめん!もう、しょうがないんだから。さてはお手伝い、全〜然してこなかったわね?」
「...力仕事はやった」

しこたま馬鹿にされ不貞腐れるも、目尻に浮かんだ涙を拭うティファの姿にクラウドはホッとする。

「良かった、笑ってくれて」

その発言にティファもハッとなった。

「あのさ、忘れてたわけじゃないんだ」

取り繕う素ぶりのない態度に反省する。本当は自分でもわかっていた。彼は私との約束を反故にしたわけではなく、夕食の予定を把握していなかっただけ。臆して声をかけずにいた私も悪い。

「うん。クラウド、今日がその日って知らなかっただけだもんね」

ティファに戻った笑顔に釣られ、クラウドも歯笑いする。すると途端に和み出した空気に奮い立たされた。今なら素直になれるかもしれない。

「私がいけないの。つまらないことに腹立てて...」
「つまらないこと...って?」

首を傾げる彼は本気で何もわかっていなさそうだ。焦ったさと緊張で胸は高鳴り頭の芯が燃えるように熱い。

「...エアリスといたでしょ?」
「ああ」

やっとの事でその名を口にするが、肝心な部分で言葉は濁る。

「だから...その、私.........私ね?」
「なんだよ...ハッキリ言えって」

乱れた心を鎮めようと耳に髪を掛け直すも効果は発揮されない。その女性らしい仕草に加え、頬を赤らめ長い睫毛を伏せ、見るからにいつもと雰囲気の異なるティファにクラウドもドキっとする。

「言えないよ...」

切なそうに眉根を寄せた下の、潤んだ瞳に目を奪われた。

(ティファって...こんなに可愛かったっけ?)

無意識につとティファに指先が伸びた。肌に触れた瞬間ビクっとされるも逃げられはせず、おずおずと真っ赤に染まった頬を手のひらで包み込む。視線が絡まり、整った形をした大きな瞳に吸い寄せられるよう顔は近づいていく。瞳を閉じかけ、互いの吐息が唇に当たった時だった。

「ただいまー!!」

ガラっと玄関の扉が開けられた音に、触れ合う寸前で固まった二人は目を見開く。そして息つく間も無く飛び退いて身体を離した。クラウドは赤面し、もう少しでティファまで到達しそうだった口許を片手で覆った。

(お、俺...今何をしようと...)

狭い空間で不自然に背を向け合い互いの表情は窺えない。間の悪い緊迫感をやり過ごそうと外に耳を傾けると、聞き慣れた声に知らない男の声が混ざっているのに気がついた。

「ありがと、助かっちゃった!」

厨房の戸を開けすぐそこの入口に首を伸ばす。

「エアリス?誰だよ、今の...」
「荷物運ぶの、手伝ってくれたの」
「はぁ?」
「だってクラウド、私のことほっぽり出して行っちゃったじゃない。今日は買う物が多いから荷物持ちしてくれるって言ってたのに...」
「だからって知らない男なんかに頼むか!?言ってくれれば...」

シンクに向かっていたティファの肩がピクリと揺れる。彼女はゆらりと逆方向に向き直り、引き戸に手をかけた。ただならぬ雰囲気と、薄っすらと不気味に浮かぶ笑顔にクラウドは血の気を引きつつもダメ元で聞いてみる。

「ティ、ティファ...あの、続きは?」

目の奥を据えた笑みと共に、「結構です!」と壊れんばかりに扉はピシャリと閉められる。

「続き?って...何の続き?」
「え? あの、えっとだな...」
「なぁんか、怪しい!!」

詰め寄られ言い澱む男の耳に、カチャリと鍵が閉められる音が無情に響いた...



夕飯の席、ティファの腕に絶対の信頼を置くバレットが眉をしかめる。

「おいティファ、ちょっと味濃くないか?」
「文句言うなら食べないで」

クラウドを筆頭に、不可解にも一触即発状態の彼女に声をかける者は今宵の晩餐の場にはいない。待ちに待った、好物にありつける日。その味は以前感動を覚えたものと比べ、確かに少ししょっからかった。


******************


だってティファの独壇場でもつまらないじゃない。

題名は『silent siren』の曲名より拝借しました。


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