Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
Snowfall
AC後の初雪です。
Snowfall
差し出しだされた飲み物に少々面食らった彼は、嫌いではないホットミルクを大人しく啜った。暖房を入れたばかりの薄暗い店内に吐き出される息はクッキリと白い。
「苦情を言ってもいい?」
不穏な響きに、普段とは異なる早朝の景色をぼんやり見つめていた瞳は目だけをこちらによこす。
「初雪だけはとっておいて欲しかったの」
年も明けぬ内からとっぷりと厚雪に閉ざされる故郷。日に日にウンザリしてくる住民達と異なり、学校へ出発する私の前には毎朝人一人分の小道が出来ていた。ふと顔を見上げた先の、老人達が住まう家々の前にも同じものは走っている。
ーーパパぁ!お家の前の雪、グチャグチャ!
ーーティファ、人様のご好意に対してそんな顔するもんじゃない
年明けには飽き飽きしている癖に、初めて積もった朝だけは例年繰り返した自分本位な不平。
「白状しちゃおっかな」
それはいつの冬だったか。夜通し降りしきる雪に居ても立っても居られず陽が昇るに先立ちベッドを抜け出した。汚れのない一面の純白に向かい、長靴を降ろす。見渡す限りの白銀の世界に高揚する手足はしばしの後パタリと威勢を失う。雪だるまの頭は一人では持ち上げられないし、丸めた白い球は動きもしない木の枝を狙うしかない。
クラウドが道の脇にたんまりと積みあげる雪。あれを使えば誰もが驚く滑り台が作れるのに、下を向き黙々と雪を掻き分ける背中の守りは堅い。仕返しに、そろりと隣家の前に踏み込む。次第に大胆さを増す全身は、縦横無尽にパウダースノウを舞い上げ、遂には身体ごとバタリと倒れ込んだりする。
「あれ、ティファだったのか?てっきり俺を目の敵にしてた奴の仕業かと」
呆れ顔の彼に「重罪だったわね」と軽く舌を出す顔には発言とは裏腹に反省の色は見られない。「本当だな。雪をぶつけてやればよかった」とクラウドも茶化して返した。
「今でも受け付けてくれるかしら?」
今度は何の告白だと片方の眉を持ち上げる彼は、もう窓の外を見ていない。
「お隣に住む無口な男の子に、何年もお礼を言えなかった」
初めは母親からの指示で始まったであろう無言の善行は彼が村を出た途端パタリと止んだ。現金なパパは、それだけは毎年嘆く。
「体力だけは有り余ってたからな、あの乱暴者は。おそらく全く気にしてないさ」
お爺さん達の分は私が引き継いだからね。との報告にホッとした顔をする優しい心は、あの時から何ら変わっていないのだろう。
「初雪くらい、一緒に遊びたかったの」
あの背中に雪をぶつけてたらどうなっただろう。そこそこ勢いのついたものが返って来そうだ。そしたらこっちも負けじとやり返せばいい。この世で最も柔らかなボールなら、喧嘩は起こらない。
「その苦情は今からでも受け付けられるのか?」
「もう子供たちのものよ」
エッジの冬は短い。窓ガラスの向こうに広がる雪化粧に足跡でも残したものなら、終日口を聞いてくれなさそうだ。
「飽きた頃に、端っこをお裾分けして貰おう」
そう子供っぽく微笑む彼は、期待を裏切らず本気で雪を投げつけてきそうだ。子供達も呆れ顔の雪合戦。でもきっと、大人気ない二人の瞳に映るお互いは、遠いあの日の幼い姿。
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今からでも、一緒に遊ぼう。
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