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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

涯 ~後編~

涯 前編、の続きです。







~後編~


鬱蒼と茂った大樹に覆われ昼夜の明瞭な区別はない。滅びてなお、息吹を宿す都。過酷な旅の末に見出した死に場所に骸を埋めたまま、この尊い種族は生命の循環を止めてしまったが、そもそも彼らにとってはそんな物質的な概念はさほど意味を成さないのかもしれない。

湖畔の一点を見つめ続け、どれほどの時が過ぎたのだろうか。いつか百年の孤独に呼び名をつけた若者を笑い飛ばした私だったが、彼の死後、子孫達が生き死にを繰り返す中でやがて私の心も狂うだろう。愛した女性を想う燃え盛る慕情や、友人と過ごしたかけがえのない充実感に浸る人間臭さもどこかで失うに違いない。

ーー関わり過ぎたな

セフィロスを葬り去るため一時腰を上げただけのはずだったではないか。朽ち果てることのない躰に処する法は三十年前に行き着いた結論と何ら変わらない。結局眠りにつくしかないのだ、この堂々巡りから逃れるためには。

透き通る水面が血で澱んだあの日に想いを馳せる。生きたかったお前と、死に焦がれる私。叶うならこの命、今すぐにでもお前のために差し出してやるのに...
悲壮感溢れる光景にも、水底に落ちていく死に顔はひたすら美しい。そしてその潔い生き様が心底羨ましかった。





朝からそわそわしっぱなしのティファは、鳴り響いた携帯に飛びついた。

『ユフィ、あなた無事だったのね!』

こうして電話をかけてきているということは、騒動は収束に向かったのだろう。本当に良かった...緊張を解くティファを他所に電話口の相手は忙しなく急き立てる。

『ティファ、アイツがどこにいるかアテつかない?』
『あいつって?』
『ヴィンセントだよ、ヴィンセント!』
『それなら忘らるる都って、たしか前にクラウドが...』
『わかった』

プツンと切れた通話に呆然となる。北の大陸の内地で暴れだした謎の生命体の討伐に加勢するクラウドを見送ったのは昨日のこと。ユフィを除く仲間が負傷したと知り、ただならぬ事態に丸一日生きた心地がしなかった。

“クラウド、くれぐれも気をつけて”
“ああ”

出掛け際に付け足された言葉を思い起こす。

“ヴィンセントは連絡がつかないそうだ”
“そう...”

先程の剣幕は彼の沈黙と多分に関わっているのだろう。それもネガティブな感情をふんだんに伴って。脅威が過ぎ去り安堵したのも束の間、大切な二人の衝突を予感してティファは再び途方に暮れる。手の内の画面に残る通話履歴に触れれば彼女を一時的に止めることは出来るのかもしれない。だがそれは彼女にとって...そして彼にとって本当に正しいことなのだろうか。

華奢な身体からは信じられないほどのパワーを秘めた少女には、自分も幾度となく救われた。根の深い問題の答えを、真っ向からぶつかることを恐れない瞳は見いだすかもしれない。ティファは携帯を握り締めた手を降ろし、遠く離れたあの清らかな地が彼らの歩む道を拓いてくれるよう、ただただ祈る。





肩を震わせ眼に一杯涙を浮かべる来訪者の形相に、静まり返った木々までざわめきだした。

「何度も...っ...電話したのに!」

奥歯がギリっと音を立て、溜まった雫が決壊しだす。腰すら上げようとしない態度が感情を尚更逆撫でしていることはわかっていたが、青臭いペースに飲まれる気はさらさらなかった。

「たくさんたくさん、死んだんだ!シドもバレットも危なかったし、リーブだってっ...アタシを庇って大怪我した!!」
「ユフィ、落ち着け」
「落ち着いてなんからんないよ!そーやって他人ぶってさ!!傷つくのが怖いからって、逃げて...逃げて!!」

ここ最近は電話の電源すら切れていたが、発言の端々から彼女を襲ったであろう悲劇を予測する。冷淡さを責められているのではない。私だってその場に居合わせたのなら全力で加担しただろう。聡い少女は人との接触を遮断しだした私の真意にすっかり気づいている。だが、これ以上の介入を許し彼女をみすみす傷つけるわけにはいかなかった。

「ユフィ、もう私には構うな。どうせ共には全う出来ない」

手の甲で目元を拭い凛々しい瞳を取り戻したユフィは真っ直ぐに私を見据え、「それってさぁ、首ふっ飛ばされたり心臓グチャグチャにされてもダメなわけ?」と問う。想像だにしなかった直球に二の句が継げない。

「こっぱ微塵にしてバラ撒いたりすれば、案外再起不能になるんじゃないの?」

キリッと上がった眉は紛れもなく本気だった。無論その仮説を検証したことはない。

「死にたくなったら、アタシがヴィンセントを殺してあげる。だからもうウダウダ悩まなくていいよ」

私の百倍男前な眼差しに言葉を失っていると、「なんなら今やる!?」とポキポキ指まで鳴らしだす。腹の底から込み上げてきた衝動を押さえ切れずに、喉を仰向け天に向かい大笑いをした。私の完敗だった。乱れた呼吸が落ち着くのを待ち白旗を揚げる。

「白状する。私はまだお前達との時間を過ごし足りない。微塵切りにするのは待ってくれ」

凄んでいた目元はたちまち崩れだし、幾筋もの涙が頬を伝いだした。何でもお見通しな娘は、「そんなの知ってるよ、バカ!!」と私の胸を叩きわんわん泣き叫ぶ。その細い肩を抱き止め、思う。この娘に八つ裂きにされて人生の終焉を迎える。もしも失敗したとしても血塗れで笑い合い、別の策を練ればよい。そう吹っ切れば明日からの毎日だって、決して捨てたものじゃない。

「今後は...そうだな、緊急事態には電話も出よう」
「出ないと緊急かどうかわかんないだろっ!ノーミソ腐ってんじゃないの!?」
「...では、三度に一度は出よう」
「毎回、出ろぉっ!!」
「お前は頻度が高過ぎるんだ」

口の悪い女性は好みではなかったはずなんだがな。不思議な娘だ。もう二度と人を愛することはないと思っていたし、この仄かに灯る感情が果たして異性を慕うそれなのかはわからない。だが、沸き起こる渇望は確実に自らのものだった。

ーーまだ、生きたい

健全な欲求を貪ったのはいつぶりだろう。幸いこの閉塞された地には私を躊躇わせるものは何もなく、抱いているはずの温もりに心ゆくまで抱き返される。耳に届く慟哭は己の心の叫びだ。泣き笑い、これほど忙しい日がかつていつ訪れたか、あまりに遠すぎる過ぎ去りし日々を辿る必要は、もうない。


******************


いざとなったら絶対零度で凍らせてしまえ。
ヴィンセントの不老不死公式発表は結構ショックでした。

涯=はて

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