Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
涯 ~前編~
糖度低いですが、一応ヴィンユフィです。
クラティは前編にちょこっと。DC後です。
クラティは前編にちょこっと。DC後です。
涯 ~前編~
クラウドにも聞いてみようか。
胸に引っかかったままの日中の出来事が心に影を落とす。いつもの如く疾風の様に姿を現した陽気な忍者娘は幸運も持ち合わせているようで、時はまさしく子供達のためのケーキが焼き上がった瞬間だった。
“ねぇ、ヴィンセントって最近会ってる?彼、元気かしら?”
生クリームで口の周りを汚し甘味を頬張るご機嫌顔はみるみる歪んでいく。
“は?何でアタシに聞くわけ?”
“いや、仲良かったかなぁ?なんて...”
怪しくなる雲行きに怯むと、ユフィは口に詰め込まれたものを一度全て飲み込みまくし立てる。
“全っ然、知らないし。そもそも電話出ないし!クラウド経由でかけてくんなとかまた言われたし!!”
相当の怒りを孕んだ剣幕に、それ以上深入りするのはやめにした。ユフィと力を合わせディープグラウンドソルジャーから世界を救ってくれた彼。相変わらず日の当たる場所には姿を見せず、ユフィとさえ音信不通なのは残念だった。事の次第をクラウドに話すと、「ああ、ティファは聞いてなかったか」と意外にも腑に落ちた様子だ。
「ナナキから聞いたんだけど...」
クラウドの口から語られた内容に絶句する。時の流れの大きく異なる二人の間だけで交わされた、孤独を和らげるための約束。ナナキが長寿であることは知っていたが、それは自然の理に背く類のものではない。一方でヴィンセントが死と無縁との認識はなかった。たった数年では彼の外見の変化に違和感はあまりない。しかしこれから何十年と時が経ち、皆が相応に年老いていく中彼だけがあの姿のまま変わらないなんて...
「そんなの...!ますますほっとけないわ...」
「ああ。ただ、難しい問題だ」
電灯の落ちた部屋で天井を睨みつける彼も少なからずショックを受けたのだろう。瞳を頑なに閉じ深い闇に沈み込むヴィンセントが脳裏に浮かぶ。ティファだって、気持ちが先走るのみで具体的にはどう手を差し伸べればいいかなんてわからない。
物思いに耽っていると、肘を枕にしたクラウドがこちらに向き直っていることに気付く。
「それはそうと、ティファって結構ヴィンセントのこと気にするよな」
「そんなんじゃないわ...」
だって唯一彼だけ消息不明なんだもの...
他のメンバーは帰る家があり定期的に連絡も取っているが、ヴィンセントの近況はとんと耳に入らない。
「この間だって、ずっと一緒にいた」
その指摘に驚かされる。前回の仲間内での飲み会のことを言っているのだろう。騒がしい集団から逃げるようカウンターに陣取るヴィンセントと、食事を賄うティファが輪から外れるのはいつものことで、側にいるからといって何か会話がある訳ではない。縦横無尽にフロアを行き来し絶えずちょっかいを出しているお転婆娘とはあの件で絆が深まったように感じ、折をみて妹分を問い詰めなきゃと舞い上がる。心にあった感情はそれだけだ。
「やっぱり、背が高い男の方が好みか?」
クラウドが自信をなくす大きな要因は彼の容姿の良さ、特にティファを遥かに越える高身長だろう。まさか仲間の一人を当て馬にして彼の気を惹こうなどという悪趣味は持ち合わせていないティファは、知らずと不必要な懸念を与えていたことを心から反省する。ベッドの中では一段と素直な振る舞いを見せる彼が可愛くて、その頬をそっと包み込んだ。
「高くても高くなくても、好みは一人よ」
「うん」と一度は安堵の微笑みを見せる彼は、やがてまた不安げに「俺...で、いいんだよな?」と瞳を揺らがせる。
「......その通りです」
鈍感男を恋人に持つのは中々の骨折りである。
首筋に穏やかな寝息を感じながら、クラウドは再びぼんやりと漆黒を見つめる。
“見捨てたりなんかしないよ。仲間だからな”
逸れた話題を元に戻した。
“忘らるる都によく行くと言っていた。何かのついでに見てくるよ”
あの近辺に用件が出来ることなどそうないと知るティファは噴き出し、とりあえずのところ満足そうだ。一方のクラウドは、隅に追いやり目を背けていた問題の蓋を突如開けられ、胸に黒い染みが広がっていく。ナナキのあの重たい告白を消化しきれている仲間はいないだろう。ヴィンセントを待ち受ける一億年の...いや、それ以上の孤独。そこには残酷なんて言葉では言い表せないおぞましさがあった。人との距離をとろうと試みたとして、誰が彼を責められよう。元々友人達も年配の彼に対しては一歩間合いを取るきらいがある。気兼ねせずに踏み込んでいけるのは、ナナキと...
貴重なもう一人が暗闇に歯を見せて笑う。底抜けに明るいアイツぐらいが、ちょうどいいのかもな。
かつての戦友達に思いを馳せていた頃、その当事者達が緊迫した状況に面している事などクラウドはまだ知る由もなかった。
ーー繭
この世で未だ定義のされていないそれを呼ぶのに最も適した名称はそれだろう。未開の密林の奥深く、無数の糸に包まれぼんやりと光る巨大な塊をユフィはシエラ号の窓越しに見下ろしていた。どこからどう見ても脈打つそれは生物に違いないし、薄っすらと開いた瞳と思われる物体が張り巡らされた糸の隙間に覗き、身震いをした。
「モンスターの掛け合いなんかで、こんなの生まれる?」
ウェポンみたい...
口から出かけた不吉な単語を慌てて飲み込む。事前情報と実態のそぐわなさにやるせなさを露わにするが、不平をリーブに伝えても事態が好転するわけもなかった。
「もう!何で出ないわけ!?アイツ...こんな肝心な時にっ!!」
小一時間前から条件反射的に押し続けている携帯電話のボタンに悪態をつく。既にこの場にはほとんどのジェノバ戦役が駆けつけていたが、桁違いの威力を誇る二人とティファは欠けていた。
「どーする?クラウド呼ぶ!?」
振り返った先の総指揮官は眉根を寄せ考え込んだ末、首を横に振る。
「まだよしましょう」
実は星痕が癒えた彼にWROへの加入を正式に打診し、断られた経緯がある。もちろん職位や待遇は格別であった。
“俺は、戦いはもういいんだ”
“勿体無いと思いますがねぇ...持て余してません?”
星を救う戦いにおいて彼は強さへのこだわりを人一倍持っていたし、カダージュとの一件を通じ腕は全く衰えていないと目の当たりにする。正義感も強い彼は世のために再び力を発揮する機会を伺っているのかと疑う程だった。
“そうでもないさ。頼りにされることもあるし、やりがいは感じてる”
続く笑顔にリーブは世界最強の男を配下に持つ野望をアッサリと捨て去る。
“何より、家族が安心するからな”
彼の人生の最優先事項はすでに、無事に家に帰りそこに住まう愛しい人達を守り抜くこと。そのために腕は磨かれ続けているのであって、率先して危険に飛び込むことはもはや望んでいないのだ。通常の部隊では歯が立たない敵や、彼自身の生活に危害が及ぶ可能性のある事態には構わず連絡を入れたが、あれ以来、人使いの荒い自分の割にはこれでも遠慮をしているのである。
「おいリーブ、何グダグダ考え込んでんだ!とっとと叩くぞ、孵化する前によ!!」
気の短い操縦士が唾を飛ばし罵声をあげる。「そうは言っても、下手に刺激を与えて...」調査部隊の報告を待つ彼は、突如繭の登頂に走った光に目を見張り、届くはずのない声を張り上げる。
「いかん!全員離れろ!!!」
みるみる広がる亀裂から溢れだす閃光。間に合わない、そう悟ったリーブは咄嗟に隣の少女を抱きかかえ未知の攻撃に身構える。耳に衝撃波が届くと同時に、飛空挺の硝子に一斉にヒビが入った。
後編へ続きます。
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