Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
silent letter
ヴィンセント、7th HEAVENにご来訪です。
silent letter
夜風と共に舞い込んで来た珍客は、「まだ帰っていないのか?」と感情を露わに目を眇(すが)める。“こんばんは” でも “久しぶり” でもない文句につられ、こちらもいきなり世間話に突入した。
「いつもこんなもんよ。意外とお仕事熱心なの」
閉店時刻、帰り際の客が訝しげな視線を送る先には静かな物腰にも隠しきれない圧倒的な存在感を放つ黒髪の長身男。営業を終え余裕の出来た腕は、手間がかかるためメニューには載せられない凝ったカクテルを特別に振る舞う。
「良い腕だな。あの旅の間も楽しめればよかった」
食事にはさほど関心がない彼が酒は嗜むことは知っている。アイスボールが浮いた琥珀色を傾ける仕草に、我慢していた喉の渇きが顔を覗かせた。
「ねぇ、私もいただいていい?」
「好きにしろ。お前の家だ」
仕事を終えたばかりの高揚感から、目の前の男ほど優雅な気分に浸れそうにないティファはビールをなみなみと注ぐ。乾杯するや否や量を半分まで減らした黄金色の液体に、喜怒哀楽の薄い唇がフッと震えた。「どういった風の吹きまわしかしら?」中々本題に入らないヴィンセントだったが、用件もなく姿を現す彼でもなかった。
「クラウドから報告が来なくてな」
「マメじゃないからね」
「案外、世話焼きなんだ」あの旅の仲間が彼を気にかけてくれるのは嬉しい。いかにも腰の重そうなこの男がわざわざ足を運んでくれたことを喜び、酒は瞬く間に飲み干される。旧友のグラスも空いたことに気付き、ウイスキーのボトルに手を伸ばそうとすると、彼はおもむろに立ち上がり無駄のない動作で赤い布を翻した。
「え、クラウドに会ってかないの?」
「もうわかった」
来た時と同様、挨拶もなく扉の向こうの闇に消えて行く。ドアが閉まる寸前、「...と、伝えておいてくれ」と低い声が言伝(ことづて)を所望した。
帰宅し、カウンターに置かれたグラスをチラリと見やるクラウド。
「ヴィンセントが来たわよ」
「そうか。何だって?」
「“もうわかった” だって」
彼は装備を外す手を一時止めるが、「そうか」とだけ呟く。
「ねぇ、何の話?」
「なんだ、わからないのか」
鼻先に指を突きつけ、「ティファの顔に書いてあったんだろ」と二階へ向かい話を終わりにする。
「もう。面倒臭いんだから、あなた達」
仲間内でもとりわけ無口な二人が織りなす言葉足らずのコミュニケーションにほとほと呆れるティファだったが、溶けづらい形状に固められた丸い氷が蛍光灯の光を浴び輝く様に口元を緩める。清々しいほどの一杯勝負。楽しかったから、まぁ、いっか。
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ヴィンセント「ちょっと心配になりまして...」
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