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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Starlight Princess

絵本のお話。






何度読み返したって、それは決まって同じシーンから始まるんだ。

星空の下、まともに顔を合わせられなかった俺がそれを見たのは、ほんの一瞬だった気がする。だけど一ページ目に登場するその女の子の笑顔はどんなに時が流れても心に焼き付いたままで。

一見すると散々な俺の物語も、実はそんなに悪いもんじゃない。あの時と同じ笑顔で最後のページを飾れるに違いないんだから...


Starlight Princess


「ねぇ、早くこっちに来て?」

ベッドの上から手招きされる絶好のシチュエーションに重い溜息が吐き出された理由は、膝の上に開かれたカラフルな絵本。





抜き足差し足で廊下を渡り、こっそり浴室へと逃げこもうと企むが、子育てに関してはとりわけ抜かりのない母親に行動を読まれ、まんまと迎え撃たれる。

「十時回るのは、絶対に禁止」

腕組みをし言語道断といった風のティファが、今の今まで子供部屋で続いていた大騒ぎを指しているのは間違いない。悪ふざけをしだした子供達をキツく叱るのが遅れ酷い就寝時刻となってしまったのは俺に非があるが、今夜はもう一つ不運が重なった事をそれとなく主張する。

「元凶は俺たちの部屋に没収しておいた。明日からは気をつけるよ...」

事情の飲み込めないティファは、腕は組んだまま首を傾げる。



「これ、先週マリンに買ってあげた絵本...」

寝室のベッドサイドに置かれた一冊を手に取り、「懐かしいな」とパラパラめくる。ティファもこんな乙女チックなものを読んできたのかと、自らを苦しめたごくごく一般的な幼児書であるはずのそれに苦々しい視線を送る。

“今日はこれがいい!”

マリンが差し出した真新しい絵本を手に取り、パジャマ姿の幼子の脇に寝転がる。

“この字、読めるか?
“うん、『いと』だよ。学校で習ったもん!”
“正解だ。偉いな”

髪の降ろされた頭を撫でてやると得意げな顔を向けてくる。ゆっくりとしたスピードを心がけ、しばらくするとつぶらな瞳がうつらうつらしてきた。そこまではいつもの通りだったが、隣で寝る準備をしていたデンゼルがいつの間にやら妹のベッドに這い上がり、女の台詞を読み上げる時だけふざけて復唱をし始める。

“『キャー!痛い!!』だろ、クラウド。もっと心込めろよ”
“ふふ、たしかにクラウド、お姫様は下手っぴかも!”

せっかくトロンとしだした瞳まで爛々と輝いてきた。次の台詞を確認し、なんとかペースを取り戻そうと音読を中断する。

“ほらクラウド、『この世のどこかにいる王子さまが必ず助けにきてくれると信じているわ』だろ”
“...デンゼル、お前はもう自分のベッドに戻れ”

そこそこ威圧的に命じたつもりであったが、父親がマリンにかかりきりなのがつまらないのかいつになく聞き分けが悪く、益々悪乗りをしだし遂には絵本を取り上げ部屋から出て来たのであった。



事の次第を把握したティファに柔らかい表情が戻りホッとしたのも束の間、「じゃあ、一緒に読むの練習してみる?」と耳を疑う提案を投げかけてくる。ここまでがベッドに二人肩を並べて一つの本を覗き込むシチュエーションに行き着いたいきさつだ。平日は読み聞かせの役目は自分のものであったし、望み薄と思いつつも冒頭から読み進める。

「『...とその時、お姫様の指先に紡ぎ糸の針が刺さってしまいました。“キャー、痛い”...』
「本当に棒読みねぇ...」

あけすけな評価に憮然となる。抑揚を出すのは苦手であったが、この種のもの以外は結構子供達にも好評であった。

「俺が子供の頃に読んだのはこんな夢見がちなのじゃなくて、車に顔がついてたりキツネが恩返ししてくれるようなやつだったんだ。普通のならもっと上手く読める」

車に顔がついてたりキツネが恩返しをする行為は果たして夢見がちでないのかとティファは疑問に思うが、女兄弟もいない彼がこの手のお話を気恥ずかしく思うのも不思議ではない。

「第一、針でちょっと刺されただけで何でひっくり返るんだ?このお姫様は」
「う~~ん...」

正直ティファも幼心に疑問に思ったが、それでも一種の憧れと共に事実をすんなりと消化した気がする。「とってもか弱いのよ、だってお姫様だもの」その回答にクラウドは不服そうにするが、渋々先へと進む。

「『...こんなところにお姫様がいるなんて。なんて美しい方なんだろう』だからって、面識もないのにいきなりキスなんかするか?変態かよ」
「あのねぇ、クラウド」

臭い台詞に堪え兼ねイチャモンをつけ出す俺に呆れた溜息が重なる。「王子様だから素性は割れてるの。別にいいの!」投げやりな説明に納得はいかなかったが、世間一般の解釈はそれなのだろう。

言葉遣い以上に、女の子向けのおとぎ話から感じる違和感の正体に気付きだす。マリンが持っている絵本のあらすじは、危機に陥ったお姫様を王子様が助けて、キスして、永遠に仲良く暮らしました。細かい点は違えどこのパターンばっかりだ。しかもこの眠れるお姫様を救う件に関しては、百年の呪いが解け茨(いばら)が簡単に道を開いたため、王子は取り立てた苦労さえしていない。

「下心満載過ぎだろ、この王子様は。良い思いしかしてないし、教育上良くない」
「『王子様はお姫様を頑張って助けましたが、何も求めず彼女の元を立ち去りました』だったら感動するな。男気溢れる道徳の本だ」

将来マリンがこんなろくでなしに惚れ込んだらどうしてくれると憤慨を覚え、白タイツの男を睨みつける。だいたいティファもこんな本ばっかり読んでるから十三歳にもなって “ピンチ” とか “ヒーロー” とか言い出すんだ。具体性のないそれらに当時は大いに戸惑ったことを思い出す。聞こえのよい事ばかりをつらつらと述べる口に白けた視線を送っていた彼女は、突如コテンと肩に頭を乗せてくる。

「へぇ、じゃクラウドはいいんだ。キスも抜きで、別々に暮らすので」

唐突な指摘にフリーズする。何の見返りも求めず清らかに成立したかにみえる十年前の約束だったが、あの頃の俺も彼女といかにキスするかで頭が一杯だった。

「俺は...こいつよりはもうちょっと努力はした」

先の突っ込みを否定はしない俺に肩で頭がクスクスと揺れる。ピッタリと寄せられた体温に、練習はどうでも良くなってきた俺は「自分の不道徳さは認識済みだ」と降参し細い顎に指を添える。ティファはからかう様にそれをを振り払い、腕同士をギュッと絡ませ最後のページを指差した。

「ほら、いよいよラストよ。心を込めてお願いね」

人差し指の先の一文に目を通し、げんなりする。

ーー世界一美しいお姫さま、あなたは私が一生かけてお守りするとちかいます

「...無理だ」
「残念。聞きたかったのに」

俯いた顔に浮かぶ表情はこの角度からは伺い知れず、もしもそこから笑顔が消えていたらと不安になる俺は、つくづく彼女に甘いと思う。何年経ったって、ティファは変わらない。小さな頃こんな本ばかり読んでいた後遺症だ。

「守るよ、ティファは。俺が一生」

絵本に置かれた手に自分のものを重ねると、肩に乗っていた重みが持ち上がり、首筋に吐息を感じた。王子様さながらご褒美を待ち構える俺を裏切り、唇は頬を通り過ぎ耳元まで到達する。

「“美しい” が抜けてますけど?」
「~~~勘弁してくれ...」

案外ふてぶてしかった反応への仕返しに、やや乱暴に腰に手を回し唇を引き寄せる。照れ隠しに悪戯っぽく揺れる瞳。だけどそれは誤魔化せない程に潤んでしまっていて鼻の先を掠める頬は熱っぽくて、やっぱりズルいと思う。長年恋い焦がれてきた甘くて柔らかい唇に吸い寄せられると、閉ざされた瞼の裏が無数の星で埋め尽くされていく。俺を主人公にしてくれたその一ページに痛いほど思い知らされた。

ああ、でも...そういうところを好きになったんだっけ。


******************


永遠に、星空のヒロインでいて...



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