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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Whole My Life

ヒモっぽさ×プロポーズ的男気=フェンリル。
考え出すとひたすら重たいこの話題ですが、なるたけカラリと。






Whole My Life


自室で身支度を整えていると、カットソーの裾がチョンと引っ張られる。そこにぶら下がった白くて小さな腕の先にある顔は曇り空だ。

「せっかくのデートなのに、スカートじゃないの?」

デートって...
だが大人気なく反論したりはしない。店で使う食材の仕入れ交渉のためにティファとクラウドは今から連れ立ってカームへと経つ予定であるが、その用件は事務的な色合いが強かった。

「だって、あのお化けバイクに乗るのよ?」

おどけた風に茶化すと、マリンはつい先日我が家に仲間入りしたクラウドの相棒に関心を移し一転頬を染めモジモジとしだす。

「マリンね、ずっと我慢してたの。だって、一番乗りはやっぱりティファだからって...」

可憐な娘が思いの外大胆な野望を隠し持っていたことに唖然とする。マリン、流石にそれはもう少し大きくなってからよ。バレットが卒倒しちゃうわ...
しかし当然、その憧れを無骨に壊しはしない。笑いを堪えながら淡いブラウンに艶めく髪を撫でつける。

「そうだった、私が買ってあげたんだったわ」

少女はその返しが気に入ったのか、期待以上にパっと顔中を明るくし「うん!」と全面的に同意した。



遠慮がちに衣服の背後を掴む指にクラウドは呆れ顔をし、手首をグイと前方に引っ張ると腰にしっかりと巻きつけさせた。エッジの近郊を抜けてすぐ、彼を虜にする風と出会う。ティファも車の運転は好きな方だったが、それとは全く異なる爽快感に包まれ澄んだ外気で肺が満たされていく。

中間地点を過ぎた頃、クラウドは休息のため小高い丘で一度エンジンを落とす。足元がフカフカの芝に変わりだすそこは、モンスターが滅多に寄り付かないお気に入りのスポットだ。道中も面倒な輩と遭遇しないルートを極力選んだが、ティファは眼下に広がる荒野を見下ろし指をポキポキ鳴らすと彼の折角の計らいをふいにする。

「何匹かやっつけてこようかな」
「はぁ?」

女性らしからぬ物騒な思い付きに、「よせよ、マテリアもないのに」と異を唱える。

「ここらへんのモンスターなんて敵じゃないもの」

なまじ冗談でもなさそうな凛々しい横顔は、「もう三カ月も戦ってないわ」と伸びをして準備運動に余念がない。

「いったいそれに何の不都合があるんだよ」
「だって、弱くなっちゃうじゃない。そんなの嫌よ」

あっけらかんと返された男勝りな信念に面白くない気分にさせられる。肘関節のストレッチをしている腕を掴んで止めさせ、「俺はティファが明日蚊も殺せなくなっても全然構わないけど...」とこの場に引き止めようとする。続く台詞に、喉が生唾を奥へ押しやる音が耳の奥で響いた。

「俺との約束があるんだから、困らないだろ」

ティファは腕をほどいて目を見開き、「クラウド...」と俺に見入る。いつになく気持ちを明瞭に表現出来た事に満足し、手首を取る指先に力を込めた。だが次のティファの発言に開いた口が塞がらない。

「あれって、まだ有効だったの?」

投げられた問いかけには言葉を失うしかない。いつの間に失効したのか、そんなのこっちが聞きたかった。

「だってもうちゃんと守ってくれたわ。五年前に」

そういう意味か...その律儀な解釈は全くもって新しい。いつ何時なんて形容詞の付されていないあの漠然とした約束の期限は、俺にとっては一つでしかない。

「いや、一回きりでなくなるもんなのか?」
「じゃあ、いつまで?」

急遽突きつけられた難題に冷や汗がタラリと伝う。その単語が脳裏を駆け巡ると同時に、喉の奥は再び派手な音を立てる。堪らず掴んでいた手を開放し、顔を背け吐き捨てた。

「一生だ、一生。もしくはティファが必要ないと思うまで」

今度こそティファは切なそうに眉根を寄せ、「クラウド...」と俺を見つめてくれる。

「でも、蚊も殺せないのは困るかも」
「例え話だろ...」

二度に渡り沸騰した頭は取り越し苦労を認識し急速に冷却されていく。僅かな期待を込め再度紅く輝く瞳の色を伺うが、やはりキョトンと首を傾げて能天気なままだ。

結局、この数ヶ月の間に勇気を振り絞り伝えた告白はいずれも撃沈したことになる。隣からは呑気な鼻歌まで流れだし、呆れを通り越して笑うしかなくなった。だが崖下の怪物をこてんぱんにする企みは断念したらしい彼女は、切り立った岩に腰を降ろしぶら下げた足をテンポ良く揺らしている。

「随分お得な約束だったのね」
「そうでもないさ」

こっちばかりが手に汗握ってあたふたと馬鹿らしくなってきた。どうせティファは遠回しな言い方では何も汲み取るまいと見くびると、小心者には妙な安心感が芽生えだす。「コイツのこともあるしな」とフェンリルを顎で指した。

「俺も一生スネをかじらせろと言っている」
「そんな真面目な顔して情けないこと言わないで」

「開き直れば良いってもんじゃないわよ」とティファは白い目を向ける。

「そうだな、まぁ...一生、タクシーには困らない」
「クラウド、しょっちゅういないじゃない。当てになんないわ」
「...事前予約制だ」

見下ろした先に横たわる薄茶けた街。俺たちの新しい生活はあそこで始まったばかりだった。それはあの街並みと同じくらいつぎはぎだらけの危ういものにも感じたし、一方であちこちから立ち込める細い煙に確かな住人の生命力が感じとれ、この幸せが永遠に続くのではと己惚れずにもいられない。

「まぁなんだ、こんな俺でも一生一緒にいれば何か甲斐性が見つかるかもしれないぞ」
「どんな?」

声が裏返りそうな箇所をなんとか発声しきった矢先に飛んできた非礼な質問が癪に触るが、確かに考えてみれば具体的には何一つ浮かばず情けなくもすぐさま腑に落ちる。

「そうだな、一生のどこかで金鉱でも掘り当てるかもしれない」
「そんな大それたものいらないわ」

「それよりポケットに色々詰めたまま洗濯機に服を放り込むのやめてくれない?あなたのお気に入りのシャツ、今原色のチラシまみれよ」とティファは所帯染みた説教をまくし立てる。

「...大事な話の途中に茶々を入れるのはティファの悪い癖だ」
「私達、大事な話なんかしてたかしら?」
「なんか伝わるには一生かかりそうだな、ティファには」
「クラウドが要領を得てくれるのにも一生かかるかもね」

こちらを覗き込む見透かす様な瞳にふいに疑念がよぎる。もしかして、踊らされてるのは俺の方か?

「問題ないだろ、だって俺たちは一生...」

勢いがあまりうっかり一人歩きした舌は慌ててつんのめり、押し止まる。

「...一生?何?」
「さっきもう言った」
「どれかしら?沢山あり過ぎてわからなくなっちゃった」

...流石にお喋りが過ぎたか。
気づけば彼女の隣で俺の両足も気持ち良く宙に浮いていた。風にたなびく長い髪と特有の色彩を有した瞳は、こうして太陽光に透かされると陽の差し込み具合に応じて様々な色合いに変化することを知ったのは相当昔のことだ。少年の頃はそれを垣間見る度、誰も知らない彼女を知った気になって高揚を覚えたものである。

幾年も想像をするだけだった髪の手触りは実際には驚くほど繊細で、すくうとするりと滑り落ちる度に心はゾクリと震え恐怖する。失敗続きの俺は、そんなたわいのないものがいかに壊れやすいかを知っている。

「ティファには敵いそうにない」
「それも一生だったりして」

様変わりした生活、未来...だけど俺が守りたいものはいつだって変わらないままなんだ。人並みで取るに足らないはずのそれを俺が守りきれたことはただの一度もない。どうか...どうか今度こそ守らせて欲しい。すっかり彼女にも乗り移った言葉に、小さく、ささやかな夢が永遠に続くよう願掛けをする。そんな俺の心の奥底を知ってか知らずか、鳶色の瞳がまた新たな色を携え、宝石の様に煌めいた。

「ああ...残念ながら、たぶん一生だ」


******************


一生やっててください。


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