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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Jelly × Jelly

お客様へのヤキモチ、クラ→ティ編。



Jelly × Jelly


裏口から店まで続く、短い廊下。朝夕は陽の差し込みがなく暗い印象のその場所は、西陽の照りつけにより普段と違う様相を呈していた。カトラリー同士の触れ合う軽快な音調に織り重なる耳慣れた声。だが、そこに不躾に混ざった低音に、自覚するほど眉は歪む。

「なぁ、傑作だろ?だから俺、こう言ってやったわけ」

夜の営業が始まってすぐ、未だ陽の落ち切らない店内にいる客はただ一人で、こんな時刻にカウンターを陣取る男の目的は酒でも飯でもなく、女マスターを占拠する事であるのは間違いないだろう。先程から得意気な調子の口は止まることを知らず、それにテンポ良く応える相槌が果たしてリップサービスなのか本心なのかは不明である。

「ね。そういえばこの前紹介してくれたお店、すっごく良かった!」

店の入口に差し掛かった際に耳に飛び込んできた台詞に歩みを止める。しかしそれは一瞬にすぎず、利き足はすぐに登り慣れた階段の一段目を捉えた。「ちょっとごめんね」店主の断りの文句を背中に認めるが、歩調は変わらない。

「おかえりなさい、クラウド。ごはんは?お腹空いてる?」
「いや、まだいい。…少し寝る」

今手元に残っている配達物は夜更けにならないと受取人が在宅していない個人宅のものばかりである。「夕方一度帰って、夜また出る」今朝伝えた通りのスケジュールを文字通り遂行する俺に当然ティファは驚くことはなく、話はそれで終わった。自室に入ると乱暴に荷を投げ出し、そのまま身体もベッドに放り投げる。

別に、客商売を生業とする彼女に男性客と親しげに話すななどと要求する気はないし、何かやましいものがあるのではないかと勘繰ったりもしていない。今現在階下で繰り広げられている程度の会話は老若男女を問わず常日頃から交わされており、異性の客との間の空気が怪しい匂いを醸し出そうものなら、彼女はカラリと、だが相手に一ミリの期待も許さない方法でバッサリと事を終わらせてしまう。ここまでを一気に考え自らの冷静度合いを確かめた。

(うるさいな…)

扉を閉めてしまいたかったが、下の階の男女を二人きりにするのは嫌だった。次第には、いつもは愛おしくてたまらないあの声さえ煩わしく聞こえてくる。外遊びは五時までと決められている子供達の姿が見当たらないこと。強がっているだけで本当は空っぽな腹。たわいもないことが神経を逆撫でし、目を瞑りはしたが眠りにつくことは不可能だった。

先程の冷静な分析に反し、何故こんなにも心は波立っているのだろう。なんのことはない。理想的な女性である彼女に対し、何の取り柄もない自分を再認識しただけだった。特殊な状況で結ばれた二人だ、いつ夢から醒めたっておかしくない。当時は俺の剛腕も魅力として映ったのかもしれないが、こうして戦いを終えた今それは日常生活にてんで役には立たないし、機転というものを全く有していない俺では目尻に涙を浮かべさせるほどの大笑いを彼女にさせることは出来ず、洒落た店に連れて行くなんて逆立ちしたって無理だった。

身の回りに見えない闇がふつふつと沸き起こり、しまいには遠く離れた故郷で嫌というほど苦しめられたドス黒い感情に溺れていく。その時、他の来客を知らせる鈴の音に忌まわしい会話が断ち切られ、ようやく身体に込めていた力を抜き意識を手放していく。まどろんでいく頭の芯は、最後の力を振り絞りお得意の逃避行を始めた俺を責めた。
ああ、くそ。そういえば、ただいまって言ってない…



寝息のリズムに合わせ、指に絡めては滑り落ちる髪を繰り返し梳く。その美しい絹糸の持ち主は、本日も仕事に家事にと大忙しな一日を終え、俺の肩には力の抜け切った頭が心地よく預けられていた。

「ティファは…」

不意に口を突いた呼びかけ。眠りに落ちてしまったのか続く言葉を待っているのか、彼女からの反応はない。

「俺の、何が良いんだ?」

独り言ともとれる漠然としたそれに、すでに落としていた瞼をゆっくりと持ち上げ、なぁに?いきなり、そんな顔をするティファ。そのまま視線を一点に定め考え込んだ末に、口から発せられた言葉に肩を落とす。

「ん~~……私もわかんない!」
「なんだよそれ…」

自分で考えても一つも浮かばなかった訳なので文句を言う筋合いもないが、それが恋人に対する返答かと不服を漏らしたくもなる。口を真一文字に結び閉口している俺と違い、寝ぼけ気味とはいえつい馬鹿正直に返してしまったことがおかしいのか、ティファはなんだか楽しそうだ。

「違うの。何もないって言ってるんじゃなくて。ただ、なんて言うかこういうのって理屈じゃないし」

それでもなお不満気な俺の腕の付け根に頭を乗せ直し、「そうだなぁ」と再び瞳を瞑り思いを巡らせる。

「でも、たまに思ったりするかな。ああ、私こういう人じゃないとダメなのかもって」
「こういう人って?」
「.........内緒!」

前のめりになる鼻の先に人差し指を置き、優位な状況を楽しむティファ。そんな彼女を後目にこれ見よがしに深い溜息をついた。

「じゃあ、クラウドは私の何がいいのよ?」

どうせ言えないんでしょ。見透かした顔をするティファの意表を突き、蒼い瞳は真っ直ぐ彼女を捉える。

「何って...可愛いだろ」

女を好きになる理由にそれ以外のものがあるかと、さも当然のごとく答える。

「あとは、優しいし、料理が上手いし、スタイルもいいし…」
「ちょっ…ちょっと、クラウド!」

言ってて段々と悲しくなってきた俺を遮り、彼女は暗闇にもわかるくらい頬を赤らめ動揺する。

「な、なんだかとっても抽象的なのね。それって、私じゃなくてもよくない?」
「なんでだ。可愛いと思える女なんてそういないだろ」

「それに飯だってエッジ一、いや、世界一美味い」と事もなげな調子で言い放つ俺に口をパクパクとし、「クラウドって、たまにズルいよね…」と呟きながらティファは俺の胸に顔を埋める。

「おい、俺は言ったぞ。ティファは?」
「えっと」

どうせまともな回答はあるまいとタカをくくっていただろう彼女は予想外の窮地に立たされる。頭の中で表現を探している様に期待の眼差しを送るが、ふと目があった瞬間、紅茶色の瞳は恥ずかしそうに逸らされ、顔はズルズルと毛布の中に引っ込んでいってしまった。

「...今度言うね!」

おやすみ!とキュッと巻きつく腕に、肩透かしをくらいまた深い息を吐く。今度って…永遠に来なさそうだ。俺じゃなきゃ駄目なものなんて本当にあるんだろうか。彼女の発言自体、ただの気休めで本当はそんなものない気がしてきた。

頭一つ下がって眠る彼女はおでこが覗くだけで表情は拝めない。その頑なな背中にゆるりと腕を巻き返す。贅沢になったもんだな、こう出来るだけで満足しろよ。自らに言い聞かせるが、いつか彼女がこの不確かなまぼろしから目が覚め、女の扱いに長けた男になびいてしまうのではないかという不安は払拭出来ないまま、夕刻にたっぷりと仮眠を取ってしまったクラウドの夜半は、いつになく長く苦しいものとなった。





今夜も店は賑わっている。フル稼動しっぱなしのコンロを巧みに操りながらもシンクには洗い物一つ残されておらず、大皿が頃合いを見て優雅に並べられていく。そうかと思えば小さなウェイトレスがホールで抱えた問題に腰を屈めて一つ一つ丁寧に対応する。

「ねぇ、ティファ。あのお客さん、人参がダメなんだって。なんとかなる?」
「別のお野菜で作るから大丈夫よ。伝えてきてもらえる?」
「うん!」

母代わりからもらった模範回答を抱え足取り軽く持ち場へと戻るマリンの背中を見届けると、ティファは無駄のない動きで壁時計の時刻をチェックし調理場へと向き直った。複数の動作を同時にこなすことが大の苦手である俺は、抜本的に脳の作りが違うのであろう彼女に無言で密かに賛辞を送る。

「マリンは良い子だなぁ」

微笑ましい光景に先刻から水を差しているのは、この混み合った時間帯にも関わらずカウンターの内側にひっきりなしに投げかけられる声。ここ最近しつこさを増してきたそれに警戒をしているのか、ティファが用意していた返事は若干皮肉交じりである。

「...今って繁忙期なんじゃなかったっけ?」
「うん、だからコレ食ったら職場に戻るよ」

仕事熱心ぶりをアピールしたいのか、はたまた気の毒な状況に同情して欲しいのか、料理人の忙中に気遣いもしない男には、オブラートに包まれた嫌味など全く通じてなさそうである。
とっとと食って、とっとと帰れ。絶妙にグリルされ肉汁の滴る骨付き肉をしゃぶりながら、クラウドは目つき悪く独りごちた。

「この後?随分遠くまで来たのね」
「そりゃ来るよ。こんな美人と会えるなら」
「そ、ありがと」
「あ~あ、気がねぇなぁ。脈なしかぁ」

表情こそ柔らかいが、ティファの視線はフライパンに向けられたままである。男は気付いていないが、今のアプローチは黄色信号だ。これ以上危険領域に侵入したならば彼女は迷わず応戦態勢を取るだろう。
とっとと食って、とっととフラれて、とっとと帰れ。呪いのまじないを追加したクラウドは、側から見たら奥歯にモノが挟まった無愛想な客にしか見えまい。

「ティファってさ、どんな男がタイプなんだ?」
「う~ん...間違ってもカウンター越しに女性を口説いたりしない人かしら」

つれない即答に、「どうしても俺を拒絶したいのはわかった」と大袈裟に両手を広げかぶりを振った男は、何を勘違いしているのかキメ顔をしてカウンターに詰め寄る。

「真面目に聞いてるんだけど」
「あら、大真面目よ」

ティファはフライ返しを持ったまま久々に男に向き直る。店ではプライベートよりややかしこまり凛とした印象である彼女。しかし今、珍しく一客に対してはにかみ頬を赤く染める。

「だって私、すっごくヤキモチ焼きなんだもの!」

ゲホ!誤って水を喉に入れたクラウドは必死に体制を整えつつも、顔は上げられず額に手を当て前髪をグシャリとやる。今のは…

(反則だろ…)
(か、可愛い過ぎる...!)
(ヤキモチ、焼かれて~~!!!)

カウンターを囲みこっそり聞き耳を立てていた男性陣が、同時に複数打ちのめされた。



“ティファと付き合えるなら、俺だって一途に...”
“私、他に大切な人がいるの。さっ、そろそろお仕事に戻らないと今日中に帰れないわよ?”

自信満々な態度から一転、蚊の鳴くような声を絞り出す男は酒も飲んでもないのによろめき店を後にする。あの攻撃を正面から食らい戦闘不能寸前のそいつに初めて同情をした。単なる女遊びの激しい奴ならどうでもいいが、本気で惚れているなら辛過ぎる。男心には鈍感であるはずのティファは時折天才的な切り返しで急所を突いてきて、総じて彼女の恋愛偏差値が高いのか低いのか誰も計り知れない。

「...なぁ、“すっごく”って、どれくらいだ?」

まだ洗い物の最中と知りつつも、堪えきれずにしなやかな身体に腕を巻きつける。面倒がらずに水を止め手を拭き腕を抱き返してくれる反応に、ますます舞い上がった。

「クラウドに負けないくらい、よ」
「それは...重症だな」

もしかして全部お見通しか?ここ数日の自らの態度を振り返れば、ひた隠しにしていたつもりでも彼女にはバレバレだったのかもしれない。

「自信、ついた?」
「ああ。それならエッジ一...いや、世界一だ」

コロリと調子を取り戻した俺に、悪戯っぽい瞳が振り返る。

「どーだか」
「なんだよ...信じろって」

脇腹にティファの腕が巻きついてくる。期待を裏切り、その細さからは信じられない強さで締め上げられた。

「嘘だったら、こうだからね」
「いででででで」

確かに怒らせたら恐ろしいことになりそうだ。だけど自信は揺らがない。「上等だ」彼女の腕を無理やり解くと負けずにウエストを締め付け返す。もちろん、痛みを感じさせないギリギリまで手加減をして。続いて耳に届く台詞に心は弾み、なかなか彼女を解放してやることが出来なくて、俺はこの後全力で片付けを手伝うことを心に決める。

ーーね?だから、あなたじゃなきゃダメなの


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