Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
Last Breath
ティファの罪と罰。暗いです。
バッサリ切り、 二年かけてACの長さになったとしてみるのもまた一興。
Last Breath
ジャキ...
金属と繊維の擦れ合う音。漆黒の絹糸がその長さを失っていく度、ティファは肩にかかる重みが軽くなっていく錯覚に陥る。実際にはたいした質量を持たないはずのそれは、鏡が映し出す光景が見せる幻か、それとも近い将来我が身に降りかかるであろう試練がもたらすものか。
ーー試練
自らが選んだ偽善的な言葉に自嘲する。
楽になるんじゃ、罰にならないな...
だがそれは間違いなく、どうしようもなく弱い自分の本音であった。
想定したよりそこに大きな動揺はない。ティファは自分のいなくなった後の世界を淡々と思い浮かべる。マリンは?仲間達は?深い傷を残すことになるだろう。それでも立ち上がって欲しい。そして、その強さを持ち合わせた人々だ。
ふと脳裏を掠める柔らかい蜂蜜色。それとは補色を成す碧い瞳は鋭く一見強気だが、その内には無骨に触られればいとも簡単に崩れさってしまう脆さが秘められていることをティファは痛いほど知っている。
ジャキ...
また一房、力を失った毛束が床にハラリと落ちた。
あの人、どうなるんだろう。
閉店のため鳴るはずのないドアベルの音が高らかに響き、新聞を読んでいた顔が持ち上がる。そのまま瞳は白黒しだして、質の悪い紙がパサリと乾燥した音を立て手を擦り抜けた。
薄っすらと開かれた口から「あ...」とか「う...」とか声が漏れ出たが、それはなかなか形を成さない。想像を上回るリアクションに笑いを堪え、クルリと一回転をして全貌を明かす。
「どう?」
呆然としたままおもむろに立ち上がったクラウドは、ティファの正面まで来ると短くなった髪に瞬きもせずに見入る。
「...懐かしい」
「え?」
「小さな頃に戻ったみたいだ」
あなたって、時折なんて優しい顔をするんだろう。物心がついた時から伸ばし続けている髪。この人は私の本当に長い時間を知っている。篝(かがり)の灯った胸。その儚い炎は視界の端に嫌でも映り込む濃いブラウンの調度に掻き消される。数日前に起こった出来事が残像を伴い生々しく蘇った。
戦闘の勘に長けた彼女がその視線を認識するのに時間はそう要しなかった。最も奥まった箇所に置かれたテーブル席に腰掛ける無精髭を生やした男。荒んだ目付きはその青年の年齢を幾分か上に見せた。組んだ手により口元は隠されていたが、標的を探し当てた眼差しは険しい。
“あんた、名前は?”
“ティファ”
“...歳は?”
“ハタチです”
短い会話の後、往生際の悪い自分が縋(すが)った一縷(いちる)の望みは他愛もなく打ち砕かれる。彼が私に向けた感情は、途方もないほどの憎しみだった。
「七番街のプレートを破壊したのは、あんたか」
そしてその時はあっけなくやってくる。開店準備中の薄暗い店内。差し迫る男の無機質な声がひんやりと冷えた空気を振動させる。
「答えろ。俺は真実を知りたい」
真実?この場合の真実は何になるんだろう。爆弾のスイッチを押した張本人とは違う気がした。あの惨事をもたらしたのは、やったらやり返すの野蛮で非人道的な応酬であって、それは紛れもなく愚かしい自分の意思を伴って行われた。
「...はい」
息を飲みこんだ男の手がゆっくりと首にかかる。抵抗もなく差し出された青白い喉にグッと力が加えられた。呼吸を止められてから数分、その間ティファは小さな苦痛の呻きを微かに零しはすれど、両の手は静かに体側に降ろされたままだ。
意識を手放したはずの脳裏。しかしそれはいつの間にか真っ白に覆われ、自重を支える力を失った身体は床に崩れ落ち、同時に激しく咳き込む。
「殺せない...妹と同じ歳...同じ髪...」
青年は自らの頭を両手で抱えズルズルとへたり込み、嗚咽を上げる。
「それに、俺もあんたと同じになっちまう...!」
至極真っ当な発想を否定はしない。過去の自分より遥かにまともな分別を持ち合わせたことを羨ましく思うと共に、彼の頬をつたい溢れ出る涙に絶望を覚える。どんなに与えたって、償ったって...やはり私が許されるのは、その時でしかないんだ...
俄かに降り出した雨に追い立てられるようクラウドは店の入り口に滑り込むと、足を踏み入れた先の静けさに眉をひそめる。金糸の上を露が転がり落ちた。
「店、開けなかったのか?」
その質問に対する返事はない。ティファは入口に背を向け壁際のテーブルを拭いている。反応がないことを怪訝に思い、クラウドは暗がりに不明瞭な後ろ姿に目を凝らす。そしてその首筋に色濃く刻まれた赤い痣と血の滲む爪痕を見つけると、腕を掴み声を張り上げた。
「ティファ!!」
「大丈夫、大丈夫だから...」
片手を取られ強引に前を向かされたティファは顔は背けたままだ。その様に、クラウドはゆるゆると脱力し、真後ろの机にもたれかかる。目元は手で覆われ、はぁ、と苛立ちを含んだ息を吐きしばらくそこで頭を垂れた。
「もし、望まれたら...ティファは何の抵抗もしないで死ぬ気だろ」
刺々しい声調とは対照的に、指先は肩に向かい真っ直ぐに落ちる髪にそっと触れる。
「この髪みたいにバッサリさ」
指は力なく降ろされた。その声にはもう先程までの威勢はない。
「ティファを失ったら...俺には、心の底から笑える日はもう来ないかもしれない」
“そんなことない” “しっかりしてよ”
形ばかりの慰めの文句が浮かんだが、薄っぺらいそれを伝えるのはやめておく。うん、本当にそうかもしれないね。だって私もあなたを失ったら、笑えない。
「この店だって、どっちだって良かったんだ。本心では、こんな人目に晒される場所なんかじゃなくて、誰もいない所で暮らしたい」
「逃げようか?今からでも」ティファの指の先をすがるように掴むクラウドに、「...出来ないよ」と掠れ声が応えた。久々に視線を絡めた二人は突拍子のない逃避行の提案が非現実的過ぎて、どちらからともなく力無く微笑む。
「わかってる」
出来たらいいね。でもきっと、もしもそんな卑怯なことをしてしまったら、私は苦しくて苦しくて、あなたを愛すことさえ放棄してしまうかもしれない。
「だったらせめて約束してくれ」
クラウドの腕がティファを引き寄せ、包み込む。
「一人で逝くな」
“あなたは生きて”
かけてあげるべき言葉が浮かぶが、目の前の心を引き裂くだけのそれを伝えはしない。どんなに望まれても、私は孤独に果てるだろう。でも悲痛な面持ちのあなたを他所に、私は密かに一人途方も無く幸せな夢想に身を委ねる。
「約束してくれよ...」
震える肩は、決して抱き返してはならない。だけどお願い、もう少しだけこのままでいさせて。痛いくらいに食い込む爪は、感覚を失ってしまった今の身体に調度いい。
どうしようもなく弱い私を恍惚とさせるのは、決して叶うことのない、悟られてはならない夢。どうか私をきつく抱いていて。この身勝手な夢から醒めて、ここではない遠いどこかからちゃんと戻って来られるように...
晴れることのない靄の中で囁かれた願いは、誰の耳に届くこともなく雨滴に霞んでいった。
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Last Breath=この身尽き果てる時
一緒に、死ねたら。
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