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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Cool Ad Hoc ~前編~


クラウド in 7th Heavenです♪

Ad Hoc=臨時隊員







熱されたフライパンの上で、食欲をそそる肉の焼ける音と、ソースの香りが踊る。 厚めの鳥肉にこんがりとしたキツネ色が差したのを確認すると、それをひっくり返し、いつもの習慣で顔を上げホールを見渡した。
昼真っ盛りの店内は全席が埋まり、客達は腹を満たしながら思い思い話に盛り上がっている。その真上でゆったりと回転するシーリングファンは、あたかも窓が開け放たれているかの様な心地よい風を室内に送っていた。

幾度となく繰り返された、見慣れた光景。
ただ一つ違うのは...

紅みがかった茶色の瞳が、窓際で注文を取る後ろ姿に止まる。とその時、注意を喚起するがごとく目の前の料理がパチリと香ばしい音を立てた。

(いけない、集中集中!!)

別の鍋に用意した付け合わせと共に慎重に盛り付けをすると、フロアでタイミングを見計らっていた蒼眼がその様子を捕らえる。普段と比べやや余所向けに装われた顔は穏やかで、かつ何時になく爽やかだ。

「それ、運んでもいいか?」
「う、うん。えっと、テーブルは...」
「確か7番と11番だったよな」

湯気の立つ料理を受け取ると二枚の皿を手際良くさばいていく。その横顔と立ち振る舞いは、ドキリとさせられるには十分で。しかし形の良いピンク色の唇から無意識に漏れ出たのは...


...重苦しい溜息だった。


Cool Ad Hoc ~前編~


『...はい、今週の金曜日の午前中ですね、かしこまりました。はい...』

他の居住空間とは異なる独特な作業油の匂いの漂う部屋で通話を終わらせた彼女は、いつもと違いすぐ様そこから立ち去りはしなかった。
視線の先には壁に貼られた月間カレンダー。そこに書き込まれた数十の項目の並び替えを、頭の中で巧みに試みる。クラウドにはメールを入れたが、手が空かないのか返信はないままだ。

「よし、決めた」

やがて意を決したように零された独り言と共に、ティファは今置いたばかりの受話器を持ち上げる。





軒下を伝いポタリと地に落ちる朝露。
その水滴は今しがた空から降ってきたものではなく、雲間にも確かに顔を覗かせる太陽の光を受け輝いていた。

「久しぶりの晴れ間、か」

その清々しい陽気に反し、心は幾つかの懸念で翳(かげ)っている。

「ええと、今あるもので出来る献立はっと...」

本日から再び戻るであろう客足と、水準の減った食物庫のストックを照らし合わせる。
先週から続いた暴風雨のせいで地方からの仕入れは滞り気味だ。それでも日頃からひいきにしてくれる面々のおかげで食材が間に合わなくはなさそうで、店を閉めるには忍びない。今日は皆を送り出したらすぐに市場巡りね~、足りなければカームまで...なんて一日の計画を練っていると、ふいにエプロンがクイと引っ張られる。

「ねぇねぇ、ティファ。まただよ!」

言われるがまま目を向けた先には、懸念の内のもう一つ。
家を出る15分前に起きた一家の主は、歯ブラシを片手に朝食用に包んだサンドイッチを鞄にしまっていた。無気力に手を動かし続ける周りをせわしなくする少年は、この上なくご機嫌斜めである。

「なぁなぁ、早くラジコン直してくれよ。
晴れたから使いたいんだってば!」
「ああ...」
「前に見せてくれた変化球は?
投げ方すぐ教えてくれるって言ってたのに!」
「そうだったか?」

悪気はないのだろうが、まだ半分夢の中にいる彼の受け答えはぞんざいで、一層デンゼルは唇を尖らせる。
土砂崩れにより一般道が閉鎖され、荒れた裏道もルートとして持つストライフデリバリーサービスに依頼が殺到している。加え、リーブから災害により隔離された地域への救援物資の運搬要請も入り、クラウドはこのところ数時間睡眠の続くてんてこまいだ。

「「行ってらっしゃ~い...」」

嵐のごとく家を飛び出て行った背中の後に、見送りの声だけが虚しく残った。

「なんだよ、クラウドのやつ...」

デンゼルはすっかり機嫌を損ね、玄関にも出ず下を向き椅子で足をブラブラさせている。構って貰えない上に雨で屋内に閉じ込められ続けた彼を気の毒に思い、なるべく優しい声を出した。

「ね、デンゼル。ラジコン私が見てあげよっか?」
「前にますます変にされたから、やだ」

顔すら上げない態度に少々ムっとなるが、確かに何事にも器用な彼女は唯一電気機器には弱かった。

「最近、全然クラウドとお話してない...」

母親代りとのお喋りでストレスとは無縁のマリンも流石に寂しそうだ。読んで貰う約束をしたと言い張る絵本は、ベッド脇に置かれたまま一週間以上閉じられたままである。

目前に迫った開店を気にしつつも、沈んだ幼い顔は頭から離れない。何より気掛かりなのは、睡眠不足で青ざめフラついた体...
昼の混雑が一段落つき纏まった時間の出来たティファは、今しがた受けた依頼の配達先に一つの決心をし、立て続けに電話をかける。





「悪い、助かった...」

閉店を大分回った時刻に帰宅したクラウドは、カウンター席の背もたれに身を預け長い息をつく。
明日の日程を埋めていた依頼達に運良く急ぎのものはなく、近く予定されていた同じ届け先への配送日にずらせ、急遽休日を捻り出す事に成功した。

「その代わり、明後日以降はかなりタイトになっちゃうけど...」
「ああ。でも近場だからな、なんとかなりそうだ。
俺も上手く纏めたいと思ってたんだけど、調整する暇もなくて...」

その反応にホッとする。今まで断りなく案件の日時を動かした経験はなく、勝手な事はするなと言われる覚悟でやった事だ。

「でも、別に午前中の分だけで良かったんだぞ?」

身を起こし不思議そうにする彼は危機感からは遠そうだ。

「ダメよ。たまにはゆっくり二人の相手をしてあげて?
今朝だって可哀想だったじゃない」
「...今朝?」

眠過ぎて何も覚えてないという彼に、開いた口が塞がらない。

「マリンと最後に話したの、いつだったか覚えてる?」
「あ...」

そこでようやく子供達とのやり取りが近頃おざなりになっていたのに気付き、バツが悪そうにする。

「お仕事も大切だけど、二人にクラウドの代わりはいないんだから」
「ああ......そう、だよな」

自分がどれ程周囲から必要とされているかに疎い彼は、未だその重要性を自覚してなさそうだが、デンゼルの拗ねた様子などに耳を傾ける顔は満更でもなさそうだ。
夜更けにも関わらず、久々の落ち着いた時間に会話も弾む。クラウドも休息が確保でき心に余裕が生まれたのか、疲労の割に口数は多い。だがひょんな事からされた申し出に、ティファは目を丸くする。


“明日は俺も店に出る”


「いいわよ、そんなの。ゆっくり寝てたら?」
「そりゃ早起きはしないけど、昼前には起きるよ」

堂々と寝坊を宣言する彼をティファは微笑ましく笑う。

「じゃあ遊んで来たら?
最近エッジもお店が増えてきて面白いのよ?」
「遊んでって、子供達じゃあるまいし。
それにこの街の変化なんて誰よりも把握してる」

それもそうね、と呟き別の提案を探すティファに、クラウドはハァ...と肩を落とした。

「あのさ、ティファ」
「ん?」

自らの緊張感のない声と違い、彼の面持ちは真剣だ。

「その...この店はゼロから見守ってきた、俺にとっても思い入れのある...
...なんて言うか、自分の店だと思ってる」
「...はい」

真面目な雰囲気を感じとり、ティファは片付けをしていた手を止め正面に向き直る。

「今だって少しでも力になりたいとは思ってるんだ」

実際は自分の事で手一杯で、中々だけど...と髪に手を差し込みしどろもどろ続ける。

「だから、その...そういう他人行儀は......ちょっとへこむ」

もどかしそうに後頭部をグシャグシャやる彼に、胸に温かいものが灯る。これは、私があなたの仕事を気にかけるのと同じ感情と捉えてもいいのよね?

同時に思い出すのは二年前、釘と金槌を手に、煤(すす)にまみれ黙々と作業をしていた姿。その後も日曜大工の得意でないティファに代わり、今ある洗練されたデザインまで細々と手を加えてくれたのはクラウドだ。
体を休めて欲しい外(ほか)に他意はなかったが、改めてみれば先刻の返しは心なかったかもしれない。

言いづらい内容を口にし終え、気まり悪く目を伏せる彼に、今度は好意的に返す。

「うん、じゃあ...頼りにしちゃおっかな」

ようやく得られた承諾にクラウドは安堵の色を見せる。そして荷も置かないまま話し込んでいた事に気が付くと、ティファに先に風呂をすすめ二階へ向かった。

「コレ、借りるな」

隅に重ねられたメニューの一つを手に取って。





「クラウドとお店、か...」

お湯の中で腕を交互に摩(さす)り、お皿何枚割るかなとか、二人もお手伝い張り切るわね、なんて頬を緩ませる。
チャプンと湯船に身を沈め目を閉じると、あの真摯な眼差しが浮かんだ。


――自分の店だと思ってる


ふいにくすぐったい気分に駆られ、それを誤魔化すように膝を抱きプク...と鼻まで水に浸かる。

「一緒にお店...」

彼がオーダーを入れて、私が作って...何て事ないけど、ずっと側に居られて声をかけ合ったりして...

キュッと腕に力を込め、火照って赤らんだ顔を膝小僧に乗せた。


「...結構、楽しみかも」





後編に続きます。
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