Minority Hour
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Hidden Lovebite
真夏のセブンスヘブンです。
カラン...
焼け付く炎天下の空気に、涼しげな鈴の音が響く。
(え~っと...)
空席を探すフリをして首を回す男の視線は、すぐに狙い通りのものを捉えた。
(あっ、いた!.........けど、アレ?)
「いらっしゃいませ!」
女マスターの麗しい出迎えに目尻を下げつつも、少々の期待外れに人差し指で頬をかく。
カラン...
数分後、またしても店内に客の来訪を告げる呼鈴が鳴り響いた。
「や、やぁ!ティファちゃん、また来ちゃった!」
目に見えてデレデレしたその若者も、先程の客同様、扉を開けるなり店主の姿を探す。
「ふふ、ありがと。
新しいメニュー、そんなに気に入ってくれた?」
「うん...まぁ、そんなとこ!」
(れれ?おかしいな。確か昨日までは...)
オーダーを取り終え、厨房で腕を振るい始める背中に視線が向けられた。
何一つ変わらない笑顔、立ち振舞い...だが確実に失われた何かに男達は肩を落とし、代わりに店はいつもの平穏を取り戻す。
Hidden Lovebite
「ん~~~~.........」
椅子の背に手をかけ、ガタつきがないか具合を確かめる。自分の事業を始めてから関与は減ったが、内装に関しては未だに彼も多くを携わっていた。
「う~~~~~~ん」
今度はまた一段と長いな。
最後の椅子をひっくり返しテーブルに乗せ、掃除用具を取りに向おうとしたクラウドは、不可解極まりない唸(うな)り声の連続に堪らず声を出した。
「なんだよ、さっきから。どうかしたのか?」
カウンターで数字と睨めっこをしていたティファは、お手上げとばかりに姿勢を崩し、納得のいかない表情で振り返る。
「そんなに深刻でもないんだけどね?」
例によって子供達の就寝までに帰宅出来なかった俺は、裏口を抜けた先の半ば照明の落とされた店内に、珍しく帳簿付けに手を焼く店主を見つける。
一週間の締めである週末には稀に見受けられる様だ。その様子に、自室に溜まった配達伝票が目に浮かび気が滅入るが、思い直し見た所まだ片付けの済んでなさそうな床に、手近な椅子から手を伸ばした。
ティファが首を捻る原因は勘定と現金のズレではなく、今週から激増した売上のようだ。
確かに一見して跳ね上がっている金額に違和感を覚え、隣に腰を下ろし、頭を付き合わせノートを覗き込む。
「前に言ってた夏のメニューじゃないのか?」
「うん、そうかとも思ったんだけど...あれは今月の頭からだったでしょ?」
ティファの指が二週間前の欄まで滑る。見るとその日からの売上もかなり増えていて、それは梅雨明けに合わせ考案された料理の試食をさせられた俺の記憶にも新しい。
“生春巻きも知らないの!?
人生半分ソンしてるよ、アンタ達...”
先日一家でウータイへ遊びに行った折、天に向かって嘆くユフィに触発されたティファは亀道楽に入り浸り、マスターとのレシピ交換に成功したようだ。
“これは...”
“...変わった料理だな”
“マリンも初めて見るー”
数日後、食卓に並んだ風変わりな料理に、元来主菜にばかり関心を持つ俺はさして期待もせずに箸を伸ばす。
“んっ...!”
パクリとやった三人の間に、暫しの静寂が流れた。
“美味い。......かなり”
一連の流れを固唾を飲み見守っていたシェフが、正面でニッコリする。
“ホントだ~、シャキシャキする...俺、コレ好きだ!!”
同じく放って置くと肉魚ばかりで腹を満たすデンゼルも、目を輝かせ次から次へと平らげる。
“お野菜タップリだから、女の人も喜ぶね!”
緑色の冷製スープを啜るマリンの言う通り、翌週から太陽と共に姿を表した新メニューは暑さで食欲を失った女性客に好評を博し、店は俺の座る隙間もない程連日繁盛している。
売上はともかく、味に強いこだわりを持つティファの満足そうな顔が嬉しくて、俺も良く覚えていた。
でもあれ、確かに結構前の話だよな...
「他に何か気づいたことはないのか?」
「そうだなぁ...」
客が減ってる訳でもないし気にしなければ良いとも思ったが、そうもいかないらしい。
収容能力を超えた来客に、店主は息つく暇もなく厨房とホールを行ったり来たり。時には立て込んだ調理のせいで客席での要望を見過ごしたり、逆にテーブルを片付けている間に料理を焦がしてしまう悪循環も発生した。
更に、解消される事のない長蛇の列に申し訳ない気分に駆られ、流石に少し客数が減らないかと悩んでいる。
「あ!」
突如声を上げた彼女は何かを思い付いたようだ。
「男の人が増えた...かも?」
暑いから?ビールどのくらい出てたっけ...う~ん、関係ないか。あれ、去年もこの時期売上伸びてる?
再び帳簿をめくりブツブツと分析を重ねる姿を一瞥し、一抹の不安を覚える。
「なぁ、ティファ」
「うん?」
手を止めこちらを伺うティファ。
「まさかとは思うけど...」
「うん」
「今日はこのまんまの服装で店に出たのか?」
「そうよ?」
...膝の上に畳まれたエプロンに嫌な予感がしてたんだ。
風呂上り、もしくは汗をかいたからと部屋着に替えた後なのかと思ったが、違うのかよ。
「念のため聞くが...」
「うん」
「この髪型は今週からか?」
「えっ?」
どういった仕組みか見当もつかないが、透明な髪留めで上手いことアップにされた髪を指差す。
「う~~ん、そう...だったかも」
...これはもう決定的だろ。
そ知らぬ顔のティファを余所に、額に手を当て溜息を吐きだした。 そして営業時間中、ここで起こってるだろう出来事を予測する。
大地も蒸し返る日照りにも負けず、軽快な足取りで大通りを進む男が一人。
注いだ情熱分の見返りを得ているかはさておき、とある女性を追いかけ回してきた年月だけは自慢の男...ジョニーだ。
(おっと!)
目当ての扉を開ける寸前、彼は足を止め心の中で一人マニアックな賭けに興じる。
(昨日がポニーテールだったから...)
そして威勢よく店の入口を押し開けた。
(今日は、お団子だ!!!)
「あ...」
良い意味で外れた結果に思わず頬が緩む。
(ティ、ティファ...これは反則だぜ...)
6年と127日に渡る精密なデータの解析結果によると、この髪型と遭遇出来る確率は実に3%未満。 腰砕けになる彼に反し、髪を下の方で一つに結え、前髪をピンで留めているティファの心中は複雑そうだ。
「ねぇ、ジョニー。最近毎日来てるけど...お店、大丈夫?」
心配そうに首を傾けられ、慌てて最大限にクールな顔を決めキザったらしく言う。
「心配すんなよ、ティファ。
俺の店、あんな吹きさらしだろう?
こんな猛暑の中開いたりしたら...客が皆ぶっ倒れちまうさ」
クラウドや街人の助力により数年で目まぐるしい発展を遂げたセブンスヘブンと違い、ジョニーズヘブンはいつまで経っても原始的な屋台のままだった。
「そ、そう...」
誇らしげに語る程でもない内容に、肯定するのも失礼な気がして言葉を濁し、ティファはこの話題を終わらせる。
「いつものでいい?」
「うんっ」
だが気を取り直した彼女が奥へ戻ろうと背を向けた瞬間、盛大な音を立て何かが卒倒した。
「きゃあ!ジョニー!!」
泡を吹き白目を剥いた彼を抱き起こし、頬をパチパチ叩く。
「何?熱中症!?ちゃんと水飲まなきゃダメじゃない!!」
「キャ、キャミソール...今年初の...遭遇率、約5%...じ、じあわぜ~...」
おでこにおしぼりを当てられなんとか意識は取り戻したものの、意味不明な発言を繰り返していたジョニーの容態をティファは気遣う。
「なんなら中で少し休んでく?」
無意識の上目遣いで尋ねられ、あろうことかその仕草と台詞をけしからぬ状況とシンクロさせた男は、再び遠のいていく思考に顎をコクコクと振る。
「うん、クラウドのベッド空いてるから!」
「い、いや...やっぱりココでいいよ...」
天使の笑顔で悪魔な提案をされ、一瞬にして夢から引き戻された。しかし...
二年前まで毛先に括(くく)られていた赤いシュシュの裏にチラリと伺える、日焼け知らずな透き通る肌。
膝丈の紺のカプリパンツの先には白いサンダルが引っ掛けられているだけで、スラリとした膝下から足首までの芸術的なラインを惜しげも無く披露していた。
クセ一つない髪質の彼女は髪を下ろす日が多いがこの季節だけは違う。
また、動き易さと快適さだけを重視した服装も...昔からこの時期には変化がもたらされる。
うなじと背中の覗く後ろ姿も捨て難いが、前から見ると...
「具合、平気?」
「ひゃ、ひゃい...」
エプロンしか見えなくて...自制しつつも妄想は新婚さんごっこにまで至る。 それを数時間堪能し、明日も来よう...決意を新たに彼は帰途につくのだ。
「あの、クラウド?」
ここまでの回(空)想を、鼻の下が伸びきったジョニーのアップで終わらせたクラウドの目前で手をヒラヒラ振る。
「なんか...怒ってる?」
眉間に刻まれた皺を恐る恐る覗き込み、思い当たる節を懸命に探す。
ピクリとも動かない仏頂面に戸惑っていると、不意に彼の手が細い両手首を絡め取った。そのまま首の後ろに唇が添えられる。
「えっ?えええ!?」
何の前触れもなく突入した展開に解せぬまま困惑するも、怒ってる訳じゃないのかな?なんてややホっとし、頬を赤らめ状況に甘んじる。だが余裕を保っていられたのも一時、うなじに感じ始めた違和感に焦り声を荒げた。
「んっ...ダメ!そんなに強くしたら...痕、ついちゃ...!」
手首を捻り抜け出そうとするが、物凄い握力を放つ両手はビクともせず、耳の下に埋まった頭も全く怯まない。
「あ...」
ようやく首筋を解放した唇は、そのまま鎖骨を辿り前方へ戻って来る。次こそ唇へのキスかと身構えるティファの予想に反し、両手を腕までスライドさせたクラウドは、今度はVネックのノースリーブから突き出た二の腕に口を当て直す。
「...へ?」
こんな所、キスされたことない...
慣れないくすぐったい感触に落ち着かない。するとクラウドは再度歯を立て力強くそこに吸いついてきた。
「ダメっ...だって!!」
身をよじるティファの主張を完全に無視して、彼はそこに赤い痣が残ったのを確認すると体を離す。
「はぁ...」
思いがけない行動と抵抗とで全身を火照らすティファと異なり、クラウドはクテっと力の抜けた彼女の身なりを冷静にチェックする。
「あとはここか...」
今度は何?
朦朧とした頭で呟き、身体を強張らせる。クラウドはバーチェアから腰を上げると、デニムのタイトスカートで半分だけ覆われた太ももに指を埋めてきた。
「きゃっ!!や、やだ...まだシャワー浴びてないのに!」
裾付近にキスを落とす頭を強引に押し返そうとするとギロリと睨み返された。理不尽に思いつつも、その剣幕にティファはつい及び腰になる。
ここまでの問答無用な態度と裏腹に、三つのキスマークを付けると釈然としない行為はアッサリと終わりを遂げる。
「これでまた明日から客足が落ち着くよ」
口元を腕で拭い淡々と述べる姿を、ティファは恨めしそうに睨む。
「酷いよ、見えるとこばっかり...」
だがいつもはその涙目に弱い彼の見せた反応は、その日は違った。ティファの肩に手を据え揺るぎない口調でやり返す。
「本気を出せば隠せないこともないだろ?」
そして一貫した冷たい物言いのまま場を立ち去ろうとする。
「気分が悪くなった。...寝る」
「な、何よ...」
何から何まで腑に落ちず、馴染みのない気迫にただ唖然としてティファは階下に取り残される。
(見えてないよね?)
皿をサーブし厨房へ戻って来たティファは、髪で隠された首の後ろにそわそわと意識を払う。
(ポニーテール、もう一度だけでも!)
(どうしてなんだ、生足...)
(ノースリーブ、二度と見られないのか?)
Tシャツにジーンズと、逆方向へ衣替えした店主に男性客が注ぐ、憂いの眼差しは当然一方通行だ。
今朝服を着替える際に垣間見た “印” が大分薄くなっていたのを思い出し、近い晩に起こるだろう事を想像して赤面する。
「忘れるところだった」
ベッドに身を投げ出し眠りに落ちかけていたクラウドに覆い被さられ、ティファはくぐこもった声を出す。
「ま、またするの?」
暗闇にはプチンとパジャマの前を外す音が響くだけで、彼は無言のままだ。四つ程ボタンを開けると襟を掴み、首と腕が露出するまで服をはだけさせる。そして迷う事なくうなじに唇を這わせてきた。
毎回一定の順序でなされるそれをやり過ごそうとギュッと目を瞑っていると、遂に手がズボンに添えられる。
子供達に見られては困ると珍しく身に纏っている木綿の寝巻の下は丈が長く、太ももまでめくり上げるのは難しい。だが、そういう時でもないのにいきなり下着姿を晒け出すのは、ティファは極力避けたかった。
容赦なく生地に引っかかる指に、はだけた胸元を押さえながら訴える。
「あ、あの...クラウド?下はちょっと...」
「......何?」
その有無を言わさぬ口調以上に、彼の言う通り客足が収まった事で頭の上がらないティファは、結局夏の間中口答えが出来ず、なすがままにその季節を終えるのだった。
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