Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
空の泣く日は抱きしめて
旧拍手です。AC後。雨の降る日は不安定。
あなたは気付いてないけども。
それは沢山の人にとってかけがいのないものなのよ?
雨の日の奇跡が救った、尊い命。
空の泣く日は抱きしめて
朝、小さな小競り合いをした。
私は何故あんなにも神経質だったのだろう。
その理由は開店の一時間後、一向に止む気配のない雨と鈍い客足に見切りをつけ、表に休業の札をかけに行った際にようやく気付く。
――大丈夫ですか?
あの日もし声を掛けなかったなら...
上空に広がる厚い雲を見上げ、誰ともなく問いかける。
頬にボタっと垂直に落ちてきた大粒の水滴は生暖かく、思わず眉をしかめた。
思えば、あの時もそうだった気がする。
有り得ない話じゃない。
むしろその方が自然だ。
スラムの浮浪者に敢えて近づく者はいないし、私もそうだった。
そして最近になり、ポツリポツリと話してくれるようになった “彼” の最期。
更には人々の体に巣食った病魔を浄化させた、あの癒やしの雫。
その内のどれか一つでも欠けてたら...
「世界は終わってたかも、ね...」
少なくとも、彼は確実に消えていたはず...
薄く開いた唇から何気なく漏れ出た冷静な分析に、身震いをした。
心まで覆い始めた雨雲を振り払うよう、軽く目を瞑る。
(クラウド...無事だよね?)
その時店の電話が鳴り響き、ゆっくりと室内に引き返した。
『...ティファ?』
未だぎこちないが、穏やかな口調にホッとする。
だが次の報告に思わず苛ついた声が出た。
『あと30分くらいで着くから』
『クラウド、スピード出し過ぎだよ。
こんな土砂降りなのに...スリップしたらどうするの?』
確か今日は大陸を越えたはずだ。
予想していた帰宅時間より、ゆうに一時間は早い。
『大丈夫だ。実際、もう無事カーム付近にいるんだし』
相変わらずな反応に、つい深く溜息をつく。
『ティファ?』
『...何でもない。気を付けて帰って来てね』
『ああ。じゃあ、また後でな』
受話器を力なく置くと、そのままカウンターに突っ伏した。
彼が帰って来るまでに持ち直さないと。
なのに胸にわだかまる何かを整理するのが、何だか物凄く気だるい。
「ただいま」
ずぶ濡れの体が呼び鈴の音と共に店の入口をくぐったのは、宣言通りの時刻。
「店、休みにしたんだな」
「うん。しばらく待って誰も来なかったから。
お疲れ様、今タオル持って来るからね」
洗面所に向かいかけた折、ふと鮮やかな赤が目に飛び込みドキリとした。
「クラウド、その腕...」
「え? あ、気が付かなかった。
藪(やぶ)か何かでこすったんだな」
血に染まった腕を折り曲げ状態を確認し、クラウドは淡々と述べる。
雨水と混ざり合い滴り続ける血液は、その傷口を本来より深く見せた。
その光景に、心が体からスッと切り離される様な感覚に襲われる。
「放っておいても治るだろ、これくらい」と普段通り背中のソードホルダーに手を掛ける彼と違い、私の身体は硬直したままだ。
「ティファ、どうかしたか?」
「何でもない...」
そうは言ったけど、たぶん私は酷い顔をしている。
「まだ機嫌が悪いのか?」
今朝のイライラした声に戻る彼だったが、こちらに顔を向けるとギョッと目を見張った。
「...ティファ?」
私の顔に釘付けになった視線に我に返る。
「あれ、どうしたんだろ...」
頬に手を当てると、それはスルスルと流れ落ちる。
不思議だった。
心はどこか遠くに置き去りで、身体は空っぽのままなのに。
クラウドは背中にかけた手を止め、戸惑った表情で静かにこちらに歩み寄る。
「今朝はごめん...言い過ぎた」
「ううん、違うの...」
濡れ続ける顔を隠そうと両手で目元を覆う。
だけどそれは止まらず、子供の様に泣きじゃくる私に彼はますます焦る。
「悪かったよ。どうしたら泣き止んでくれる?」
なら、もっと自分を大切に扱ってよ。
もしも私を想ってくれてるのなら。
あなたはすぐに過小評価をするけれど、それは数々の偶然に支えられた大切な命なのよ?
「本当に違うの...」
だけどそれを口にはしない。
言ったって、どうせ分かってなんかくれないから。
だったらせめて...
「ティファ、濡れるぞ?」
雨水に濡れて冷え切った服の裏側に灯るだろう体温を探し求め、腕を背中に巻きつけ胸に頬を強く押し当てる。
「構わないよ」
――ならせめて、ちゃんと生きてるって感じさせて。
******************
ライフストリームを除けば、クラウドの命が救われた日は殆ど雨ですね。
PR