Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
海の見える家
休日、二人で出掛けた先は...
12' ティファ誕です。お誕生日の話ではありません。
海の見える家
夏の初めの風は、まだ全身に受けて心地良いと言える程の温度を充分に携えてはおらず、ティファは軽く身震いをすると、両手のひらで自らの二の腕を何回かさすった。その片方の手には、先ほど脱いだ華奢なサンダルがぶら下がっていて、クラウドは何となく、目の前の景色よりもその珍しい光景に関心を寄せる。そういえば、バイクのエンジンを切ってから、波に吸い寄せられるように砂浜に降り立ち躊躇いなく潮水に素足を浸した彼女は、言葉を発するどころかまだ一度もこちらを振り返っていない。
風にはためくスカートの裾が波に触りかけた時、クラウドは思わず声が出かけたが、幸いティファはその深さでピタリと歩みを止めた。風に乱れる髪を纏(まと)めていた片手はやがて力を失い、ゆっくりと身体の傍に落ち着く。
前方に広がる空と海に吸い込まれそうな横顔を眺めて、クラウドはやっと、ここ数日抱えていた自分の中の不安が溶けて消えていくのを感じていた。
“何もない所だぞ?”
字面だけでは否定とまでは言わないが、目に見えて自分は難色を示していたと思う。だがクラウドの期待に反し、向かいに座るティファは机に肘を付き組んだ両手の上に顎を乗せ、決心は揺らがないとの強い意思を宿した瞳を向けて柔らかく言った。
“クラウドは、毎日見てるからそう思うんだよ”
どこか行きたい所はないか。二人だけで過ごす休みを何日か後に控えた夜、店の片付けを終え二人がけのテーブルでホットティーを手に一息ついていたティファは、その問いかけに迷わず壁の一点に視線を移す。
“ここに行ってみたい”
クラウドが撮った無数の風景写真の一つであるその遠浅の海岸は、いわゆる海水浴に適したようなものではなく、灰色の砂と剥き出しの岩に囲まれた物寂しい場所だった。所々空を覆う雲も相まって、その土地は実際に目の当たりにしても、セピアに加工された額縁の中のそれとさして色合いは変わらない。
「やっと来れた」
頭の下に腕を組み、浜に寝転ぶクラウドの隣に腰を下ろしたティファは、大きく息を吸い込んで吐くと視線を前に向けたまま独り言のように呟く。裸足のままの足はもう大分乾いていて、くるぶしの上くらいまでを疎(まば)らに汚す砂は軽くはたけば簡単に落ちそうなものだが、彼女はあえてそんな状態を楽しんでいるようだ。
毎日店で忙しく働く合間にも、ティファはあの写真達をたよりに小さな旅をするんだろうか。
日々各地を巡り、無数の人と出会いながらも無味乾燥な会話を重ねるだけの自分。一方で一所に留まり、それこそ様々な地域から集う客と深い繋がりを持つ彼女とは、どちらが広い世界を生きているのだろう。
ふと、いつの日か子供達が家を出て、仕事もやめた遠い未来の自分を想定し、クラウドはエッジの街の一角や自分の部屋の窓から覗く空を頭に思い描く。それと今頭上に広がるものを比べると、確かにそれは、毎日共に過ごすにはやや狭すぎるかもしれない。
「将来...」
「...ん?」
幾度となく寄せる力強い波の音に目を閉じ身を委ねていたティファは、クラウドの呼び掛けに、眠りから急に引き戻されたような声を出す。
「俺が剣を握れなくなったら...こういう所で暮らそうか」
空を見上げそう言うクラウドをちらりと眺め、ティファは再び顔を正面に戻すとしばし考え込む。
「ねぇ、それって...」
そして少し悪戯そうな表情で、相変わらずぼんやりと宙を見つめたままのクラウドを覗き込んだ。
「...プロポーズ?」
クラウドは周囲を流れる空気が一瞬固まったのを意識するが、意外にもそれはすぐにまた動き出す。
「想像に任せる」
「あ、ひどい!」
ティファはクラウドに一言文句を言うが、それを最後に彼に気を払うのをやめ、再び潮風を楽しむ行為へと戻っていく。
クラウドには、ティファの言ったその言葉は、今後二人の関係を良好に維持していくのに肝要な事にも思えるし、同時に酷く今更なものにも感じられた。これから何年経ったって、自分の隣には当たり前のようにティファがいるんだろうし、彼女にとってもそれは暗黙の了解であるはずだ。
そう言えば、さっきの質問の返事を貰ってないな。
僅かに頬と睫毛が伺えるだけのティファのおでこで気持ち良さそうに風に踊る前髪に心中問いかけるが、自分も答えをはぐらかした事を思い出し、クラウドは苦笑しながら砂に手を付き体を起こす。そして少し冷えているだろう肩を抱き寄せ、頬に手を添えると唇を重ね合わせた。
その直前、自分が伝えた言葉にティファが小さく頷き幸せそうに目を細めるのを見て、クラウドはその決心に確かな満足を覚える。瞳を閉じると、互いの唇の感触と潮の香りだけが二人を包み込んだ。
“いつか、必ず”
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思い立ったが吉日とも言いますが...
安心して歳を重ねることが出来るのは、一緒に人生を歩んでくれる人が隣にいるから。
二人は将来、田舎で静かに暮らすイメージがあります。
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