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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

In my hands, forever


Denzel×Marlene

ちょっと大きくなった後のこと。
あくまで兄妹愛のつもりです。







何をするにも付いて来て、すぐマネしたがる。
それは時に鬱陶しく、だけどこそばゆい。

いつの日か振り返ると幼い姿はなく、その時間の終わりを知った。
でも遠い日にこの手を強く握り返してきた手のひらは、どんなに時が流れても...

俺にとっては、小さなままなんだ。


In my hands, forever


「いいよ、入って」

控えめなノックが部屋の扉を小さく揺らす。
この叩き方はティファかマリンだ。
椅子に座ったまま体を半分ねじり背後を仰ぎ見れば、曇りガラスの下方にチョコンと映る茶色い影。
小一時間前、宿題を済ませようと自室へ引っ込んだマリンはそっと顔を覗かせる。

「どうした?
わからない問題でもあったのか?」

「んーん、違うの」

数か月前、子供部屋はマリンの部屋に、クラウドの書斎はティファの寝室へ移りそこは俺に宛(あ)てがわれた。
学校も忙しくなり部屋も別れた俺達が、食事と店の手伝い以外を共に過ごす時はめっきり減った。

「今度も友達が一緒に?うん、構わないよ」



“ほ...本当に?”

“ああ。ただし湿地帯には絶対に近づくなよ。チョコボに乗っててもだ。
それと、出掛ける際には必ず誰かに一声かけること”

初めてエッジの外でモンスター相手に剣を振るった時、自分の腕前の変化にビックリした。
いつもクラウドとばかり手合わせしてたから進歩を全く感じてなかったけど...

(動きが見える...それに、一撃だ!!)

握りしめた剣を呆然と見詰めた後、振り返るとクラウドはニヤリと口の端を上げた。
その後も俺は “実践” を危なげなくこなし、しばらくの後、待ちに待った許可が下りる。

“カームやチョコボファームまでだっから一人で外出してもいい”

それは俺だけでなくマリンの生活も大きく変えた。
昔お世話になったエルミナさんの家へ遊びに行くのに付き添うのは、その日からクラウドやティファではなく俺の役目となる。





視界の隅に映る岩陰に気を配りつつも、視線は敵の急所を捉えたまま逃さない。
こいつらは堪え性がない。
何回かの攻撃をひらりと避け続けていると案の定、痺れを切らし防御も疎かに牙を剥いてきた。

(今だ!!)

返り討ちにあい首を切り飛ばされた獣系の魔物は、悲鳴をあげる暇もなく地に倒れ込む。
胴体を踏み付け絶命したのを確認し、声を張り上げた。

「二人共、もう出て来てもいいぞ!」

すると、背丈程もある岩の裏からマリンとその友達が転がるようにかけてくる。

「今ようやく半分来たところだよ。疲れたなら休憩しようか?」

「ううん、平気!!」
「まだ全然歩けるよ、デンゼルお兄ちゃん!」

元気な返事に安心し、再び剣に手を掛け四方に目を凝らしながら歩を進める。

「もう、やめてってば!
さっきからそればっかりなんだから...」

ふと上がった聞き慣れた声に後方を見やると、ふざけて肘で小突かれるマリンが目に入る。
俺の顔を見ると二人は目を見合わせ、気まずそうに舌を出した。

「...?」

「気にしないで、デンゼル。何でもないの!」

何やら誤魔化され、やれやれと前に向き直る。

最近マリンとはすっかり話が合わない。
今もお互いの服が似合ってるとか、前に一緒に買った色違いの髪ゴムがどうとか、どうでもいい話ばかりだ。
挙げ句の果てに、俺が毎週欠かさず観てる『実況熱狂☆バトルスクウェア』が毎度延長するせいで、目当てのドラマの開始が遅れるなんて文句を言いだすからたまったもんじゃない。

...ガサッ...

すぐ近くの茂みから物音がし、クスクスと響いていた笑い声が止んだ。

「大丈夫だよ。ただの小動物みたいだ」

茂みの中の気配を伺い声を掛けると二人の凍てついた表情はホっと緩み、再び元の話題で盛り上がる。
その様子を見て、改めて感じさせられた。

俺が外に出られるようになって喜んでいたマリン。
けど、一人で安心して歩けるようになるに越した事はないんだ...





「なぁ、クラウド。モンスターって...なんでいるんだろうな」

「...好きなんじゃなかったのか?」

モンスター図鑑を愛読し、家に帰れば挨拶も余所にやれ今日はどんなおっかないのを倒したかと質問攻めにされた頃から日は浅い。
長年の日課となった伝票整理が終わっても部屋を去らず、ベッドに寝そべり何やら考え込んでると思えばそんな事か。

「強そうなのとか見た事ないのはワクワクするけど...ここら辺にいるのは見飽きたし、面倒臭いなぁって。
それにマリンは自由に外を歩けなくて可哀想だろ?」

随分と勝手な言い分だが、俺も子供の頃、山の魔物のせいで行動範囲を制限されるのは嫌だった反面、セフィロスがベヒーモスを一度に三体も倒したなんてニュースに心を踊らせてたんだから馬鹿にも出来ない。

「今よりはマシになるって話だぞ」

「...と言うと?」

「WROが道を作ってるからだ。
昔のミッドガルのプレートみたいな、橋みたく頑丈な奴をな」

治安の悪い地域を中心に始まったプロジェクト。
そうなると当然、警護に駆り出され工事を目の当たりにする事もある。

「それって、この大陸にはいつ出来るんだ?」

何時の間にかデンゼルは上半身を起こし、俺の方に身を乗り出している。

「そこまでは知らないよ。
今度また飲み会がある時にはどうせリーブも来るだろ。
そしたら詳しく聞いてみたらいいんじゃないか?」

実際には羽を持つものも、道を支える柱を壊す力のあるものもいる訳だから、そう思い通りにはいかないかもしれない。
だが、日々沢山の命が失われている現状は過去の話になるだろう。

「そうなったら俺も廃業かもな」

「そんなこと、ないクセに...」

子供達には隠しているが、配達以外の物騒な依頼が舞い込む事は多々ある。
以前と違い、もう電話を盗み聞いた内容から色々と想像出来る年齢だ。
それもあり、稼ぎがなくなる事はないかもしれない。ただ...

「俺は...身近に危険がある事で、大切なものが見え易いのも良いと思うんだけどな...」

命の尊さとか。
それが今日も守られた喜びとか。

「それはクラウドが向かう所敵なしだから言えるんだろ?
毎日怯えながら過ごしてる人達にとっては良い迷惑だよ」

「それもそうだな」

もっともな反論を受け、肩をすくめる。
だがデンゼルは俺の与えた情報に満足したらしく、ベッドから降りると「橋の道か...。うん...それ、いいな...」とブツブツ言いながら部屋の扉を出て行った。





「デンゼル、お風呂空いたからね!」

あれからすぐ、廊下をパジャマ姿で歩くマリンを引き止めクラウドから聞いた話をした。

「...そしたらさ、俺に一々頼まなくてもマリンは好きに外出できるんだ。なぁ、凄くないか?」

しかし意外にもマリンの顔は徐々に曇り、遂には恨めしそうに見上げてきた。

「迷惑だったなら、言ってくれて良かったのに...」

「...は?」

「最近は一緒に遊んだりしないし、部屋も別々だから寂しくって...」

「...え?」

「それにお友達が皆、あんなに強くてカッコいいお兄ちゃんがいていいなって褒めるから...いつも鼻が高かったの」

「.........」

予想外に飛んできたくすぐったい台詞達にうろたえつつも、ストレートな物言いは相変わらずだな、なんて何処かで冷静に考える。

「でもデンゼルは嫌だったよね。休みも丸々つぶされて...」

眉を寄せた顔に我に返り、慌ててかぶりを振った。

「いや、そんな風に思った事は一度もないよ!
ただマリンの方こそ不便だろうなぁって...」

マリンは、本当に?と顔をパッと明るくする。

「不便なんかじゃないよ!!
私はデンゼルと一緒にお出かけ出来るのが嬉しいの!」

そして、「良かったぁ!じゃあ、これからもお願いね?」と俺の手を握り、「ここ寒~い!」と慌ただしく階段を上っていく。
一人ポツンと取り残された俺の頬は、冷え冷えした床に反し火照っていた。
頭の片隅でぼんやりと思う。

そうだな、クラウド。
本当にその通りかもしれない...





「大丈夫?」

「...ああ」

テーブル席からヨロヨロとカウンターへ “避難” してきたクラウドに水を差し出す。
いつものごとく遅刻して現れたヌイグルミも加わり、宴会の勢いは夜が深まってもとどまるところを知らない。

「あれ、デンゼルは寝ちゃった?
リーブに何か聞きたい事があったんじゃなかったっけ...」

「もうどうでもよくなったそうだ」

「なぁに、それ?」

おかしくてつい素っ頓狂な声が出る。
一息で空けたグラスを傾ける彼も、楽しそうに呆れ顔だ。

「それに...」

「...ん?」

「見ない方が良いんじゃないか?憧れてるなら...」

「.........」

クラウドが半身を返し顎でしゃくった先には、テーブルの上で小皿を両手に、ナプキンを頭から鼻の下にかけて巻く猫の姿。

「ふるさと名物、阿波踊りいきまっせ~」

「「ギャハハハハ!!いいぞケット~~!」」

あの手拍子の中心で舞う人形の正体をデンゼルが認識しているかどうかを、私はまだ知らない...





「今度の日曜?ああ、悪い。その日は...」

「へぇ、お前って凄いな。カームまで一人で行ってんのか!」

「全然!妹のお供なんて、だっさいよなぁ」

「デンゼルの妹は可愛いからいいだろ!俺のなんてさ...」

夕暮れ時、いつもの学校からの帰り道。
何年も繰り返し往復した見慣れた風景。
家に着けば迎えてくれる顔ぶれだって、当然同じだ。
だけど何故か、今日は心もち足どりが軽い。

マリンと違い、俺が素直にマリンへの想いを誰かに明かす事はないだろう。
だからといって、その気持ちは弱くない。

俺の目から見てもマリンは可愛い。
近い内に引っ張りだこになるのは目に見えてる。
いつか父親の元に帰ってしまう日も来るかもしれない。
だけど...

(絶対に、遠くになんかお嫁にやらないんだからな!)

それと一つ決まりを作ろう。

お嫁にいってもいかなくても。
道が通っても通らなくても。

マリンが街の外を歩く時は一生、いつだって...


俺が隣で守ってやるんだ。


******************


“一緒にいなきゃならない” ととるか、“一緒にいられる” ととるか。
兄と妹が仲睦まじく過ごす時は、結構短い。




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