Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
Innocent Blue
ザックスの死で完全崩壊したクラウド。シリアス。
大半がクラウド×ニブルヘイムの宿屋のおじいちゃんという、色気のない展開です。以前、宿屋の息子の話を書いた気もしますがそれは無視で。
『HOME』同様、分裂気味です。
その日、俺は全てを失って、見上げた先の薄汚れた雲に覆われる。
ずっと憧れていた、追い求めた碧い瞳。
その瞳が最初にくっきりと映したものは鮮血だった。
その赤は、やがて脳裏を埋めつくす。
オレニハ ダレモ マモレナイ
Innocent Blue
コポ...
どっちが上か下かもわからない、浮遊感。
眩暈と吐き気が酷い。
いくら吐いても、胃の中は生ぬるい液体で満たされたままだった。
全部忘れてしまおう...
.........誰だ?
そうだな、先ずはこれからだ
ぼんやりと蛍光を放つ黄緑色の空間の先、透明なガラス越しに白い人影が浮かび上がった。そいつのニタっとした笑みに嫌悪を覚えると同時に、俺は次に発せられる言葉に怯える。嫌だ、聞きたくない。
“失敗作”
ガラスに反射して虚ろに揺らめいた二つの碧い光が誰のものだか、俺はもうわからない。
ハァ...
赤く腫れあがった両手の平に真っ白な息を吹きかけ、握ったり開いたりを繰り返す。ようやく感覚を取り戻し始めた指先に、足に立てかけていた手斧を握り直した。
切り終えた薪を納屋に仕舞い、言われた本数だけを小脇に抱え裏口をくぐる。パチパチと乾いた音をあげる暖炉の脇に薪を並べていると、背後から声がかかった。
「終わったかい?いつもいつも悪いねぇ」
「いいよ、別に。もうすっかり慣れたし」
「さ、奥へおいで。何か暖かい飲み物を用意してあげよう」
そう柔らかく言うと、爺さんは居住スペースへ続く廊下をゆっくりと歩み始める。一瞬で追い抜いてしまいそうな相変わらずの遅さに、俺は少しの間、暖炉に手をかざしてから後を追った。
「アレ、まだ続けてるのかい?」
「...うん」
爺さんはこちらに背を向け小さな鍋を火にかけている。台所と共有の狭いダイニングには、木製の四人掛テーブル。いつもと同じ位置の椅子に手をかけ、腰をおろした。
「そんなことしなくても平気なのにねぇ。
お腹でも壊さないかと心配だよ」
二年くらい前からか、きっかけは忘れたけどこの宿屋の薪割りは俺の仕事になっている。客の減少に見切りをつけて、息子は隣町で何か別の仕事に就いたと聞いた。そういえば、その姿を見かけた事は殆どない。
“そんなへっぴり腰じゃ自分の足を切っちまうぞ。
最初の内は斧を短く持つんだ。感覚が掴めたら徐々に端にずらしていくといい”
母さんに頼まれたついでに手伝える事だったし、斧の使い方を習うのは楽しかった。何より、お礼を言われるのは新鮮だった。
何時の間にか爺さんは使っていた鍋も片し、目の前にはベージュのマグカップに入ったホットミルクがコトリと置かれる。それに手を伸ばすと、かじかんだ指がチリチリして、思い出したように耳たぶが火照りだした。
そっとカップを口にあてると甘い匂いが鼻が満たし、俺は初めてここでコレを飲んだ日を思い出す。
“俺、最近牛乳しか飲まないって決めてるんだ”
爺さんは目を真ん丸にし、なんでまた?と俺の顔を伺う。俺は暫く黙りこんでたけど、やがて歯切れ悪く聞いた。
”なぁ、俺って...大人になってもチビで女みたいな顔のままなのかな?”
爺さんは一瞬ポカンとするが、すぐに腹を抱えて笑い出した。俺は露骨に嫌な顔をする。真剣に悩んでるのに、話すんじゃなかった。
その様子を見て爺さんは悪かったと謝り、真面目顔に戻る。
“ちゃあんと大きくなるよ。心配なんかいらない”
だけど信じられない俺は恥ずかしさも捨てて必死に聞き返す。
“でも、年下の女の子より低いんだ。
それって流石におかしくないか?”
“男の子はね、成長が遅いんだ。
もうあと二、三年もしたらグングン伸びる”
“...絶対に?”
“絶対に、だ”
その確固たる口調に俺は少し安心をする。
“あ、でも...”
爺さんは悪戯っぽい表情をしてつけ加えた。
“大きくなっても顔は綺麗なままかもしれないね。
クラウドちゃんはお母さん似だから”
“綺麗とか言うなよ...嬉しくない”
“女の子にモテていいじゃないか”
“...そういうの、興味ないんだ”
顔の事をからかわれるのは大嫌いだったけど、その時は何故かそれほど嫌じゃなかった。
背だけじゃなく、死んだ父さんの事、色んな事を教えて貰ったと思う。母さんは気さくな人だったけど、そういうのは少し聞きずらかった。
俺には長年の憧れがあって、いつだってそれに夢中だった。俺はあの瞬間を今でも覚えてる。
もう何年も前、古ぼけたテレビにノイズ混じりに映しだされた映像。鋭い瞳。誰もが見上げる身長。それ以上に長い剣を自在に振りかざし、表情一つ変えることなく巨大なモンスターをなぎ倒す。それは正に俺が頭に描いた、特別な...選ばれた存在そのものだった。
その日の夜、興奮して寝付けない俺はベッドを抜け出し廊下の収納にある新聞紙を丸めて昼間見た刀さばきのマネをする。物音を聞きつけた母さんに怒鳴られたけど、そんなのお構いなしなくらいその時の俺は無敵だった。無敵になれた。
だけどその夢を目前にしながら俺は今、無性にイライラしている。
...俺、やっぱりソルジャー目指すよ...
...お前なんかじゃどうせ一般兵どまりだろ...
...なんだよ、お前に言われたくねーよ!...
...新羅の女子社員って、凄い可愛いらしいぜ...
...可愛いって、ティファよりもか?...
同時期に村を出る少年達の浮き足立った会話が耳につく。同じ場所を目指してるだなんて、到底思えなかった。
「春になったら、か。
最近浮かない顔だけど、寂しくでもなったかい?」
長い冬は終わりを遂げようとしている。こうやってここでホットミルクを飲むのもあと数える程なんだろう。
「全然。この村の子供なんて、馬鹿ばっかりで気も合わないし」
機嫌の悪い俺は、勢いに任せて口から滑り出た台詞に自分自身ハッとなる。案の定、爺さんは驚いて俺を見つめたまま動きを止めていた。やがて静かに口を開く。
「クラウドちゃん、そんなこと言っちゃいけない」
頭がカッと熱を持った。怒りとも、恥ずかしさともつかない酷く情けない感情。俺は賛同して貰いたかったんだろうか。本当はわかってた。爺さんは俺に優しいけど、他の奴らを責めもしないから。
イライラの理由がわかった気がした。奴らはミッドガルを見てるけど、俺はその先にあるニブルヘイムを見てる。俺の目標は一人の女の子に...村の皆に認めて貰う事。口では興味ないなんて言いながら、俺は誰よりもこの村に囚われてる。
俺は逃げ出したい気持ちに駆られ、言葉少なにその場を後にする。無言を貫く俺に爺さんは悲しそうに呟いた。
“クラウドちゃんは、この村が嫌いかい?”
...今ならわかるんだ。
俺にも、友達が出来たから...
「おっ、クラウド!さっさと荷物置いて案内してくれよ」
二階から、早々に準備を済ませたザックスが下りてくる。俺はというと、あれ以来疎遠になったままの爺さんを前に固まっていた。一回り小さくなった爺さんは、何事もなかったように挨拶をしてくれる。
「案内って...見て楽しいものなんてないよ、ここには」
「まぁまぁ、そう言うなって!実家ぐらい見せてくれよ。
...あ、なぁ爺さん。今日の晩飯ってどんなだ?美味いか?」
爺さんが台帳からゆっくりと顔を上げ何か言いかけた時、俺は咄嗟にそれを遮った。
「うん...
この村のご飯は、最高に美味しいよ...」
結局、俺は爺さんとまともに会話を交わす事なく、ザックスに引っ張られてそこを後にする。だけど視界の片隅で、爺さんは穏やかな笑みを浮かべていた。本当に嬉しそうに、微笑んだんだ。
全部、燃えてしまったけどね
「おっ、あんたか!あんたは正気なんだろうな?それなら、こっちに来て手伝ってくれ!
俺はこの家を見てくる。あんたはそっちの家を!」
何度も踏み慣れた玄関で俺は立ち尽くす。奥に倒れた母さんを見つけたけど、近づく勇気はなかった。その顔は俺が見た事もないくらい歪んでるに違いないから。
「おい、奴は何処へ行った?
ティファは?ティファを見なかったか!?黒髪の女の子だ!
おい、しっかりしろ!おい!!その家ももう駄目だと言っただろ!」
肩を揺さぶる腕を振り払い、宿屋の入口をくぐった。カウンターに突っ伏して崩れ落ちた小柄な骸(むくろ)に、ずっと伝えたかった言葉をかける。
爺さん、俺...この村が大好きだよ。
母さんがいて、ティファがいて、楽しい事も沢山あった。強くなって帰ってくるつもりだったんだ。じゃないと、こんな気持ちにはならない。
尊敬していたのに...憧れていたのに!
他人なんて、信用するだけ無駄だ
そんなことない
“母さんはね、いつだってあんたの...”
もう、会えない
でも、心には残る
“ねぇ、約束しない?”
もう、守れない
それでも...
それでも、全部、俺の大切な...!!
泥にまみれ、荒野を無我夢中で這いずった。水溜りに手を突き、その冷たさに一瞬だけ我に返る。水面に映った死んだ様な碧い瞳、頬にベットリとこびりついた血痕、握られた大剣。
それが誰のものだか、俺にはもう...わからない...
それが誰のものだか、俺にはもう...わからない...
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絶賛こじらせ中★ですが、そういう年頃ですしね。
培養時期を除けば短期間で、故郷⇒ザックス⇒エアリスのトリプルパンチ。これでおかしくならない方が不思議かもしれません。結果的にティファは生きてて仲間も出来たけど、プラマイゼロって訳にはいきませんし。
クラウド×ザックスはいつか明るい絡みも書きたいです。
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