Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
raison d'etre
Tifa(17歳)×Marlene(1歳)
アバランチの次女と末娘。
無理をして学校に来たママは、再びベッドに逆戻りとなった。
(私のせいだ...)
パパは昼間は仕事。
初めての授業参観に一人が嫌で、つい我儘を言ってしまった。
布団に顔を押し付け涙を堪える私と裏腹に、私の頭を撫でる声は明るい。
「ティファ、毎回手を上げてたわね。
ママ、とっても鼻が高かったわ」
後から知った。
医者が言うより数年も長生きしたママ。
わかった気がする。
その理由、あの時のママの気持ち。
私にも、小さな生きがいが出来たから...
raison d'etre
「ティーファだよ、マリン。ティーファ」
「ぃ~ふぁ?」
「とうちゃん、が先だよな?マリン。と~ちゃん」
「うぅーちゃん!!」
陽の光だけが差し込む開店前の薄暗い店の中、テーブルの決まった定位置にそれぞれ腰を落ち着かせ雑談をしていた三人は、やれやれとここ最近繰り返され続けるそのやりとりを眺める。
「やっぱりティファちゃんが先じゃないっすか?
人間、美味しいご飯には敵わないっすよ」
んだとぉ!?という罵声と共に、小太りの体は勢いよく壁にめり込んだ。
「案外、私だったりして」
ジェシーが人差し指で、ふっくらとした桃色の頬をチョンとつつく。
「誰でもいいよ...俺、次のミッションまで寝るわ」
しかし大口を開け欠伸をするビッグスの首根っこは、悪いが今からルート確認だ、とバレットにむんずと掴まれた。がらりと変わるその場の空気に、小さな体が太い足にしがみつくのはいつもの事。
「や~! やぁー!!」
言葉がわからなくても不穏な何かを感じ取るのだろう。その様子を見下ろし眉を下げるバレットを見かね、私はやんわりとその小さな手を解く。
「マリン、一緒にお外に行こう?」
向かったのは、六番街を越えた先にあるこじんまりとした公園。膝に抱いたままブランコをこぐと、マリンは歓声を上げ手を叩く。すっかり乾いた頬の涙に安堵し、今度は滑り台へ興味を移しそちらへ向かうヨチヨチ歩きを追いかけた。
......誰か! 助けて!!......
その時、微かに耳に届いた声にハッと顔を上げ、慌てて首を回す。
珍しい事じゃない。治安の悪いここじゃ、日常茶飯事だ。
ただ...
(マリンをどうしよう...)
砂場で夢中になって土と戯れる幼い姿を前に、途方に暮れる。相手が複数いるかもしれない場に連れては行けない。
「マリン、ここでじっとしてて貰える?」
通じる訳もない小さな肩に祈るよう両手を置いて言いつけるが案の定、首をかしげキョトンとされた。
(少しの間だけなら...)
「あ~!! やぁーー!!!」
マリンをそこに置いたままそろそろと駆け出すと、背後で叫び声が上がる。
「大丈夫だよ、すぐに戻って来るから!」
慌てて引き返し、パニックを起こすマリンの頭を優しく撫でた。
「.........あぅ...」
コクンと下がる頭に安心し、その場を後にする。
「立てますか?」
「あ...ありがとうございます!あの、何かお礼を...」
「いえ、結構です。ちょっと小さな子を待たせてて...」
せめて連絡先だけでも!と食い下がられ、急いで電話番号を書く。こちらに頭を下げ続けるその女性への挨拶もそこそこに、踵を返し元いた場所へ駆け出した。
(マリン、ちゃんと待っててくれてるよね?)
荒く肩で息をつき、周囲を見渡す。
小さな公園。一目でわかる。
(うそ...)
いない...
(落ち着いて!!)
ほんの10分。まだ近くにいるはず。
直感的に、店までの帰り道を辿った。
「すみません!1歳ぐらいの女の子を見かけませんでしたか!?」
明るい茶色の髪に色白で...と付け足すと、咄嗟に飛び込んだ先のマーケットの雑貨屋の店員は冷静に返す。
「ああ、さっきそこでワンワン泣いてた子かな?」
「どっちの方向に行きましたか!?」
「そこまでは気にかけてないよ。だって...」
続く言葉に背筋が凍る。
「男の人と一緒だったよ?」
結局、帰り道を念入りに探してもマリンは見つからず、私は重い足取りでひとまず店の扉をくぐる。
「マリンちゃん、可愛いっすからね。
変態とかじゃないといいんすけど...」
んだとぉ!!とウェッジは再び殴り飛ばされる。
「バレット、本当にごめんなさい...」
「過ぎちまった事はしょうがねぇ。
おい、今夜のミッションは中止だ。手分けして探すぞ!!!」
私も再び出口へ向かうと、肩に手が掛かり引き留められた。
「ティファ、お前はここに残って電話番しろ」
「ジェシー、代わりにお願い!」
切迫した顔を向けた先の彼女は首を横に振る。
「ティファ、あなた汗だくじゃない。
あれからずっと走り回ってたんでしょ?
シャワーを浴びて、少し休みなさい」
「ティファ、皆の言う通りだ。
疲れたら代わって貰うから、今は休め。な?」
ビッグスにもそう説得され、私は渋々頷く。
「電話かぁ...身代金の要求とかじゃないといいっすね」
そう邪気なく言い放つ体が、三たび壁に吹き飛んだ。
(こういう時にじっとしてるの、苦手なのに...)
カウンターで頬杖をつき、じれったく考えを巡らせる。
(みんなも知ってるはずなのにな...)
むしろ、動揺すると突っ走り気味になりがちな私を心配したのかもしれない。もう窓の外は真っ暗だ。砂場に佇(たたず)むマリンの心もとない姿がぼうっと脳裏に浮かび、じんわりと視界が滲む。
(ごめんね、マリン...)
今まで彼女を一人きりにした事はなかった。置いていかれるのは、さぞ心細かっただろう。
(あの子は喋れもしないのに...)
意を決した様に縦に振られた首。
いつだって、聞き訳の良いマリン。
(一人で帰れって意味と、勘違いしたんだわ)
“男の人と一緒だったよ?”
(何かあったら......どうしよう!!)
次から次へと襲いかかる不吉な考えを振り払おうと、目をギュッと瞑る。その時、すぐ隣にある電話がけたたましい音を立てて鳴り響き、ビクリと体が揺れた。
“身代金の要求とかじゃないといいっすね”
手を胸の位置で組み天に祈り、恐る恐る受話器を持ち上げる。
『はい、セブンスヘブンです』
『あの...ティファさんですか?』
『? そうですけど...どちら様でしょうか?』
『ああ、やっぱりそうだった!』
そして私は次に聞こえた台詞に破顔する。
“小さな女の子を預かってるんですけど...お宅の子じゃないですかね?”
住所を走り書いたメモを手に、五番街まで走る。
すぐさま店を飛び出したいのを抑え、急いで皆の携帯に連絡を入れた。先ずはバレット。彼はスラムを何周もし、今は壱番街にいるらしい。電話口の向こうに轟いた嗚咽に今一度謝り、次の相手へと移る。
“そこなら目と鼻の先だ。
残りの二人には電話しといてやるから、ティファもすぐ来いよ”
私の気持ちを察っし切った配慮に、有り難く店を後にした。
「すみません!先ほど電話をいただいた者です!!」
扉を叩くと中からは一人の青年が現れる。
「ああ、ティファさん。早かったですね。
先程一人いらっしゃって、もう確認済みですよ」
その穏やかな笑顔と廊下の奥から聞こえる耳慣れた泣き声に、肩の力が抜けた。やっと心に余裕が生まれ、電話を貰った時からの疑問を投げ掛ける。
「そういえば、どうしてあの子がうちの子だって...」
確か彼は何度か店に飲みに来てくれた客だ。しかし営業中、マリンは大概寝てしまっている。開きかけた彼の口を遮る様に、ビッグスがマリンを抱え玄関に顔を覗かせた。
「ほらティファ、聞けよ。バレットが嘆くな」
マリンは私に手を伸ばし、泣きじゃくりながら繰り返す。
「ティーファ、ティーファ...」
「最初は何を言ってるのか聞き取れなくて。
わかってからも、あの店の店員さんだって気付くのにまた時間がかかっちゃって...」
こんな遅くになって申し訳ない!とはにかむ顔に再び頭を下げる。その拍子に瞳から涙が零れた。
こちらに伸ばされた手を握り、そっと抱き締め...誓う。
「もう絶対に、一人にしないからね...」
娘とも妹とも違う、小さくて大きなあなた。
本能のままに...沢山の愛を注ごう。
私もかつて、そうされたように...
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復讐で荒む心を最も癒したのはマリンではないだろうか。
“孤児を引き取って” と言うと負担の様に聞こえますが、実は支えられてるのは大人の方かもしれません。
raison d'etre=生きがい
フランス語です。
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