Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
Her True Want
12' ホワイトデーSSも、プロローグ小説期です。
嬉しかったのは、本当に欲しかったから?
それよりもずっと、伝えたい。
“気持ちに気付いてくれて、ありがとう”
Her True Want
生まれて間もない街。
しかしその住人は古く、錆ついて鈍い光を放つ廃材から成る建物には真新しさの欠片もない。
食糧難に疫病と日々の問題は山積みだったが、星そのものが消えるかもしれない危機が退いた後の人々の話題は意外と明るいものも多い。
中でもあれ以来、専らこの街で注目を集めている人物がいる。
その内の一人を拝むのは難しくない。
混雑してはいるが店に入れない事はないし、彼女もここで生活を営む一般人だ。
今日も仕入れのため市場に姿を現したその顔は...いつになく不機嫌だった。
それもそのはず。
彼女はここ最近、絶え間なく身に降りかかる質問にほとほと嫌気が差していた。
“ティファちゃん、お返しは何がいい?”
(たかだかバレンタインに、ちょっとしたお菓子をあげただけで...困るわ)
だがそれには彼女にも非があった。
人々の関心は二人の “ジェノバ戦役” としての活躍ぶりではなく、はたまた時に出入りする謎めかしい仲間達の素性でもなく...その関係性にあった。
“同居人というか、家族というか...”
煮え切らない返答をよこし、親代わりを務める血の繋がらない少女や旅に出たその父親も含めて “家族”。そう言いきる彼女に妙な期待を抱く男が現れても不思議ではあるまい。
だが、くだらない話題が会話を占める割合を増していく傾向は、拠り所を失った者達が希望を取り戻しつつある目に見えた兆候であり、そんな喜ばしい光景に水を差すこともしたくはないのだろう。
営業スマイルで当たり障りなくやり過ごしていたが、ホワイトデー当日、その顔は更に曇る。
「受け取れませんって、こんな高価な物...」
「じゃあ、せめて花だけでも!ね、お願い!!」
「...はぁ」
渋々、花束を受け取りカウンターの隅に飾る。
その華やかさに反し、心は悲しくなる一方だ。
(皆、私に好意を持ってくれてるみたいだけど...なら何で気付かないんだろう)
彼女は値の張る物などに、興味はなかった。
(こんな物より、“あの時はありがとう”って言ってくれたり、もっと簡単な物の方がずっと嬉しいのに...)
その時、和やかな店内に一瞬にして緊張が走る。
扉を無造作に開け、迷わず奥へ進んで来る姿は客ではない。
通い出して間もない客が背中の大剣に物珍しい眼差しを送る。
寡黙で帰宅も遅い彼と言葉を交わした事のある者は、ここでは少なかった。
「お帰りなさい、クラウド」
「ああ、ただいま」
彼はいつものように返しつつも、カウンターに飾られた豪華絢爛な花に面食らったようだ。
そして手に持った飾り気のない紙袋に視線を移し、決まり悪そうに呟く。
「まいったな...俺のは大した物じゃないんだ」
そう前置きし、それを彼女に差し出した。
中からはストライプのマグカップ。
赤と黒、そしてピンクは子供用だ。
「ティファ、前にそれ、長いこと見てただろ?
だから欲しいのかなと思って。
思い違いじゃなきゃ良いんだけど...」
先程と打って変わり、彼女の顔がみるみる色付いた。
「ありがとう、クラウド...とっても嬉しい!!」
「そうか?なら良かったよ」
弾けんばかりの笑顔につられたのか、彼は穏やかに目元を緩め、その場の誰も見たことのない頬笑みを披露する。
目の前の入り込めない空気に周囲の人間は言葉をなくし、そして誰もが悟った。
二人の間柄は未だ道半ばなだけで、“ただの同居人” ではないと...
「ティファちゃん!これ、この前のお礼...」
つい今しがた来店した若者がラッピングされた大きな箱を手に叫ぶと、誰かがその腕を掴み、無言で首を横に振った。
そしてカウンターに顎をやり忠告する。
「やめといた方が良いと思うぞ」
その先には仲睦まじいやりとり。
「さっそく明日の朝から使おうね」
「ああ、そうだな」
3つのカップを大事そうに戸棚に仕舞う笑顔が崩れる事は、その日はもうなかった。
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本当に欲しいもの×クラウドからのもの=最強
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