Minority Hour
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Short Short lll
Short Shortその3。
Short Shortと呼ぶには少々長いShort Stories。ティファの髪づくしの10万hits御礼です。
Short Shortと呼ぶには少々長いShort Stories。ティファの髪づくしの10万hits御礼です。
If you want...
「短くしたりはしないの?」
雑誌に目を走らせていた赤銅の瞳が、鏡に映る背後の女性を捉える。美容室ではありふれた質問が選ばれた理由は、ティファが開いていたページが丁度ショートカット特集だったこととか、しばらく途切れた会話に美容師が退屈しだしたとか、たいしたものではないだろう。
「う~ん...」
「勇気がないってとこ?」
「そんなとこ」
「見てみたいけどなぁ...」
私もね。声には出さないけれど、なかなかのハサミさばきを披露する職人に同意する。前髪と毛先だけ切りに来るなんて、ホント勿体無い。ティファは鏡の中に、髪の丈を短くした自分の姿を思い描く。そしてそれが昨夜遅く行なった行為の全くの繰り返しであることに気がつき、やがて顔は諦めの色を濃く浮かべていくことになる。
ドライヤーのスイッチを切り、ふぅ、と一息つく。冷風にしているのに滲み出てしまう背中の汗に早くも貼り付きだす後れ毛が鬱陶しく、手で髪を一つに括り上に纏めあげた。
するとティファはある発想にたどり着く。ベッドに足を放り出し、携帯を片手に暇を潰している相方を見やり決意は一層固くなった。クラウドのことも毎晩お待たせしちゃうしね。
「切っちゃおっかな」
「え...」
何気なく呟いただけの小声を意外にも彼は拾う。直角に折れていた首は上がり、こちらに向いた状態だ。
「どれくらい?」
そんな具体的なことは決めていなかった。しかし、宣言するぐらいだからそれなりでなくてはならないだろう。ティファは一度離してしまった髪を再び両手で括り、肩の上に来るよう調節した。
「いっそ、このくらい?ユフィみたいに」
そして座っていた鏡台に向き直る。ただの思い付きだったけど、こうして改めて見ると悪くないかもしれない。上背があるため幼くは見られなかったが、成長してもあまり変わることのなかった真ん丸の瞳のせいか、顔立ち自体は童顔だと指摘されることはしばしばあった。短くしたら、今より大人っぽく見えたりして。少なくとも雰囲気は変わるよね。
クラウドを置いてきぼりにしてティファは心の中で一人盛り上がる。だが、いつの間にか携帯を放り投げベッドの縁に腰掛けていたクラウドは険しい顔をしている。
「出来たらやめて欲しい」
「え、そうなの?」
何の意見もあるまいと決めつけていた彼から発せられた存外にも強い主張にティファは戸惑う。そんなティファを差し置きクラウドは畳み掛ける。
「うん、長い方が好きだ」
「もっと長くてもいいくらいだ」そう言い珍しく真っ向から視線を投げかけてくる。その瞳が何を映しているかは明白だ。普段、服装だったり化粧の仕方、ティファのありとあらゆる言動の何一つとっても自分の趣向など押し付けてこない彼だった。心はほんの少しだけ浮き足立つと共に、今しがた終えたばかりの決意に未練を覚え、ティファは往生際悪くささやかな希望を伝える。
「明日、思いきって切っちゃおうかな、なんて思ってたんだけど...」
「そうなのか?それは...すごく残念だ」
何よ、見たこともないくせに。案外クラウドだって気に入るかもよ?
だけど文句は形を成すことなく胸の奥へと仕舞い込まれていく。寝る準備の整ったティファの手を取ると、クラウドはいつになくスマートに彼女を腕の中に向かい入れる。いつもは唇にされる口付けは、今宵は一房すくい上げた毛先に真っ先に落とされた。
ティファはそのロマンチックな仕草に図らずもどきりとする。続く行為の最中にも、クラウドは頻繁に髪の中に指を差し入れてきて、何度もそれを愛おしそうに梳いたり口元に運んだりした。
こんなのって、ズルい...
目眩を覚え始めた頭の芯は、日付が変更される頃にはすっかり熱い身体に溶けていく。
歯切れの悪い回答に満足のいかなかった美容師は、次の憶測を投げかける。
「あ、わかった。さては男の趣味ね」
「そんなんじゃありません!」
心の乱れを悟られないよう、ティファは雑誌をパタンと閉じて別のものに交換する。“残念” クラウドがその言葉を口にした際の、俄か雨に打たれた子犬のような哀愁漂う姿を思い出し、胸中で嘆いた。
ああ、私...たぶん一生ショートカットには出来ないんだ。
本を閉じても脳裏に蘇る、夏らしい爽やかなヘアスタイルに不本意ながら別れを告げる。そしてこの後家に辿り着いた際同居人が顔に浮かべるであろう表情を想像し悔しさを覚えたティファは、残された僅かな時間の中で、帰り道に行うことが出来る道草の候補を思いつく限り挙げていくのだった。
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あなたが望むなら、そうせざるをえない...(10万hits御礼 その1)
正午を一、二時間回り、足の伸びた日差しがリビングの床に見るからに暖かそうな窓枠模様を形どる。少し前まで辺りに充満していたコーヒーの香りは、鼻が慣れたのかカップの中の量を減らしたためか、今はもう部屋を微かに漂うだけだ。
「ねぇ、クラウドは...」
まどろみかけていたクラウドは、愛しい人の声にゆっくりと目蓋を持ち上げる。
「私の身体のどこが好き?」
Bad Habits
「はい、時間切れ!失礼だなぁ、そんなに悩まないと出てこない?」
「待てって。候補は出てるけど、どれにしようか悩み中だ」
クラウドは自らの思考が辿っている過程を正直に告白する。「悩まなくてもいいよ、最初に思いついたのを教えて?」急き立てる声は無視してクラウドは眉間に深く皺を寄せた。
ティファが投げかけてきた質問の裏に、トーンの軽さにつられて安易な回答を述べるには危険な匂いを感じとりクラウドは慎重になる。寝ぼけて半ば機能を停止した頭で、女性にとってはかなりデリケートなんであろう問いの模範回答を探すのは容易ではなかったが、合格ラインを達成出来ずに今置かれている環境を手放してしまうのは何としても避けたかった。
暫し考え抜き、クラウドは数個に絞られた選択肢の内、先程から目の前で鼻先をくすぐり続けているものにかけることにした。実際、それは彼にとって彼女を特徴付ける非常に重要な部位だった。
「髪、かな」
「...髪?」
その返答は想定していなかったのか、ティファは意外そうな声を出す。
「ああ」
「どんなとこが?」
クラウドの出した答えにティファは興味深い態度を示す。
「そうだな。単純に綺麗だからもあるけど...」
「...けど?」
「内面を良く表してるっていうか...」
「どんな?」
「真っ直ぐだ」
そこまで言い、クラウドは美しい艶を放つ豊かな流れに鼻を埋め直す。ティファに伝えなかったもう一つの理由は、彼女がそれをとても大切に手入れしているということだ。そういった仕草はクラウドにはとても女性らしく映り、自らの身体的魅力をコンプレックスと捉えがちな彼女にしては素直で新鮮な行動だった。
「ねぇ...」
「...ん?」
再び訪れた安息に身を委ね、瞳を閉じかけていたクラウドは緊張感のない声を出す。
「じゃあ...今、手が当たってるところは?」
...やっぱり、あまり説得力がなかったかな?クラウドは内心決まり悪そうに独りごちる。
「ん、まぁ...そこも好きだ」
「というか習性だ、習性。男の」本能と開き直り場を逃げ切ろうとするクラウドは、ちゃっかりその手をお気に入りの場所に置いたままである。
毎週手入れに励んでいるバイクも昨日修理に出してしまい、最近のめり込んでいる小説をソファーで読み耽るティファに暇を持て余した腕が絡みつき始めたのは三十分程前のこと。最初は控えめだった行動も、段々と肩に顎を乗しかけたり本を支える腕を押し退けたり、最も心地良い体勢を探し求め図々しくなってくる。
お気に入りの趣味に熱中すると何も見えなくなる癖に、逆だと平気で邪魔してくるんだから。普段この時間に自身が感じている一抹の寂しさや、目の前のストーリーがクライマックスに差し掛かっているタイミングの悪さにティファはついつい意地悪な仕返しをしたくなる。
「クラウド、寝足りないんでしょ。せっかくの休日なんだからちゃんとベッドで寝てきたら?」
「それにそろそろ離してくれないと私、集中出来ないんですけど」そこでティファは久しぶりに後ろを振り返る。
「せっかくの休日に一人で寝るのって好きじゃないんだ」
「迷惑な習性だらけね」
精一杯の不貞腐れ顔にも負けずに、クラウドは小さなおでこにご機嫌取りの口付けを落とす。最初の回答はなかなかの及第点、もう一つは残念ながら落第ね。本日の午後における彼の評価を慎重に見定めるティファに、完結まであと僅かに迫った本が今日無事に読破されるか否かは定かでない。
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おっぱい星人は昼夜を問わず君臨します。Bad Habits=悪しき習性(10万hits御礼 その2)
Who’s FOOL!?
フロアの柱の陰で、ティファはこちらに背を向けて座る目的の人物に照準を合わせジッと睨みつける。そして息を殺したまま、抜き足差し足で背後に忍び寄った。胸には多少の躊躇いが残るものの、丁度一年前まさにこの場所で味わった苦渋の想いを思い出し、今一度心を奮い立たせた。
昨年の四月一日。自分を除いた三人の仕掛けた罠にティファはまんまと引っかかった。慌てふためくティファをしこたま笑った家族は、その後数ヶ月に渡ってティファをからかい続ける。今思えばあんなバレバレの戯言にコロっと騙された自分も恨めしい。何より腹立たしいのは...
「作戦、大成功だな」
ニヤニヤ笑う、悪巧みを首謀したに違いない男だった。来年は絶対に仕返しをしてやる!そう堅く心に誓ったティファの行動は念入りだった。まずは一か月前から子供達を味方につけにかかる。
「“私、他に好きな人が出来たの...” なんてどうかな!?」
女言葉でなされたデンゼルの提案は感受性の高いマリンにより「クラウド、また家出しちゃうよ...」とやんわりと却下された。いくら虚言が許されるといっても、相手を傷つけるものであってはならず、後腐れのないものでないとならない。
「あ、そうだ!」
パッと眉を上向けたマリンの案はなかなかのものでティファも気に入った。一方でデンゼルは今度は難色を示していたが、他に思い浮かぶアイデアもない。知り合いの手まで借り、ティファは若干手の込んだ一芝居を打つ準備に取り掛かる。
「ク、ラ、ウ、ド」
変哲のない昼下がりにしては勿体ぶった呼びかけに、クラウドは携帯をいじっていた顔を持ち上げた。
「じゃん!」
ピョンと立ちはだかったティファの容貌が目に入ると、クラウドは驚愕して椅子に座ったまま後ずさり、壁に思い切り後頭部をぶつける。
「ふふふ。短いのもいいかなぁなんて、思い切って切っちゃった」
目の前に佇むティファの長い髪はバッサリと切り落とされ、短いショートカットに変わっていた。
「ねぇ、ビックリした?」
「あ、ああ...」
「どのくらい?すごく?」
「ああ。物凄く驚いた」
未だ壁にへばりついたまま目を丸くしているクラウドに、ティファはしめしめとほくそ笑む。
「寂しい?」
「ちょっとな。でも、また伸ばすんだろ?」
「どうかなぁ」
だが意外とすぐに立て直しを見せるクラウドに若干の物足りなさを感じる。ティファの新しい髪型を引き続きまじまじと観察するクラウドは「ん?」と声を上げた。
「ティファ、色も染めたのか?」
ギクっと肩を跳ね上げたティファはネタあかしの仕方まで考えておらず、しどろもどろ「えっと...あのね、クラウド。これ、実は嘘なの。今日ってエイプリルフールでしょ?だから驚かせたくって...」と切り出した。ネタバラしをすると、美容師の友人から借りたウィッグを使って髪型を短く見せているだけだった。クラウドは予想外のカミングアウトに「え!?」と再び仰天する。
「本当だ。手触りが違う」
短い髪の毛に恐る恐る触れると、触り慣れた感触との違いを確かめる。一方のティファは先程から感じていた違和感の正体に気付き始めていた。もっとこう...“やられたー!”って感じの反応を期待してたのに、なんか違う。例えば “何で俺に黙って切っちゃったんだ!?”って怒るとか。何よ、私の長い髪が好きだなんて言ってた癖に...“また伸ばすんだろ?” なんて随分アッサリじゃない。だが文句を言ってもどうしようもない。
「クラウド、本っ当〜に驚いたんだよね?」
「うん」
「それじゃ、元に戻してこようかな」
入念に確かめるととりあえず満足をし、洗面所で髪を直してこようと体の向きを変えたティファの手首をクラウドがすかさず掴んだ。
「なぁ...今日一日その髪型でいてくれないか?」
意外な申し出にティファは面食らう。
「ティファって長い方が絶対に似合うと思ってたんだけど、ショートも結構いいな」
「すごく可愛い...」ストレートな褒め言葉と共に頬に伸びてきた手のひらにドキッとなる。「“今日一日”って...いつまで?」素朴な疑問を投げかけるとクラウドは「ん?」とからかうように片眉を上げた。
「今日一日って言ったら、今日一日だ」
気づけば「新鮮そうだ」とか「楽しみだな」なんて含みをもって耳元で囁いてくるクラウドの腕の中にすっぽりと収まっていたティファは身動きが取れないまま、なんか違う〜!と自らの嘘吐きに関するセンスのなさを嘆くのだった。
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(10万hits御礼 その3)
軽めですが、大人な状況です。
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As We Are
静まり返った薄暗闇に不意に響いた低音に、ティファは緩く閉じていた瞼を開けた。
「髪が伸びたな」
ティファが身じろぎをしたり前屈みになる度に肩を滑り鎖骨に流れ落ちてくる黒髪を、クラウドは都度指先や手の甲を使って丁寧に背中に払い戻してやる。あまりの頻度にティファは「邪魔かな」とあくまで軽い調子で意向を伺った。
「いや...」
数年前、新たな生活を開始した折に心機一転短くされた髪は、クッキリと隆起した肩甲骨に届く程に長さを増していた。結わえないで降ろしておくにはそろそろ鬱陶しいかと懸念したティファも、甘やかな仕草や声から彼の本心は感じとる。日頃外見の変化につきそうそう言及はしてこない恋人からの珍しい指摘にもほんのりと喜びを覚えた。
クラウドは熱を帯び薔薇色に染まった白い肌に再びはらりと舞い降りた髪を改めて見つめ直す。女性の髪が一年でどれほど伸びるのか想像もつかないが、今触れている毛先は二人が寝食を共にする以前のものに違いない。下手したら彼女と再会するより前の。そしてそこから耳元へと続く緩やかな直線はここでの暮らしを最も近くで見守り続けて...幼い頃から良く知る人物だというのに、目の前の身体は全くの同一ではなく、こんなところにも時の流れを感じる。
「このままで」
「...このまま?」ふと口を突いた要求は刻一刻と変化するものに対してするにはそぐわないもので、ティファは滑稽さに肩を揺らす。一方のクラウドはそんな微笑ましい光景を前にしても心に一点の影が落とされるのを自覚した。日々の勤労から得られる充実感。安住の地へと続く押し慣れた扉を開けると疲労した体は瞬く間に無邪気な笑顔に囲まれ癒されていく。そして...
「あ...」
豊かな曲線の半ばまでを覆う滑らかな絹糸。この上なく女性らしく煽情的な相貌に、吸い寄せられるよう唇を絡める。余裕をなくし始めたティファの重みがしっとりと肩にもたれてきた。
幸せだった。
愛する人達が笑っていて、自らが無条件で受け入れられていると疑いなく認められる。だが生きてきた期間と比較して、安息の与えられた時間の短さに心の奥底は怯える。このまま誰も生命を脅かされる事なく、傷つく事なく天寿を全うすることは奇跡のようだった。
「ああ。このまま...」
なのに喉元を過ぎれば人は熱さを忘れてしまうものらしく、性懲りも無く信じてしまう。この穏やかな毎日が今度こそ永久に続くのではないかと。本当に、どうしようもない...そんな自分に呆れ果てながら、鼻先で揺れて艶めく流れにそっと口付けた。どうか、変わりゆくことを受け入れる勇気を。複雑な歴史が刻み込まれたティファの身体の一部に人知れず別れを告げる。
カーテンの隙間から一筋差し込んだ月明かりが二人を包み込む。この世のものとは思えない程一際美しく輝いたそれがあたかも返事をしてくれたようで、一時憂いは晴れる。また新しい彼女に出会える事が、少し楽しみになった。
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as we are=without changing (10万hits御礼 その4)
Risky Tail
「っと...!」
「...え? あ、ごめん!」
厨房から上がるにしては緊迫感のあった二つの声に、デンゼルは下向けていた顔を上げた。珍しく高いところで結わえられているティファの髪。その毛先が振り向きざまにクラウドの顔に当たる寸前、彼は持ち前の反射神経の良さで毛束をキャッチする。
「危ないね。ほどかなくっちゃ」
ロングヘアの持ち主として心得ておくべき作法を失念していたことにティファは苦笑いをする。鞭のようにしなったポニーテールに顔面を直撃されるとこれがなかなか痛い。だが髪ゴムへと伸びたティファの手に自らの手をそっと重ね、クラウドは続く動きを「いいよ、暑いんだろ?」と留まらせる。
外での用事が押したらしいティファは炎天下の中小走りをしたようで、パタパタと手で扇ぐだけでは間に合わず汗の滲んだうなじを冷風に晒している。「じゃあ、汗が引くまでね。気をつけるから」再び開店準備に取り掛かる店主の周囲を、夕刻以降の配達予定が立て続けにキャンセルになり機嫌の良い男が引き続きうろつき回った。
パッて離せばいいのに...
偶然目にしてしまった一時前の光景を頭に蘇らせ、デンゼルは内心独り言ちた。結い目のすぐ下を掴んだ手はすぐさま離れることはせず、そのまま毛先に向かって光沢を楽しむように黒髪を滑り降りついでにひと撫でする。普段は見せない、大人を思わせる手付きにドキリとなり慌てて目を伏せた。
「ここでやるのか?」
ティファの手伝いでテーブルを拭きにきたクラウドは一面にばらまかれたプラモデルの部品に面食らう。「冷房が効いてるし、机が広いしな」そう言う聞き分けの良い息子が片付けを怠る訳もなく、クラウドは小言を述べるまでもなく広げられた設計図を好奇心から覗き込んだ。
「それに、クラウドがティファにちょっかい出さないように見張ってなきゃならないし」
悪戯っぽく歯を見せるとクラウドはピクリと動きを止め、「...やられたのは俺の方だろ」ととぼけた。そのままそそくさと逃げ去ろうとされ、「客には掴まれないようにしないとな」とデンゼルは追い打ちをかける。すると無骨な手が頭のてっぺんに置かれ、癖っ毛をグシャグシャかき乱し始めた。
「そうだな、思い切りぶつかればいい」
乱暴な仕草に思いがけず大きく上がった笑い声。不思議そうな顔をフロアによこしたティファが向き直り、またしてもクラウドの大好きな尻尾が涼しげに跳ねた。
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私がティファの髪を好きなだけかもしれませんが、クラウドも絶対に好きと思う。(10万hits御礼 その5)
If you want... ll
『いや、それは断ってくれ』
『どうしてもって言われてるんだけど...』
『無理だ』
得意客からの依頼にも関わらず、一刀両断され嘆息をつく。安請け負いは出来ないのもわかるが、理由も告げられぬまま客に断りの伝達を折り返さなければならない自分の身にもなって欲しいものだ。代わりに紹介出来る業者のリストに目を走らせるが、彼らでは依頼主の主張する到達希望日は叶わないのは明白だ。
『待って。ティファが代わりたいって』
休日の夕暮れ、平日にこなし切れなかった配達のため家を空けたクラウドは、出先で受けた二つ目の申し出に初めは得心がいかない。電話を受け取ったティファは前置きもそこそこにクラウドにお願いごとをする。
“今日の晩ご飯は、うんと褒めてね”
『マリンの力作なの』
『へぇ、そいつは楽しみだ』
そういうことか。『任せとけ』と伝え通話を切る。母娘が台所で肩を並べる光景を胸に思い浮かべると腹の減りが際立った。今夜は遅刻は厳禁だな。幸いうまい具合に事は運び、足取りも軽やかに家路につく。
支度が為されていく食卓を横目に、何食わぬ素ぶりで席に着く。これから起こすつもりの不得手な行為に手落ちがないよう気を引き締めた。プレートに乗せられたハンバーグに切り込みを入れ、一欠片を口に運ぶ。
「ん」
正面には、ハラハラと反応を待ち受けるマリン。
「これ、すごく美味いな」
目の前の不安そうな顔は瞬時に晴れ上がる。マリンに目配せをするティファは肘で彼女をつつき発言を促した。
「本当?クラウド。それ、マリンが作ったんだよ。お野菜も自分で切ったの」
「そうなのか?すごいな。初めてでこの出来なんて、天才だ」
「ティファがいっぱい助けてくれたからだよ...」
照れ臭そうにしつつも喜びを隠せない顔にこっちがくすぐられる。「俺には到底無理だ」とか「マリンはきっと良いお嫁さんになるぞ」なんて褒めちぎり、ソースまで残さずペロリと平らげた。
“クラウド、気付いてくれるかな!?”
玉ねぎの微塵が大きめだったり幾分かいびつな楕円形という些細な手掛かりでは、彼でなくても見分けはつかないだろう。前もって伝えておいて良かった。期待を遥かに上回る情愛溢れた振る舞いを披露してくれたクラウドに、マリン以上の上機嫌がここに一人。
「なぁ、クラウド。本当はマリンが作ったって知ってたんだろ?」
マリンが席を外したのを見計らい、デンゼルがボックスシートからカウンターに問いかけるが肩をすくめられるだけだ。クラウドを褒めたくてウズウズしていたティファの両手は、デンゼルのいる空間では珍しく強健な肩の上に重ねられる。
「クラウドったら、優しいんだ」
「本当に美味かっただけだ。師匠の教え方が良いからな」
デンゼルの視線が窓の外を向いていることをチラリと窺うと、クラウドは「それに、ティファからの頼みは断れない」と目の前の腰を引き寄せ素早く頬に唇を当てた。
...窓ガラスにバッチリ映ってるんだけど。
首尾よく女性陣の高評価を得た、夕刻の電話口とは別人の男に毒づいた。まったく、女には甘いんだから。ならさっきの依頼もティファから頼んでもらえばよかったよ。
目を盗んだつもりで交わされ続けるご褒美の口付けは、ほとほと呆れた淡いブルーの瞳にいずれも丸見えだった。
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ストライフ家のご亭主はもれなくフェミニスト ※ご家族限定(10万hits御礼 その6)
Bad Habits ll
2ダースの卵でスクランブルエッグを調理する機会はそう滅多に訪れないが、かつて嫌というほど同じ動作をこなしてきた腕と、一般家庭にはない底の深いフライパンは異様な重量にビクともしない。
人間って変わらないものね。中央に寄せられたテーブルを囲み食事が供されるのを待ちわびている面々の行動パターンを観察し、時と場所を変えただけのそれに感心する。
薄暗い店内に降り立ち、荒れ果てたフロアをグルリと見渡す。うん、器物破損はないみたい。ならば十分。猫のぬいぐるみを枕にベンチシートに転がるシドに加えもう一人、気配をひた隠し微動だにしない片隅のヴィンセントを不覚にも見落とし発見した瞬間縮み上がる。
珍しく泊まって行ったんだ...
生死の判別もつかない腕組み姿をつつきたくなるが、ホラー映画さながら薄闇に息を殺す吸血鬼は刺激しないでおくことにした。
朝日が差し込むと共に現われた巨体は睡眠中も筋トレしているのかというぐらい食欲旺盛で、愛娘と睦まじく安眠したであろう強面は緩みっぱなしである。
細身で低血圧なユフィはホットミルクでスイッチを入れてあげ...だがそれも二年も前の話だ。冷たい方を好むナナキのためにボウルに牛乳を注ぎながら、頬杖を付き覇気がない様子のショートカットに視線を送る。
「...飲む?」
「飲む!」
山盛りのベーコンとソーセージは三分の一がサラダで覆われた各々のプレートの上に移され次々と消えていく。
「ティファのチーズ入りスクランブルエッグ、久しぶり!」
温まりだした胃に好物が豪快に流し込まれる様に目を点にし、デンゼルもそそくさとサービングスプーンいっぱいを皿にキープする。当時と一点を除き重なり合う一日の始まりに、違和感を覚えたユフィがカウンターの中のティファに振り返った。
「クラウドってもっと朝早くなかったっけ?」
「前は必要に駆られてただけで、こっちが真の姿だったみたい」
思い起こせば遥か昔、隣家からは母親が息子に浴びさせる罵声が早朝から轟いていたし、男の子の割にパッチリつぶらな瞳が糸の如く閉じられ足取りがフラつく後方を、電柱にぶつかるのではとヒヤヒヤ見守ったこともある。昨晩はお酒も入ったし...
「背中で飛び跳ねても爆睡してるんだぜ?」
「コチョコチョ〜ってしても寝てるの!」
厳格な母親の元、健全な時刻に床に着いた子供達の舌の回りは朝から円滑だ。「でね、最後にはティファが行くんだけど...」と続いた流れにピクリと厨房で揺れた肩を、薄っすら開いたガンマンの片目だけが目敏く捕らえる。
「そうするとなんでか起きてくるんだよな?」
「でも、どうやってるのか絶対に教えてくれないの!」
「クラウドもニヤニヤしながら、“子供には内緒だ” とか言ってさぁ」
食後のコーヒーに手をつけだしためいめいは、天真爛漫な掛け合いに口をあんぐりさせる。
「あんのエロ助が...」
「狸寝入りしてんじゃないの?」
「大の大人が朝っぱらから何してんだか...」
食事を終え日課のため階段を駆け昇った二人は、「全然ダメ~!」「グーグー寝てる!」と腕でバッテンのマークを作り全員の前に再登場する。諦め良く転がり降りてきた狙いは一つだ。一人、また一人と注がれる視線にティファは洗い物をする手を休めない。カウンター越しの静閑な紅眼までがとうとう開け放たれた。
「ティファ、そろそろ出番だよ」
「そうみたいね」
肩にもたれてくるユフィには素知らぬ顔で、ピカピカに磨かれ水気も飛んだ特大のフライパンを一瞥する。ちょっと可哀想だけど、今朝は痛い方で我慢してね。
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ガツーンといっちゃうわよ!(10万hits御礼 その7)
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