Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
OUTBREAK!
ティファの風邪。
OUTBREAK!
「おい、クラウド。出発は何時だ?」
昼食を終え腹包を打つバレットが問う。クラウドはそれには答えずおもむろに席を立つとテーブルの向かい側まで回った。放心し、彼の手が額に伸ばされるまで気がつかなかったティファは、自らを覗き込む瞳が険しさを増していくのをぼんやりと見つめる。仲間達はその様を不可解に見つめるが、クラウドが発した一言に状況を掴みだした。
「高いな」
「39...度...」
宿屋から借りた体温計を覗き込む面々は勿論、当の本人さえも血の気が引いていく。
「バカ!無理して...」
「らって、風邪らんてずっとひいてなかったから自分れも気がつかなかった...」
「わかったわかった。お薬飲んで、もう寝なさい」
部屋へと強制送還されたティファは、飲み干したグラスをエアリスに手渡すとベッドに沈み込む様に眠りへと落ちていく。程なくしてノックをする音が響いた。
「ティファは?」
「今寝たとこ。後でお医者様も来てくれるから」
顔を覗かせたクラウドは、行き届いた手筈に安堵する。「氷を貰ってくるね」と彼をその場に置いて部屋を後にした。自分でも気づかなかったって、どんだけよ。午前中ずっと一緒にいた自分。気付いてやれば良かったという後悔は、正直な自己申告と、すんなり言う事を聞いてくれた事に幾分か和らいでいく。
再び部屋の扉を開けると、ベッドの脇に腰掛けていたクラウドの肩が跳ねた。ビクビクしながらこちらを振り返る。
「...見てたか?」
「んー?何を?」
背中が影になって本当はよく見えなかったが、慌てふためく様子につい意地悪な含み笑いをする。
「ち、違うんだ...熱、下がったかなって」
「そんなにすぐには下がらないと思うけど?」
クラウドは決まり悪そうに口ごもり萎れていく。その請う様な瞳に彼の欲している事を察知した。
「言わないってば」
髪を掻く彼はとりあえずの安堵をし、「もう行く」と腰を上げた。
「レッドを置いてく。目的地まで三人で来れるな?」
「無理しなくていいから。熱が下がっても少なくとも一日は休んでから来い」
「攻撃系のマテリアを渡しておくから、極力後衛に下げてやってくれ」
事細かな指図に肩の荷が重くなる。あの娘に言う事を聞かせるのって、結構骨折りよ?微熱があろうと動き出しそう。今の内にベッドに括り付けておこうかしら...
追加事項を立て続けに述べる口を遮り、「そんなにあるなら、起きたら直接伝えれば?」とからかってみる。
「...エアリスの言うことなら素直に聞くかなって」
命令口調から一転しおらしくなる彼。よくわかってるわね、確かにクラウドじゃ言い負かされちゃうかも。その大役、引き受けましょう。
「ね、なんでわかったの?ティファが体調悪いって」
下で待つ仲間の元へ階段を降りていく背中に、悔しさもあり問いかけた。半日一緒にいたのは私の方なのに。
「なんとなく」
「顔色も悪くなかったし、普段通り動き回ってたのよ?」
「そうか?結構わかりやすくなかったか?」
「だから何が?」
「...なんとなくだ」
幼馴染って、そういうものなんだろうか。幼少の頃からの友達などいない自分にはわからない。それでもこれだけはわかる。階下へと消えゆく金色の頭に再び語りかける。見てないようで、よく見てるのね。
こんこんと眠り続け熱も引いたティファは、夕刻には見違えて活力を取り戻す。「ベッドの上、もう飽きちゃった」とソワソワしだす彼女を「ダーメ。じっとしてなさい」と再三叱りつける。唇を尖らせる普段より子供っぽい彼女は可愛らしいおねだりをしてきた。
「ねぇ、じゃあ何かお話して?」
氷枕を片付ける手を止めベッドに腰掛け、多動気味な彼女を鎮める候補を探る。
「ティファって、クラウドが初恋?」
お話というより尋問なそれに、ティファの顔がみるみる真っ赤に染め上がっていく。
「エアリスの話をしてって言ったの!」
ちょっと刺激が強過ぎたかも。また熱でも上がったら大変。「しょうがないなぁ。風邪引きさんは甘やかしてあげる」とエアリスは話の糸口を探し始めた。「私、今でこそこんなだけど、前からこれほど積極的だったわけじゃなくて...」ようやく始まった語り口調にティファは大人しく耳を傾ける。
「これ、後悔からなんだ。昔、好きになった人が、想いを告げられないままいきなり私の前から姿を消してしまったから...」
「そんな...」とティファは我が事の様に絶望的な顔をする。
「絶対に...絶対絶対何か事情があったんだよ。その人だってきっと...!」
うん、そうかもしれない。でももう知り得ないの。その人は私を置いてライフストリームへ還ってしまったから。彼との失恋は乗り越えつつある。それでも私の身を切り裂いた空白の五年間に隠された真実を知ることが出来るなら、私は何だってするかもしれない。
「ねぇ、だからちゃんと伝えなきゃダメだよ。このご時世、いつ離れ離れになっちゃうかなんて、わからないんだから」
話に聞き入るうちに耳から落ちてしまったサラサラの黒髪を掛け直してやる。全くの同い年とも違う、二つ年下の女の子。普段は隙のない彼女をこうやって幼く扱える瞬間がとても好きだ。すっかり聞き分けの良くなったティファの態度に満足しつつも、エアリスは声のトーンをガラリと変えた。
「って、思ってたんだけど...」
「...?」
「気が変わったかも。ティファの好きにしてもいいよ。伝えても、伝えなくても」
「.........は?」
エアリスはベッドから勢いよく立ち上がり、ティファに挑む様に目配せをする。
「手加減は一切しないことに決めたの」
「な、何それ...」
「今日、ついさっき心変わりしたの。完・全・に!」
掛け布団をギュッと掴むティファの弱気な上目遣いはなんともいじめがいがありそうだ。
「じゃあ私、もう勝ち目なしだね」
「さて、それはどうでしょう?」
今までも強敵だとは思ってたけど、判断誤りだったかも。もしかしたらあなたは私の恋路に立ち塞がる最大にして最強の障壁なんじゃないかな。私、幼馴染ってよくわからないけど、これぐらいはわかる。ただの幼馴染は頬に手を触れたりはしないって。
ふて寝をしだす病みあがりのティファにちょっぴり罪悪感が沸き起こるけど、間違った現状分析はもう許されない。奥手なあなたに遅れをとっているのは、どうやら私の方みたいだから...
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さぁ、いよいよ開戦です!
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