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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Believe

TOTPでティファがマーレの「お節介には限度を決めろ」という忠告を無視してバレットとマリンに深入りをした件に触れてます。
ゴンガガ魔晄炉直後。バレ+ティ(+クラ)。



Believe


丸一日動かしていなかった全身の感覚を入念に確認する。たっぷりと休息を貰った身体は疲労が抜けたお陰で軽く、思い切り伸びをし終え踵を地面に降ろすと「よし」と小さく声が漏れた。

「うんうん。ティファ、良い顔してるぅ!」

ユフィからの指摘にティファは自らの心持ちを見つめ直す。身体が軽く感じるのは気持ちが軽いせいもあるだろう。物事が好転した訳ではない。むしろ悪化しているが、得たものもあった。記憶の奥底に埋もれて長年失われていた、彼との共通の思い出。それが今は鮮明に胸の内にある。

「丸く収まったってところ?」
「そんなところ」

仲間となって日は浅いが、すっかりチームに馴染んだこの道連れはなかなか勘が鋭かった。先日、宿屋で相部屋になった際のやり取りに思いを巡らせる。



「で? で? 今はどうなの?」
「今? それは...」

髪を乾かす間の手持ち無沙汰を紛らわすための雑談だったが、少々喋り過ぎたと後悔していた。話題を逸らそうと考えを巡らし始めるティファは自分がすっかり及び腰になっていることに気付く。初恋話を語っていた時には存在した高揚感は急速に失われていた。

ーー俺は騙されない

クラウドは私を疑ってる。あの時とは別人なんじゃないかって。謝ってはくれたが、確信まで辿り着いてはいないであろうことは時折伝わってきた。どうしたら疑いは晴れるんだろう。そして、私も...

「お互い様だよね」
「ん? なんつったの?」

恋愛感情はあると思う。けれどその前に解決しないとならない問題が大き過ぎて...
気付けばドレッサーの椅子にお尻を割り込ませて来たユフィはドライヤーの音に掻き消された呟きを拾おうと耳を傾けてくる。

「資格がないかな、なんて」
「四角ぅ?」
「この話はもうお終い。はい、どうぞ」
「え〜〜!?中途半端なところで終わらせないでよぉ、気になるよ〜!」

手渡されたドライヤーをほっぽりだし濡れ髪のままベッドにひっくり返るユフィの背中を起こし、髪を乾かしてやる。それ以上は頑なに口を割ろうとしないティファにユフィはつまらなそうに落とし所をつけた。

ーーこりゃダメだね。恋する乙女の顔じゃないもん。クラウドに言っとくよ、初恋は期限切れだって...



「ティファ」

回想に耽っていたティファの前にバレットが立ち塞がる。

「ちょっと顔貸してくれ」

有無を言わさない口調だった。一度は出たシスネの家に視線を向け、バレットと共に室内に後戻りする。視界の片隅で捉えたクラウドの瞳が揺らめいたのがわかった。

「ティファ、出発の前に話してくれ。昨日あそこで何があったのか」

その質問を予期していたティファは後ろめたさを感じつつも「ごめん、言えない」と言い切る。盛大な溜息とともにバレットは左手で後頭部を掻きむしった。

「...あーあー、わかったよ。二人して同じ反応かよ!」

苛立ち始める彼を宥めようとティファは懸命に言葉を紡いだ。

「バレット。クラウドは私の恩人なの。私が一人きりで...心細くて堪らなかった時に側にいて助けてくれた」

それに加えて彼は私を庇って濡れ衣を被り続けてくれた。それこそ何年も。それはあの閉鎖的な村において...幼い子どもにとっては途方もなく長く感じる年数だった筈だ。

「今度は私が彼の力になりたいの。お願い、そうさせて...」

バレットはティファが先の一件について頑なに口を閉ざす理由に勘付き「お前、俺がアイツを見捨てるんじゃないかって疑ってんだろ」と問いかける。返答に窮するティファの反応に「俺も信用がねぇなぁ」と肩をすくめた。

「ボロ衣まとって浮浪者同然でよ」
「...ん?」

突如変わった話の流れにティファは怪訝そうに眉をしかめる。構わずバレットは続けた。

「どう見ても血が繋がってない訳ありで、しかも親の方は片腕が銃ときた。そんな親子を見捨てなかったのは誰だ」

今となっては遥か昔に感じられる光景がティファの脳裏に蘇る。まだピンボール台が置かれる前の、メニューも一品しかなかったセブンスヘブン。幼かったマリン。私に負けじと底なしの親切を発揮し始めたマーレさん...

それは確実に自分の人生が大きく動いた瞬間だった。当時こそ迷いはあったが、今ではあの決断を下した18歳の自分を褒めてやりたい。見返りを期待してやった行為ではない。そうではなかったが...

「ミスリルマインでも私を気にかけてくれたんだよね」
「おうよ。そのお節介に救われた身としてはな。ほっとけないよなぁ」

明るい口調で場の空気をほぐすバレットだったが、片手をティファの肩に置くと眼差しは再び真剣なものに戻った。

「だがそんなんじゃ足りねぇ。俺は借りた恩を返さなきゃなんねぇ。それが今だ。その相手がティファの恩人だって?そりゃいいや、ティファの恩人は俺の恩人だからな!」

視界がぼんやりと霞む。見返りを期待したわけではない。ニブルヘイムだけでなく七番街も、自分の居場所は全てなくなってしまった。それでも縁が繋がって、苦境に立たされた自分を支えてくれる仲間が、まだここにいる。

「俺は、まぁ...一発殴ってせいせいしたしな」
「え、殴ったの!?」

「おうよ。これでアイツとの距離がま〜た一歩近づいちまったなぁ」と大袈裟にガッツポーズを作る茶化した動きにティファは歯を見せて笑った。

「あんな声で叫ばれちゃな。守らせてやんねぇと」

怪訝な表情で顔を覗き込んできたティファにバレットはにっと笑い、ティファの背中を回転させ進行方向を家の出口に向けさせる。

「つべこべ言わねぇで見届けるぜ、俺は。お前の決意をよ」
「ありがと」

戸外へ出ると、待ち伏せるように思い詰めた顔のクラウドが佇んでいた。先に動いたバレットが「たいした玉だぜ、お前の幼馴染は。ライフストリームに落ちてもピンピンしてんのは心が強いお陰か?」とクラウドの肩をグイと押し除けた。クラウドがよろめく。続いてティファが目配せをする。

「ちょっと腹割って話してました」

一刻前とはガラリと変わった二人のあっけらかんとした態度にクラウドは拍子抜けする。

「...どっちが勝ったんだ?」
「腹筋勝負?もちろん私!」
「あん? なんだぁ?そのつまらない冗談は」

ティファが吹き出し、クラウドはバレットを軽く睨みつけた。

「とっとと行くぞ!クラウド」
「クラウド、行こう」

「ああ」

七番街での再会依頼、すっかり見慣れた二つの背中の後を追いクラウドは歩き出した。


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