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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

君に届け


プロローグ小説後半。
星痕発症まで。

『あなたに届け』の、クラウド視点です。

当然、暗いです。








俺は死にたくない。

まだ、死にたくないんだ...


君に届け


「だったら部屋で飲んでよ!!」


耳に痛い声が頭をこだまする。
それを追いやるよう、体に酒を流し込んだ。
一瞬脳裏に熱が走るが、その悲痛の叫びは益々そこを巡り、深く溜息をつく。

(本当にその通りだな...)

重い腰を上げ、彼女の要求に従った。





あの薄い扉が開く事はないだろう。
例え何日ここに閉じ籠ったって。
でも後悔はしていない。
一人で背負うためには、ああするのが一番だ。

これは、俺だけの罪だから。


(トモダチ、だろ?)

(嫌だ、行きたくない)

(セフィロス? セフィロス?
俺、来ました。
黒マテリア、持ってきました)


交互に映し出される3つのくっきりとした残像に、堪らず目をきつく閉じた。

どう償えばいいのか、見当もつかない。
だけど自ら命を断つ勇気も...ない。

(私も付き合おうか?)

ティファはあの小さな提案を口にするのに、どれくらいの勇気を要したんだろう。
そんな気遣いを無残に切り捨てられた後の動揺の様を思い出し、いたたまれなくなる。
扉2枚挟んだ臆病な君は、俺の酷い態度ですっかり縮こまってしまったに違いない。
そして俺も漏れなく臆病な男だ。

(あんたにはねぇ...
ちょっとお姉さんで、あんたをぐいぐい引っぱっていく、そんな女の子がぴったりだと思うんだけどね)

俺の本質を最も理解した人間の発言が頭をよぎる。
きっと俺達の相性は、良くはない。

でも俺が許されたい、生きたい一番の理由...

...それは、扉の向こうで肩を震わせ泣いているだろう君なんだ。





「あら、随分早かったのね!」

目を見開くのは三十路そこそこの女性。
次の瞬間、「ウソ!もう来たの!?」という子供の叫び声と、トタトタと廊下を駆けて来る足音がした。
3才くらいの少年が俺の手の中の包みに真っしぐらに駆け寄り、それをむしり取ると再び家の奥へと走り去る。

「こら!! ちゃんと断ってから貰いなさい!」

母親はリビングから聞こえるビリビリと包装紙を破る音に説教をするが、返事はない。

「失礼をしてごめんなさいね。
あの子ったら興奮しちゃって...」

「いえ...」

「ほら、ここって道もないしモンスターも強いでしょう?
都会から物を運ぶのも一苦労で...」

厳しい顔を緩め、廊下の先を振り返った。

「あの子の初めての、ちゃんとしたオモチャなの」

マリンの部屋を彩る数々の玩具を思い出し、先日リーブから聞いた話をそのまま伝える。

「今WROが道の整備を進めています。
不便な地域から優先的に。
だから多分もうすぐ、ここにも通りますよ」

「あら、そうなの?それは助かるわね!」

期待通りの反応に心を満たし、その家を後にする。
直後の予想外の台詞を噛み締め、久々にフェンリルを軽快に走らせた。


“でもそうなっても私、きっとまたあなたにお願いすると思うわ”





翌日仕事の途中、彼女の元に立ち寄った。


(教えてくれ)

最後に会った時、君は笑っていたね。

(今は...どうなんだ?)

俺のせいで道半ばに人生を奪われた君は、今どんな顔をしている?

(俺は許されたい...)

変わらぬ温かい笑顔を向けてくれているのか?

(...許されたいんだ)

それとも失われた未来を悲しそうに見つめているのかな...


いくら待っても、目の前の花さえそよがない。

(当たり前だよな...)

肩で息をつき、重い扉に手を掛けた。



次の配達場所へのルートを考えながら、表に止めておいたフェンリルに向かう。
ポケットに差し込んだ手がキーが当たった瞬間、何かが目が止まった。
バイクの傍らにうずくまる、薄汚れた灰色の布に包まれた塊。
あれは...

(子供!?)

廃材が撒き散らかされた地を蹴った。

「大丈夫か?」

慌てて少年の体を抱き起こす。
まず目に飛び込んだのは、真っ黒に染まった手。
恐る恐る体をひっくり返す。
患部を探す必要はなかった。
少年の顔は、黒い粘液で覆われていた...

すぐに悟る。

(この子は...助けを必要としているんだ)

教会の扉を振り返る。

(奪うだけじゃない。
与えられるってこと、証明してみろ)

(でもそうなっても私、きっとまたあなたにお願いすると思うわ)

エアリス...
そういうことなのか?
俺もまだ、与える事で許されるのかな...

エンジンをかけ、背中に力無くもたれかかる少年の手をしっかりと握り締めた。





椅子の背もたれに身を預け、首を回す。
窓の外は漆黒の闇。
死病の蔓延ったこの街の夜は、以前の活気をすっかり無くしていた。

(“私達の” ところに、でしょ?)

閉じられた扉を振り返る。

君はこの2年で、強くなったんだね。
誰の元にかは未だ定かでないが、俺がすべき事は一つだ。
23年間手にした事もない分厚く難解な本に隅から隅まで目を通す。
やがて治療法ではないが、大きな朗報を得た。

(家に連れておいで?)

客商売にも関わらず、迷わず俺の望む言葉をくれたティファにせめてもの顔向けが出来そうだ。
今すぐは無理だが、きっと客足は戻る。

机のスタンドは毎夜灯り続けた。
昼間は仕事の合間をぬい、新しい資料を探す。
すっかりコーヒーの入れ方が上手くなった。

もうすぐデンゼルを迎えて、一ヶ月が経つ。





2人を起こさないよう扉を静かに閉め、数歩先のベッドにゆっくりと進む。
暗闇に月明かりだけのシーツに浮き上がる青白い顔に悪寒が走り、すぐさま口元に手をやり微かな寝息を確認する。

自室の机で俺を待ち構える医学書を読み終えるのが怖い。
それは手に入れる事が出来た、最後の一冊だった。

目の前に横たわる血の気のない顔を再び見つめ直す。
ギクリとした。
慌てて目を逸らし、ゆっくりと視線を戻す。

...気のせいなんかじゃない。

前より...


(広がってる...)


しかしすぐに首を振り、少しひんやりとした、だけど確かな熱を持つ小さな手の先にそっと触れた。

この子は...まだ戦ってる。

(絶対に、助けてやるからな)

望みの綱へと引き返した。



(ん?)

椅子に腰掛けると、開いたページが黒く汚れているのに気付いた。
さっき誤って袖につけてしまったか?
両腕に視線を巡らせる。

それはすぐに発見出来た。
左の二の腕に、べっとりと滲む見慣れたどす黒い粘液。

体が凍り付き、2年前散々俺を苦しめた冷徹なあいつに現実を突きつけられる。


“...クラウド...”

“勘違いも......”


“............大概にすることだな”



俺は...

    ............死にたくない!!!





服を脱ぎ鞄に押し込み、黒い長袖を引っ張り出した。
荒れ狂う心臓と真逆の冷えきった頭で、包帯がある一階の棚を目指す。

「クラウド、何か探し物?」

背後の声に体が大きく揺れた。
何も知らず無邪気にこちらを覗き込む姿に目頭が熱くなる。

そこに佇むのは...
許されたかった...生きたかった...
.........一番の理由。

ティファ...俺、もうすぐ死ぬんだよ。
やっぱり “俺の” ところに、だった。
いや、違うな。
そもそもあの子は、エアリスが与えてくれた救済のチャンスなんかじゃない。
そんな都合の良い偶然、起こりっこなかったんだ。
沢山の人の未来を奪った俺に、君と幸せな未来を歩む権利はない。

俺はもうあの子に何もしてあげられない。
一緒に死ぬしか、してあげられない。
そして君にも何も...してあげられない。





「いや、何でもないんだ」

ティファに背を向け自室へ引き返す。


俺は罰を受ける覚悟を決めた。

この家を離れ...


   .........死のう。


******************


でもやっぱり許されたくて、エアリスのところにいたんだと思います。
もちろん彼女の懐かしい温かさに癒されたかったのもあるでしょう。
よかったね、「誰に~?」って言って貰えて。
失礼なくらい、気付くのが遅いと思います。

君=ティファ、エアリス

一人は遠い天国に。
もう一人は薄い扉たった2枚の先に。





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