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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Let’s go to the End!

映画を観よう!
リメイクティファの怖がりネタを拝借してますが、日常編です。時系列不明。


自分を呼び止めるためにかけられた声かけには当然気付いていたが、ティファは依然として無視を決め込み構わず進行方向へと歩みを進める。だが声の持ち主はそれくらいではめげはしない。優しい性分であるティファの足取りが一瞬怯んだのを見過ごさず、すかさず畳み掛ける。

「ティファ」
「聞こえてるってば」

振り返った先のクラウドが指差す陳列棚にはDVDが収納されたパッケージが数十ほど並んでいる。豊富とは言えないラインナップではあったが、今のご時世ではそんなものさえ貴重であった。

「ティファの好きなやつでいいから」

最大限の譲歩を見せる姿勢にティファの決意が揺らぐ。だがクラウドの視線の先に並ぶいくつかの背表紙の中に見知った物を認めると、頬はみるみる赤らんでいった。俯いたまま言葉を失う様に、クラウドはこちらまで気恥ずかしくなる。今でさえ一緒に映画を観る事を断固拒否するティファであったが、数週間前、最初に話を持ちかけてきたのは彼女の方であった。


Let's go to the End!


「ねぇねぇ、クラウド。こっちに来て!」

買い物途中、いつになくハイテンションで手招きしてくるティファについて行くと、そこには先週までには存在していなかった売場が設けられていた。「初めて観た時、それはもう感動して...!」と熱く語るティファと異なり、クラウドには映画を観た経験はない。「でも偽造IDを使わないと映画館は入れないし、バレットにバレたりでもしたら大目玉だったから...」そこまで言われては反対する理由もない。

「お互い気になるのを一個ずつね」

早速お目当ての一つを手に取りティファはクラウドを促す。基礎知識もこだわりもない彼は、だが遠い昔に旧友がポロリと溢した一言を思い出し、とあるパッケージを手に取った。ティファが選んだものは典型的なラブストーリーで、まずはそれを観ることにする。だがツマミと酒を手に部屋の照明まで落として気分上々のティファと違い、クラウドはそこまで気乗りがしなかった。

(もっとアクションが派手なやつとかの方が良かったな...)

案の定、導入シーンでは落ち着いたバラードが流れ街角の情景がゆったりと映しだされ続けている。どの二人が恋に落ちるのかはわかりきっていたし、目の肥えた玄人からすれば絶妙に張り巡らされた付線が至る所に散りばめられているのが名作たる所以であったが、彼はそっちの部類の人間ではない。何より気に食わないのは...

(女優ってこんなもんか?ティファの方が可愛い気がするけど...)

ヒロインが全くもってタイプじゃなかった。くだらないかもしれないが、かなり重要な部分である。とは言え開始三十分で観賞を切り上げようなどともちかける訳にもいかず、居眠りも厳禁だ。隣に座る横顔をチラリと見やれば、口につけたグラスを離すのも忘れ画面に見入っている。真剣そのものである眼差しを可愛らしく思い、クラウドも気持ちを改め前に向き直った。愛しい人が関心を寄せるものである限り、このこっぱずかしいキザ男の挙動にも学ぶものはあるかもしれない。

(...ん?)

だがクラウドが気を取り直したのも束の間、スクリーン内のムードが突如毛色を変える。つい先程まで言い争いをしていた男女は一転部屋のベッドに雪崩れ込み、絡み合いながら激しく唇を貪り合っていた。唐突に訪れた展開に半径1メートル内の空気がカチンと凍りついた。良い大人が驚く程のものではない。男が一人で観賞する用途としては役に立たないレベルだが、問題は今この空間には二人の男女がいるということだ。

そろりと視線を横に這わせると、予想通りティファからは狼狽がひしひしと伝わってくる。薄暗がりにもわかるほど頬は上気し、唇は息を飲んだ形のまま固まっていた。断固としてクラウドの方を見まいとする不自然な瞳に加え、強く握りしめた手のひらにじんわりと滲む汗の感覚まで想像できる。「早く終わって...!」そんな心の声が聞こえてくるようでクラウドは苦笑してしまう。

(確かに、いつまで続くんだコレ...)

気まずさを通り越して飽きを感じてきたクラウドだったが、女優のはだけたシャツから白い下着が覗いた瞬間、ドキリと胸が高まる。と同時に一つの欲望がむくりと顔を出し始めた。夜更けからたっぷり数時間をかけて映画観賞をする結果失われる寝室での時間であったり、テレビ画面に映しだされる男女のこの上なく幸福そうな表情に当てられたのもあった。

(こんな風に強引にされるの、嫌いじゃなかったりして...)

だって、最初は物凄く抵抗してたぞ。この女だって...
それが無理矢理キスを数回重ねただけであれよあれよとこの様である。変な部分だけしっかりとお勉強をしだす男は目の前で繰り広げられる濡れ場が終わる前にと仕掛けに入る。肩に腕を回しグッと引き寄せると、驚いたティファと真正面から目があった。

(やっぱり、ティファの方がずっと綺麗だ。スタイルだって...)

「く...クラウド!?」

完全にモードが切り替わってしまったクラウドはティファが抗議を言い終わる前にその唇を塞ぐ。両肩に手を置き押し返そうにも、映画の中でも未だラブシーンが続いていると気付いたティファは力を強められない。両手首を押さえ半ば相手を拘束し、強引なディープキスを繰り返しつつクラウドはリモコンを手に取り音だけを消す。そしてその後、二人が再び目にしたシーンはエンドロールであった...



と、そんなハプニングこそあれど、一度のみで失われるティファの情熱ではなかった。気を取り直し次の休みはクラウドが選んだ一本に挑戦する事にする。パッケージの裏面に書かれた説明に目を通したティファは自らが怖がりであると自覚してはいたが、“所詮作り物” と事態を軽く捉えていた。しかし開始数分にして雲行きは怪しくなる。

「け、結構本格的だね...」

クラウドも同じ感想だった。レトロな洋館のバスルームにぶちまけられた血糊にいきなり肝が冷やされる。突然背後から上がった物音に『「ひっ...」』と映画の主人公とティファの悲鳴が被った。クラウドもビクつきかけたが、精一杯の見栄を張りなんとか堪える。よせば良いものを、自室を出て屋敷内を探索しだす主人公。彼が廊下を曲がるたびティファは顔を伏せ、幾度もそれを繰り返す内に遂には画面を見ている時間の方が短くなった。

「...怖いところが終わったら教えて...」

クラウドの腕にしがみつき力なく震えるティファに、クラウドは全く別の感動を覚えていた。

ーークラウド。女の子と映画を観に行くならな、ホラー一択だぞ!

懐かしい声が頭の奥に鳴り響いた。



「ええ、やだよ。怖いだろ...」

子供の頃、村の大人がする説教の決まり文句は “夜の神羅屋敷に放り込むぞ” であった。クラウドは思ったままを返すが、ザックスは「チッチ」と立てた人差し指を得意げに振った。

「意外だな。お前ってそういうの苦手?けど、それを補って余りある恩恵があるんだぜ」

「普段どんなにシャキッとしてる娘でも、くっついてくる。こんな風にピタ〜〜っとな」とふざけて体を寄せてくる男を冗談の通じないクラウドは押し返した。一方でクラウドの脳裏には一人の女の子の顔が浮かぶ。だが生真面目な彼は首を勢いよく振り懐かしい姿を頭から追い払った。

「それって...なんか姑息じゃないか?」

弟分に図星を突かれたザックスは、ムッとして「ああ、その通りだな。経験豊富なクラウド君は正当法で意中の子を攻略してくれたまえ」と手をヒラヒラ振り追い払う仕草をする。

「僕みたいな小物はせいぜい “姑息な” 手で戦わせて貰いますよ。ったく、人がせっかく良かれと思って教えてやってんのに...」

人生の大先輩にそこまでを言わせクラウドも思い直る。女の子の「お」の字も知らない自分にとっては聞くだけ聞いておいても損はない情報だろう。

「...付き合ってなくても?」

半信半疑ながらも食いつきを見せるクラウドに、「付き合ってなくても、だ」とザックスの目が輝いた。「俺は少なくとも三連勝はしてるな!ま、全く引っかかってくれない娘もいたけど...ともかく!」小声を誤魔化しザックスはクラウドに向き直る。

「クラウド。最近のCGってのはとんでもなく本格的で、ぶっちゃけホラー映画は相当怖い。俺も何度か飛び上がりそうにだな...けど、両目を瞑ってでも耐えるんだ。耐えて耐えて...「よし来た!!」って時に、こう、そっと...」両腕で輪を作り空気を抱き締める三ギル芝居を見つめ、ピュアな少年は生唾を飲んだ。万が一...いや、期待なんかしないけど、将来万が一、一緒にホラーを観ていてティファが怯えてたなら...

「...怖いの、まだ続いてる?」
「え!?あ、いや...」

回想に耽っていたクラウドは良く考えずに返事をする。その瞬間、テレビ画面に血塗れのゾンビがどアップで映し出された。

「きゃーーーーー!!!バカバカバカ、全然終わってないじゃない!嘘つき!!」
「ご、ごめん...」

クラウドをポカポカ殴り今にも泣き出しそうなティファに、クラウドは自らの失態を激しく悔やむ。何をやってるんだ、俺は...

「ティファ、大丈夫だ。俺がついてる」

何年も前にこっそり練習を繰り返した通り、クラウドは項垂れるティファの手を優しく握る。するとティファもキュッと握り返してきた。

(おお...)

あの時見た夢が、正夢に...
映画そっちのけで感傷に浸るクラウドは一人喜びを噛み締める。どうしてもザックスほど大胆になれず、手を握るのを想像するのが精一杯だったあの時の自分。今は抱き締めるどころか、それよりもっと大胆な...

「ティファ、もうやめよう」
「え?で、でも折角クラウドが選んでくれたやつなのに...私の事は気にしなくて良いから...」

いや、実は俺ももう全く観ていない。顔を背けていても聞こえるこのおどろおどろしい音楽だけで、正直十分に怖い。さっきの不意打ちゾンビもかなり効いた。「構わないさ。映画なんかより...ティファの方がずっと大事だ」心の声をひた隠しにし、クラウドは恩着せがましく微笑んだ。

「...本当?ごめん、でも嬉しいかも...」

「ありがとう、クラウド」潤んだ瞳と眩いばかりの笑顔にかろうじてせき止めていた感情が溢れ出す。

「ティファ...ティファ!!」
「へっ? え!? ちょっ...クラウド!!」

ガバッとティファに覆い被さるクラウドは、今度は音だけではなくテレビの電源ごと躊躇なくスイッチを切った。かくして、映画を観ただけで前触れもなく襲い掛かられるという怪奇現象を二度も体験し、ティファはすっかり凝りてしまう。あれ以来、反省の態度を示し続けるクラウドを責める気は無いが、映画と聞くだけで色々と彷彿されてしまうのが気まずかった。

「じゃあ...コレ」

ティファの楽しみを奪ってしまった自負から恐縮しっぱなしのクラウドを気遣って、ティファは売り場に置いてあったDVDの一つを仕方なく手に取る。それは魚の親子が織りなす家族愛を描いたアニメーションだった。どう考えても無害なそれのパッケージを裏返しつぶさにチェックしているティファに、「流石の俺も魚のラブシーンには反応しない...」とクラウドは不満そうだ。 「でも、コレも結構危険だぞ」

肩越しにティファの手元を覗き込んだクラウドが何かに気付き、神妙な声を出した。

「かなり短い」

言葉の裏の意味を考え込み一瞬時を止めたティファは、数秒後に再び動き出す。息をスゥーっと思い切り吸い込む音にクラウドの耳は身構えた。

「もう、バカ!!!」

顔をタコのように赤く染め本気で怒り出すティファの気が変わらぬ内にとクラウドは、空いた方の手を握りレジまでティファを引っ張っていく。

「そうと決まれば早く帰ってさっさと観るぞ」

塩らしく見せかけつつも調子に乗るクラウドは帰り道にティファから散々小言を言われる羽目になったが、何にせよその日は二人が初めて映画を一緒に観終えた記念すべき日となった。


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